〜 女王の呪い 〜



◆登場人物





◇宇賀神 揚羽(うがじんあげは)

 女性 15歳(1年生)

文武両道に秀でた名家・宇賀神家の令嬢で、プライドが高く高圧的。

その周囲全てを見下す性格ゆえに友人はいない。



◇塚本 天(つかもとせれす)

 女性 16歳(1年生)

揚羽と同じ女子寮に暮らす女生徒で、女子グループのリーダー。

面倒見がよく仲間想いだが、一方でかなり独善的な性格でもある。



◇赤峯 未文(あかみねみふみ)

 女性 15歳(1年生)

揚羽や天の寮仲間。

内気で頼りないところがあり、天が特に気にかけている。



◇倉田 郁(くらたいく)

 女性 15歳(1年生)

『教師の恋人』であることを示す黒いリボンを巻く女生徒。

担任教師の冬樹とつきあっている。



◇長田 友治(おさだともはる)

 男性 28歳(用務員)

無神経な大飯喰らいのデブ。



◇大越 冬樹(おおこしふゆき)

 男性 31歳(教員)

揚羽と郁の担任教師。

郁の心の弱さに付け込み都合のいい彼女に仕立てあげている。











聖水。



それは聖リトリス女学院のシステム上、

必然的にレイプに晒される女生徒たちに学院から配布される薬品。



限度を超えた精神的苦痛からの発狂や自殺を防ぐため、

負荷のかかる特定の思考を任意で不可視化させる効能を持つ。



だが、思考を欠落させるというその深刻な効能から、

毎年、新1年生たちは『麻薬の一種ではないか』と噂しあう。



『これを使った瞬間、自分はもう自分ではなくなってしまう』



そんな葛藤とレイプの恐怖とが、

多くの新1年生たちを板ばさみにするのだ。











午後11時半。



校舎は学院としての昼間の姿を脱ぎ去り、

恐ろしい魔物たちの巣窟としての夜の姿を現している。



今宵も多くの乙女たちがそこで望まぬ行為を強いられ、

美しい肉体を欲望に焦がしていた。





「ほれっ、零さず飲むんだよォ・・うぅッ!!」



「・・んんッ! げぶッ!」



「あぁ〜タイミングがちょいとずれちまったか・・

 まあいい、マンコの方もイクぞ・・おぅッ♪」



「んぅ・・んん〜〜〜〜〜〜ッッ!!」





教室の片隅で四つん這いにさせた女生徒に、

年輩の用務員2人が前後からドロついた精液を注入する。



昨日までは穢れを知らなかった口内で、膣内で、

ビクンビクンと激しく脈打つ牡の象徴が仕事を終えると

男たちは漸く女生徒を解放する。



そのまま肩から真横に倒れこむ女生徒の股間から大量の白濁、

そして、チョロチョロと金色の聖水が漏れ出し、

床に広がっていった。





「ハァ〜〜・・今日も愉しんだ愉しんだ!

 ちょっと撃ちすぎたか、ヒリヒリしやがるぜ」



「んじゃ、お嬢ちゃん? ごちそうさま」





すっかり満足した男たちは、

床に転がる女生徒を置いてさっさと引き上げてゆく。



焦点の合わない瞳で虚空を見つめ、

内股から尿と精液を垂れ流し、ビクビクと腰を痙攣させる女生徒は、

まるで生ゴミのようにそこに打ち捨てられていた。











そこから時は遡り――同日の午前1時過ぎ。



1年生たちが生活する、とある女子寮の一室。



そこには何人かの女生徒たちが集まり、少々騒がしくなっていた。





「ねえ、考え直しなよ、未文!」





床にへたり込み、泣き濡れた顔を両手で覆うのは、

この部屋の主である赤峯 未文(あかみねみふみ)。



その未文から使おうとしていた聖水を取り上げ、声を荒げるのは、

未文の親友・塚本 天(つかもとせれす)。



そして、周囲で『そうよそうよ!』と天に同調するのは

彼女の腰巾着たちだ。





「か・・返してぇ・・

 せれすちゃ・・私・・もぉ、無理だよぉ・・」



「未文がどれだけ辛い目にあわされたかは、

 確かにその場にいなかった私にはわからないよ・・

 でもさ! これを頼るのだけは間違ってるよ!」



「無理なの・・本当に、無理なの・・

 ・・あんなの、もう二度と・・嫌なのぉ・・」



「これを使った子がおかしくなるの、

 未文だって知ってるはずよ!?

