囚われの姫の前に現れた、救世主。愛する人の優しい眼差しが夜を照らす紅い月のように、パチェルートの絶望を溶かしていく。
屈辱と哀しみと快楽責めに泣き腫らしたアメジストの瞳が、希望の光で輝いた。

「レミィ…私…貴方に、あいたくて…」
「パチェ…僕は君を…大好きな君を守りたくて、勇者になったのに!なのに!君をこんな目に遭わせて…っ」
「レミィ…!そんな事…」
「パチェ…もう大丈夫だよ、僕が必ず君を助けに行くから!」
「レミィ♪私…貴方を信じてるわ♪愛してる、レミィ」
「パチェ…うん♪」
(きっと君を助けてみせる!)

処刑寸前で救われた民衆の目の前で、愛し合う王子と姫。その美しい恋人たちの姿に、場が静まり返った。
「ルゥネお姉ちゃん、あの人がゆうしゃ様なのー?」
「…うん、そうだよ、スゥ…私たちを助けて下さった、救世主さまなのよ」
「わーいゆうしゃさまだー♪すっごくカッコイイよお姉ちゃん!」
「…そうだね」(勇者様かぁ…ステキな方だなぁ…)
はしゃぐ妹。姉の方は、凛々しい救世主に心ときめいてしまう。
(ああ…パチェルート様と勇者様、お似合いですっ)
…という想いは、民たちの誰もが思う事であった。
魔法図書館ヴワルの同盟国・スカーレット王国の王子様にして、パチェルート姫と相思相愛の許嫁。
蒼き髪に深紅の瞳の美少年。
神槍グングニルを携えた雄姿は、まだあどけなさが残る少年でありながら、全ての邪悪を薙ぎ払うであろう圧倒的な力に満ち溢れている。
若くして類稀なる美貌と武勇、魔力。
そのカリスマは善良な民衆には夜の安らぎを、悪しき者どもには血の恐怖の象徴であった。
ざわざわ「お、おお…勇者様だ…ズーン大陸の救世主が現れたぞ!」
どよどよ「レミリオ王子…なんと凛々しくカリスマ溢れる若者よ!」
民衆(妖精メイドG)「うおおぉぉ勇者さま万歳ー!!」
民衆(妖精メイドF)「我らがズーンの勇者に光あれ!!」
貧弱一般妖精「きた!勇者きた!」「メイン勇者きた!」「これで勝つる!」
と大歓迎状態だった
そんな民たちに力強く微笑むレミリオ王子。

その時、三下種に囚われていた紅い髪の少女の、最後の願いが届く。
「レミリオ様!どうか姫様を…パチェルート様を…たすけて…お願いしますっ!!」
「ココア、君まで辛い思いを…ああ、任せて。僕は誓う!パチェも、君も!彼女が愛した全ての人々を!きっと、僕が助けてみせるっ!!」
凛と頼もしい宣言。誰もが思った、勇者様が居れば大丈夫だと。
「ああ勇者様……よかった、もう安心ですね…姫様…」
三下種も今回は勇者にビビって呆然とするのみであった…。


「聞け魔王ミストレインと彼に与する悪しき者どもよ!!僕は勇者として、お前たちの蛮行を許すわけにはいかないっ!
いや…なにより許せないのはパチェを!僕の最愛の人を泣かせた事だーーっ!万死に値するぞ魔王ッッ!!!」

