□ Page.10 『背徳のティータイム』 □

 

2人がいなくなってから、15分くらいした後のことだった。
『舞子の肉体が動くようになったのは』。
そう。
『目が覚めたのは』ではない。
『肉体が動くようになったのは』である。


――実は舞子の意識自体は、少し前から戻っていたのだ。


体が全く動かないため、目を開けることはできなかったが、その聴覚は生きていた。
だから、舞子は今教室で起きていたことの、ほとんど一部始終を知っていたのだ。
舞子は今、例えようもないほどのショックを受けていた。

まず、はじめのことだ。
普段から気さくで人もよく、クラスでも人気のあるはじめ。
自分が沙弥に切り捨てられて途方にくれていた時、一生懸命元気付けてくれ、またいろいろ一緒に悩んでくれたはじめ。
今の舞子が、最も強い信頼を寄せていたはじめ。
その彼女の本性が、まさか自分を陥れて悦ぶような悪女だったとは、俄かには信じられなかった。
脳裏にはこれまでのはじめとの思い出が、ぽつぽつと浮かび始める。

楽しかった。
優しかった。
真剣だった。
頼りになる友達だった。
――だが。
自分に麻酔を嗅がせて、男子の慰み者にした。

しかも、脅されてやっているというならまだしも、むしろ指揮を執っていたのだ。
決定的だった。
(・・・はじめちゃんは・・最初から、私を陥れるために・・・)
そう思うと、怒りの感情というよりは困惑の感情が浮かんでくる。
もはや、誰を頼りにすればいいのかわからなくなるのだ。

(・・・・うっ)
精神の受けたダメージが肉体にも影響し始めたのか、舞子の体が2つの不調を訴え始めた。
1つはお腹の張る感じ。
そしてもう1つは、喉の渇き。
前者はすぐに引いていったが、後者は待っていて治るものでは決してない。
舞子は無意識にバッグから『良茶』を取り出すが、それを机の上に置こうとして固まってしまう。
はじめとは違う方のショックが記憶にフラッシュバックしたのだ。

《・・・・くぁぁッ・・!》
《――ビュッ!ビュビュッ!!》

(そうだ・・・このお茶には・・・・このお茶の・・・中には・・・・・・)
ペットボトルを持つ右手が震えていた。
それをどうすべきなのかわからずに、混乱しているのだ。
(・・このお茶の中には・・・・高田の・・・精液が・・入ってるんだ・・・・)
右手はまるで石になったかのようにピクリとも動かない。
だがそれは、予定通り即座に飲むことを躊躇しつつも、それを手放すことに対しても躊躇しているということだ。
今、舞子の頭も中で、理性と本能との激しいせめぎあいが起こっていた。

《ハァ・・ハァ・・》
先程、耳元で聞こえていた高田の息遣いが鮮明に蘇ってくる。
酷く下品で獣のような息遣いだったが、それは至高の歓喜に満ちていた。
その純粋な悦びは、舞子の鼓膜をすり抜けて、脳へと直接届けられていた。
今まで、他人の感情がここまで鮮明に伝わってきた経験など、舞子にはなかった。
そして、それはなにより高田が舞子のスカートを覗き、胸を揉みしだいて得られたものなのだ。
(・・そうだ・・私、胸、揉まれちゃったんだ・・・・)
『ボッ!』と音がせんばかりの勢いで、舞子は頬を赤らめる。
普段は特に他人に触られるようなことなどない箇所、それをじっくりと揉みしだかれる感触。
それは強烈な違和感であったが、決して嫌なものではなかった。
その感覚を思い起こしてみようと、舞子は自ら胸を揉んでみるが、やはりそれは先程のものとは全く違った。
(・・・結構・・好きな、感触だった・・・かも・・)
心の中でそう呟くと、また頬が熱くなるのを感じた。

《・・おか・・もとォッ・・・・・・くぅぅぅ・・・!》

続いて、先程の敦の今際の際の声が耳の奥に蘇る。
そう、敦は射精の最中、舞子の名前を叫んでいたのだ。
そして、形はどうあれ舞子の耳に、その声は真剣なものに聞こえていた。
(・・高田って・・私のこと、好き・・なのかな・・・・?)
こんな状況でえらく不謹慎ではあるが、舞子の思考は変な方向へと傾いてゆく。

《・・おか・・もとォッ・・・・》

(・・やっぱり・・・そうだよね・・そうだと思う・・・・・)
舞子はかすかに呪縛から解き放たれつつある右手の方へ、ゆっくりと視線を向ける。
暗闇のせいで目ではほとんどわからないが、そのペットボトルの中にはたしかな液体のズシリとした手ごたえがある。
(・・となると、やっぱりこれ・・は・・・・)

――この中には、高田の精液が入っている。

今、頭の中のほとんどの部分をその情報だけが支配している。
次第に乱れ始める呼吸。
鏡を見なくてもわかる、自らの頬の色、熱。
(・・・高田は、これをどうしても私に飲ませたくって・・・あんなに息を乱して・・・・)
ここまでくると、もう舞子を支配するのが『本能』か『理性』か、その答えは火を見るより明らかだ。
理性による最後の抵抗は、今、潰えようとしていた。

――キュキュ・・・コト
ペットボトルのふたが外され、机の上に置かれる音。
すると、右手は主の口元へと少しずつペットボトルを運び始める。
そして、それが目的の場所まで運ばれると、何かの異臭が鼻先をかすめた。
その匂いを、舞子は知っていた。
それは、沙弥と星を観に行った帰りに拾ったコンドームと同じ匂い。
男性の精液の匂い。

「・・はぁ・・はぁ・・」
荒い吐息2つが、彼女の覚悟が決まるまでの時間だった。
――ゴク・ゴク・ゴクゴクゴクゴク・・・・・・
ラッパ飲みというやつだ。
逆さになったペットボトルの中、『ゴポゴポ・・』という音と共に水位がみるみる下がってゆく。
ペットボトルから溢れ出す全ての液体が、舞子の舌を撫で、喉へ、胃へと滑り落ちてゆく。

「うぷ・・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
十数秒後。
ペットボトルは空になり、机の上に置かれていた。
そして、舞子はどこか目も虚ろに息を整えている。
(・・飲んじゃった・・・・)

「・・はぁ・・はぁ・・」
敦の精液入りのお茶を飲み干し、舞子が得られたもの。
それは『貴重な経験をすることができた』という達成感だった。
そしてまた、その達成感を得ると、逆にその経験が非常にいとおしいものとなる。
(・・・んっ)
舞子は全部中身を飲み干したはずのペットボトルを再び手に取ると、また口をつける。
それを逆さに持ち上げ、中に残るほんの数滴をまた味わう。
先程は躊躇してしまい、覚悟が必要だったこの行為も、2回目は面白いくらいスムーズだ。

(・・・・・私・・高田の精液・・・全部・・・飲んじゃった・・・・・・・)

もう、舞子の興奮は止まらなかった。
完全に中身のないペットボトルに、舞子は3回目、4回目と口づける。
そして、得体の知れない愉悦に浸るのだった――


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