行間話【 逃亡 】(視点・田中均)
『今日の正午。都内にある教会において、新郎新婦が刺される、という事件が・・・・』
携帯用ポケットテレビにイヤフォンを差し込み、その今日一日を騒がせることであろう速報ニュースが流れると、俺は自然と笑みを浮かべた。
『容疑者の名前は田中均(20)で、現場から逃走し、尚も・・・・』
そう簡単に捕まるか、ってのぉ!
この日のためだけに、どれだけの時間を計画に割いてきたと思っていやがる。
準備は万全を期して決行され、今はこのネカフェで隠れているのに尽きる。無論、一カ所に留まるのは危険だ。故に日が落ちる頃にはまた別の隠れ家に向かうことになるが・・・・
『被害者は新郎の内藤仁(42)、新婦の内藤初音(16)の二人で、二人は病院に搬送された今も、意識不明の重体、との・・・・』
(まだ死んでいない、とは、しぶてぇ奴らだ・・・・)
それとも搬送された先の病院、医師の力によるものかもしれない。
時代の経過と共に医学は常に進歩を続けており、今日においては、外傷で致死するケースは稀となっている。無論、もう死んだほうがマシというレベル、完全に手遅れというケースでは適用外ではあるが・・・・
その意味では、あの二人は殺しきれなかった可能性が極めて高い、と言えるだろう。
・・・・くっくっくっ。
まぁ、いいか。
今でも課長(元か・・・・)を刺したときのあの驚いた表情、そしてあの手応えが忘れられない。さすがに男の体なだけはあって、固く、それだけにズシリとした重みがあった。
初音もそうだ・・・・課長に比べ、柔らかい肉だったなぁ。こちらはナイフでぶっ刺したら、もう力なんていらねぇ。そりゃ、もうあっさりだぁ。
人様の女を寝取った男の罪。
俺を誑かし、罠に貶めた女の罪。
「そうさ、自業自得の報いってやつさぁ!」
どちらにも相応の手応えがあり、俺は愉悦な笑みを張り付けたまま、携帯用ポケットテレビをしまい込んだ。夜まではまだ長い。お回りの見回りを警戒して、熟睡こそできない身ではあったが、仮眠程度ぐらいの時間は稼げよう。
後は親父たちと事前に協議しておいた場所に向かい・・・・
未成年者への暴行強姦未遂・・・・
それが俺に与えられた罪状であった。無論、講学社でおいても世間体の目を気にして、警察には告発はしなかった。肝心の被害者である初音に至っても、告訴する気があろうはずがない・・・・
だが、さすがに社内での出来事、ということもあって、俺は転勤とは名ばかりの、東北にある山奥の支社で軟禁された。
「まぁ、すぐに親父が手を回してくれるさ!」
これまでにも強姦容疑で問題を起こしたことは数えきれないが、そのつど親父が事件そのものを揉み消し、俺に罪過が及ぶことはなかった。
「・・・・」
だが、今回ばかりは当てが外れた、としか言いようがなかった。
その被害者である琴乃初音が・・・・神崎家(正確には、神崎和馬の後妻である、琴乃弥生)の息女であった、ということが講学社に露見すると、俺に対する処罰は更に水増しにされてしまった結果、俺への扱いは不当なまでに悪化させられてしまう。
しかも本社に神崎和馬自身が乗り出してきてしまったこともあり、如何に親父が・・・・田中家が名門の名家とはいえ、神崎家では相手が悪過ぎる。もはや事件そのものを無効にすることなど不可能であった。
「くそっ!!」
これまでに何度、この同じコンクリート製の壁を叩いたことであろうか。
「・・・・」
確かに俺にも落ち度はあった。初音から急に別れを告げられて、勤務中の社内にも関わらず、逆上してしまった結果である。俺自身が未熟であったと認めざるをえないだろう。
だが、ここまで一方的に貶められるのは、心外の限りであった。
そうだ。これはおかしいだろう!?
誰か、俺の言い分を聞いてくれ!!
初音はそれまで、俺と交際をしていた彼女であり、仮にも家同士では内々に婚約をする話まで持ち上がったほどの間柄なのである。
それも俺の意思に反して・・・・
『私以外に、本当は好きな人が居るんでしょう?』
勤務先の課長室で、初音が別れを切り出したときに告げられた言葉であった。それは事実であり、俺もそれを認めてもいる。実際、俺には初音以外に交際していた女性がいた。それも琴乃家以上の名家である令嬢であり、相思相愛の関係であったのだ!
