この黒(やみ)を白(あかる)くできるか
Please fight! My Knight.
第5章
『青の救護者』
1、
語り カメラアイ
如何なる者にも誤算はある。例えば今現在の状況で言うと、黒騎士団はバレンシアからの船を拿捕した際、上空にいたクレアが飛び立つのを見ていない。黒騎士団だけではない。セリカの2重になった胸当てに隠してあった親書が武装解除の後、簡単に見つかったのも誤算であるし、そもそもピンゾロが昨日今日に限って休暇を取ったのも誤算と言えなくも無い。
少し時間を戻そう。黒騎士団本陣上々空での様子だ。
2、
語り カチュア
「……これでよし、っと」
私は黒騎士団本陣への単騎突入の前に、その位置と港の位置を記した地図と、第11混成部隊の戦闘部隊の皆並びに狼騎士団の皆さんへの指令書を急いで羊皮紙に書いて、アクアの首筋に巻いた。
私の作戦はこうだ。まず、まず、この高々空から本陣に向けて高速落下で突入する。そして、戦闘をしつつ機を見てアクアをカダイン南の砦に飛ばし、私は(できれば)敵指令を討ち、ダッシュで戦線から離脱。カシミア大橋で、恐らく先行して来るであろうロックロックさんの”木馬”を始めとした騎馬隊の皆さんやアクアと合流、追撃部隊を
壊滅させ、その勢いで港に攻め入り、船を解放する…といった感じだ。
鉄騎士団や木馬隊の動向は気になるけど、もし敵対するハメになったとしても、旧グルニア本城からこの本陣や港へ赴くには、彼らの足は遅すぎて、到着までに雌雄は決するだろう(『ワープ』の使い手がいたら別だけど…)。
…正直、穴の多い作戦だと思う。でも、この短時間で立案・実行でき、尚且つ犠牲を最小限に止めるにはこれがベストだと判断した。それにもう、取り止める事は出来ない。
「行くよ、アクア!」
3、
語り カメラアイ
「てぇやああああああああああああああっ!!」
その少女の叫びが黒騎士団本陣の上空に響いた時、警邏をしていた槍騎士と弓騎士は「はっ」となって上空を見上げた。が、彼らにとってそれが最期の行動となった。上空から降りてきた少女天馬騎士(言うまでもなくカチュアである)の鋼の槍が、その降下の勢いもあって彼らの兜を貫いたからだ。
「アクア、行って!!」
カチュアはそう叫ぶとほぼ身長くらいの高度まで降りて天馬から降りた。アクアは一目散に北へと飛ぶ。と、外の騒ぎが気になった武装済みの騎士が5人6人…と出てくる。カチュアは槍を捨て愛用の鋼の剣を構えると、片っ端から彼ら(女性もいたかもしれないが)の脚や武器を持った腕を骨まで斬り付けていく!
基本、魔法にも頼らない黒騎士団。傷を癒すには傷薬を用いるしか無いが、骨まで達する傷となると、このアカネイア大陸に広く流通する薬で癒すのは不可能であり、結果自然治癒を待つか治癒魔法を使うしかない。しかし、カダインからついて来た(魔王ガーネフ派として追放された)僧侶崩れは粛清されており、治癒魔法を使えるのは…。
「…予想通り、治癒魔法を使える人間はいないみたいね!」
相手に攻撃させる事無く、むしろ相手が武器を抜く前に斬り付けていくカチュア。天馬を降りても、その速さと躊躇の無さが失われていないのは、ピンゾロとの手合わせで読者の皆様には周知の事実であろうと思うが、黒騎士団残党はそんな事は知らない訳で…結果、次々と戦闘不能者が増やされて行く。
カチュアは、その中の1人から情報を聞き出すべく、脚を斬られて動けない騎士に詰め寄った。
「私がこれからする質問に全部嘘無く答えたら、命までは取らないわ。あなた達の大将は誰?今、どこにいるの?」
カチュアの戦いぶりにすっかり戦意を失った騎士は、恐れた声で答えた。
「ひぃぃ!パ、パージ将軍です!今は向こうに見える、屋根にグルニア国旗の立ったテントにいますぅっ!!」
「そう。で、港の船を拿捕した理由は?」
「そ、それは、魔法戦力の増強の為です!異国の魔法は杖や本が要らないと聞いて、それで…」
「わかったわ。最後の質問。その船からここに連れて来た人間は何人いるの?」
「ふ、2人でさぁ!!1人は魔道士みたいな男で、もう1人は赤毛の女神官でさぁ!!!」
「魔道士と、赤毛の神官…わかったわ。もし嘘が1つでも混じっていたら…」
カチュアの凄みに、ついにパニックを起こす騎士。
「ひいいいいいいいっ!!嘘なんか吐いて無いです!本当です!神に誓って!!」
ふぅ、と溜め息を吐くカチュア。
(魔道士は誰かわからないけれど、女神官はセリカかソニアさん…恐らくセリカだろう。もしパージという敵将が騎士道を忘れていなければ、2人を人質にする様な真似はしないはず。1対1の勝負に持ち込む事さえ出来るかもしれない。となれば勝機はかなり上がる…どうする?行ってみる?)