 人間・・やめるつもりなの!?」





それは1年生寮には時々見られる光景だ。



懸命に男から身を守り続けていた女生徒がついにレイプされ、

深い心の傷に耐え切れず聖水の使用に踏み切ろうとしたところを

仲間たちが思い止まるように説得しているのだ。



ただし、多くの場合、この手の説得の成功は至難を極め、

説得側の女生徒たちも、やがては聖水に堕ちてゆくのだが。





「私だって、使いたくないよ・・怖いもん・・

 でも・・きっと、せれすちゃんたちだって・・

 あれを経験しちゃったら『仕方ない』って思うよぅッ!」



「・・ぐ・・っ!

 ・・で、でも・・それでも、やっぱりさぁ・・!」



「・・男の人だけじゃない・・

 先輩だって・・笑いながら私に『壊れちゃえ♪』って・・」



「なッ!?

 ちょっ・・待って、何よそれ!?

 そんなこと言う先輩がいるの!?」



「・・あんなの、無理・・だよぉ・・」



「ちょっ、それ何ていう先輩よ!?

 ねぇっ、未文ぃ!」



「――煩いわね。 今、何時だと思ってるのよ」





止め処なくヒートアップしてゆく場に、

まるで空気を読まない一言が冷や水をかける。



『信じられない!』といった顔の女生徒たちが振り向く先、

半開きにした扉から覗き込む不機嫌そうな女生徒の姿があった。



お嬢様校として比較的裕福な家の娘たちが多い中で、

代々続く大富豪・宇賀神家の娘として一際強い存在感を放つ

宇賀神 揚羽(うがじんあげは)だ。



幼少時から名家の一人娘として英才教育を受けてきた揚羽は、

本物のお嬢様であり、文武両道に秀でる才女だ。



だが、人の上に立つことが自分のあるべき姿と教え込まれたため、

酷く高慢で周囲を省みない性格の持ち主でもあった。





「宇賀神! ア、ア、アンタねぇ・・!」



「何よ、セレス?」





唯一、下の名前で呼び捨てにする天とは、

しょっちゅう衝突を繰り返している間柄だ。



だが、好敵手として認めたからこその呼び捨てではなく、

DQNネームを嘲笑する心の現われでしかない。





「未文はレイプされたんだよ!?

 生きるか死ぬかってレベルで苦しんでるの!

 それを・・なんて言いぐさよ!」



「生きるか死ぬか?

 聖水を使うかどうかの話だったんじゃないの?」



「同じことよ! 麻薬なのよ!? これは!」



「・・貴女たち、よく麻薬麻薬っていうけど、

 麻薬がどんなものか、ちゃんと知っているの?」



「・・それは」



「ハァ・・何かちょっと気に入らないものを見つけると

 言葉の意味も知らずに『詐欺だ詐欺だ』と騒ぎ立てる

 連中と同じね」





自分以外の全てを見下す天性の女王様気質は、

それを誇示し続けられるだけのスペックも合わさり

非常に性質の悪いものだ。



周囲にとっても、自身にとっても。





「聖水、使いたいなら使わせてあげなさいよ。

 聖水浸りの先輩たちは、

 日々にこやかに学院生活を送っているじゃない」



「何言ってんのよ!

 皆、おかしくなってんじゃない!」



「でも、一時的に・・よね?

 各界で大きな成功を納めている卒業生たちは、

 皆、素晴らしい人間ばかりじゃない」



「卒業まで、まだ3年もあるのよ!