だが、神崎和馬の息女、という付録のほうが、俺の両親には魅力的だったのだろう。その初音が俺に好意を抱いている、と知るや、琴乃家に赴いて、交際を勧めてしまったのである。
まぁ、それはいいさ。
初音との交際が開始しつつも、俺は俺で、その令嬢との関係を継続させていたのだから。(まぁ、その結果。会社に遅刻したりはしたが)それでも初音とは何回かデートを重ねて、ほどほど上手く立ち回っていた、とは思う。
「・・・・」
問題なのは、俺が初音の(正確には初音の身体の)ためだけに、その令嬢との関係を清算させた、その直後に、一方的な別れのメールを送りつけてきたからであろう。
まるで、そのタイミングを計っていたように、でだ。しかも携帯で連絡をしようにも、初音は着拒とくる!
さすがに俺も『カチーン』ときた。
俺の意思に関係なく、初音が好意を抱いているから、という題目で交際を押し付けられ、その初音のためにこれまでの過去を清算させた後に、手のひらを返すように拒絶されたのである。
こんなふざけたような話があってたまるかぁ!!
暴行強姦未遂事件の原因は俺にあると認めてもいいが、その状況を作ってしまった初音にも、何かしらの処罰があっておかしくはないのだ。少なくとも、俺への処罰は軽減されるべきだろうに。
その俺がなんで・・・・
名門田中家出身、その嫡男でもある・・・・この俺がぁ!!
このような何もないような臭いだけの場所で、こんな過酷な境遇(三食ベット付)を受け入れなければならないのだ。
何が神崎家の直系だ!!
なぁにが、神崎和馬だぁ!!
「ふざけるんじゃねぇぇぇ!!!」
ガキの頃に一度だけ会ったことがあるが、ただの女好きの見境がない、それだけの男じゃないか。何を恐れる必要がある。確かに神崎グループは全ての企業を牛耳るだけのことはあって、その中心たる神崎家には、権力があるのだろうが・・・・それほどまでに皆が恐れるほど、神崎和馬は化け物ではないはずだった。
は、初音が・・・・こ、婚約?
その軟禁状態が続く中で、俺はその噂を耳にした。
「そんなバカなぁ・・・・」
彼女と交際していた俺が、こんな場所に居る状態なのに?
ともすれば、当然に相手は自分じゃない、誰かということになる。
「ふ、ふざけ過ぎだろう、それは・・・・」
あれは俺の女だぞ。
ふつふつと怒りが込み上げてくるようであった。
(そうだ。あれは俺だけの女だぁ!)
一度だけであったが、重ねたこともある身体・・・・その心地良さはそれまでの女たちにはない、特別なものがあった。女の身体なんて、挿入したら膣内に出すだけの器、という俺の認識を改めさせた存在なのであった。
それだけに、俺はあれを何としても取り戻さなければならない。
そのためだけに、俺はそれまでに関係してきた女、相思相愛だった令嬢とも別れてまで、初音の身体だけを選んだのである。ならば初音もその身体でもって、俺の期待には全身全霊で応えるべきではあろう。
理不尽な怒りが俺の体を駆け巡り、地団駄を踏むような思いで、狭い室内を暴れまわった。
その噂がどうやら真実である、と知らされると、もはや居ても立ってもいられなくなっていた。こんなところで無駄に時を費やすつもりはない。ここに軟禁されてから、既に二カ月が経過していたころ。俺は常に脱出の機会を窺っていた。
だが、ある日を境にして、俺への戒めが突然に解かれる。
監視役の(と、言っても、講学社の地方社員なのだが)一人だった男に理由を尋ねれば、暴行を受けた被害者・・・・つまり、初音が俺への罪過を軽減するよう、白河社長に直訴したのだという。
「二カ月も過ぎて・・・・」
何を今更、と俺は毒づいた。
そもそも初音が拒絶しなければ・・・・暴行を受ける状況を作ってしまった非を認めてさえいれば、こんなことにはならなかったのだ。
俺は即座に実家へ連絡を入れ、俺の忠実なる側近であった中川を迎えに寄越した。
「そうか。それじゃ、さすがに親父と御袋も、事を構える覚悟は決めたみたいだな・・・・」
中川から実家の現状を知らされ、親父たちもその理不尽なまでの仕打ちに、憤りを感じているようであった。
初音への暴行強姦未遂事件には、もう一つの側面がある。そう、初音と俺の交際は、琴乃家の認めるところでもあったのだ。
