風はほんの隙間から吹き込み、ほんの隙間から出て行く
それを封じる完全な壁など、この世にあるのだろうか


Please fight! My Knight.
第2章
『地獄の奴ら』


1、
語り ピンゾロ

「…と、いうわけで彼女が今度新しく副隊長となったカチュア殿だ」
「皆さん、よろしくお願いします!」

ワアぁぁぁぁ!!!ゴトッ

 夜が明け、朝の食堂で副隊長を紹介したとたん、40名以上の男達の魂からの声が響き渡り、窓の一部が外れた。
こうなるともう、こいつらは私の話など聞きはしまい。まあ、他の大切な話は済ませてあったから別にいいが。

「ここの部隊の皆さんはいつもお元気ですね」

 ニコニコしながらそう感想をもらすエリス様。彼女もいつもの通り数日の間、この基地に逗留して下さることとな
った(その時も隊員達は魂からの叫びを放った)。

「はは…元気すぎて困ってますよ」

 副隊長が席に着くと、その周りには早速人だかりができた。そこに参加していないのは、キャブやササといった寡黙組、ロックロックやダイトリォのようなマイペース組ぐらいだ。私も苦笑しながら席に着き、朝食を取り始める。

「副隊長、今度手合わせ願います」
「ええ、いいですよ」
「副隊長、カーちゃんって呼んでいいですか?」
「恥ずかしいのでできればやめてください」
「副隊長、犬派ですか猫派ですか」
「犬派…かな?」
「白くてカッコいい天馬ですね。名前はなんていうんですか」
「アクアっていいます。目が海みたいに青いんですよ」
「副隊長、青色がお好きなんですか?」
「そうですね、一番好きな色かもしれません」
「副隊長、趣味はなんですか?」
「えっと、お料理を作ることです。あまり上手じゃないですけど…」
「おおっ!じゃあ今度作って下さい!」
「は、はい。私でよければ」
「おおおおおおおおっ!!」
「やった!!これでマズイ飯ともオサラバだ!!」
「不味くて悪いかったなぁ!!」

 最後の台詞は食事担当のファーゴのものだ。奴は元ドルーア連合軍の慰問部隊所属の曲芸士で、そのころから食事担当だったらしいが…それでも腕は今一つだ。
 そうそう、シーダ王女とミネルバ参謀補佐は夜の内にエリス様のワープの杖の力でアリティア城に戻られた。私は昨夜のミネルバ参謀補佐の言葉を思い出す。

『…もしカチュアの身に何かあったら、私は貴殿を許さないからな…』

 …思い出しただけでもゾッとする剣幕。あれは本気だ。自慢ではないが、私は今まで幾多もの死線を潜り抜けてきたつもりだ。しかし、あの語気に私は言い様の無い恐怖を感じた。あのレベルの恐怖は久しぶりだ。私は人だかりの向こうにいる副隊長を見た…今はこの程度で済んでいるが、越えてはならない一線を越える者が出ないとは限らん。
事実、過去にこういった環境だからこそ、己を抑えられず一線を越えた愚か者を、私は知っている。早く何かしらの手を打たなければなるまい。手遅れになる前に…!


2、
語り カメラアイ

 さて、少女の貞操を守るためか、はたまた己の身を守るためか、一人のオッサンが飯を食いながら燃えていた頃、ここアリティア城でも朝食の用意がなされていた。メイドさんがぱたぱたと忙しそうに、厨房から各担当区域へと、暖かな料理を運んでいく。シーダの部屋にも、キュロットスカートを穿いたショートカットの小柄なメイドが食事を運んできた。

「おはようございます、王女様。朝食の時間でございます」
「おはよう、アルツ。夕べは疲れたわ」

 あふ、と小さな欠伸をするシーダ。その状況は寝間着をはだけた所だった。頬を赤らめ、咄嗟に明後日の方向を向くメイドのアルツ。そんなアルツの仕草を見て、シーダは微笑ましく思った。

「ボ、ボク何も見てませんから…ッ」

 急いで退室しようとドアノブに手をかけるアルツを、シーダは優しい声で引き止めた。

「待って、アルツ。気にしなくていいわよ。それに、今ドアを開けられたら、逆に恥ずかしいわ」

 はっ、となるアルツ。そうだ、今は朝で一番人が多い時間だった。アルツはシーダの方を向かないように、食事の準備をし始めた。しかし、憧れの女性の発する衣擦れの音が気になって、どうにもこうにも覚束ない。魚の骨は上手にとれず、ミルクも少々注ぎすぎた。

「お、お待たせしました…」

 そんなこんなでようやく準備をし終えると、アルツはシーダの方をつい見てしまった。幸運な事に(?)シーダは衣服を着替え終えていた。ほっと小さな胸を撫で下ろすアルツ。シーダはアルツの用意してくれた朝食を見て目を細めた。別に失敗を見て気分を害した訳ではない。メインディッシュが好物の魚料理だったからだ。

「では、いただきます」

 すっすっと、アルツの取り残した魚の小骨を取り除いていくシーダ。彼女は島国タリスの出身。魚については幼いころからよく慣れたものだ。

「ああっ、す、すみません王女様!」
「いいのよ、これくらい。この魚はタリス島の特産なの。でもこの魚の小骨はわかり辛いから、慣れていないと骨を見つけるのも難しいのよ」
「へえ…」

 物知りなシーダに関心しながらも、器用にチョイチョイと骨をとっていく彼女の手につい見入ってしまうアルツ。
と、その時ふと横を向いたシ−ダと目が合ってしまい、慌てて話題を振る。

「そ、そういえばボク、旧タリス王国ってよく知らないんですけど、どこにあるんですか?」
「ここからずーっと南東にある島国なの。小さな国だけど、漁業と林業が盛んで、静かで平和ないい所よ。ところでアルツは海で泳いだ事はある?」
「いいえ、ありません。ボクが海を見たのは、おじさまにここへ連れてきてもらった時が初めてでしたから」
「そう。それじゃ、いつかタリスに行く時、あなたも連れていってあげるわ。そこで海での泳ぎ方を教えてあげる」
「えっ!?王女様が、ボクに…こ、光栄です」
「うふふ、楽しみね」

