第十三話【 告白 】


 それはその日の夕刻のことだった。
 俺は課を預かる立場として、既に帰社してきた社員との打ち合わせが思いの外に長引き、尚も会議室での職務に追われていた。事務長である柴田くんらもそれに同席しており、会議室にいるその誰もが課長室での出来事に気付くことはなかった。
 それも当然のことではあっただろう。
 その恩恵があったからこそ、俺と琴乃は昨日に至るまで勤務時間にも関わらず、他の事務員たちが精勤している光景を背景にして、濃密な二人だけの時間を・・・・夥しい限りのSEXを繰り広げていたのである。
 ただそのSEXがレイプに、田中と俺が入れ替わっていた。ただそれだけのことである。

 もはや琴乃にとって、最悪な状況であっただろう。
 ・・・・もっとも、課長室の扉が完全に閉ざされていれば、の話ではあったが・・・・
 そう、これが完全な密室であったのなら、年長であり、また男でもある田中には腕力で敵うはずもなかった。琴乃がどんなに抵抗を試みたとしても、レイプされる運命からは逃れることはできなかっただろう。またその無理な性交の結果に、その身体に宿した生命を流してしまう、その危険性さえもあった。
 それだけに田中は抵抗を・・・・悲鳴を上げられるよりも早く、課長室の扉を完全に閉めておくべきだったのである。そうすれば密閉された部屋に完全防音が成立し、職場の誰もが琴乃の窮地に気付くことはなかったのだから。

「課長不在の部屋で、何をやっているんだぁ、ゴォラァ!!」
《 ドガァン!! 》
 帰社してきたばかりの永沢が課長室の扉を蹴破り、強引なまでに入室を果たしてきた。大破した扉は『ギィ〜〜』と情けない悲鳴を上げて、少し斜めに傾いて歪む。もはや付け替えない限り、扉の開閉は不可能であろう。
「田中ぁ!! お前、何やってんだぁ!」
「な、永沢さん!!」
 しかし、永沢の強引な登場は、ある意味においても田中には効果的だった。先ほどまでの怒気が信じられないほどに氷解しており、普段の二人の力関係が窺える。
「こ、これは・・・・」
 両手を上げて後退りしながら、懸命に舌を動かそうとする。
 だが、もはや弁明など無意味なものでしかなかっただろう。
 無残にも裂かれた制服に泣き顔の琴乃は、震えている身体を小さくし、襲いかかろうとしていた田中の手には、ただの布きれと化した、彼女の胸から剥ぎ取った水色の布地が握られているのだから。
 田中が琴乃に暴行を働こうとしていたのが、誰の目にも明白であった。
「そ、その・・・・」
 途端にその場を逃げ出そうとした田中ではあったが、ことに俊敏性においては課随一の永沢の勝てようはずがなく、瞬く間に取り押さえられてしまう結果でしかなかった。
「一体、なにごとだぁ!?」
「な、永沢さん!?」
 扉を蹴破られた轟音もあって、俺たちはようやく現場に駆けつけることができた。
「課長、田中の奴が・・・・」
 永沢に説明をされるまでもなかった。この現場の状況からでも、ここで何が起こったのか、解からない大人は皆無であっただろう。まして田中と琴乃の関係は、社内では俺と柴田くんだけにしか知られてなく、またそれも破局寸前であった事実においても同様である。
 俺はとりあえず、外出用の上着を琴乃にかける。このまま無残な制服とワイシャツで身を覆う彼女が痛々しいし、何より他の連中に露出を許してやるのも癪ではあった。