(チッ、この場合に限っては・・・・交際だけではなく、婚約を成立させて、あのときにでも処女を奪っておくべきだったな・・・・)
その初音が俺を拒絶して、事件へと発展していったわけだが、当然、琴乃家と田中家の関係はもはや険悪という状態であり、そこに俺への処罰悪化という劇薬を伴って、関係はもはや修復不可能とまでなっていた。
無論、敵対するともなれば、相手は琴乃家だけではすむまい。琴乃家は形式上、神崎家閥の一家に過ぎない。大元の神崎家は当然、大原家や篠原家ともいった名家が立ち向かってくることになろう。
つまり、神崎家閥と田中家閥による、これは戦争である。勿論、最大勢力である神崎家閥が相手とでは、分が悪いことは百も承知だった。それでも田中家には、田中家の名門としての意地がある。
「そうですね。現状勢力では・・・・七対三、ってところでしょうか」
中川の指摘する数字に納得する。しかもそれはあくまで、他の神崎グループの閥が参戦してこないことを前提にした数値である。
「他の家の動きは予測できるか?」
「恐らくは静観して、高みの見物を決め込むとは思いますが・・・・今のところは何とも・・・・」
「・・・・」
とはいえ、悲観するようなことではない。
また参戦してきた、としても、それは必ずしも田中家の不利になるとは限らないのだ。神崎家を敵に回し、田中家に加勢する可能性も少なからずあるだろう。
「いいよ。琴乃家それ自体は潰しちゃってもさ」
特に短期決戦は親父の本領であり、琴乃家は名家といっても、長い歴史を誇る名門の田中家には太刀打ちできようはずがない。神崎家が乗り出してくるその前に、琴乃家だけを潰すことは決して不可能ではなかった。
「そうだな、初音を捕らえたら・・・・」
俺は舌で唇を舐める。
「帰る家を失い、絶望したところをたっぷり・・・・犯してやる」
特に俺は無理強いが大好きだった。これまでに抱いてきた女たちも、大抵は強引に関係を迫り、そして大金を握らせてやって黙らせてきた。そりゃ、中には金に靡かない女も存在したが、そういう堅物な女には睡眠薬を盛り、仲間内で何日もかけて輪姦する。脅迫用の三次元撮影で撮影し続け、その上で親父の権力に屈服させれば、泣き寝入りするのが関の山であった。
孕んだ女もいれば、出産した女もいる。そういえば、俺との未来を確約して貰おうと思った、バカな女も存在したなぁ・・・・
大抵の女なんてものは、そんなものだ。
SEXが下手だと酷評する女もいたが、そんな浅ましい女を感じさせてやらなければならない義理はない。要は俺が挿入して、膣内に出してやるだけの、その器でしかない。受け皿が感じる必要はないのだ。
そしてそれは何も、初音だけが例外ではない。
「ああ、そうだ」
俺は嘲笑した後、名案のように思い付いた。
「この俺から初音を奪った男・・・・その新しい許嫁の目の前でレイプし、初音を孕ませてやるのも一興かもしれないな・・・・」
一方的に好意を押し付けておきながら、いざとなったら肩透かしを喰らわせ、俺に冤罪という濡れ衣を着させた初音には、相応しい報いではないか。
「くくくっ・・・・」
「均さま。その婚約をされた相手、というのが・・・・」
「そ、そんな・・・・」
その中川から知らされる事実には、さすがの俺も絶句させるのに十分な破壊力が秘められていた。
「初音が婚約した、あ、相手って・・・・」
内藤課長(この当時、既に専務に昇格していることを知らされてはいたが・・・・)は常に温厚なタイプの性格で、まぁ、その分、便利な人物だと侮っていた部分がある。少なくとも、他人の女を寝取ったりすることができる、表裏のある人物には思えていなかったのは事実であった。
「だが、初音とでは年齢差が・・・・」
初音はまだ十五歳であり、課長は四十前半・・・・しかも、年齢差だけではない。課長は名家出身でもなければ、講学社の一課長に過ぎない存在である。
「ですが、既に両者の婚約は決まっており、その事実は琴乃家でも否定されていません」
「こ、こんなことが・・・・」
俺は迂闊に、この告げられた内容を信じる気にはなれなかった。
それはそうだろう。仮にも琴乃家は名家であり、あの神崎和馬、と(何故か)恐れられる人物の娘なのでもある。それが無名で、四十前半の課長止まりの男と天下の令嬢が婚約・・・・それは常識外れもいいところではあろう。