 そう言って微笑むシーダに、また顔が熱くなるアルツだった。


3、
語り カチュア

 今日は隊長がこの基地を案内して下さる事になっていた。私はキャブさんが使っていた副隊長室が空くまで、この厩舎別館1階の医務室をエリス様と二人で使わせてもらっていた。

「以前のこの基地の事は知っているのかしら?」

 隊長を待っている間、白衣を羽織われたエリス様にそう質問された。

「いえ、私達姉妹とミネルバ様は戦争初期からマケドニアを離れていましたから」
「そう…。私は、軍事基地に駐留するのはここが初めてだったから、他の基地の事はよく知らないけれど…ここはとても面白い場所よ。アットホームというのかしら?何て言うか、暖かいの」
「えぇ…それは朝の事でわかりました。皆さんいい人ばかりで」
「少なくとも、退屈と殺伐とは無縁の場所ね。これがマルスの目指す平和の姿なのかもしれない…そう思うわ」
「軍事基地なのに、平和、ですか」
「あら?おかしな言い回し方だったかしら?」
「あ、いえ、そういうわけではなくて…なんていうか、面白い矛盾だな…って」
「面白い矛盾?ふふ、そうね…こうして少し目を外に向ければ」

 そう言ってエリス様は窓の外を見られた。

「世界はまだまだ戦乱に明け暮れているわ。反統一派が各地で起こす内乱、新しい大地をめぐる戦い、向こうの大陸からの侵略、こちらの大陸からの侵攻…でもね、ここにいる間だけはそれらを忘れられるの。本当は忘れたり目を逸らしたりしてはいけないのでしょうけれど…」
「エリス様…」

こんこん

「副隊長ー、そろそろ行こうかー」

 軽いノックの音と、明るい隊長の声。これが面白い矛盾の原動力だったりしてと、ふと思った。


4、
語り ピンゾロ

「さて、まずはこの基地の概要から説明するかな。この基地には本館と別館、2つの厩舎がある。それ以外に4つの武具倉庫、3ヶ所の井戸、2つの馬小屋、それと鶏小屋と畑などがある。まずはこの厩舎別館から見て行こうか」
「はい、よろしくお願いします」

 はぁ〜…素直ないい娘だな副隊長は…っと、いかんいかん。
 
「この厩舎別館は2階建てになっている。1階は副隊長も知っての通り、医務室がその殆どを占めている。あとは、
トイレと女性用浴場だな」
「お風呂はここに来ればいただけるんですね」
「ああ。ただ、副隊長室のある本館とは少し離れているから、冬は湯冷めに注意しないとな。…すまない、まさか君みたいな女性が隊員として来るなんて思っていなかったから、こういう構造にしてしまったんだ」
「いえ、男の人が40…何人かいて、女の人は基本エリス様だけでしたもんね。仕方ないですよ」

 はぁ〜…やっぱりいい娘だな副隊長は…っと、惚けている場合ではない。

「2階は図書室と小会議室になっている。小会議室は昨日副隊長も入ったからわかっているだろうが、10人程度の利用者を想定した造りになっている。図書室は…実際見てもらった方が早いか。案内する。ついてきてくれ」
「はいっ」

 医務室の出入り口側の階段を上がる我々。階段を上りきったすぐ前に図書室はある。私はその扉の前で立ち止まり説明を始めた。

「ここが図書室だ。実用書から趣味的な本まで、色々取り揃えてある……さ、次にいこうか」
「えっ?あ、はい」
「ちょーっと待ったぁ!!」

バンッ!!

 次に行こうとする私達の行方を遮るかの様に、勢いよく図書室の扉が開け放たれ、その中から一人の男が現れた。

「どうも、副隊長。図書室司書を務めます、マージファイターのホーシと申します」

 案の定、現れたのはホーシだった。ホーシは私を無視して副隊長の目の前に行き、深々と挨拶をする。

「見学ですか?どうぞどうぞお入」
「副隊長、ちょっと失礼する。ホーシ、来い」

 私は何か言おうとするホーシの首根っこを捕まえ、小会議室の扉の向こうまで連行する。

「(小声で)ホーシ、あの図書室の中の事はお前がよーく知っているはずだ」
「(小声で)そりゃまあ、司書ですから」
「(小声で)じゃあ何で副隊長を中へ入れようとするっ!」

 この基地の図書室は、この部隊が男所帯であるためか、副隊長に中を見せるには少々…いやかなり…問題がある。
…ぶっちゃけて言おう、半分くらい夜のオカズ本なのだ!!以前この事がエリス様に知られてしまった時はさすがの私も肝を冷やしたものだ。エリス様は笑って「男の方がこういう本を好むのは仕方のない事ですよね」と仰って下さったが。しかし、副隊長も同じく理解してくれるかどうかはわからん!いや、嫌悪感を持たれる事必至とみておいた
方が利口だろう!
 しかし、ホーシは私の心配などどこ吹く風よと、全く動じずポンと手を叩いた。

「(小声で)…あぁ!隊長、ご心配なく。あのテの本はしっかり隠してありますぜ」

 そう言ってホーシは親指を人差し指と中指の付け根に入れた手をぐっと前に突き出した。…いや、違うだろそれ。

「(小声で)…この短時間でか?」
「(小声で)にっしっし、図書館の事についてはこのホーシの右に出る者は居ませんて。どうぞ安心して副隊長をご案内してくださいな。エリス先生の時の二の舞は演じませんよ」