 当事者の二人と永沢、そして柴田くんだけを残して、他の者を退出させた。その後で俺は永沢に田中を拘束させてゆく。
「とりあえず、琴乃ちゃんを落ち着かせたいので、応接室をお借りしても宜しいですか?」
 確かにこんな現場や人気の多い休憩室などよりも、個室の応接室のほうが落ち着くのかもしれない。また琴乃のことは同性である柴田くんに任せておいたほうがいいかもしれない。
「そうだな、お願いするよ」
 この際だ。社内規則なんかに固執する必要もないだろう。
「はい、じゃ、琴乃ちゃん・・・・」
「・・・・」
 柴田くんから差し伸べられた手を、複雑な表情で受け取る。つい先ほどまで琴乃自身が嫉妬していた対象の手だったのだ。また柴田くんもそれを理解している上で、彼女を気遣ってくれていた。
 とりあえず、琴乃のことは柴田くんに任せておけば大丈夫だろう。
 問題は・・・・
 二人が退出していった後、俺の表情の変化に伴い、課長室での空気が一変していく。
「田中・・・・解かっているのかぁ!?」
 俺からの怒気を受けて、拘束された田中の体が『ビクッ』と震えた。
「お前がやろうとしたことは、例え相手が自分の彼女であったとしても、これは未成年者への暴行未遂・・・・罪は避けられないぞ!」
「か、課長・・・・で、でも・・・・俺にだって言い分が・・・・」
「ふざけたことを抜かしているんじゃねぇ!!」
 永沢が田中を締め上げていく。が、俺もそれを止める気にはなれなかった。正直、胸に秘めた私事を差し引いても、今の田中に同情してやるだけの余地はない。
 だが、さすがにこのままでは永沢が殺人致傷罪に問われかねない。
 俺が片手で促すと、永沢はようやく田中の身柄を解放した。
「ゴホッ、ゲホッ・・・・」
「言い訳なら聞く耳を持たんが・・・・とりあえず言ってみろ」
「・・・・か、課長・・・・」

 田中は懸命に俺への弁明を試みたが、おおよそのことの顛末は想像をしていた範疇を出ることはなかった。唯一、不完全だったとはいえ、二人が身体を一つに繋げている新事実だけは、容易に看過することができなかったが。

 永沢に拘束された田中を退出させた後、俺は事態の急転さに頭を悩まさせずにはいられなかった。無論、俺なんかの苦悩よりも、琴乃の衝撃のほうが深刻ではあっただろうが・・・・
 そこへ琴乃を応接室で休ませてきた柴田くんが課長室に戻ってくる。
「とりあえず、琴乃ちゃんも落ち着いてきたみたいですから、後で課長が送ってあげてください」
「・・・・そうだな」
「それより、琴乃ちゃんのことを考えても、警察への追報は避けておくべきでしょうね・・・・」
「それは本人の意思にもよるが・・・・社内のことともあって、さすがに上には報告せねばなるまい」
 琴乃の役職は俺の『課長付き補佐』であり、また田中だけに限っても、うちの課の社員である。
「あの本部長に報告しなきゃならんのか・・・・」
 講学社ビルのトップである、その支倉本部長との性格の兼ね合いもあり、気分は非常に重たいものがあった。まぁ、始末書程度のことは覚悟してやくべきであろう。
「それは私のほうで報告しておきますから・・・・」
「えっ、だ、だが・・・・それは・・・・」
 有り難い申し出ではあったが、柴田くんはつい先日まで、その本部長の愛人であった関係である。さすがにその役目を彼女に押し付けるのは、酷というものであろう。
「別に喧嘩別れした、というわけじゃありませんよ」
 確かに意に望まぬ関係を強要されたからといって、最終的には彼女自身もその関係を受け入れたのである。またその関係の終焉においても、話し合いだけで穏便に解決をしていた。特に彼女自身はその一件において、遺恨は抱いているという様子でもなかった。
「課長のお気遣いには感謝しますが、私のことよりも、今は琴乃ちゃんを気遣ってあげてください。特に今回は、彼女が傷ついていることでしょうからね」
「解かった・・・・そうさせて貰うよ」
 俺は頷きつつも、また彼女に大きな借りを作ってしまったような気がしてならなかったが・・・・