その真相を・・・・僅かでも正確な真意を求めて、俺はかつての職場である講学社ビルの潜入を目論んだ。課長と初音の接点は、この講学社ビルだけにしかない。幸い、講学社ビルの公休日はその課ごとに公休日が異なり、警備員の定期巡回の時間と、職場の鍵の置き場所さえ解かっていれば、侵入することそれ自体はそれほど困難なことではない。
だが・・・・
「くっ、なんだよ。みんなして・・・・」
その久しぶりともなる職場で、俺は毒づかずにはいられなかった。
まだ自分が左遷させられてから、三カ月と経過していないのに、既に俺のデスクは綺麗に片付けられており、もう二度と戻ってこないのだと決めつけられているか、のようであった。
それだけに今一度、俺の復讐心が刺激されていく。
今に見てろよぉ・・・・俺は名門の出身で、貴様らとは出世するスピードが異なるんだ。いつか貴様らを顎で使ってやるからなぁ!!!
ちょうどそのとき、警備員の見回りがやってきて、俺と中川は課長室に潜り込んだ。ついでに壁の電圧を操作し、片面透視化状態とさせる。
そもそも初音の職場はこの課長室内であり、この前までの役職が『課長付き補佐』であったことを思い出す。思わず心臓が《ドキン》と鼓動した。
(か、課長付き補佐・・・・?)
何と曖昧な役職名であろう。そして初音は、その課長と婚約・・・・
「な、何かあるはず、だ・・・・きっと、ここに・・・・」
直感だけにも関わらず、俺は確信していた。
だが、課長室では初音の私物が全く見受けられない。俺の知らぬことではあったが、既に彼女は講学社を退社しており、ここでは婚約したという課長との関係を示す証拠はない・・・・か、に思われた。
この課長室の全本位に展開されてあった、光学用メモリードライブの撮影機器に気付くまでは・・・・
俺は課長のデスクに座り、光学用メモリードライブの起動を促すが、そのために必要なパスワードを入力することができず、映像を展開させることはできなかった。
「ちっ、パスワードか」
「均さま。代わりましょう」
俺に代わって中川がパスワードの解除に乗り出す。
「この手のパスワードには、必ず、その特定に関連性があるはずです」
「だな・・・・」
俺は中川の意見に同意し、それぞれに関連しそうな言葉、用語を思いつく限りに絞り出した。だが、俺たちの推理力を駆使してでも、何と打ち込んでも、映像機器は起動する兆しさえ見せなかった。まぁ、当然か。そう簡単にパスワードが解除できるのであれば、パスワードはその存在意義を失ってしまうことになる。
「それでは、最終手段を行使しますか・・・・」
「どうする気だ?」
「この光学用メモリードライブの開発者の一人に、色々と問題を抱えた経歴のある人物がいますので、問い合わせてみますよ」
携帯を取り出した中川に、俺は頷いて了承した。
「ああ、私ですよ。そう、光学用メモリードライブの、そのパスワードの強制解除を・・・・ふむふむ。解かりました」
この手の電子機器には、ユーザーが設定したパスワードのそれ以外に、開発者だけが知る強制解除の手順があり、俺たちはその指示された手順に従って、ようやくドライブの起動に成功した。
だが、既に光学用メモリードライブ内の記憶容量内は白紙。
元々、何も撮影されていなかったのか、もしくは既に映像記録を削除された後であったのか・・・・
「まぁ、要は試しですね」
「ああ・・・・」
中川はメモリードライブにある復元システムを作動させて、メモリードライブ内にある映像記憶の復元を試みた。その際にもまた別のパスワードが必要となったが、先の開発者専用強制解除によって、復元システムは起動が開始とされた。
「ふぅ・・・・」
その結果、復元率は47%に留まってしまう。
「時間にして、およそ五、六時間分程度ですね」
「ああ・・・・」
俺は頷いた。
それでも一度は削除されていたこと、そして正規のパスワードで解除できなかったことを思えば、致し方のないことではあろう。
メモリードライブのリモコンを操作して、映像を展開させていった。
『こ、琴乃くん!?』
『不意打ちです』
既に一度は削除されたことと、正規のパスワードで復元できなかったこともあって、粗過ぎる映像とノイズ交じりの音声が開始された。音声は無論、内藤課長と初音であることに間違いはない。
だが・・・・
い、今・・・・初音は、何をした!?