 と、信じていいのかどうか怪しい太鼓判まで押されてしまった。…本当に大丈夫なんだろうな。

「隊長?」

 どわっ!?いきなり声を掛けられた。振り返ると、そこには困った顔の副隊長がいた。

「…ふ、副隊長か。どうした?」
「いえ、隊長があまりにも遅いものですから…どうかしたんですか?」
「いや、何でもないんだ。何でも。な、ホーシ」
「えぇ、何でもないですよ。それよりも副隊長、図書室の中を覗いてみたいと思いませんか?」
「いいんですか?」
「いいも悪いも、大歓迎ですよ!ささ、どーぞどーぞ」

 多少強引に話をまとめ、副隊長の背を押して連れて行くホーシ。…本っ当〜に大丈夫なんだろうな…。


5、
語り カチュア

「わあ…」

 基地の図書室の中は、まるでお城の書庫のように沢山の本が棚に並んでいた。思わず声を失ってしまう。

「どうぞ、気になった本があったら手にとって見て下さい」

 司書のホーシさんに言われるがまま、手近にあった一冊の本を手にとった。お料理の本だった。

「……えっ、これって…」

 不思議な引っ掛かりを感じた私は、もう一冊の本を手にとる。今度は戦記物の小説だ。

「……まさか、そんな」
「ふっふっふ、気付かれましたか?」

 私の驚きを、まるで予測していたかのようにホーシさんがほくそ笑む。

「そう、ここの本は全て、俺が書き写した物なのです!!」

 そう胸を張って答えるホーシさん。まさか…でも、たしかに手書きだし、字の癖もそっくりだ。でも、この量全て書き写したというの!?

「いやー、実は俺、旧カダインで輸入されてくる本や自国で出版された本の検閲官をやってたことがありましてね。
その時に目を通した本の内容、覚えてしまったんですよ。どういうわけだか。で、中にはドルーアが禁書扱いした本とかもありまして。でもそれがいい本で。勿体無いなー、と思いまして。戦争が終わってから記憶を頼りに書き起こしていたら、いつの間にかこの量になったわけでよすよ」
「へぇ…って戦争が終わってまだ7ヶ月ちょっとですよ!?どうやってこの量を」
「普通にスラスラ書いていただけですよ。創作しているわけではないですから、内容を考える必要もありませんし」
「あとホーシは異様に筆が早いんだ。今、副隊長が手にしている本くらいなら4・5時間くらいで書き終えるんじゃないかな」
「4・5時間ですか!?」

 それは凄い!…ただ、兵士としては無駄な特技かもしれないけれど。記憶力の良さはともかくとして。

「まあ、そういうことなんで副隊長、暇があったらここの図書室も利用してやってくださいね。副隊長好みの本も、頑張って思い出しますんで、リクエストとかもして下さい」
「あ、はい。そうさせてもらいます」
「さ、次に行こうか副隊長」
「はい。ではホーシさん、また今度」
「ええ、いつでもお待ちしていますよ」


6、
語り カメラアイ

 一方その頃、アリティア城玉座の間では、ミネルバが昨夜の黒騎士団襲撃についてマルスに報告していた。ちなみに揃っているメンバーは、マルス、ジェイガン、ハーディン、シーダ、ミネルバ、ドーガである。

「…と、いう事がありました。交戦したカチュアの報告によると、第6部隊のザゲットという名の者が率いていたという事です。尚、敵部隊の隊長ザゲットは当方第11混成部隊のロックロックが討ち、その他敵弓兵の半数以上を同部隊隊長のピンゾロとカチュアが撃退しております」
「そうか…グルニア黒騎士団がマケドニアに……ジェイガン、どう思う?」
「そうですな…まず、今回の補給ルート襲撃は、偶然であったと考えるのが適切でしょうな」
「狙いは別にあったと?」

 ハーディンの問いにジェイガンは渋い顔をして答える。

「うむ。つまりガトー殿の結界が切れるのを待って敵部隊が潜伏していた所に、偶然補給隊が通ったと考えるのが自然ではないかと」
「となると敵の目的は一体?」
「むう…マムクート狩り、にしてはその理由がはっきりしない。領土拡大…にしては戦力が少なすぎる。それに補給部隊に手を出す理由も無い…」
「となると、何かの陽動…ですかな?」
「僕達の警戒をマケドニアに向けさせる意味…」

 マルスの呟き。そこで全員、黙り込んでしまう。何も、わからないのだ。

「…せめてロレンス将軍達とコンタクトが取れれば、打つ手も浮かぶのだが…」
「参謀長、彼らからは依然何も?」
「うむ…ここ3ヶ月、音信不通の状態が続いている」
「丁度黒騎士団の残党が活動を本格的にし始めた頃…」

 全員が堪えていた。ロレンス達の裏切り、その可能性を指摘してしまうことを。その時、沈黙を保っていたシーダが口を開いた。

「……あの、マルス様」
「シーダ、どうしたんだい?」
「やはり思い切ってこちらからロレンス将軍のところに使者を出してみるというのはどうでしょうか?危険な賭けになるかもしれませんが…」

 シーダの案は以前から協議されていたものだった。しかし、未だ強大な軍事力を保持する黒騎士団の領域に少数の使者を派遣することは無謀であり、また、逆に多数をもってグルニアに行けば、黒騎士団はおろか地元民をもいたずらに刺激し、統一アリティアへの反発を招きかねないと、実現に二の足を踏んでいた案だった。
 しかし、グルニア出身のロレンスもロジャーもジェイクも、暗黒戦争時代にシーダが招き入れた人材。彼女にはその心を最後まで信じぬく責任があると常々思っていたのだろう。だが、マルスは…

「だめだ。リスクが大きすぎる。それに、戦いが避けられなくなる」
「マルス様、どうしても私の案は受け入れてはもらえませんか?」
「ごめん、シーダ。誰かを犠牲にする作戦には、どうしても賛成できない」
「マルス様のお気持ちはわかります。けど、このままでは今の煮え切らない状況をいたずらに引き伸ばすだけです。
思い切って前に出るべきではありませんか?」
「なにかいい策でもあるのかい?」
「ええ…私達が情報を得に行くのが不可能なら、第3者の声を聞くのです」