 私たちには、まず『今』でしょ!?」



「そうね、それは否定しないわ。

 でも、赤峯さんはその『今』を乗り越えるために

 聖水が必要だと判断したんでしょう?」



「仮に宇賀神の言う通り深刻な副作用がなかったとしても、

 聖水は逃げなの! 一度手を出せば、頼りクセがつく・・

 ずっと負け犬になっちゃうの!」



「あら・・セレス、今日は珍しく意見が合うわね。

 私も聖水は逃げ、弱者の選択だと思っているわ」



「なら・・!」



「なら? だから、でしょう?

 弱者に必要不可欠なものなら、

 赤嶺さんにも必要不可欠ということよ」



「なんてこというのよ、宇賀神!」



「事実を言ったまでよ。

 それに今、無理矢理聖水を取り上げて、

 赤嶺さんが自殺でもしたらどうするの?」



「・・で、でも・・」



「まあ、セレスのことだから、

 何かに責任転嫁して悲劇のヒロインでも気取るんでしょうけれど?」





こんな性格のために、揚羽には友人などいない。



これまでなら『大富豪の娘』の権力に集まる腰巾着もいたが、

そんな肩書きなど何の意味も持たないこの環境下では

それすらもいないのだ。



だが、それもいちいち気にかけるような揚羽ではなかった。





「まぁ、それでもお友達ごっこをしたいなら止めはしないけど、

 せめて静かにやって頂戴。 迷惑よ」





心底うざったそうに言い捨てると、廊下へと消えてゆく揚羽。



揚羽に大ブーイングする腰巾着たちに囲まれ、

拳を震わせながら眉間に皺を寄せる天。



ギリリと噛んだその唇には血が滲んでいた。











時は戻り――1年C組は祭のあと。



少し前まで教室を満たしていた残酷な喧騒は既になく、

深い静寂の中、鼻をつく何かの異臭が漂っている。





「・・・・」





床にグッタリと身を横たえていた女生徒。



しばらく何も見ていなかったその瞳に焦点が戻る。



手近な椅子に手を乗せ、支えにして身を起こす。





――それは揚羽だった。





今日、帰りのホームルームが終った後、

一斉に教室を飛び出してゆく同級生たちに紛れ、

下駄箱までやってきた揚羽は思わぬ立ち往生を食うこととなる。



そこにあるはずの靴がなくなっていたのだ。



普通には起こるはずもないアクシデントの真相を察しつつも、

周囲からはあっという間に外へと流れ出てゆく同級生たちの群れ。



だが、止むを得ず上履きのまま下校しようとした時、

運悪く担任の教師に『どうしたのか』と呼び止められてしまう。



事情の説明を受けた教師は代わりの靴を用意することとなり、

だいぶ待たされた揚羽が漸くそれを受け取ることができたのは、

獣のチャイムが鳴り響いた後、しばらく経ってからだった。



今年の1年生カラーは赤。



極上の獲物を示す赤いリボンが魔物たちを呼び寄せ、

揚羽は飛び立つ前に蜘蛛の巣にかかってしまったのだ――





《ガタッ》





片手、両手と順に机に乗せ、

またそれを支えにゆっくりと立ち上がる。



しばらく、両手に体重を預ける緩やかな前傾姿勢のまま動かない。



まだ力が入らずガクガクと震える足の内側を、

生臭い液体が伝い落ちていた。





「・・ふん」





漸く自分の足だけで立てるようになった揚羽が

乱れたミニスカートを軽くはたくとビチャッという音。



アンモニア臭のする液体が手を汚す。



今まで倒れていた床に広がるのは、