復元した画像がブレたこともあり、鮮明に再現されることはなかったが・・・・俺の目には、初音から課長の唇を奪ったようにしか・・・・
『課長・・・・』
その課長のデスクの前で俯く初音。
『その・・・・不安なんです・・・・』
『すまない、琴乃くん。今はさすがに、そんな気分じゃ・・・・』
『じぁあ、そんな気分にさせて見せます!』
『こ、こら・・・・』
「は、初音・・・・そ、そんな・・・・」
初音が課長のデスクに潜り込み・・・・そこで何をしているのか、回り込んでまで見る必要もなかった。
『ん、くっ・・・・』
『くっ・・・・こ、琴乃くん・・・・』
俺は頭を振った。
こ、こんな現実・・・・とてもではないが、信じられなかった。
だが、光学用メモリードライブによる三次元映像は、嘘偽りのない出来事だけを再現させる映像機器である。少なくとも今の技術力では、映像内容に手を加えることは不可能であった。
つ、つまり・・・・
『ゴックン・・・・』
・・・・ごくん、って・・・・
嘘、だろう・・・・?
あ、あの初音が・・・・か!?
『はぁ・・・・はぁ・・・・』
『本当に大丈夫かい?』
『か、課長・・・・だから、ご褒美ください』
その俺の目の前で、初音は課長に抱かれていく。
課長の・・・・俺のよりも大きいそれが、この三次元映像にも関わらず、俺の視界から完全に捉えられなくなっていく。初音の・・・・その膣内へ、と挿入されていったのだ。
課長は、ゴムも付けずに・・・・初音はそれを知っていて・・・・
そ、そんな・・・・初音!!
激しい性交が始まり、初音は課長を受け入れるそのたびに紅潮する頬で口から喘ぎを漏らしていた。SEXをすることに慣れた自然な反応であることは、俺にも理解せずにはいられなかった。
つまり・・・・課長と初音が婚約した事実は本当であり、二人の間はそこまで、この二カ月の間に進展してしまっていた、ということなのだろう。
俺が軟禁されていた、この二カ月の間に・・・・
二人はその間、仲よく、よろしくやっていたのかぁぁ!!
しかも課長の動きが切羽詰ってきたと認識できた俺でさえ、繰り広げられていく映像に唖然とさせられずにはいられなかった。
ま、待て!!!?
課長は、内藤は・・・・こ、こいつは、ゴムを、していないんだぞぉ!!
は、初音ぇぇぇ!!!
「あ・・・・ああっ・・・・」
注ぎ込まれるたびに、俺は意味にもならない言葉を口にしていた。
これが映像と理解しつつ手を伸ばし、例え俺が今叫んでも、映像の中の二人に届くはずもなかった。だが、この映像はまぎれもなく、現実にあったことなのである。
『このメロディーは・・・・田中からか?』
突然、俺の名前が呼ばれ、思わず《ビクッ》と震えた。
『うん。ひーくんから・・・・』
お、俺?
俺が何故・・・・?
俺はずっと軟禁されていて・・・・
所持していた携帯も、取り押さえられたときに没収されていたはず。
『あ、課長・・・・その、続けていてください』
『い、いや・・・・だが・・・・』
『その、ん、構いませんから・・・・』
《初音?》
「!!」
さすがに映像の中での通話とあって、さすがに聞き取りにくくあったが、それは紛れもなく、俺の声そのものであった。
『んっ、う、うん・・・・』
《昨日は・・・・その・・・・ごめんな・・・・》
な、何気なく、その会話の出だしを俺は憶えていた。
《今・・・・課長、居る?》
だが、それは初音が俺に処女を捧げた・・・・はずの、その翌日のことだったはずだぞ!?
