【炎の山へ】
魔女とせせらぎの月28日 20:00 リド・クジャ山麓



俄かに上がり始めた気温。
俄かにその種類を変え始めた森の木々たち。
まるで、夏の到来を感じさせるのに似た温かな風がゆらりと流れる。
今、一行の前に雄大な炎の山リド・クジャが立ちはだかっていた。

「肌寒さがもう完全に消えたね」
「これから先はどんどん暑くなるわよ」
「シア様、大丈夫かしら・・」
1日の活力を失った太陽が遠い稜線に消えてから、もうかなりの時間が経つ。
青い星の海の下、リドベイの流れを遡るように一行の旅路は続いていた。

「あ・・ちょっと、皆はここで待ってて」
いきなりそう切り出したのは、一行のリーダーであるダノンだった。
ソネッタの後ろで馬を下りると、他の面々をその場に残し、あらぬ方向にある茂みの奥へと足早に消えてゆく。

「ちょっと、ダノン姉!」
「しっ・・大声はダメよ、ソネッタ。とりあえず、静かにダノンを待ちましょう」
慌ててダノンを追おうとするソネッタをミュラローアが止める。
すると再び場に訪れる沈黙。
ソネッタは視線に無意識に泳がせる。
ミュラローアは少し震える手で、しがみついてくるシアフェルの頭を抱き寄せる。
時折、ブルルと鼻を鳴らす馬の吐息もまた、沈黙を破ることなく消えてゆく。
指揮官のいない沈黙は、彼女たちにとって不安の具現化そのものであるかのように感じられた。

――ガサガサ・・
「皆、こっちに来て」
やがて、茂みの奥から戻ってきたダノンの導きに、一行は待ってましたとばかりについてゆく。
すると、そこから少し奥に入ったところに、虚ろげにぽっかりと口を開けた洞窟。
一行は今夜のねぐらをここに決める。
早速シアフェルを休ませて荷を降ろし始めると、天井からぶら下がるこの洞窟の先住者たちがキィキィとしばしざわめき、やがてまた静かになった。


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