自らの尿の作り出した大きな水溜りだ。



揚羽はギリリと歯軋りをすると、

教室備え付けの掃除用具入れからバケツと雑巾を取り出し、

フラつく足で廊下の流しへと向かう。





《――ガタッ!》





揚羽が教室内から廊下に出ようとしたところで、

不意にヨロけて引き戸の扉に倒れ掛かる。



レイプで散々に砕かれた腰は、

ろくに力も入れらない状態となっていた。





だが――





どれだけ無様な姿を晒しても、

弱者の象徴たる涙だけは決して見せない。



そして、自ら下賎の者と同じ土俵に立って

仕返しをするようなこともしない。



それが名家・宇賀神家の1人娘――女王としての悲しい矜持だった。











今日も放課後という名の『逢魔が時』を、

間近に控える1年C組の教室。



クラスが唯一騒がしくなる瞬間へのカウントダウンが

女生徒たちの中で始められる。





「では皆さん、また明日」





普段なら担任・大越 冬樹(おおこしふゆき)の

そんな一言が『よーいドン』の合図となる。





「――あ、待ってください。

 連絡事項がありました」





だが、今日はいつもとは違っていた、

冬樹が『待った』をかけたのだ。





「・・・・!!」





女生徒たちの間に緊張が走る。



6時限目終了のチャイムの20分後には、

男たちに狩り解禁を告げる『獣のチャイム』が待つからだ。



女生徒たちが6時限目終了後に担任の到着を待ち、

帰りのホームルームを終えるまで概ね5〜10分を要する。



6時限目終了後は、ちょっとしたイレギュラーでも

下手に時間を取られれば命取りになりかねない。



ある女生徒はしきりに廊下をチラ見し、

ある女生徒は不安から自身を抱き締めていた。





「学級委員は頼みたいことがありますので、

 残ってください――以上です」





女生徒たちが危惧していたタイムロスはわずか数秒。



今度こそ、多くの女生徒たちが一斉に廊下へと駆け出てゆく。



一瞬で喧騒の消えた教室内に残るのは、

冬樹との関係が噂される女生徒・倉田 郁(くらたいく)と、

学級委員の揚羽の2人だけとなっていた。



早足にツカツカと冬樹に歩み寄ると、

揚羽は苛立ちを抑えながらも即座に本題に入る。





「――先生、さっそくお話を伺えますでしょうか?」



「実は数学の石坂先生から至急印鑑を借りてきて欲しいのです」



「石坂先生でしたら、大越先生も戻られる職員室に

 いらっしゃるのではないでしょうか?」



「あ・・ああ、実は先生はこれから

 ここでしばらく作業がありましてね・・」



「では、行ってまいります」





必要最低限のやり取りだけで済まそうとする揚羽は、

どこか煮え切らない風な冬樹に一礼すると、

さっさと教室を出てゆく。



降りてゆく階段にもはや他の女生徒たちの姿はなく、

妙に敏感になった肌が感じる冷たい空気が

自然と揚羽の足を早めてゆく。





「――失礼します」





1階・職員室の扉を開くと横薙ぎに見渡す視界が

数学教師・石坂 秀光(いしざかひでみつ)を捉える。



その傍らでは同級生の小宮 璃亞(こみやりあ)が、

揚羽に軽く会釈していた。





「石坂先生。 今、よろしいでしょうか?」



「おう、どうした宇賀神?」



「石坂先生からご印鑑をお借りしてくるように、

 大越先生から言い付かってまいりました」



「え、印鑑?