『んっ! うん・・・・だって、か、課長室・・・・だもん』
《今、帰社してきたから・・・・少し、話ができないかな?》
そんなさりげない会話の最中、初音・・・・お前は、その間にも課長とSEXをしていたのかぁ!!
『う、うん・・・・今、課長とね、大事な用が・・・・あ、あるから、も、もう少ししたらぁ・・・・』
初音は俺のデスクがあったほうを・・・・いや、既に帰社してきていたはずの、俺の目の前で語りかけている。
「・・・・」
俺との通話が途切れて、課長室の二人のSEXは激しさを増していく。まさにラストスパートであった。その初音のいう『もう少し、したら』とは、課長とのSEXの終焉までを意味し、『大事な用』とは、膣内に出して貰うことにあったのかぁああ!!!
「均さま・・・・」
中川は俺の心境を察して何も言えなかったようだが、俺にはその側近の心配する声すらも届いていなかった。
映像の中の初音の身体は、既にSEXによって開発されたものであることが明白であった。恐らく課長付き補佐、という役職を利用して出社すると同時に、課長にSEXを求めていたのだろう。
無論、その際も・・・・生挿入による、膣内出しによって。
その初音が課長付き補佐の役職は、高校の夏休み開始と同じ・・・・
つ、つまり・・・・初音・・・・
お前は俺を騙したのか?
俺に処女を捧げるって、あの誓いも・・・・嘘だったのか!?
俺は完全に打ちのめされていた。
初音が以前から俺を裏切り、まるで虫も殺せないようなしおらしい顔をして、俺を騙していたのだと思い知らされる思いだった。
「あ、あの二人は・・・・もっと以前から・・・・」
「・・・・」
俺の問いに中川は何も答えなかった。答えるまでもなかった質問であったし、俺の心理的な衝撃を察しての無言ではあっただろう。黙々と光学用メモリードライブの状態を元の状態に戻し、潜入した形跡を完全に払拭させていく。まさにプロの鏡のような存在ではあろう。
「ゆ、許せん・・・・絶対に!!」
「ですが、均さま。この二人の行為を咎めることはできません」
「なっ!!?」
こんな映像を・・・・こんな現実にあった映像を突きつけられて、大人しく黙っていられるかぁ!!
俺は激しい憤りを禁じえず、あくまで冷静な姿勢の中川に食って掛かった。
「もしも均さまと婚約が成立していたのなら、まだ貞操論理に基づいて、琴乃家を責める材料にはなりえたでしょう。ですが・・・・」
「うぐっ・・・・」
俺は中川の正論に反論することさえできなかった。
そう。俺と初音は婚約者ではなく、あくまでも結婚を前提とした交際という関係までに留まり、あくまでも俺の彼女であっただけに過ぎない。
いくら俺に貞操を誓った、といっても、それはあくまでも口約束でのことでしかない。法的には何の拘束力も発揮しないのだ。
だが・・・・
「あ、あいつらは・・・・俺を嵌めたんだぁ!!」
そうだ。そうに、決まっている。
「以前から二人は共謀して・・・・邪魔な俺を陥れたんだぞぉ!」
課長は俺の失態を庇うような素振りを見せておきながら、その陰では初音の身体を寝取り、『課長付き補佐』という役職と、この密室になる課長室を利用して、何度も何度も、初音の身体を穢したのに違いない。
初音に至っては、そのずっと以前から俺を裏切っていたのだろう。もしかすると中学時代から、もうバンバン回数をこなして、そのSEXをするたびに、男どもに生挿入を認めて、膣内出しを受け止めていたのに違いない。
妊娠と堕胎を繰り返し、繰り返し・・・・
だから琴乃家も、無名である内藤でも婚約を承認したのだろう。
『ひーくん・・・・』
幼馴染であるが故に、容易に初音が俺を呼ぶ光景を思い浮かべられた。あんな貧相な胸で、慎み深いような表情を装っている初音が。
「・・・・」
あ、あんな売女の腐れマンコなんかに惹かれようとした俺が、ただのバカじゃないかぁ・・・・
俺は初音を手に入れるために、それまでの過去を全て清算した。