カチュアは己のスタミナや経過した時間、”ここまでの騒ぎになっているのに、一向に姿を現さないパージ将軍”
の不気味さ等を考え…旗の立ったテントに向けて駆け出した。迷いは、無かった。
4、
語り カメラアイ
時間はまたもや少し遡る。ここ、黒騎士団本陣のテントの中で、そのやり取りは行われていた。
「何を言われようと、されようと、私達の仲間を傷付けたあなた方に協力する理由も義理も謂れもありません」
そう言い放ったのは、椅子に手足を拘束され直したセリカだ。彼女はパージ将軍やその部下達(全員完全武装だ)に囲まれながらも、気丈にもそう言い放った。
「そうですか…やれ」
「はっ」
パージは部下に命令すると、床に転がされたリュートの生爪を1枚剥がさせた。
「……っ」
声を何とか殺すリュート。まあこれしきの傷ならば、バレンシアの賢者の特殊能力である自己治癒能力ですぐにでも治ってしまうが。しかし、リュートは手をグーにして傷が癒えているのを隠して、拷問が効いているフリをした。
次にパージが何を言うか、リュートも、セリカも、薄々勘付いていたからである。
「我々としても、大使殿のお仲間を傷付けるのは多少苦しくてね…良い返事を頂けまいか?」
「私の答えは変わりません。それよりも、早く私達を解放して下さい。無論、船に残された皆さんもです。これだけの騒ぎ、この地域周辺の統一アリティア軍にはもう伝わっているでしょう。攻め入られるのも、時間の問題と思いますが」
淡々と答えるセリカ。セリカも、ここに来てから魔力が戻って来ているのを感じていた。剣は取り上げられているが、リュートと共に魔法を駆使すればここを脱出できるだろう、そう思っていた。その時だった。
『てぇやああああああああああああああっ!!』
威勢のいい、忘れ様もない恩人の叫び声。(カチュアさんが助けに来てくれた…)そうセリカは思った。まさに地獄に仏。この誰も知らない大陸で、唯一の知人であり、かけがえの無い友人であり、バレンシアの恩人の彼女が。
「…すでに時遅し、ですね。パージ将軍。私の考えが正しければ、統一アリティア軍が動きましたよ」
「く…おい!外の様子はどうなっている!?」
「はっ!」
2人の騎士が様子を見にテントをでる。そして十数秒後、1人の騎士が血相を変えて戻って来た。
「報告します!敵は天馬騎士1人!しかし見張りは全滅、増援も物凄い勢いで次々と倒されていきます!!」
「なん…だと!?」
奥歯で苦虫を噛み潰したかの様な形相のパージ。と、もう1人が間髪入れずに戻って来た。
「報告します!敵はあのアリティア反乱軍の中核の1人、天馬騎士3姉妹のカチュアと確認!今、天馬を降りてこちらに向かって来ております!」
「天馬騎士3姉妹…クソ!よりにもよって!!わかった、決着は私が付ける!お前達は隙を見て脱出し、港に伝令の狼煙を上げろ!すぐに帰還せよ、とな!!」
「はっ!!」
そそくさとテントを後にする騎士達。しかし、1人の女騎士だけが残った。ティンカーだ。
「将軍、私はここに残ります。1対1で決着をお付けになられるおつもりなのでしょうが、私にも敵のスタミナを減らすくらいはできると思いますので。それに…」
「…ザゲットの敵に一矢でも報いたい、か?」
「はい。帰還した弓騎士によると、ザゲットは件のカチュアと第11混成部隊に殺されたとか。許す事などできません」
「…わかった。だがティンカー、死ぬなよ。あの世のザゲットが悲しむ」
「はい。それは重々。わたしはあの人の分まで生きると墓前で誓いましたから。…では」
剣を携え、表口からカチュアを迎え撃つために出撃するティンカー。そして間を置かずして、戦いは始まった。
5、
語り カチュア
カキィィィン!!