 まぁ・・じゃあ、これを持って行け。

 何に使うのかって、何か言ってたか?」



「いえ、そちらは伺っておりません。

 では、さっそくお借りします。 ――失礼します」





降りてきた時以上の急ぎ足で階段を昇る揚羽の額に、

らしくない脂汗が浮かび上がっていた。



タイムリミットが近づいているという理由だけではなく、

何かとてつもなく嫌な予感があるのだ。





「――戻りました」



「ああ、ご苦労様です」



「こちら、石坂先生よりお預かりしたご印鑑です」





揚羽はさっさと用事を済ませようと預かった印鑑を手渡す。



横目で教室備え付けの時計を見ると、

獣のチャイムまで残り2分を切っていた。





「では、下校してもよろしいでしょうか」



「あ、いえ・・すみませんが、先生が使い終わったら、

 また石坂先生に戻してもらいますので、少し待っていてください」





絶体絶命の状況にある揚羽に対して

冬樹がさらりと返したのはあまりにも無慈悲な言葉。



その冬樹に猫のように身を寄せている郁も、

揚羽を見ると意味ありげな『ニシシ』という笑みを浮かべていた。





「――わかりました」





そっと目を伏せ、揚羽は抑揚のない声で答える。



昨日の靴の件に続き、今日の一件。



あまりにできすぎた状況と、それを裏付けるような郁の笑み。



しかし、それも郁が裏で天と繋がっているとすれば説明がつく。



先日の一件を恨みに思う天が、郁伝いにその恋人の冬樹に働きかけ、

自分を攻撃させているのだと。





(あぁ・・お父様、お母様・・)





これまで自分を守ってきた絶対の力が及ばぬ場所にいる。



生徒だけではなく、教員も。



文字通り、周囲全てが――自分の敵。



足元が音を立てて崩れてゆく中、

揚羽は遥か遠くにいる両親を想わずにはいられなかった。











それからというもの、揚羽はほぼ毎日のように

獣のチャイムを校内で聞くこととなっていた。





その黒幕はやはり天だった。





あの日、聖水を使わせまいと天が必死に説得した未文は、

結局、その夜のうちに聖水を使ってしまったのだ。



揚羽の乱入がなくても説得は至難を極めていたにも関わらず、

天は全ての責任を揚羽になすりつけて悪の根源と断じる。



個人的な憎悪からの攻撃を『親友の敵討ち』と銘打つことで、

揚羽の言葉通り、自ら悲劇のヒロインを気取り始めたのだ。



友人の郁から、恋人である冬樹に話をしてもらったところ、

冬樹もまた日頃から可愛げのない揚羽への虐待を快く承諾。



以来、寮では天と腰巾着たちが、学校では冬樹と郁が、

そして、放課後は用務員たちが揚羽のプライドを

いたぶり抜く日々が続いていた。





それでも決して涙を見せず、聖水にも逃げない揚羽を

絶望の果ての死へと追い込むかのように――











聖リトリス女学院の敷地内に複数存在する利用者のいない寮は、

用務員たちの言うヤリ場、プレイスポットの1つだ。



だが、くつろいでじっくり愉しめる個室という雰囲気と、

ベッドが使えるというアドバンテージがありながら、

やや遠いために利用者はそれほど多くない。



最近、揚羽はよくそこを訪れるようになっていた。





《ずッぱん!ずッぱん!ずッぱん!ずッぱん!

  ずッぱん!ずッぱん!ずッぱん!ずッぱん!》



「ンアァッ・・ハァァッ・・

 あ・・揚羽ちゃんッ・・揚羽ちゃんッ!!」



「う、ふぅ・・うぐっ・・うぅ・・っ」





女子の中では平均的かやや小柄な体躯を持つ揚羽だが、

28歳の新人用務員・長田 友治(おさだともはる)という

比較対象の前ではもはや小人同然だ。



体重は実に揚羽の3倍以上いう巨漢の友治は、

言うなれば不潔感の少ない、だれていない肥満。



他人の3倍食べ、他人の3倍射精(だ)すという、

ある意味で女生徒たちから特に恐れられそうな男だ。



巨大な牡の尻が可憐な牝の尻に打ち付けられる迫力は、

人間同士の交尾には到底見えないほどだった。





「ぐんんッ! は・・はぁぁッ・・んん、んっ!!」





ベッドシーツに顔の下半分を押し付けたまま、

揚羽は豪快に内臓を突き上げられる苦しさに喘いでいた。



天性の高慢極まりない眼光はもはや死に絶え、

無理矢理覚えこまされた快楽に何もわからなくされながら、

それでも本能的に涙だけは拒絶する。



幼少より女王となるべくして育てられ、

女王として君臨し、女王として嫌われ続けてきた揚羽。



自殺という絶対の逃げを拒絶してまで意地を張り続けるのは、

これまで散々虐げてきた者たちへの女王なりの落とし前だった。





《ずッぱん!ずッぱん!ずッぱん!ずッぱん!

