3 天狗さんの、そしきしゃかい
河童の河城にとりが怪奇オクラにニトニトにされる、少し前。
「今日もお山は異常なし…と。あ〜疲れたー、後でにとりと大将棋の続きでもしようっと」
白い髪に小さな赤い烏帽子。犬耳と尻尾の少女。剣と盾を装備し、隙のない身のこなしは鋭く訓練されている。
幼い容姿ながらも哨戒任務を忠実にこなす、有能な番犬もとい、狼。
少女・犬走椛(いぬばしり・もみじ)は妖怪の山の天狗の中では下っ端の、白狼天狗である。
哨戒任務も終わりに近づき、生真面目な少女が警戒を解いた矢先。
「……っ!?し、侵入者!というか、何なのアレ!?」
椛(もみじ)が感知したのは、妖怪の山の中腹辺りにそそり立つ、奇怪にして超巨大な植物だった。
広大無辺な妖怪の山でも圧倒的存在感。脅威を振りまく緑の怪物。
「…あ、あんなの、見た事ないよ…と、とりあえず、上司に報告しなきゃ」
手に負えない。即座に判断し、己に課せられた任務に忠実に行動を開始する。
だが。椛の『千里先まで見通す程度の能力』が、遠目から捉えた光景は・・
「……な!?…にとり!?どっ、どうしよう…にとりが危ないっ!」
仲の良い友達が怪奇植物に弄ばれている!
「早く助けないと!でも私じゃ敵わない…くっ、やっぱり、増援要請しかないっ!」
(ごめん、待っててね、にとり)
―――少女増援要請中。
途上すれ違う、空を切り裂き高速飛行する、黒髪に黒い翼の少女。
「あやや。椛(もみじ)じゃない。丁度良い所だったわ」
「あ、文(あや)様!アレ、見えてますよね!?やっ、山にてっ、て敵っし、侵攻中ですっ!」
―――少女(動揺しながら)説明中。
高度な組織社会である天狗の任務の流れとして、まずは敵発見を上層部に報告、その後上層部から実働部隊へ出撃命令が下される。
だが、友の危機!一刻を争う事態。このタイミングで上司に出会えたのは、幸運だと椛は思った。
「たっ、助かったぁ〜。は、早く、あの怪物オクラをやっつけて下さいっ!」
焦りながらもホッと安堵の吐息を吐く。ちなみに狼なので、優れた嗅覚でキュウリではなくオクラだと看破したのだ。
椛の上司、射命丸文(しゃめいまる・あや)は、妖怪の鴉天狗である。ついでに新聞記者である。
漆黒の黒髪に赤い小さな烏帽子。背中に鴉の羽を持つ、快活で礼儀正しい好印象を受ける、美少女。
…そんな印象はあくまで営業用であり、結構狡猾な性格の持ち主だった。
それでも。『風を操る程度の能力』を持ち、幻想郷最速を誇る飛行速度。
本気ならば台風クラスの暴風すら容易。幻想郷の妖怪でも、上位に位置する実力者だった。
性格はともかく。彼女の助力さえあれば、怪奇植物を吹き飛ばし友達を助けてくれるハズ。
だが。
「ん〜〜、取材の基本は現場の聞き込みだし、そのつもりだったけれど。予定が変ったわ」
一定距離まで接近後、動きを止めてしまう、文。
「え?ちょ、どうしてですか文様っ!?早くしないとにとり…あの、襲われている河童が危険ですよ!
それとも組織の指揮系統を気にしてるんですか?非常事態なんですよ!」
「えー、だってですね、すぐに倒しちゃったら、記事として面白くないじゃない」
「…へ?」
「ほんとツイてるわ。これで次の文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)は大号外決定〜♪」
「なっ!?新聞って…今そんな場合じゃないでしょう!文様がいかないなら私、これから大天狗様に御報告に行きますっ!」
外敵排除という任務を放棄し、山の仲間の危機を見過ごして自らの特ダネにする、なんて…。
気の弱い椛だが思わずカッとなって喰い付く。任務に忠実で友達思いな椛にとって、文の行為は二重に許せなかった。
「待った、椛。報告はダメ。だって、私の特ダネ取られちゃうし。折角、はたてより先に見つけたネタなのに」
「…っ!貴方って人は…っ」
「あやや?逆らうんですか?下っ端の走狗のクセに。貴方の風評流してお山に居られなくしてやろうか?」
「ひいっ(ビクッ)」
「そうだ、貴方のお友達の河童の弱みだって…♪」
「あうぅ…ぅ…すみませんでした…文さま…」
「それで良いわ、馬鹿犬。それじゃあ早速、貴方の千里眼で様子を逐一報告してね♪」
(ぅぅ…ごめん…にとり…)
涙目になりながらも、従うしかない、椛だった。
―――少女使いっパシリ中。
「…怪奇植物、沈黙!異変は博麗神社の巫女によって解決された模様です」
友達が助かって、ホッと安堵する椛であったが。