 そしてシーダは、何かを決意するように小さく頷くと、言った。

「”赤の救援隊”…彼女達にグルニアの状況を聞かせてもらいましょう」
「グルニアの難民達を救いに行った、レナ達か…!」

 ”赤の救援隊”その言葉を聞いたミネルバがはっと目を見開いた。それもそのはず、赤の救援隊とは、暗黒戦争後各地に溢れた難民達を救うべく、同盟軍のシスター・レナが中心となり結成された永世中立のボランティア隊。そのメンバーとして元・盗賊のジュリアン、紅の剣士ナバール、そして旧マケドニアの第2王女でミネルバの妹シスター・マリアらが参加していたからだ。

「彼女達が今グルニアのどこにいるのかははっきりしませんが、いずれは補給のためグルニアを離れるはず。その時接触できれば、内情を知ることもできるのでは…」
「しかし、いつ、どうやってですか?あまりにも不確定要素が多すぎます!」

 ミネルバの問い…激昂ともいう…に、しかしたじることなく答えるシーダ。

「ミネルバ参謀補佐、いまグルニアの難民達が欲しているものは食料です。しかし、そう多く持ち運べる物ではありません。どこかで補給しているものと思われます。ではどこで補給しているのか?おそらく隣にあるマケドニアかカダインだと思われます。そこで接触を図るのです」
「なるほど…」

 降って湧いた案に関心するハーディン。ミネルバも押し黙るしかない。

「うん、シーダの意見は参考にさせてもらうよ。いざ実現させるとなると、問題も多いけどね」
「ありがとうございます、マルス様」

 マルスの言葉を受けて微笑むシーダ。

「さて、次の議題ですが、新しい大陸の隆起によって海流が変わり…」

 淡々と議題を読み上げるジェイガン。こうしてアリティアの1日は過ぎていく…。


7、
語り ピンゾロ

「もう知っていると思うが、ここが厩舎本館だ。ここには食堂や大会議室、男風呂に兵士用の部屋などがある」

 私と副隊長は厩舎別館を離れ、隣の厩舎本館前にやってきた。図書室ではホーシがボロを出さなくて、本当によかった。今の私の気分を表すかのように、清々しい風が吹いてきた。ふぅ…。

トンテンカンテン…

 規則正しい金鎚の音が聞こえる。ササが外れた窓を直してくれているのだ。私は副隊長にこの部隊の数少ない良心・ササを紹介するためにそちらの方へ向かった。

「ササ、朝から精が出るな」
「…あぁ、隊長。これが自分の仕事ですから」
「副隊長、紹介しておく。彼がササ。主にこの基地の建設や修理、あと水汲みと洗濯、風呂焚きを担当している」
「ササさん、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく…」

 にこやかに挨拶をする副隊長に対し、修理の手を休め、少し気恥ずかしそうに挨拶をするササ。

「ちょっと無口で口下手だが悪い奴じゃない、を地でいくような男だ。だが、いざ戦闘となると人が変わる。戦闘の時のササのハンマー捌きは圧巻だぞ」
「別に、自分はただただ必死なだけで…意識しているわけでは…」
「こう言ってはいるがな、実際凄い。それに打たれ強いし、敵の攻撃のいなし方も心得ている。この部隊で最強クラスの歩兵であると言っても過言ではない。そうだな、こんど副隊長と手合わせしてみるってのはどうだ?」
「そ、そんな隊長、自分なんて副隊長の足元にも及びません。なにせ副隊長はあのアリティア同盟軍でも最強クラスと言われた天馬騎士三姉妹のひとりなんですよ」
「へぇ…そうなのか、副隊長?」

 恥ずかしい話だが、私は元々流れ者で、この大陸にきて1年ほどしか経っていない。なので暗黒戦争というものもよくは知らないし、マルス王子率いる同盟軍がどれほど凄かったのかもじつはあまり知らない。

「いえ、私なんてまだまだ…姉さんと妹と、三人揃ってようやく一人前だったぐらいですから」

 そう答える副隊長。しかし、それが謙遜であることは私にもわかる。何せ昨夜の戦いぶりを間近で見ているしな。

「そんなことはないだろう。エリス様と物資を乗せて、あの数の弓兵に囲まれて、それでかすり傷だけで済んでいたんだ。相当な実力と根性でないとできないことさ」
「そんな…でも、あれはアクアが…私の天馬が頑張ってくれたおかげです。それに、あの時隊長達が来てくれなければ、すぐに落とされていましたよ」
「…いや、どんな名馬とて手綱を引く者によって駄馬に落ちると聞きます。夕べは居残り組だったからよくはわからないですが、副隊長の手腕あってこそのことだと自分は思います」
「だからあれは」
「だが本当に凄かっ」
「運も実力の内と」
「じゃあ実際戦ってみたらどうっスか?」

 私達3人が言い合っている所に、ひょっこりと声をかけて割り込んできたのは、ホースメンのダイトリォだった。

「キャブさんとカチュア副隊長の新旧副隊長対決なんてどうっスか。果たしてどっちが強いのか?果たしてどっちが副隊長としてふさわしいのか?白黒はっきり付け」
「ダイトリォ、俺はそんなことをする気はないぞ」

 ひとり興奮するダイトリォを溜め息混じりになだめたのはキャブだった。キャブとダイトリォは同じ村の出身で幼馴染の兄弟分、そしてこの部隊で最も古い私の顔馴染みでもある(といっても1年ほどだが)。

「ダイトリォ、俺が副隊長を辞めたのは上からの指示があったからだ。こんな私闘じみたことでひっくりかえせる物ではない」
「でも、キャブさん」
「それに、俺はこの決定になんの不服もない。これでいいだろう?」
「……わかったっスよお」

