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			 第八話【 異動 】 
			 
			 素肌の上に毛布を纏った琴乃が、昨晩に何度も抱かれたベッドを背もたれにして、床に座っている。 
			 淹れ立てのコーヒーの入ったカップを差し出すと、はにかみながら両手で受け取った。自分のカップを片手に、俺もその横に腰を落とす。 
			 すぐに肩の重みが増した。 
			 見るまでもない。彼女が俺に頭を預けたのだ。 
			 たった一度の繋がりだけでも、少女は一人の女へと脱皮をする。ましてそれが一人の男に何度も、となっては・・・・今ではちょっとした仕草の一つ一つに、男を知った身体の色香が漂っていた。 
			 今もコーヒーを飲む彼女の仕草に、思わずドキリとさせられる。 
			「もう・・・・朝ですね」 
			「ああ・・・・」 
			 俺は頷く。 
			 一昨日は琴乃の終業式、ということもあって、登校する彼女を見送る立場であった。もっとも午前中で学校は終わり、彼女は一旦寮に戻った後、帰省するため、という名目の外泊届けを再提出し、ここに戻ってきた。 
			 それから一日半中。それこそ二日間の昼夜にかけて、俺は彼女を抱き続けた。一緒の風呂に入り、一緒に食事をして、それ以外の時間はとにかく、一つのベッドの上でSEXをすることに励んだ。 
			 避妊ゴムを見せたが、彼女は頑なに頭を振った。 
			 無論、俺も避妊させてやるつもりは毛頭なかったのだが・・・・ 
			 天野が指摘したように、彼女はあくまでも、SEXに付き合って貰っている・・・・SEXをして貰っている姿勢を崩さず、その全てを膣内出しで求めた。 
			 自分の危険日を顧みずに・・・・ 
			 そしてだからこそ、俺は何度も彼女の膣内で果てたのだ。 
			 琴乃をより確実に孕ませる、そのためだけに。 
			 何度も膣内に・・・・ 
			 おかげで俺は寝不足に間違いない。 
			「まだお時間、大丈夫です?」 
			「いや、そろそろ・・・・ヤバいなぁ」 
			 学生アルバイトである彼女はともかく、正社員である俺は早朝からの出社は当然のこと。 
			 時刻を見れば、もう出社しなければ遅刻してしまう恐れがある。 
			 俺は気だるい身体を叱咤して、ようやく着替え始めた。 
			「今日も・・・・ここに、戻ってきて・・・・いいですか?」 
			「うん。勿論・・・・」 
			 俺の体調を懸念してくれたのだろう。 
			 だが、琴乃の身体を抱けるのなら、多少の睡眠不足など恐れるに足りない。まして彼女との関係が期間限定となっている、それだけに。 
			「だから、セキュリティカードも預けておくね」 
			「あ、いいんですか?」 
			 彼女に見られても困るようなモノはない。(起動中の光学用メモリードライブ、及びその映像機器を操作するのには、固有パスワードが必要) 
			「それがないと、建物からも出られないよ」 
			 俺は苦笑する。 
			 セキュリティカードがなければ、部屋からの外出、鍵の戸締りはともかく、エレベーターを起動させることはできない。 
			「あ、タンスの引き出しの中に現金が入っているから、何か入用なもので困ったら、遠慮なく使っていいから」 
			「え、そんな・・・・」 
			「ほら、ここには何にもないから・・・・」 
			 妻がこの部屋を出て行ってからもう十五年にもなり、この部屋には化粧品はおろか、女性に必要なものが一切ない。まさか一時的とはいえ、彼女と同棲までできるとは思っていなかったから、準備が滞ってしまったのは無理からぬことであろう。 
			 せめて昨日の日曜日。少しぐらい俺が自重して、買い物へ連れて行ってあげれば、こんなことには・・・・もっともその時間を惜しんだが故に、もはや数えきれないほど、彼女の膣内に膣内出しすることができたのではあったが・・・・ 
			「じゃ、課長。また後で」 
			「うん。琴乃くんも気をつけてね」 
			 俺は自己嫌悪のまま、彼女の見送りを受けて出勤した。 
			 
			 
			 