「…流石本陣。タダでは入らせてくれないみたいね!」
(それにこの騎士…出来る!)
本陣のテントから凄い剣幕で飛び出してきた女騎士の銀の剣の一撃を、鋼の剣で逸らしつつ受ける。パージ将軍とやらの直属の部下か、部隊長クラスだろう。かなり腕が立つのが、一刀でわかった。タイプとしてはピンゾロ隊長に近い。一撃の破壊力の低さを、武器の破壊力でカバーするタイプ。でも隊長とは違って、真っ直ぐな剣だ。良くも…悪くも!!
「ザゲットの仇ぃぃっ!!果たす!!」
「そう簡単に討たれてっ!!」
たまりますかっ!!
キンッ!キンッ!キンッッ!!
剣と剣がぶつかり合う。否、剣に剣を、ぶつける!真っ直ぐすぎて、簡単に読める!!それに銀と鋼なら、耐久性は鋼の方が上。剣自体にダメージを与える事もできる。
「悪いけど、模範実技なら士官学校時代で、飽き飽きなのよっ!!」
ドカッ!!
挑発がてら、相手の手の甲を柄で打つ。これで剣を落としてくれれば助かったのだけど、流石にそうは甘くない。
「ぅっ!!こ…のおおおお!」
ブン!ブン!ブウンッ!!
早速反撃してくる!でも、挑発の効果と手の甲の痛みからか、剣は空を斬るばかり。
「届かない!何故届かない!私の刃ぁ!!ザゲットの仇なのにぃぃぃッ!!」
「そんな、怒りに身を任せた太刀筋なんて、容易く見切れるっ!!」
本当は他にも色々理由はあるんだけれど、敵に塩(ヒント)を与えてあげる必要は無い。哭いているのはわかるけど、心を痛めている暇は無い。それにザゲットというのがあの日の夜のザゲットなら、私は厳密には仇じゃないし。
……っと、そろそろ終わりにするべきかな。本命のパージ将軍に逃げられたら何だし。
「これで…っ」
私は相手の太刀筋を見切ると(あれだけ見せられたら嫌でも覚える)、相手の左に回りこみ…
「終わりっ!!」
ザシュッッ!!!
左胸を横薙ぎで一閃!!相手は膝をつき、崩れ折れる…。
「…ザゲット……あなたの……所へ……導い」
ドンッ!!