ビリビリビリ…!
勇者レミリオの正義の怒りが魔王陣営を揺るがす。
崖下紳士や三下種ら下っ端はその威圧感とカリスマの前にピチュる寸前であった。
「うわあっ!ゆ、勇者っ!…こほん、お前が勇者か!」
ミストレインも思わず気圧されるが流石は悪のEXボス、なんとか魔王の体裁を取り繕うが。
「さあ、パチェを返してもらうぞ、魔王!」
「ぜっぜっぜっ、パチェ姫は俺様が借りてるだけだぜ?俺様が死ぬまでなぁーっ!」
「ふん…ならば本気で殺すぞ…紅い月はまだ昇っていないけれど…さあ勝負だ!臆病で卑怯者の魔王ッ!」
「おのれぇぇ俺様が臆病だって…?」
(くっ…!落ちつけ!あんな安っぽい挑発に乗るな!)
と自制する魔王であったが
「うおおおお!!!」
「落ちつきなさい魔王。今の貴方じゃ勇者には勝てないわ」
と碧く冷たい瞳でたしなめるは人形遣いの魔女アリス。
「俺様が勇者に勝てないだって…?アリス!仲間として、もう少し発言には気を使ってくれ!」
「仲間、ねぇ…(恋人なのにっ)そうじゃない、今の貴方はパチェ姫との戦いで残機もボムもほぼゼロでしょ?そんな状態で、紅き月の勇者には分が悪いって言ってるの」
「そ、そうなのぜ?『友達』として忠告感謝だぜっ☆」
「……」(イラッ)
鈍い恋人にちょっと僅かにイラつくアリスであったが
「それに言ったでしょ。私に勇者を嵌める秘策があるってね♪」
「おお!流石はアリス!出来る女だぜ!」
「でも、少し準備に時間が要るのよねぇ…」
(さて、上海たち煉獄の七杭で足止めしようかしら?でも、もう一人の田舎娘が隠密で本陣を狙ってるようね?だから私は手札は残しときたいけれど…)

「げへへへ、アリス様ぁならば我ら崖下にお任せを〜っ」
「(魔王様はともかく)アリス様の為なら死ねるぜ俺ら」
と、全身青タイツの変態集団が名乗り出る。
元はオネダーン教授配下で、戦闘力は(ある意味)非常に脅威の、悪の精兵である。
悪の陣営はある意味フリーダムなので、教授の許可なく上司の同僚に従うもアリである。
「ふふふ、教授の手駒も結構使えるわね(まあ、私の人形の方が従順で優秀だけど)足止めお願いね君たち♪」
人形より可愛らしい笑顔にメロメロな紳士ども。
「うおっしゃあぁアリスたんはぁはぁ♪俺ら、逝きまーす!!」

「へっ、へへへっ勇者がなんだ!こうなったら俺らが直接殺ってやる!」
「アリス様は足止めと言われるが、別に、アレを倒してしまっても…r」
「俺、勇者を倒したら幼女とあそぶんだぁ…」

と、数百を超える俺ら崖下軍団がレミリオ王子に迫る。
崖下兵一人の戦闘力は一般妖精の10倍である。
勇者、危うし?…否。
レミリオは余裕の笑みでスペルカードを発動。

紅符『スカーレットシュート』!!!!

深紅の魔力弾が大小の礫となりて軍団の中心に降り注ぐ。
鮮血の如き美しい魔力の雨が炸裂。変態どもを虫けらのように薙ぎ払う。
「…オウフ」
「ムチャシヤガッテ…」
紅き弾幕から逃れた崖下どもも、神槍グングニルの一振りで十数名が消し飛んでいく。
これが紅き月の勇者の実力。パワーもスピードも正に鬼の力といったところか。
「ですよねー」
「俺ら一般雑魚が6ボスに勝てるワケねー」
ピチューンピチュピチュピチューン…。