			 俺は寝不足の状態を戒め、講学社ビルに入った。 
			 この状態は自分が招いた種である。泣き言を言うことは許されないし、部下への示しもつかないだろう。 
			 そんな寝不足の状態を微塵も見せず、朝の会議を終えた。永沢に指示を与えながら、俺は琴乃の彼氏である田中を見据える。 
			「課長、今日は失敗しないように気をつけます」 
			「ん、そうだな・・・・まぁ、期待しないで待機していよう」 
			 俺は微笑する。 
			 この可愛い部下に罪悪感を憶えなかった、といえば、嘘になる。少なくとも琴乃を破瓜した後となっては、特にだ。 
			 無論、琴乃の処女を奪ったあの高揚感は忘れない。催眠術によるものであったとはいえ、求めてきたのは彼女自身だったこともある。だが、一度奪ってしまった後となっては、さすがに田中には悪いことをしてしまったな、と思わずにはいられない。 
			 今更、ではあるが・・・・ 
			「あ、内藤課長!」 
			 派遣社員の一人である三輪が俺を呼び止める。 
			「どうした、三輪くん?」 
			「支倉本部長がお昼過ぎに、対応室でお呼びとのことです」 
			「そうか・・・・」 
			 俺は頭を掻く。 
			 正直、あの本部長の相手は苦手だ。年配で上司ということもあったが、何よりも相手の性格が俺に合わないのだ。まして上司からの呼び出しともなると、まずロクな内容ではないだろう。 
			「ふぅ・・・・」 
			 正午まではまだ時間はある。 
			 覚悟ができる時間があるぶんだけ、今日の呼び出しはまだマシだというところだろうか。 
			 
			 
			 《コンコン》 
			「内藤です。お呼びとのことですので」 
			 講学社ビルのトップである本部長の職場は、ビルの最上階、このワンフロアの全てである。この対応室もその一つで、広さは俺の課長室なみにある。 
			「内藤くんか、入りたまえ」 
			「失礼します・・・・」 
			 入室の許可が下り、重たい面持ちで重厚な扉を開く。 
			 支倉忠典は俺より四つ年長の四十五歳。肥満気味の体格にとにかく恰幅が良さそうに見える。その実、愚鈍な性格もあって無能。正直、余り一緒に居たくはない、そんな人物である。 
			 まぁ、愛人とはいえ、柴田くんも大変だなぁ・・・・ 
			 事務長の柴田くん(二十歳)が、本部長の愛人の一人である、という事実を知らない人間は、この講学社ビルの中に存在はしないだろう。ただ柴田くんの性格は解放的で、上司との付き合いの延長線上にSEXがある、という思考の持ち主で、俺もそれで良い思いをさせて貰ってはいる。 
			 本部長もその形で彼女と関係し、ビルのトップという権力をちらつかせて、彼女を自分の愛人に仕立て上げたのだった。 
			 その事実を知ったとき、寝取られたような錯覚を憶えたものである。 
			 無論、柴田くんが俺の彼女であったわけではなく、たった一夜のベッドを共にしただけの間柄に過ぎない。本部長への逆恨みも甚だしい、というものであろう。 
			 ただその後も、柴田くんとは二人きりで食事する機会もあり、それと同じ回数の夜を過ごしてきてもいる。 
			 まぁ、俺と本部長は少なくとも、同じ穴を愉しんだ穴兄弟、っというところだろうか? 
			 
			「おう、内藤くん。久しぶりだね。待っていたよ」 
			「はぁ(永遠に忘れてくれても結構なのだが)・・・・」 
			 俺は部長のデスクの前にあるソファを薦められて、ゆっくりと腰をかけた。課長室のソファに比べ、さすが上等な材質だな・・・・これ。 
			 睡眠不足の身もあって、この心地よさは正直、辛い。 
			「ところで今日、君を呼んだのはなぁ・・・・」 
			「はい」 
			「君の課に配属された新入社員が退社して、かなり待たせてしまったが、その補充要員がようやく送られてきてね・・・・」 
			 俺はようやくその時点で、今回の話が悪いものでないことに気がつく。 
			「君のところに配属させようと思うのだが・・・・」 
			「ありがとうございます。事務長も喜ぶと思います」 
			 俺は笑顔で受け答える。 
			 新入社員を即戦力として見なしていなかったのは事実であり、何処の職場においても、それは常識ではあろう。だが、即戦力としてはともかく、未来への貴重な人材であったことは疑いなく、退社していった後に俺も柴田くんも落胆するような思いは禁じえないでいた。 
			 
			 だが、本部長の次の言葉によって、外面はともかく内心は凍りついてしまった。 
			「それでね、君のところの学生アルバイト。えー何て言ったかな?」 
			「琴乃くんですか?」 
			「そうそう、琴乃くんだ・・・・その琴乃くんを・・・・」 
			 ま、まさか・・・・代わりに彼女を退社させろ、とか言い出すのではないだろうなぁ!? 
			 思わず握りしめてしまった拳をテーブルの下に隠す。 
			 勝手な思い込みではあったが、俺は憤慨を禁じえないでいた。 
			 
			 ・・・・だが。 
			 
			「課長付き補佐、ということで・・・・もう手配済みだから。よろしく頼むよ」 
			 ・・・・。 
			「はぁ?」 
			 俺は即座に本部長の言葉を理解できず、思わず呆然としていた。 
			 