私は相手の頚椎に剣先を突き刺す。…非情だけれど、ここは敵の中枢。後陣の憂いは絶っておかないと。
「…ごめんなさい」
私はそう呟き、剣を引き抜くと、テントの中へと突入した。
6、
語り カメラアイ
「…今のティンカーでは何分も持たないだろうな」
「やはり最初から捨て駒にするつもりだったんですね」
批難を込めた目でパージを見据え、そう口にするセリカ。パージは振り向く事もせず、問う。
「わかるか…その若さで、相当の修羅場を潜ってきたとお見受けする」
セリカは何も答えない。ただ、代わりにリュートが答えた。
「わかるさ。自らの”大儀”の為にあえてたくさんの部下を捨て駒にした男をこの目で見てきたからな。…ただ1つ違うのは、お前からは信念というより狂気しか感じないという点だ」
「ほう…その男とは旨い酒を酌み交わせそうだ。…名を、聞いておこうか」
「…旧リゲル帝国皇帝・ルドルフ一世。お前など、足下にも及ばない立派な男だった…俺達が、討ったがな。そしてその”大儀”を、違った形で俺達は受け継いだ。ここに来たのも、その一環だ」
ルドルフの”大儀”…それはリゲルの掲げる武力による支配という不完全な正義ではない、ソフィアの掲げる潤沢な経済と物資による支配という不完全な正義でもない、より理想的且つ完全に近い正義の旗を掲げる若者に試練を与え、それが力無き正義…無力では無い事を証明させる事。新しい時代を担ってくれる若者にリゲル(と、滅ぼしたソ
フィア)の王座を託す事だった(願わくばそれが忠臣・マイセン卿に託した我が子・アルムであらんことを、そして邪教と化した国教・ドーマ教の暴走を食い止めてくれれば…との期待も篭っていた)。
「ふむ…だが所詮は負け犬。その意味では我々と違うな」
「戦の勝ち負けは所詮その結果に過ぎんさ。あの男は、お前達とは根本からして違う」
「ふ…それは勝者故に出る慢心からのセリフだな。死人に口は無い」
「真の勝者…それはルドルフ皇帝の方です。私達はただ…あの方の掌の上で踊っていただけに過ぎません」
「ほぅ…これはこれは。大使殿までがその様に申されるとはね……勝者慢心の”愚”!虫酸が走るな!!」
「…残念です。わかってもらえなくて…」
と、その時だった。
「ここねっ!?」
しゃっ、とテントの幕が開かれ、一人の少女騎士…我らがカチュアが現れたのは!!
7、
語り カチュア
「セリカ!…と、リュートさん!お待たせ!助けに来たわ!」
「カチュアさん!!」
椅子に縛り付けられているのは間違い無くセリカ、そして床に転がされているのは…リュートさん、よね?うん、リュートさんだ。私は二人の身の安全を確認すると、もう一人の黒い鎧の男に問い掛ける。
「お前が黒騎士団残党を纏めるパージ将軍か!?」
「いかにも。ようこそマケドニア白騎士団カチュア殿!御高名は常々聞いていたよ。くっくっくっくっ…”愚”っ!たった一人で何の真似だ小娘ェェェ!!!」
「人助け」
自分に酔いしれ、興奮しきった相手には、こうやって淡々と冷静に、単語一言で返す。こうする事で相手に”上から物を言われている感”を植え付け、激昂させる。…ミネルバ様から教わった挑発術だ。
「人助け、だと?ははははは……面白い!まるで我々が悪の様なその言い様…それがアリティアの見解か!」
「外国からの船を拿捕し、その乗組員を拉致、監禁する…その行いに正義があると?…否」
「大事の前の小事だよ。アリティアのマルスも取った道だ」
「マルス様が…だと?」
正直、カチンときた。マルス様がそんな事をなさる訳が無い。そう、なさる訳が
「奴はマムクート共を守る為マケドニアの大半を封鎖した!」
「…!!」
「マケドニアを追われた民達の不満は未だ根強いと聞く…だが、マルスはその民の為に何をしている!?”新しい大地”からの侵略を恐れ、内乱の火種を揉み消そうと必死なだけで、悲痛な民の声を聞いていないではないか!えぇ?違うか?!」
「マルス様は……マルス様には!お考えあっての事!!今にきっと、マケドニアの人達もわかってくれる!!」
「それが我々と同じだと言っているのだ小娘ぇぇ!!」
「違う…違う!!」
「ダメ!カチュアさん!!」
セリカの静止も振り切り、私は剣を構え、突進した。頭の片隅で挑発合戦に負けたと思いつつも、もう、止まれなかった。
「でえぇぇやあぁぁぁぁっ!!」
「”愚”っ!!」
カキィィィ!!