 渋々引き下がるダイトリォ。そうか、ダイトリォはキャブが副隊長を降ろされたことに不服だったんだな。

「だが、副隊長がどれほどの実力の持ち主かをこの目で見てみたいのも確かだな…副隊長、ダイトリォの言った事は抜きにして、俺と手合わせ願えないか」

 と、キャブも名乗りを上げる。うーむ、こうなったら…

「…副隊長、一度誰かと手合わせしてみてくれないか?」
「それじゃあ私…隊長と手合わせ願いたいです」
「おお、やってくれるか……って、私とか?!」

 …かくして、私と副隊長の手合わせが決まった。

「…仕方ない。ただし昼食をとって、本館を案内し終わってからな」


8、
語り カメラアイ

 第11混成部隊基地の中庭、兵士達の屋外訓練場のひとつになっているそこに、大勢の男達が集まっていた。まあこの基地にはカチュアとエリス以外の女性はいないのだから当たり前だが。男達は、楕円を作るようにして整列し、その中心にいる男女…ピンゾロとカチュアだ…を見つめていた。

「さあ、いよいよ始まります世紀の一戦!まずはチャンプ、当部隊きっての小柄・ピンゾロ隊長!」
「余計な事は言うな実況!」
「対しまするは、我々はこの時を待っていた!新是即ち真!天翔ける蒼い天使・カチュア新副隊長〜!!」

ウオオオオオオオオオオオ!!!!

「実況は私、この部隊いやさこの大陸唯一のロバーナイト・ファーゴがお伝えいたします。解説は初代天使は白衣の天使、エリス先生でございます!先生、どうぞよろしく」
「よろしくお願いします」
「早速ですがエリス先生、当部隊担当医として、この試合どう見ますか」
「そうですね…カチュアさんが天馬を降りて一剣士としてピンゾロ隊長と戦う、という所がポイントになると思いますね」
「ほう、それはつまり?」
「カチュアさんの天馬は上級天馬のファルコン…その機動性と航続距離はペガサスに比べ数倍とも言われています。
それと、ヒットアンドアウェイを繰り返すのが天馬騎士の基本戦法。この二つが合わされば、地上にいるピンゾロ隊長に攻撃させずに勝利する事も可能になるでしょう。ですが、カチュアさんはそれをしないことを選んだ」
「ということは?」
「この勝負、カチュアさんがこの部隊の実力を測るために提案したものだと思われます。おそらくこの部隊で最強と目されるピンゾロ隊長がどのように攻め、どのように守るか、それで部隊の実力を推し量ろうというわけです」
「なるほど…では副隊長は本気を出さないと?」
「いえ、そういう事ではありません。カチュアさんもやるからには本気で勝ちを狙いに行くでしょう。それが騎士の礼節というものですし、そうでなければピンゾロ隊長も本気にならないと思っているはずです」
「この部隊と副隊長、お互いの実力を見定めるのが今回の対戦の主旨ですからね…なるほど頷けます。おっと試合の準備ができたようです。では最後にエリス先生、ズバリどちらが勝つと思いますか?」
「さあ…ですが、お二人ともそう簡単には負けないでしょう」
「ありがとうございます。では間もなくゴングです」


9、
語り ???

 …あたしはいつまでこうしていればいいんだろう?ふと、そう思う時がある。

「でやああああっ!!」

ザシュッ!ボゥッ!

 あたしを照らすのはランタンの灯ひとつ、あたしの周りにあるものはごつごつした岩肌とカビ臭い土、そして……

「たあああああっ!!」

ドシュッ!バォッ!

 屠っても屠ってもキリの無いドラゴンゾンビの群れ!どうも、ファルコンナイトのクレアです。レッ○フィール○でもアン○リュースでもありません。黒スパッツは穿いてるけど。

「とりゃあああああっ!!」

ズビャッ!!ボシュウッ!!

 あたしは今、ソフィア城の北、竜の祠に来ています。なにをしているかというと、このバレンシア大陸に残った魔物共をひとりで退治して回っているのです。なぜかっていうと、一日で大陸の南北を往復できる機動力と、魔物に対して不思議な強さを発揮するという力を持つファルコンを乗りこなせるのは、今の所この大陸であたし一人だけだか
らです。でもって、

バッサ、バッサ…
『ゴギャアアアアアアアォ!!』
「も〜、なんだってこんなに魔物が増えるのよ〜っ!!」

 なんでこんなに魔物が増えているのか、よくわからないからです!大元と思われていた邪神ドーマとドーマ教団はアルムがかっこよくやっつけたんだけど(もちろんあたしも大活躍したけどね)、それでめでたしめでたしとはいかなかったの。大地母神ミラ様の最後のお力が込められた剣によって、邪神ドーマが倒れたとき、力同士が対消滅した
からじゃないか、ってノーヴァ修道院のノーマ大司祭様がおっしゃられていたけれど、あたしにはそういった難しい話はよくわからない。
 でも、ひとつだけ確かなことがある。ミラ様のお力が消えた証拠に、白魔法や黒魔法が使えなくなったのだ。元々魔法はミラ様によって与えられるもの。別の大陸では違う魔法の体系があるって賢者リュートが言ってたけど、これまたあたしにはそういった難しい話はよくわからない。
 でも、そのせいで魔物に対して一番の対抗策であるエンジェルの魔法を使える人がいなくなってしまった。それどころか、傷を癒すリカバーの魔法や、基本的な黒魔法ファイアーですら使えなくなってしまい、このバレンシア大陸の総戦力は半分以下になってしまった。
 おかげで、ほぼ唯一の対抗策となってしまったあたしとファルコン(名前?イリューよ)は、こうして毎日最強クラスの魔物であるドラゴンゾンビ狩りをさせられているってわけなの。
 だけど正直思う。なんであたしばっかりって。こうしている間にも、アルムとアンテーゼ王女の仲が深まっていくと思うと、あたしは、あたしは…!

「アルムの、鈍感バカーっ!!」

ドウッ!ズシャ!ズビャァッ!!
ボウッ!ボウッ!ボシュゥッ!!