 俺は退社準備もそこそこに、早引けする手順を柴田くんに委ねて、琴乃を車の助手席に座らせた。
「今日は学校の寮まで、ちゃんと送るから・・・・」
「・・・・課長の・・・・マンションのほうがいい・・・・」
「そっちのほうが落ち着くか?」
 答えは聞くまでもなかった。
 まぁ、今回はしっかりとした建前もある。俺は琴乃の女子寮に電話し、おおよその事情だけを説明した上で、外泊の許可を取り付けた。
 携帯を閉じて、車をゆっくりと発進させる。
「・・・・ごめんなさい」
「ん、琴乃くんは被害者だろう。謝る必要なんて・・・・」
 田中は俺の部下であり、部下の不祥事は上司の責任でもある。それこそ俺は、部下の監督不行き届きで彼女に断罪されても当然の身であっただろう。
「私・・・・課長に・・・・嘘、言ってた・・・・」
「田中とデートしたときのことか・・・・」
 コクリと彼女は頷いた。
 確かに琴乃が田中に抱かれたことに対して、不快を禁じえなかったのは確かではあろう。だが、彼女が誰と寝ようと、それは彼女自身の自由であり、それこそ俺なんかが口を挟めるものではない。
「もう・・・・誰ともしない・・・・」
 だが、それでも彼女は俺に謝罪する立場を貫いた。
「課長以外の人とは、絶対にしないから・・・・」
「いや、別に琴乃くんが誰とSEXをしたとしても、それは琴乃くんの自由なんだから・・・・」
「ううん。私は、その私の意思で、もうこれからは課長だけに独占されたいのぉ!」
「・・・・」
 思わぬ彼女の大胆な宣言に、俺のほうが赤面する。
 恋は盲目、とはよく言ったものだ。
「私・・・・課長のことが好き・・・・その自分の気持ちに気付いたら、もう私、どんどん課長のことが・・・・」
「・・・・」
 まさかこんな中年にもなって、これほどの美少女から告白をされる日がくるとは思いにもよらなかった。
「だから、私のこと・・・・嫌いにならないでよォ!」
 涙を溜めて哀願をする。
 正直、ここまで彼女に想いを募らせてしまっていたとあっては、己の鈍感さと不器用さに自己嫌悪をする思いであった。

「琴乃くんを嫌いになることなんて、絶対に有り得ないよ」
 俺は確信をもって彼女に断言をした。
 例えこの先、彼女が何をしようと、何をされようとも俺のこの気持ちだけは決して変わらないことであろう。いつ彼女が心変わりして、違う男性と結ばれることになったとしても、俺はそれを祝福しつつも彼女を想い続けることだろう。
「琴乃くんを初めて見たとき・・・・君の面接をしたときから、俺は琴乃くんに惚れていた・・・・あ、勿論、それは恋愛感情とかじゃなくて、ただ眺めているだけで、癒された気分になれた」
 それがまだ春先のことである。
 あの頃はそれだけで幸せな気分に浸れた。
 年甲斐もなく、ただそれだけで・・・・
「そしていつか、琴乃くんと親しく・・・・その、抱けたら・・・・いいな、と思ってたよ・・・・」
 そのときに俺は天野と再会を果たし、そして・・・・
 だからこそ、俺は天野の催眠術の話に乗ったのだろう。
 俺にとっては良くも、彼女にとっては悪くも。
 今のこのような状態を・・・・田中の不祥事も含めて、誰かが責任を負わなければならない、とするならば、それは田中でも琴乃や天野でもなく、俺なのであろう。
「俺は絶対に琴乃くんを嫌いにはなれない。ならない、じゃなくて、なれないんだよ」
「嘘・・・・嘘よ」
「本当だよ」
「本当に、本当!?」
 昔に見たアニメかマンガのような会話だな、と思いつつ、俺は頷く。
「だ、だったら・・・・その、信じられるぐらいに・・・・今、ここで私にキスをして・・・・んっ・・・・」
 俺は人通りの多い駅前の路上にも関わらずに車を停車させると、ゆっくりと彼女の期待に唇で応じていった。無論、これを恋愛の成就とは思わない。少なくとも、催眠術によって彼女の身体を穢してしまった俺には、琴乃と愛するその資格がない。
 だが、そんな俺でも今の彼女が敢えて望んでくれる、というのなら、俺はその彼女の望みに応えなければならない。
 しばらくして俺は再び、車の運転を再開する。
 助手席の琴乃も何か思うところがあるのだろうか、無言のままであった。