パージ将軍は抜き身で置いてあった大剣を翳し、私の一撃を受け止める!
「ふふふふ…その激昂!小娘!貴様、マルスに忠誠以上の感情があるな!?」
「な……っ!」
私が、マルス様に、忠誠以上の感情を…いや、今はそういう雑念はいらない!
「私は、激昂なんてっ!」
カキイィ!カキイィ、カキイィンン!!
私は防がれるのを分かった上で剣を振るった。相手の武器はこの狭いテントの中では不利な大剣!こうやって振るわさせていれば、いずれ死角が明るみになる!後は、そこに合わせて必殺の一撃を…
パキィィィィン…
「えっ!?」
「もらった!!」
ドスッ…!!
それは一瞬だった。パージ将軍の大剣が根元の辺りで折れたかと思うと…否、折れたのではない”折ったのだ”。
その折った大剣を私の腹に突き刺した…。
「ば…バスター、ダガー…!」
「ご明答」
バスターダガー。それはバスタードソード並みの太さ、ロングソード並みの重さ、ダガー並みの刃渡りを持つ剣。
バスタードソードの破壊力も、ロングソードのリーチも、ダガーのコンパクトさも無い為、武器としては殆ど使われないという代物。そんな物を、大剣に…仕込んで……
ドサッ…
「カチュアさあああああああああん!!!」
…セリカの悲痛な叫びが……聞こ…え……
8、
語り キャブ
メソメソと泣きはらしたファーゴが愛ロバを連れて一人で帰って来た早朝(あんな時間にパンは売れんだろう)、それは南からやって来た。
「あれは…副隊長の、天馬?」
見張りからの報告を受け、俺は砦の外に出た。と、その天馬はもう着地体制に入っていた。何という速さだ。
「これは…」
俺は天馬(アクアという名前だったか)の首筋に結えられた羊皮紙を手に取った。伝言…いや、
「司令書と…地図?!」
俺は副隊長からの司令書を読んだ。そこにあったのは…!!
「…戦闘部隊、総員至急出撃準備を!!グルニアに征くぞ!!!」
9、
語り カチュア
…ダメだ、腕も脚も動かない。刺されたお腹からは激しい痛みが走る。血が今も流れ出ているのがわかる…わかる?って事は、私、生きて…る?
「…はっ!?」
ズキッ!!
「っ!!…こ、ここは…」
お腹と、両手足首からの痛みで、意識を取り戻した私。背中にベッドか何かの感触を感じる。天井はテントのそれではない。衣服や胸当ては身に付けている。ここは…一体?
「ようやくお目覚めか、カチュア殿…クククク…」
「パージ将軍…ぐっ!?」
その時、私はベッドの上に仰向けで寝かされている事、そして四肢を縄で拘束され、大きく広げられている事に気付いた。そしてその様子を、パージ将軍が無遠慮に視姦している事にも…。
「な、何をするの!?離しなさい!!…痛っ」
「そう興奮する事は無い。腹が痛むだけだ。何、あまりにも痛々しい傷なのでね、少々治療を…と思ってね」
そう言うとパージ将軍は一つの薬瓶を見せつけた。
「これは”新しい大地”の向こう…ユグドラルから輸入した傷薬でね。良く効くのだよ。それを今から」
ドポドポドポ…
パージ将軍は自分の掌に薬瓶の中身を出す。そして
「お前に使ってやるっ!!」
ズドォッ!!
「ぐはっ…!!」
傷ついた鳩尾への強烈な掌底。そして血と薬を混ぜ合わすかの様に、ぐにぐにと傷口をいじられる。
「やめ…やめろぉ…!いたいぃぃぃ」
「はーっはっはっはっ…治療だよ治療!なぁ、お前達もそう思うだろう!?」
お前…達?
「へへ…見事な治療でさぁ!」
「くきゃきゃきゃ…その通りその通り」
声のした方を向くと、そこにいたのは小太りの男と、痩せた男。二人共黒い鉄仮面を被っているが、その下は”何も身に付けていない”。私は慌てて目を背けた。その間も、パージ将軍による”治療”は続いていた。
「あが…っ…いたい…やめ、なさい…くあああっ!!」
「血が止まってきたな…そろそろ効いてきたんじゃないか?」
「効い……はうっ!?」
な、何…体が、疼く…!