「あやや、相変わらず人間の分際で異様に強いわねぇ。後で神社に取材しにいかなきゃ、ね」
ちっ、と少し残念そうに舌打ちする文。
「まあ、十分凄い特ダネには違いないけれど。んじゃ椛記者、まずは、現場を取材するわよ」
「へ?記者?私、山の警備任務上の部下だけど、新聞は関係ないんじゃ…」
ギューーーン!黒い羽根を散らし、風のように飛び立つ文。
「まっ、待ってぇぇ文様あぁぁぁ!」
(聞いちゃいない…ああ…この上司やだなぁ…)
―――少女移動中。
現場到着。
ニトニトにされたにとりは霊夢が介抱の為連れて行って、居らず。
霊夢の強力な弾幕で打倒された巨大オクラは何故か、跡形も無く消滅していた。
文は愛用のインスタントカメラで証拠写真撮りまくりながら、シャーペンで記事を下書きする。
「あやや?現場の証拠が無い?ちっ、それならもっと早く行けば良かったかなぁ。椛、貴方の犬の鼻で、近くに誰か目撃者居るか探して」
「…私、犬じゃなくて、狼ですぅ…」
(まあ、被害者が居ないか探すのは、任務の内だよね)
と椛は自分を納得させ、生真面目に捜索する。
―――少女探索中。
「…すんすん、オクラの匂いが充満してますね…んー?これは…」
秋の味覚。山の恵み。水で湿気ってしまっているが、焼けばホクホクしてさぞ旨い事だろう。
「…あー、これはおイモの匂いだねぇ。まあ、今はどうでもいいか…」
?「うーん…お姉ちゃーん怖かったよぉぉ」
?「うぅ…いきなり水に流されて、いきなり変な植物に力吸われて…どうなってるの!?」
・・まあ、それはともかく。真面目で善良な椛が胸を撫で下ろし、ジャーナリズムに燃える文が舌打ちする。
「文様、付近には誰も居ないようです。よかったあ、他に誰も犠牲者が居なくて」
「あやや残念。当事者にインタビュー出来ないんじゃ記事としては不満ね。そんじゃ、次は博麗神社に聞き込みに行きますか♪」
早速、飛び立とうとする天狗少女たちであったが。
ビュル…ギュルルルルルッ!突如、緑の細長いモノが襲い掛かって来た!
ビュル!ビュルル!ビュン!
完全に不意を突く、死角からの多方位攻撃。弾幕戦が得意な少女たちにとっても、想定外であった。
「…えっ?ひゃん!?うああああっ何っこれぇぇぇぇ!?」
成すすべもなくアッという間に、四肢を絡め取られてしまう、椛。
「あややや!?…ちぃぃ!」
だが流石は幻想郷最速の鴉天狗、文は神速でスペルカード発動。
風符『風神一扇』!!!
手に持つ葉団扇が空を薙ぎ、風の障壁が緑の奇襲を消し飛ばした。
「危ない危ない。それにしてもトドメ刺せてなかったとは、霊夢さんらしからぬミスですね。
ま、お陰さまで、まだまだ面白いネタが手に入りそうだけどね♪」
ニヤニヤ笑う文の瞳は好奇心と特ダネへの期待で輝いている。
一方、大ピンチな椛は堪ったものではない。
「んっ!やだっはなしてぇ!…ひゃん!?…やだ…そんなトコ、触っちゃだめぇ…文様っ助けてぇぇ!」
パシャ!パシャ!(シャッター音)
「あややややや!?これは、大変な事が起きてしまいましたっ!リポーターは私、賢い鴉こと射命丸文であります!
現場より、我が社の馬鹿犬、もとい記者が犠牲もとい、カラダを張って突撃取材中ですっ♪」
「ちょ!待っ!部下の命とネタのどっちが大事なんですかァァァ!たっ、た〜す〜け〜て〜ェェェ!!!」
パシャ!パシャ!「お茶の間の人妖の皆さま、果たして馬鹿犬の運命や如何にっ!?」
「…ひどい。私、馬鹿犬じゃないもん…狼だもん…ぐすっ…」
「馬鹿はいいんだ、馬鹿はw」
「…ぐすっ…うぅ…もう馬鹿でいいです…早くたすけてくだざい…」
「え〜〜だって、折角のスクープチャンスじゃないですかあ。
大丈夫。貴方が傷モノにされる直前で助けてあげるから。それまで犬走椛ちゃんの触手責めの模様、タップリ記事にさせてもらうわよ♪」
パシャ!パシャ!…ビュル、ニュル、ゾルルッ。
「いやっ、やだぁ…こんな恥ずかしいとこ、撮らないでぇ…ひぁあああああんっ!」
ビクビクビクッ。ネバネバの粘液付きのツタに絡まれ、剣と楯も失い、弾幕を撃つ力も失せていく。
恐怖と絶望と羞恥、上司への恨みそして望まぬ快感に、生真面目な椛はポロポロと涙するのだった。
「あやや、今度の文々。新聞、罪袋さん方にバカ売れしそうですねぇ♪」
―――少女触手責め撮影中。続く。
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