「はあ、はあ、はあ…」
「まったく、誰が鈍感バカだって?」
「アルムっ!?」

 あたしはアルムが来てくれたと思って声のした方を振り向いた。でも、そこにいたのは…

「なんだ、グレイかー」
「なんだとはなんだよ、随分だな。せっかく俺とロビンが替わりに来てやったっていうのに」

 魔戦士のグレイとボウナイトのロビン。ふたりはあたし達元ソフィア反乱軍の仲間だ。あとクリフっていう子もいるんだけど、魔法の力が無くなっちゃったせいで今はソフィア城にいる。

「へえ、替わってくれるんだ。珍しいの。雨でも降らなきゃいいけど」
「お前な。俺達はアルム…アルム王に言われてここまで来たの。そうでなきゃ誰がお前なんか心配するか…」
「えっ、アルムが替われって言ってくれたの?!」
「ああ。お前に急ぎの用があるんだとよ。ソフィア城で待ってるから、早く行」
「ありがと。それじゃねー♪」

 あたしは一目散に竜の祠の洞窟を後にした。グレイがなにか怒ってたけど、気にしない。早くアルムの所にいかなくちゃ! 


10、
語り ピンゾロとカチュア

「でぇぇぇい!」
「きゃっ…はあっ!」
「うおっ!」

 私と副隊長との決戦は!
 いつ果てるともなく、際限もなく続いていた!

「ぬんっ!くっ、てやぁっ!」

 震える、心が震える!1対1の戦いで、それも木剣の勝負なのに、ここまで心が震えるのは、新兵だった頃の訓練試合以来かもしれない!
 最初こそ『あんな短いスカートで大丈夫か?見、見えちゃったりしないのか!?』などと別の心配をしていたが、今はそんな事考えてはいられない!少しでも気を逸らせば、一気にやられる!
 副隊長はファルコン抜きでも相当のスピードを持っている。それに牽制、足止め、崩しに逃げと四肢捌きに無駄が無い。こういう相手には『いかに隙を突き四肢捌きのリズムを崩すか』が重要になってくるわけだが、その隙すら突けそうに無い。さて、どうするべきか…?

「やっ!はぁっ、そりゃっ!」

 打って、受けてみてわかる。隊長は私とよく似たタイプの人だと。打ち込みの衝撃からみて、腕力はそれほどでもない。だけど打ち込みの回数が半端ではなく、また正確に隙を狙ってくる。かといって、私が隙を作って誘っても、
その誘いには一度も乗らない。
 それに、防御が上手い上に奇想天外だ。振り下ろしたこちらの剣の柄に脚を翳しブーツの底で受け止めたり、突きを切っ先で受け止めたり…一見ふざけて見えるけど、すごく合理的だ。脚で受け止めた後はそのまま脚で剣を薙ぎ、薙ぐのに使った脚をそのまま踏み込みの脚にして打ち込んでくる、突きを切っ先で受け止めたあとはそのまま私から
見て右に避けて突っ込んでくる(右に避ける事で心臓を守っているのだ)。
 凄い、やっぱり凄い!同盟軍や帝国軍以外にもまだこんな人がこの大陸にいたなんて!バレンシア大陸でも驚きの連続だったけど、勝るとも劣らない驚き!
 でも、驚いてばかりもいられない。このままだと、スタミナ勝負になってしまう。私としては、そんなのつまらない。さて、どうする…?

「どうした副隊長ー!それで終わりかー!若さ全開で来おおおおおいっ!!」

 とりあえず挑発してみよう。これで、
 挑発?とりあえずの行為と見た。ならば、

「言われなくてもっ、最初からそのつもりですっ!」

ガッ!ガッ!ガシイッ!

 振り下ろしと振り上げ、突きと薙ぎ、切り払いと切り払い、全てがかちあう。
 小技じゃだめだ、体力も尽きかけている、勝つためには牽制を捨て、防御も捨てて、

 一撃に賭けるしか、ない!

「いくぞおおおおおお!」
「はああああああああ!」

……バシィッ!!

「そこまで!」

 歓声も何も無くなった中庭に、審判をかって出たキャブの声がこだまする。
 決着がついた。勝ったのは、

「勝者、ピンゾロ隊長!!」

うおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 隊長の一撃は、私の木剣を折り、胸当てを割って、私の体を吹っ飛ばした。
 運が良かった。この土壇場で、頭の中のサイコロがピンのゾロ目を出してくれるとは。私は脇を押さえて蹲る副隊長の元へ駆け寄り、手を差し伸べた。

「大丈夫か?副隊長」
「いたたた…あ、はい。なんとか。でも、今の技は一体…?」
「名付けて『月光斬』!ま、必殺の一撃ってやつかな。それより早くエリス様の治療を受けた方がいい。結構力一杯振り切ったからな。骨にヒビが入ったかもしれない」
「はい、そうします…痛っ」

 そうこう言っている間に、エリス様が治療の杖を持って来て下さった。
 副隊長の体を魔法の光が包んでいる間、私は話を続けた。

「あと、その壊れた胸当てだが…とりあえず今日最後に寄ろうとしていた所へ持って行こう。直せるはずだ」
「この基地には鍛冶屋さんでもいるんですか?」
「ま、そんなところだ」

 …ちなみに、妙に静かな隊員達だが、円陣を組んで『副隊長の下着が何色だったか、形状は、何回見えた』という
アホ話で盛り上がっていたという。まったく…
 …?隊長、何か言いました?
 い、いや、何でもないんだ。何でも。はははは…


11、
語り カチュア

「ここが武具倉庫連。第1から第4まである。基本、この基地内での実戦用武器の帯刀は禁止しているから、普段はここに仕舞われている。といっても、使っているのは第1と第2だけで、第3は予備の空倉庫だ。で、今回案内するのがそこの第4倉庫、通称”2代目ロックロック工房”だ」

 私達は手合わせと治療を終え、本館裏手の倉庫連にやってきた。なんでも、昨晩隊長と一緒にきてくれたロックロックさんが、ここで胸当てを修理してくれるらしい。

「この部隊で使う武具は大抵支給品だが、私の”相棒”やロックロックの木馬”ライトニング・アレクサンダー・プラズマ”といった変り種の武具は、ここで作ったり修理したりするんだ」
「は、はあ…」