「この傷薬は特別製でなぁ!男には普通の傷薬だが、女には媚薬の効果もある!ククク…存分に悶えるがいい!!」
媚薬…?!そんな…そんな物を……マルス様……、助…け……
10、
語り カメラアイ
「はぁっ、はっ、はっ…」
媚薬傷薬の効果だろうか、パージ将軍が手を離した後も、カチュアは大きく息を荒らげていた。
「んじゃ将軍、そろそろ…」
「ああ、お前は自我が残っている方が好みだったな」
小太りの騎士がベッドに横たわらされたカチュアの胸当ての上に跨る。
「が…はっ!!」
カチュアの肺から、空気が押し出される。あまりの息苦しさに、カチュアは我に返った。目の前には、男の一物。
「はぅっ…な、何を…」
「決まってんだろ?こうすんだよ!!」
そう叫ぶと男は、カチュアの髪を掴んで頭を上げさせ、彼女の唇を一物にあてがった。
「キスしろぉ!俺のモノにキスしろぉ!裏筋にも玉袋にもキスしろぉ!恋人にするみたいになぁ!」
カチュアの後頭部を両手で支え、右に左にと動かす男。陰毛のジョリジョリ感と一物の腐臭がカチュアを容赦なく襲う。そして生理的不快感と屈辱感も…。
「ん、ん、んんーっ!!!」
「クソっ、クソ女っ、そんなキスじゃダメだ!ヘタクソめ!お仕置きだ!!」
小太りの男は理不尽にもそう叫ぶと、尻をズリズリと後退させ始めた。傷口の辺りはわざとジックリネットリと。
「あああああっ!!痛い!痛いっ!」
「うるさいっ!!」
パシィッ!パシィッ!
叫ぶカチュアに往復ビンタを食らわせる小太りの男。その間も尻を傷口の上をバウンドし、責める事を忘れない。
ぷしゃああああああ…
あまりの激痛に、カチュアはついに失禁してしまう。ショーツが壁となり、飛ぶ事はなかったが、その代わり飛沫が内股とショーツ、ミニスカートを濡らす。
「いやああああああっ!見ないで、見ないでぇぇぇぇっ!!」
そう叫ばれてハイそうですかという男は、不幸な事にここにはいなかった。パージ将軍も、痩せた男も、その濡れゆく様を凝視し、嘲笑う。
やがて小太りの男の腰はカチュアのふとももに達した。男はカチュアの股間に手をやり、探る様にまさぐる。イヤイヤをするカチュアだが、男は気にも止めない。
「やっ…いや…」
「…チッ、小便で濡れただけか。だが、濡れてない方が俺にとっては好都合だ」
そう言うと男は、小便まみれのショーツをずり下ろし、露になった(しかし閉じられたままの)秘所に一物の先端をあてがい、指で強引に秘所をこじ開け…
「往生せいやぁ!!!」
ブチブチィィィッ!!!
「ひ…やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
無理矢理ねじ込む!破瓜の血と、膣口が裂けた血で、接続部は真っ赤に染まる。カチュアは声も無く嗚咽する。だが、男はそんな事お構いなしと、血を潤滑油代わりにして腰を前後させる。
「ヒャハハハハ!!いいぜいいぜこの締まり!!やっぱ女は濡れてない所を無理矢理犯すのが最高だぜぇ!!」
「あが…あが…がっ…!」
あまりの痛みに、カチュアの脳からは恥辱という物が吹っ飛んでいた。カチュアは白目を剥き、口から泡と涎を垂れ流す。もうそこに、騎士としての面影は存在しない…。
「は…はは、イクぜイクぜそろそろイクぜぇ!!観念しろォ!!」
観念。その言葉が、カチュアを瞬時に覚醒させた。観念、という事は、つまり!