  ずッぱん!ずッぱん!ずッぱん!ずッぱん!》



「ハァァッ・・ダメだッ・・うぅッ・・

 揚羽ちゃッ・・膣内(なか)・・イクよッ!!」



「・・う・・うぐぅっ・・ぐ・・

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」





だが、友治も容赦などしなかった。



まるで膣内にホースをねじ込み

思いきり蛇口を捻ったかのような、

強烈極まりない膣内射精を叩き込む。





「アッ・・出る・・

 ンン〜〜〜〜・・・・アッ! アァッ!!」



《ごッぽォォッッ!!

 ・・どぽッ! どぽどぽどぽどぽォ・・ッ!!》



「ひぎィィィィ〜〜〜〜〜ッッ!!!!」





ギュッと目を閉じこみ、力いっぱい歯を食いしばる揚羽。



ブルブルと震わせる顔がみるみる紅色に染まってゆく。



だが、揚羽が必死に耐えているのは苦痛以上に快楽だった。



ほとんど毎日のようにセックスを仕込まれる内に、

揚羽の牝の肉体は鮮やかに花開いていた。





「・・ブッハァ〜〜〜・・よかったァ・・」





目一杯押し広げられた揚羽の女性器から、

そこを深々と貫いていた男性器がズルリと引き抜かれるや、

大量の精液がドボドボと逆流して無様に飛び散る。





「・・ぁ・・ぅ・・」





許容範囲を大幅に超える超重量級の責めから漸く解放され、

ゆっくりと弛緩してゆく可憐な下肢。



やがて、いつものように、

そこから黄金の螺旋がチョロチョロと音を立てて放たれていた。











「しっかし、イッちゃった後の揚羽ちゃんのお漏らしは

 ホ〜ント! チャームポイントだよねェ〜♪」



「〜〜〜〜ッ!!」





揚羽が汚した床を備え付けの雑巾で拭き取ると、

バケツを持って風呂場に向かう友治。



その後姿をベッドの揚羽が、

顔を真っ赤にした凄い形相で睨みつけていた。





「揚羽ちゃ〜〜ん?

 ちょっと休憩挟んだら再開するからね〜?」





風呂場特有の反響を伴った無神経な声が響くと、

シャワーでバケツを洗うジャーッという音がそこに続いた。





「あ、揚羽ちゃ〜〜ん?

 今、時計何時になってる〜?」



「・・・・」





間をおかず、また風呂場で友治が声を張り上げる。



心底うざったそうな顔をする揚羽は、

ベッドから降りると砕かれた腰でヨロヨロと寝室を出ると、

壁伝いに持たれかかりながら風呂場へと向かう。





「――19時53分42秒です」



「あれェ〜、わざわざこっち来てくれたの?

 ベッドで休んでればいいのに」



「・・誠に申し訳ありませんが、私では・・

 とても、お兄さまのような品のない大声は出せませんので」



「あぁ〜〜・・言われてみれば、たしかに揚羽ちゃん・・

 イク時も比較的静かだもんねェ〜」



「〜〜〜〜ッ!!」





またしても無神経な一言に物凄い形相の揚羽。



だが、一方の友治も、

それを気に留めるような神経の細かい男ではなかった。





「ところで、今日もオールでいいかなァ?」



「生憎、私には断る権利がございませんので。

 どうぞ、ご勝手に」



「よっしゃ! 今日も頑張るぞォ〜!」





友治の『今日も』という言い回し。



それは当然、2人がこうして夜を共にするのは

今日が初めてではない、ということだ。



揚羽にとっての本当の地獄が始まって以来、

多くの用務員たちが揚羽を辱めてきたが、

3回以上関係を持っているのは友治のみ。



というより、ここのところはほぼ毎日、

揚羽はこの友治に捕まっていた。





「あ、そうそう!

 今日はね〜・・ちょっといいもの持って来たんだ」



「・・いいもの?

 ハァ・・大体、想像がつきますね。

 どうせアダルトグッズ、とかいうものではないでしょうか?」



「あ、揚羽ちゃん大人のオモチャ興味あるの?