 なんていうか…凄い人、なのかな?昨晩の木馬も凄いスピードが出てたし(通常の3倍?)。あんなのが量産されていたら、グルニア木馬隊が世界最強になってたかも(でも、その前に乗りこなせる人がいないか…)。 
 とか考えている間に、隊長は一番左端の倉庫の前で立って手招きをしていた。

「すいません隊長」
「どうした?考え事か」
「はい、まあ…すいません」
「いいさ。それより、ここから大切な事を説明するからよく聞いてくれ。ロックロックの工房は危険な物や機密レベルの物などが多く入っている。だからここの扉の鍵は少々特殊なんだ。見ていてくれ」

 そう言うと隊長は扉の横にある『万能錠』と書かれたプレートの下に吊り下げてある、魔方陣らしき模様の彫られた丸い金属板が手の甲の所についた革手袋を手に取った。その人差し指の先の所から、針金が伸びている。

「これが鍵だ。万能”錠”と書いてあるが、鍵だ」
「はあ…」

 そう言って隊長はその手袋をはめ、頑丈そうな扉の鍵穴の前に立つ。まさか、鍵って…と、その時

ガンガンガンガンガンガンガンガン!

「おーい!ロックロック!私だ!副隊長を連れて来た!開けろー!!」
「えーっっ!!?」

 隊長は手の甲についた金属板を叩きつけるように扉をノックして叫んだ。ま、まさかそうくるとは…普通、針金でこちょこちょやって開けるとか、魔方陣の魔力で開けるとか、そういう風に考えるじゃない!?思わせ振りな事言ってたし!何か特殊な錠なのかなって思うじゃない!それがただのノックって!!

ゴゴゴゴゴゴ…

 扉が開いて行き、中から目の下に隈を張った、機械油の臭いのするロックロックさんが顔を出した。

「ふぁ…あ、隊長」
「すまない、寝てたか?」
「いや、うとうとしかけるとこでした。起こしてくれてどーも」
「副隊長を連れてきた。中に入ってもいいか?」
「ええ、どうぞどうぞ。副隊長、中は薄暗いですから足元とか気をつけてください」
「あ、はい」

 ロックロックさんの言うとおり、中は明かりを灯す道具一つ無く、明かりといえば窓から差し込む日の光だけで、薄暗かった。多分、油に引火するのを警戒して火種を置かないようにしているのだろう。
 目が慣れてくると、中は機械や工作道具でいっぱいであることがわかった。確かに足元や頭上があぶない。

「それと修理を頼みたい。できるか?」
「いいですよ。物はなんです?」
「副隊長の胸当てだ。割れてしまったんだが…」

 隊長がそう言い、私は壊れた胸当てをロックロックさんに渡した。

「これですけど…」
「ふむふむ…くっつけるだけならすぐできますね。でも…」

 ロックロックさんは私の顔をじっと見つめ、聞いてきた。

「失礼ですが副隊長、この胸当て、サイズが少々合ってないでしょ?」


12、
語り ピンゾロ

 なんとぉーーーーーーーーっ!!!な、な、な、な、な、なにを聞いているんだロックロック!!それはつまり、副隊長の胸囲が、驚異な、脅威で、今日いいDEATHカ?なわけで、エリス様の方が少々大きいような気がしなくないわけでもないわけでもない気がするようなしないような、しかし胸当てを外した副隊長の服の上からの膨らみもまなかなはもるないやなかなかどうしてなわけで、ああしかし走り込みで鍛えたであろうミニスカート越しでもわかる…ってこれじゃ副隊長がぱんつはいてないようにも取れるなじゃなくて形のいいヒップやミニスカートから伸びる健康的なふともももいい括弧ふとももってひらがなで書く方が卑猥だな括弧閉じるって誰の言葉だ(筆者注・私だ)
って言うか私は何うろたえているんだ落ち着けシーbkじゃなくてピンゾロこと本名…げふげふん!危ない危ない。

「こほん。ロ…ロックロック、もうちょっとそのー、なんだ。表現をだな…」
「あ、はい。その通りです。凄い!ちょっと見ただけでわかるんですか?」

 …当の本人は全然気にしていなかった。こういう時、自分が一番エロ大王に思えるのはどうしてだろうな…。

「金具の草臥れ具合でね、大体わかるんですよ。どこに無理がかかってるとか。じゃないと木馬の点検修理や改造はできやしませんて」
「あ、なるほど。言われてみればそうですね」
「そして、それは防具や武器にも言える事です。剣の柄が傷ついていれば、ああこの使い手はあまり人を殺さないんだなとか、弓の草臥れ方で持ち方の癖がわかったら、持つ手の辺りを少々頑丈にしたりとか…」
「ふんふん」
「じゃあ副隊長、この胸当て預かってもいいですか?サイズを大きくすると同時に、少々頑丈にしておきますね。あと、なにか要望はありますか?」
「そうですね…あまり重くしないでほしいのと、肩の防御を損なわずにもう少し動かしやすく…できますか?」
「ん、大丈夫ですよ。では明日取りにきて下さい」
「はい。あの、お代は?」
「ああ、いらないですよ。こっちは趣味でやってるようなものですから」

 ……かくして、今日も平和に日が暮れていくのであった。胸当ての修理、プライスレス。ちなみに”相棒”もな。


13、
語り カメラアイ

 夕日が差し込むアリティア城の一角、ここマルスの私室でもその赤い光は中を照らし込んでいた。ふぅ、とため息を吐くマルスのそばに、彼を見つめるシーダがいた。

「マルス様、今日も一日お疲れ様でした」
「ありがとう」

 マルスは窓のそばを離れると、ベッドの上に腰掛けた。その横にシーダが座る。

「今日の夜は久し振りにゆっくりできそうだよ…ふぁ」
「マルス様、お食事がまだですよ」
「食事かあ…ここでゆっくりと食べたいな。もちろん、君と一緒にね」
「マルス様……。そうおっしゃられると思って、アルツにここまで夕食をもってくるように頼んでありますよ」