「さあ魔王!後はお前たち悪の三巨頭だけだぞ!大人しくパチェを返して天罰を受けるかい?」
「ぐっ、ぐむむむっ!ゆうしゃのくせになまいきだ!こうなったら俺様が…」

「ひゅーっひゅっひゅっひゅっ!待ちたまえ魔王」
「ぜぜ?オネダーンイジョー教授?」
「ここは盟友である吾輩に任せるのだ♪」
「し、しかし…あんたの機械兵は全滅したのぜ?」
懸念する魔王だが、マッドサイエンティストは自信タップリ。
「ひゅっひゅっひゅっ、こんな事もあろうかと!!」
ドドーーーン!
「こんな事もあろうかと!!(大事な事なのでr)」
ゴゴゴゴゴ…!
「勇者打倒の切り札があるのだヨ!出でよ!邪悪熱核魔人ヒソウテンソクゥゥゥゥ!!!」
ズゴゴゴゴォ!!
大地を割る不穏な地響きと共に、何も無かった空間から突如、天を突く巨大人型兵器が出現する。
「ひゅっひゅっひゅっ盟友よ、ところで吾輩のヒソウテンソク、コイツをどう思う?」
「すごく…おおきいです…って、デカすぎるだろ!ていうか何所に隠してのぜ!?」
「ひゅーっひゅっひゅっ♪外の世界の魔法絵画、天空のエ○カフ○ーネの敵メカを参考にしたのだヨ♪(オプティカルカモフラージュ話)」
「すげーーっ!カッコイイぜ!さすが俺様の盟友だぜ!これなら勇者も一捻りなんだぜーっ!」
素直に感動する魔王だがアリスは…
「教授、貴方のお人形もなかなかのものね。でも、こんな巨大な魔導機械、稼働に膨大なオーラ力(ちから)が必要なハズだけれど?」
「ひゅっひゅっひゅっ人形遣い殿の疑問は尤もだネ。そこは吾輩の天才的発想があるのだァァ!」
(ひゅっひゅっひゅっ、やはり外来人のオーラ力は素晴らしい。帝国を滅ぼした再、彼女をドレイにしといて良かったな♪)
自信作をもったいぶるオネダーン教授であった。

天高くそびえる鋼の邪悪魔人。ケタ違いな魔導機械巨兵の登場に、勇者の活躍に沸いていた民衆は恐怖と絶望に慄く。
「おねーちゃーんこわいよぉぉ!ゆうしゃさま、だいじょーぶかなぁ?」
「だい…じょうぶ、よ…きっと…勇者様は負けないわ!」
幼い姉妹は怯えるも、レミリオ王子を信じ続ける…。

「覚悟はいいかい?なまいきな勇者よ!捻り潰してやるゾぉ!ひゅーっひゅっひゅーっ♪」
とおっ!パイル○ーァァオォォォン!
オネダーン・イジョーがヒソウテンソクに搭乗、邪悪魔人の巨大な目蓋がギョロリと光る。
「レミィ…そんな…いくら貴方でも…っ」
愛する者の危機に、心臓が止まる思いな、パチェルート。
「逃げて…私はいいから…レミィ…!」
「パチェ……大丈夫。僕は、負けないよ」
「レミィ…?うん…そう、よね…!信じてるわ、レミィ…」

心配するパチェルートに、優しく微笑むレミリオ。
そこに悲壮感は、ない。きっと、なんとかしてくれる!
そう思わせてくれる。それが勇者のカリスマ…否、そんな事は関係なく、彼だからこそ大丈夫。
「待っててねパチェ、こいつは僕が倒す!そして出来れば僕が直接、君を助けたいけれど…」

?≪レミリオ様、あの魔導巨兵にお一人では無茶です!ここは私もッ!≫
≪…いや、あのガラクタは僕が引き受けるよ。大丈夫、だから作戦通り…パチェは、君に任せるよ≫
?≪レミリオ様…御意!我が命に代えても!パチェルート様は私がっ!≫


「ひゅーっナマイキな勇者ーっ!さあ吾輩のドレイよ、サッサとオーラ増幅器に力を注がんかぁクズめが!」
?≪……はい。オネダーン様。我が奇跡の力、貴方様の為に…≫

熱核邪悪魔人ヒソウテンソクに尋常ならざるオーラ力が注ぎ込まれていく。
天に唾する如くな巨体を、深紅の瞳で見据え、静かに魔力を練る、勇者レミリオ王子。
悪の魔導機士と、紅い月の勇者の戦いが始まる。
(ふふっ、勇者の足止めは教授にお任せね。さぁて、私は…策の準備と…コソコソ狙ってる彼女の歓迎の用意をしなくっちゃ、ね♪)
その決戦を尻目に、魔界の人形師はその可憐な表情を不敵に歪めるのだった…。

つづく!


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