 じゃあ、明日は持ってくるよ」



「きょっ・・興味などありませんッ!」



「いやいや・・今日、持ってきたのはさ――」





洗ったバケツをそこに引っ繰り返すと、

さっさと風呂場を出て戻ってゆく友治。



どこまでもマイペースで無神経な大男に振りまわされて

心底不機嫌そうな顔をしつつも――



――しかし、律儀に彼の後ろをトコトコとついて歩く揚羽。



それはどこか滑稽な光景だった。





「ジャ〜ン!」





戻ってきた寝室。



しゃがみこむ友治が大きなスポーツバッグから取り出したのは、

椀型の発泡スチロールの容器だ。



『特濃 ドプッと一発!漢ラーメン』



容器にはそう記されている。



それはどう見ても――アレだった。





「カ、カップラーメン・・というものでしょうか?」



「他に何に見えるんだよ〜?

 ああ、他にも一杯あるから好きなの取ってね」



「わ・・私に、これを食べろ、と?」



「あれ? カップラーメン嫌いなの?」



「――いいえ。

 このような下賎の食品など、食べたこともありません」



「いや、でもこれはこれで、結構、美味いんだよ?

 それに夜に誰かと一緒に食べるカップラーメンって、

 お泊り会的なワクワク感があるじゃん?」



「いえ・・ですから・・

 私はそもそも食べたことがない、と・・」



「じゃ〜わかった!

 揚羽ちゃんは、とりあえずコレね?」



「ビ・・『ビギナーめん』???

 なんでしょう、これは・・?」



《ピィィィィィィ〜〜〜!》



「あ、お湯沸いた! 待ってて」



「・・ハァ」





額に手をやり、ため息をつく揚羽。



自分がどう動いて、何を言おうが、

いつも必ずこの男のペースに巻き込まれる。



そんな言いようのない無力感に苛まされてのことだ。



揚羽は仕方なくビギナーめんを手に取り、

それをボーっと眺めながら友治を待った。





「――180秒経過しました」



「よし、じゃあ蓋の上の袋を開けちゃって」



「わかりました」





揚羽は友治の指示と容器にプリントされた『召し上がり方』に、

いちいち相違点がないか確認しつつ全工程を終える。



湯気の上がる容器に割り箸を入れてかき混ぜると、

安っぽくも趣のある醤油スープの匂いが広がる。



そこには高級料理の匂いに慣れきった揚羽の興味を、

不思議とそそる魅力があった。





「で・・では、いただきます」





横で早くも豪快にズズーッとやる友治に軽蔑の視線を向けつつ、

カップラーメンをパスタのように箸先に絡めて音もなく食べる揚羽。



初めて食べるカップラーメンは、

素材の品質がどうのとか、調理法がどうのとか、

そういった繊細さがかけらも感じられない味だ。





「どぉ? 初めてのカップラーメンは?」



「・・お兄さまのような味がします」



「はぁ・・?

 あ! もしかしてラーメンとザーメンをかけたギャグ?」



「〜〜〜〜ッ!!!!」





今日、三度目の――アレ。



だが、次の麺を絡め取る箸先が口元に寄ると、

揚羽の顔も自然と和らぐ。



たしかに繊細さはかけらもないが、

それは決して揚羽の嫌いな味ではなかった。



粗雑で無神経な、ある男を思い起こさせるような味。



しかし、こんな冷たい地獄の底には似つかわしくない、

どこか温かみのある味――





《・・ぽたっ》





ビギナーめんの醤油スープの上に何かが落ちた。



ぽたり、ぽたり、と今度は続けて落ちる。





「あ・・ら?」





それは揚羽の頬を伝い落ちる大きな雫。



好き放題に陵辱され、生ゴミのように捨て置かれ、

漏らした尿を自分で掃除し・・そんな心の傷をまた散々に嘲られる。



そんな死んだ方がましとすら思える地獄の責め苦を受け続けても、

決して流さなかった女王の矜持――揚羽の涙だった。





「え・・っ?