 そういって微笑むシーダ。ちなみに、マルスと一緒に食事を取るのは20日ぶりである。

「アルツ…あのメイドの子か。たしか、第11混成部隊のピンゾロ隊長の養子の子だよね」
「はい。私がエリス様を護衛して行った、ドルーアの南の神殿で出会った難民の子…ピンゾロ隊長が守った子です」
「ピンゾロ隊長ともそこで出会ったんだよね?」
「はい。彼はドルーアで奴隷として働かされていた人達や、戦いを拒み竜石を捨てたマムクートの皆さんが、神殿に避難していたのを、デビルソード片手にたった一人で守っていたんです。一般の民を巻き込むな、って」
「凄いな…君や姉上が隊長に推薦した気持ちがわかるよ」
「でも、その時はまだ異国からの旅人だってわからなかったんですよ。でも、後から聞いて、ああ、だからマムクート差別をせず、分け隔てなく守っていたんだなって…」
「それは少し違うんじゃないかな?」
「えっ?」
「僕はピンゾロ隊長とは任命式の時と大会議の時くらいしか面識が無いけれど、君や姉上の話を聞いて思う。多分、彼はこの大陸の人間であったとしても、同じ行動を取ったんじゃないか、ってね」

 そういうとマルスは、シーダの顔をじっと見つめた。

「だからこそ安心してあの地とあの部隊を、そしてカチュアを任せることができるんだ」
「マルス様…」

 シーダの瞳に憂いが秘められる。その憂いを振り払うかの様に、シーダは、マルスに、キスをした。

「ん……マルス様…アルツ、遅いですね…」
「まだ準備ができてないんだよ、きっと…」

 首に腕を回し、甘えるようにそう言うシーダに、マルスは視線を合わせたまま答える。そしてそのまま、シーダの細く括れた腰に手を回し、優しくベッドの上へと誘う…。

ボフッ

 マルスとシーダは我を忘れたかのようにお互いの唇を、舌を、唾液を貪りあう。シ−ダの腕はマルスの首に回されたままだが、マルスの右手はシーダの形のよい胸乳を、服の上から揉みしだく。そして左手がシーダの赤いミニスカートの中へと侵入する。シーダはふとももをガッチリと合わせ、クロッチ部分への侵攻を阻止する。

「シ−ダ…かまわないかな…?」
「だめ…アルツがきちゃう…ん」

 …ちなみに、当のアルツはマルスの私室のドアの前で顔を真っ赤にして荒い息をしていた。


14、
語り カメラアイ

 その頃…旧グルニア王国首都近郊で、一組の隊商が護衛の傭兵隊と別れを告げていた。

「いやー、助かったよ。あんた達のおかげで無事にここまでこれた。ありがとう」

 その傭兵隊は総勢8名、全員がかなりの美女、もしくは美少女で構成されている。その中の、長い茶髪の女剣士…
その細い体躯にはアンバランスな銀の大剣を携えている…が口を開いた。

「礼はいい。それより、報酬をもらおうかい」
「さすがビジネスにかけてはクールだね。ほらよ、こっちで使える金貨2万枚と例のリングだ」

 商人は傭兵隊のリーダーであろう女剣士に皮袋と簡素なデザインの指輪を数個受け渡した。

「だが本当にあんた達がいてくれて助かったよ。最近噂の土竜の騎士には断られるし、トラキアの竜騎士団も今じゃかつての栄光は見る影もない野盗に成り下がったしね」
「そこでこの地獄のレイミア隊をご指名ってわけかい?」

 くく、と女剣士・レイミアは自嘲的に笑った。持ち前の妖しい美しさと相まって、その仕草がよく似合う。

「いや、あんた達の実力を買っての事さ。でも気に障ったのなら謝るよ」
「気にしなくていいよ。一度、シレジアでシグルドの軍に完敗したのは事実なんだからさ」
「シグルド…ってあのシグルド様かい?!ひゃあ、こりゃたまげた。あんた達凄い戦歴の持ち主なんだな」
「おっと、口が滑ったね。ま、そういう事だからユグドラルじゃ肩身が狭くてねぇ」
「そりゃそうだ。今じゃシグルド軍と言やあ大陸の英雄サマ、そのシグルド軍と敵対したとあっちゃあ、肩身も狭くなるってもんだ」
「そういう事。理解が早くて助かるよ。そんなわけでさ、向こうに帰る時は別で護衛を雇っておくれ」
「ああ、そうさせてもらうよ。それじゃ、縁があったらまた会おう」
「そうだね。その時、敵同士でなきゃいいけどね」

 その言葉を最後に隊商を見送るレイミア達。その馬車群が見えなくなると、レイミアは仲間達の方に振り返った。

「さて、クライアントとの待ち合わせ場所に向かうとしようか。ネネ、場所はどこだったかねぇ」
「ここから海を隔てて東、アリティアと呼ばれる地方よ」

 レイミアの問い掛けに、弓戦士の短髪の女が地図を広げそう答えた。彼女がネネなのだろう。

「じゃあとりあえず東の港に向かうかね。ココノ!」

 ココノと呼ばれた黒髪の少女…風変わりな白い服に赤いスカートを穿いている。いわゆる巫女装束というあれだ…は、コクリ、と頷いて返事をすると、垂れた袖の中をごそごそと弄り、一本の短い杖を取り出した。その杖で足元に円を描き、珍妙な文字を書き記し…

「(ぼそっ)…ワープ」

 その直後、レイミア達7人の姿は光に包まれ、何も無かったかのように消え失せた。そしてココノは、東に向かい物凄いスピードで走り始めるのだった。


第2章
『地獄の奴ら』 終わり

次回 Please fight! My Knight.
第3章
『森園(しんえん)エリス』に続く。

炎の御旗。悪魔の剣はその明(あか)を受けて煌くか?


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