			 
			 俺が職場に戻るころには既に、琴乃くんのデスクは俺の課長室に運びこまれた後のことであった。 
			 そして職場の出入り口では、事務長の柴田くんと、まだ出社時間(三時)までには、余裕があるはずの琴乃が立っている。 
			「それじゃ琴乃ちゃん。出社してきたら、これからは課長室でタイムカードの打刻をしてね」 
			「あ、はい・・・・わ、解かりました・・・・」 
			「それに三時までは、極力、二人の邪魔はしないから、ね・・・・」 
			「・・・・」 
			 かぁ〜と赤面しつつ、琴乃は黙って課長室に入っていった。 
			「し、柴田くん・・・・これは?」 
			「課長、良かったですね。あれは暗黙の了解ですよぉ、あれ」 
			 俺は事態の変化にまだ飲み込めず、唖然としたままであった。 
			「本部長からの伝達ですから、誰にも怪しまれませんし・・・・」 
			「うっ・・・・」 
			 確かにこれが本部長からの指示とあれば、誰も変に勘ぐる人物は皆無であろう。少なくとも俺や琴乃、柴田くんは上からの指示に従った側の人間である。 
			 また俺の主な仕事の多忙期が、彼女の勤務時間と重なっていることも、他を納得させる材料になったのだろう。 
			「外回りの社員が帰社してくるまでの時間に限られてしまいますけど、その代わり、琴乃ちゃんには夏休みの間だけ、午前中から出勤して貰えることになりましたし・・・・私もできる限り、二人のフォローはしますから、琴乃ちゃんと頑張ってくださいね!」 
			「・・・・」 
			「ここまでお膳立てして上げたのですから、今度は私と食事に付き合って貰えますよね?」 
			「え、あ、それは勿論・・・・」 
			 つまり、支倉本部長を動かしたのは、やはり柴田くんだということだ。 
			「どうやって、そんな・・・・」 
			「浮気が奥さんにばれて、私との関係を清算したい・・・・一方的な申し出でしたので、その代償に今回の人事をお願いしました」 
			 さすがに内容が内容なだけに柴田くんの声調は低く、近くにいた俺でさえ聞き取るのが難しいぐらいであったが、彼女は本部長との関係を清算する、その代わりに、今回の課長付き補佐という役割を琴乃に与えたのだという。 
			「そういうわけで、課長。愛しの琴乃ちゃんが課長室でお待ちですよ」 
			 
			 
			 
			 俺は課長室に足を運ぶと、今朝、見送りを受けた美少女がその場に立っている。 
			「か、課長・・・・今日から、その・・・・よろしくお願いします」 
			「あ、うん。そ、そうだね・・・・よろしく」 
			 俺自身もまだ状況に慣れていないこともあって、歯切れが悪い。 
			「それから、し、柴田さんに・・・・言われたのです・・・・けど」 
			「う、うん」 
			「誰も・・・・邪魔、しない、って・・・・」 
			 真っ赤に赤面して俯いたまま、琴乃は言葉を続ける。 
			 催眠術によって、俺とのSEXが前提となっている彼女にとっては、今回の異動は願ったり、叶ったりといったところだろう。 
			 俺自身も琴乃の姿を眺められていられる時間が増えるのだから、基本的には歓迎したい展開ではある。 
			「・・・・三時まで、課長の・・・・お相手・・・・時間、いいって」 
			「・・・・」 
			 俺の沈黙を了承と受け取ったのか、それとも、実際に行動して見せないと状況が変化しないと思ったのだろうか。 
			 すると琴乃は、ゆっくりと白のフリルスカートの中に手を忍ばせ、小さな薄布を引き摺り下ろしていく。周囲の壁はまだ全透視の状態である。俺は慌てて、デスクのリモコンを操作し、完全な密室を作り上げた。 
			 続いて新品の光学用メモリースティックを差し込み、メモリードライブの電源を入れると、パスワードを入力して撮影モードに展開する。 
			「だ、だから・・・・SEXの、練習を・・・・それまで・・・・いいですか?」 
			「こ、琴乃くん・・・・」 
			 恐らくは今ごろ、柴田くんは透視不可となった課長室を見て、微笑していることだろう。 
			 だが、正直、これで手を出すな、と言われたら、それはまさに拷問でしかない。 
			 俺は琴乃の華奢な身体を抱き寄せる。 
			 もはや今朝、田中に抱いた罪悪感など吹き飛んでいた。 
			 琴乃の身体をゆっくりと、ソファに押し倒していく。琴乃もその俺の流れに逆らわず、俺の首筋に身体を預けると、自らの唇で俺の口を塞いでいった。 
			 
			 自宅でのキスとは異なり、勤務時間中の職場(一応、公認?)で行われるキスともあって背徳感は否めない。が、この異様な状況にこそ興奮している、もう一人の自分が確かに存在していた。 
			
  
			
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