「嫌ああああああっ!!外に!お願い、外にっ!!」
「あァン?中に決まってんだろうが!こんな力一杯締め付けやがって!もう止まらねえよ!おりゃあああ!!」
ドパァァァァッ!!
「イヤァァァァァァァァァァァァァァっ!!!!」
11、
語り キャブ
副隊長からの指令を受け、俺達騎馬隊(俺は歩兵だが、脚には自信がある)はとりあえず南のカシミア大橋に向かっていた。一刻も早く橋を渡り、西の港へ。橋を押さえられたら、厄介な事になるからな。
「そろそろどういう理由か教えてもらおうか、キャブ!」
完全武装してロバに跨ったファーゴが、その横を全力疾走する俺に問いかけてきた。
「どうもこうも無い、黒騎士団め、ハナから”赤の救援隊”には興味が無かったんだ!」
「どういう事っスか?キャブさん!!」
俺の横に馬をつけたダイトリォが聞いてくる。
「奴ら、港を占拠したそうだ!そしてそこには、異国の交易船が来ていたらしい!奴らの狙いはそれだったんだ!!
今、副隊長が一人で手薄になった黒騎士団の本拠地を攻めている!!そして、俺達には一刻も早い船の奪回を指令してきたんだ!!」
「鉄騎士団と木馬隊は?!」
”プラズマ”モードで木馬を飛ばすロックロックがそれを気にかける。
「グルニア本城で陣を張っているらしい!よしんば動いたとしても、黒騎士団本陣や港へ着くのは2日後といった所だろう!もし彼らが敵だったとしても、到着までに雌雄は決する!!」
「じゃあ木馬隊とは戦わなくて済むんだな?!よかった…」
「ああ。だが、問題は港を占拠した黒騎士団の数だ!場合によっては…む!?」
もう少しでカシミア大橋に着く、その時俺は確かに聞いた。たくさんの、馬の蹄の音を!
「…そう簡単には通させてくれないか。止まれ!歩兵隊と合流する!後、一戦だ!!」
…川向こうに、黒騎士団の陣を確認した。
12、
語り カチュア
「はぁ…はぁ…酷い…うぅ…」
涙が溢れて仕方がない。マルス様に捧げたかった初めてが…こんな形で散らされたのだから…
「ふぅ〜…よかったぜぇ。へっへっへっ…」
ズルリ、と股間から汚らわしい異物が引き抜かれるのを感じる…そして…望まぬ穢れの跡も…
「…さて、治療の続きだ。呆けている場合ではないぞ?」
またパージ将軍が、例の傷薬を掌に垂らす。そして
ドゥッ!!
「がっ…あ、あああっ!!」
「ほら!ほらぁっ!!だんだん血が止まってきたぞおっ!!傷も塞がってきた!さすが異国の傷薬!今度はそっちの傷にもぶっかけてやろうかぁ?!」
グリグリと、また傷口を責められる。と、同時にお腹と股間の痛みが引いていき、代わりに熱くなってくる…。
「あ…あ…、ふぁぁぁ…」
「眼がトロンとしてきたぞ。大分効いてきた様だな…おい、そろそろヤるか?」
「くきゃきゃきゃ…待ちましたぜぇ〜将軍…ではお先に」
…もぞもぞと、何かが背中を這う感じがする…と同時に、縄で括られた手首足首がきしっと軋む。何…何なの?
「こんにちわぁ〜。くきゃきゃきゃ」
「はっ!?な、な、うあああああああっ!!」
手首足首からの激しい痛みで意識がはっきりと戻る。痩せた男の方が、私とベッドの間に入り込んで来たのだ。そんなことをされれば、私の両手足は反り返り、手首足首に縄が食い込む。痛い、痛いぃぃ…。
「おいちゃんとキスしようぜキスー、なぁ?」
ブチュウウウウウ!!
私の顔の横から頭を出した男が、無理矢理私の首を横に向けると、強引に唇を合わせ、吸ってきた。媚薬のせいか、力が入らない…抵抗できない!