「か、課長・・・・」
「ん?」
 マンションの駐車場に着いたとき、彼女は決意したように俺を見据えてきた。
「私を課長の・・・・彼女にして、ください・・・・」
「本当に、こんなおじさんでいいのかい?」
 俺は既に四十二にもなり、彼女は今年の冬でやっと十六歳になる。年齢差にして二十六年もの隔たりのある溝は、決して浅いものではないだろう。
「年齢なんて全然気にしない。私は課長がいいのぉ・・・・」
 無理を言っているような気がした。
 いや、それとも年齢差に拘りを抱いているのは、俺のほうか?
 だが、それだけじゃない。容姿だって明らかに不釣り合いだろう。
 だからこそ俺は、こんな美少女からの有り難い申し出には、喜んで飛びつくべきなのかもしれない。
「平凡な男だから、きっとつまらない・・・・退屈な思いをさせるぞ?」
「そんなことはないし、本当にそうでも全然平気!」
「Hなこと、一杯するぞ?」
「うん。課長となら、いつでも歓迎だよぉ・・・・」
「本当に俺は・・・・んっ・・・・」
 それ以上の反論を封じるように不意に唇を奪われて、年齢の半分にも満たない少女とのキスに酔いしれていく。
 今度のキスは、特に長くなりそうだな、と思わずにはいられなかった。



 かくして、俺と琴乃はようやく、お互いの想いを添い遂げあった。
 その日の晩、一つのベッドでお互いを激しく愛し合ったことは、もはや語るまでもないだろう。
 十五歳という若い彼女の瑞々しい身体が壊れてしまうのではないか、と思えるほどに強く抱き締めた。結合させた連結部は幾度もなく彼女の膣内へと入り混じって抉っていく。
 たった一晩で思いつく限りの体位を試し、彼女の名器に舌鼓を打ちながら、その全てを上からは口内、下からは膣内から、彼女の体内に放出させていった。
「か、課長・・・・」
 騎乗位によって、跨らせた琴乃を突き上げながら、催眠術という期間限定ではなく、尚も暫くの間は彼女の身体を自由に抱ける・・・・齢四十一年にして初めて、俺は宝物を得た実感をせずにはいられない。
 十五歳には標準の・・・・まだまだ発展途上であろう、脹らみのある胸が俺の腰の動きに合わせて、縦揺れしていく。その揺れる脹らみを掴み、先端にある突起物を口に含ませ、舐め上げ、懸命に吸い込んでいった。

 そんな最中、柴田くんから田中の処分を知らせるメールが届いた。
 さすがに会社も内部から(未遂とはいえ)性犯罪者を表沙汰にはしたくないらしく、長期出張という名目での謹慎処分が下される。
 まぁ、四、五年は戻っては来られないだろう、というのが支倉本部長の見解であるらしい。その推測には、柴田くんも俺も同感だった。
 一方の俺には、本部長から監督不行き届きの件を咎められるようなことはなかった。もしかすると柴田くんがまた、色々と便宜を図ってくれたのかもしれない。
「メールぅ、また柴田さんからですかぁ〜?」
「うっ・・・・」
 ・・・・そのメールの送り主に、琴乃が少しだけ拗ねて見せたが。
 まぁ、柴田くんとのことは、多少、大目に見て貰うしかないだろう。

 こうして田中の今回の一件は、一見、落着したかのように思えた。
 だが、この問題は次の更なる大きな波乱を呼ぶ、その前触れでしかなかったのだ。

 俺も、琴乃も・・・・現時点では、予想さえできなかった事態が。


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