 ちょっ、どうしたの揚羽ちゃん?

 そんな・・泣くほど美味いの?」



「・・ぐすっ・・

 ・・そうかも、しれません・・」



「えっと・・揚羽、ちゃん・・?」



「・・これ・・美味しいです・・」





女王がついに切った最強のカードの前には、

さすがの無神経大王もペースを手放さざるをえない。



友治は神妙な顔で揚羽を覗き込んでいた。





「ど・・どうしたの?」



「・・お・・おに・・さま・・」



「・・うん? なんだい、揚羽ちゃん?」



「・・おッ・・おにぃ・・ッ

 お・・おッ・・お兄さまぁぁ〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!」





決壊。



これまで溜まりに溜まったものを全て吐き出すように

友治の胸でワンワンと泣く揚羽。



それは、ここ最近の虐めにより蓄積されたものだけではなかった。



名家・宇賀神家の一人娘として

女王であることを強いられてきた揚羽の人生。



それは本当の自分を殺し続ける苦痛の日々でもあったのだ。



厳しい両親から日々仕込まれる英才教育。



毎日、愉しそうに遊ぶ同世代の仲間たちとは、

別の時間軸を生きてきたかのような幼少時代。



それは揚羽が成長しても変わることはなかった。



決して天賦の才の持ち主ではない揚羽が女王でい続けるためには、

英才教育だけでは到底足りなかった。



本来なら趣味、人生の愉しみとなり得た多くを切り捨て、

本当は欲しかった友達も顔を背けて踏みにじった。



やがて、すっかりそれに慣れてしまった自分に気付いても、

悲観し、落胆する余裕すらなかった。



それは揚羽にとって唯一絶対の存在である両親にかけられた

――呪いだったのだ。





「・・事情はよくわかんないけど。

 好きなだけそうしててくれていいよ、揚羽ちゃん」





だが、そんな両親の威光の届かない

おぞましい霧の牢獄に身を置くことは、

揚羽には奇しくも千載一遇の好機となったのだ。



自分を守るものの一切存在しない深い闇の中で、

死より辛い責め苦に晒されても貫き通した女王の矜持。



だが、このマイペースな大男の無神経さだけは、

そんな矜持をもってしても貫くことはできなかった。





そして、それこそが。



呪われた女王が待ち焦がれた――敗北だった。





自分を女王の座から引き摺り下ろし、

普通の女の子として受け止めてくれる異性。



そんな友治の存在の大きさを揚羽が認めた時、

女王は止め処なく毀れる涙の中に消えてゆく。



ここに――揚羽の呪いは解かれたのだ。











次の日の朝。



友治と手を繋いで無人寮を出る揚羽は、

本来なら霧の遥か上に見えるであろう朝の空のようだった。





泣き疲れるまで泣き、甘え疲れるまで甘えた揚羽から、

一通りの事情を聞いた友治は必ず力になることを約束する。



全てを解決するのは不可能に近い困難な問題ではあるものの、

教員である冬樹が敵であることは友治には好都合だった。



教員と用務員の長きに渡る対立関係があるため、

『教員から酷い虐待を受けている女生徒』という言い回しをすれば、

多くの用務員たちは揚羽の味方につけられる。



用務員仲間公認で毎日友治が独占してやれば、

唯一彼にだけは心を赦す揚羽の精神的苦痛は

大きく軽減させてやることができるのだ。





「まあ・・でも、恐らくは

 私の腰の方がもたないとは思いますけれど・・ね」



「ん〜〜・・大丈夫じゃないかな?

 もしヤリすぎて揚羽ちゃんのお腹が大きくなっても、

 送迎は責任をもってするからさ!」



「〜〜〜〜ッ!!」





すっかり定番となった揚羽のこの仕草も、

その正体が愛しい男に甘える照れ隠しなのはバレバレだ。



魔都の深層・聖リトリス女学院という欲望の花園に、

友治と揚羽が咲かせた異端の花。



年中晴れることのないはずの霧が、

2人の周囲で少しだけ薄まってゆくようだった。


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