「んーっ!んんーっ!!」
ぶじゅぶじゅぶじゅ…
男は私の口内から唾液を吸い上げると、それを自分の物とシェイクして送り返してくる。舌を入れられ、唾を飲まされ、息ができず…私の意識が遠のいていく。
「ぷあっ!!…きゃきゃきゃ、下手なもんかい。なかなかキス上手だったぜぇ、カチュアちゃんよ…」
「はあっ、はあっ、はあっ…」
遠のく意識を取り戻さんと、私の息が荒くなる。
「感じてるのかなぁ〜?くきゃきゃきゃ」
違う、感じてなんて…と、その時
むにゅっ
「ひゃっ!?」
「いいお尻だね〜おいちゃん好みだぁ…たまんねぇ…」
もみゅ、もみゅっ…
痩せた男は、ミニスカート越しに、そして直接、私のお尻を揉みしだく。や…やだ、もうやだぁ…
「ん〜じゃま、おいちゃんは、大好物のコチラを…戴くかっ!!」
ズブゥゥッ!!
「あああああああああああああああっ!!?」
な、何?!お尻!?私、お尻の中に、挿れ……
バス!バス!バスッ!!
ぎしっ!ぎしっ!ぎしぃっ!!
「痛い!痛い痛い痛い痛いーっ!!!」
お尻の穴も、四肢も、お腹も、背筋も、精神も、心体全てが悲鳴を上げる!!
「はあっ、はあっ、はあっ!!カチュアちゃん、カチュアちゃん、カチュアちゃんん〜っ!!最高だぜーっ!!」
「いやあーーーーーーーっ!!こんなの、こんなの、こんなの最低ーっ!!」
「む、ムネ、胸はどうかな?」
ビリビリィッ!!
男は私の胸当ての横の隙間から(筆者注釈・忘れているかもしれませんが、このお話はファミコン版をベースにしております)手を差し込み、無理矢理服を裂いた。そして露になったブラジャー越しに、乳房を揉みしだく。
「熱いし、硬い…さてはお尻で感じてたんだな?この変態娘め!」
「うそ、そんな、そんなこと…」
「嘘なもんか。その証拠を、将軍達にも見てもらえ!!イクぞ!!!」
「や…やあーーーーーっ!!」
ドブゥっ!!!
ぷしゃああああ…
……お尻の穴に射精されると共に、2回目の失禁……あぁ…私、変態になっちゃったんだ……マルス様……ごめんなさい………
13、
語り ピンゾロ
『ウォッチ』の杖の映し出した映像、それは囚われた副隊長の痴態と、黒騎士団と刃を交える隊員達…今、”同時に起こっている事”だ。これが…面白い事、だと!?
「…”マザー”、頼みがある」
言いたい事はある。だが、この状況を打破するには、”マザー”の…力がいる。押し殺せ。自分を、押し殺せ!!
「『ワープ』の杖で私を飛ばしてくれ”マザー”!!この通りだ、頼む!!!」
「ふん…まあ、いいだろうよ。だけど、どちらか一方だよ”ピンゾロ”。救えるのはな。おんしはどちらを選ぶ?」
今、まさに貞操を蹂躙されている副隊長と、黒騎士団相手に苦戦を強いられている部隊…選べるのは、今、片方だけ。どうする?どう出る?考えろ、考えろ、考えろ…よし!!
「…カシミア大橋へ」
「ふん、娘の方は見捨てるかい。流石は偽善者」
「勘違いしてもらっては困るな、”マザー”」
「…何?」
「私はどちらも見捨てない。私は両方を救いに行く。それが」
私がかつて憧れ、そして今も追い続ける背中が、見えた!!
「隊長ってものだろう!!」
「は!大きく出たね、この大嘘吐きの偽善者めが。…いいだろう。カシミア大橋だね。お手並み拝見と行こうじゃないかい。……『ワープ』!」
第5章
『青の救護者』 終わり
次回、Please fight! My Knight.
第6章
『死闘(ソウルフル)・カシミアビッグブリッジ』に続く
炎の御旗。悪魔の剣はその明(あか)を受けて煌くか?
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