初音以上に尽くしてくれた人や、俺の子供を妊娠してくれた者。そして何より相思相愛だった彼女を初音のために断念したのである。
それに対する俺への仕打ちが、これか・・・・
二人で共謀を画策し、俺に強姦未遂の罪をでっち上げる。警察にこそ通報はされなかったが、神崎和馬の娘である、たったそれだけのことで俺は不当なまでの厳罰を課せられたのである。
「クククッ・・・・」
笑うしかなかった。
俺の名誉と立場、プライドはもう粉々に砕け散らされていた。
俺は涙を流し、泣きながらも笑い続けた。
だが、このまま何もせずに、引き下がるわけにはいかない・・・・
俺の目には『復讐』という、激しい怒りが宿っていた。
俺と中川は一旦、実家である田中家に戻った。
久しく会えた両親との再会を喜ぶ一方で、いよいよ琴乃家に対する攻勢と、俺から初音を奪った内藤、そして俺を裏切り続けた初音への復讐の算段をする。
「琴乃家に攻勢を仕掛けるとしたら、十四日に・・・・初音の誕生日に合わせたほうがいいだろう」
俺の意見に親父も同調する。
その日は初音の十六歳となる誕生日であり、また内藤との挙式が上げられる日でもあった。既に掴んでいた情報では、神崎家の主催となる手配によって式は盛大に執り行われ、神崎家、琴乃家を始めとする、それに親しい関係者も参列に集うことになろう。
つまり、その日は全くの無防備になる、ということである。
「俺はその間に・・・・」
俺は手にした軍用コンバットナイフを握り締めた。
あくまでも狩猟用として購入していたナイフであったが、殺傷力には優れており、また小回りも利く。更に銃器などよりも懐に忍ばせ易く、発見されにくい利点があった。婚礼の盛大さも相まって、下手な銃器などよりも有効な手段ともなろう。
「あの二人に、きっちりと報いをくれてやるさ」
「均・・・・」
親父は最後まで、俺が直接的に手をくだすことに賛同はしなかった。当然ではあろう。例え神崎家との抗争が治まり(勝利できることに越したことはないが)無事に終戦を迎えたとしても、唯一の跡取り息子である俺が凶悪な殺人者ともなれば、田中家には未来がない。
だが、これは・・・・俺の手で成し遂げるべき復讐なのだ。
「親父、すまない・・・・」
とりあえず、親父は力の及ぶ限り、海外への逃亡を手助けすると確約し、国外への出国手段、万が一に備えての非常用連絡手段などを綿密に語り合った。
そして、十二月十四日・・・・
婚礼の盛大さが幸いし、集った参列者の大衆もあって、俺は教会周辺にまで潜入することは容易いことであった。この時点で気を付けなければならないのは、元の職場の同僚たちであろう。
特に永沢は(本能的に)苦手なタイプの男だったし、感の鋭い柴田とは寝た経験もあって、多少の変装などでは見抜かれてしまう恐れもあった。
「!!!」
だが、俺はそれ以外の見知った顔の視線とぶつかり、思わず愕然とせずにはいられなかった。
しまった、と思っても、もう遅い・・・・どれだけ髪型を変えていても、向こうは俺の存在に気付いてしまっている様子であった。
(ま、まさか。俺の思惑がバレ・・・・て・・・・)
だが、向こうはそれ以上、詮索するつもりはないらしく、礼儀正しく一礼をした後、結婚式が行われる教会へと向かっていく。
「ふぅ・・・・」
俺は安堵の溜息を漏らす一方で、改めて気を取り直すように忍ばせておいたナイフの柄を力強く握った。懐かしい旧知に見つかってしまったイレギュラーな出来事こそあったが、それ以外は何ごともなく、俺は数多の参列者の中に紛れ込んでいった。
参列者と関係者を分け隔てる境界線のような向こうに、内藤の腕に寄り添う初音の姿が見えた。それを木陰に身を隠しながら眺めた俺は、そのウェディングドレスを身に纏った存在に唖然とさせられてしまった。
「・・・・」
思わず、初音のウェディングドレス姿に見惚れて、呆然とさせられてしまったのだ。確かに俺の知る限りでも美少女であったが、それ以上にこの日の初音は、まさに輝ける存在ではあっただろう。
だが、それは同時に、更に復讐心を滾らせるものでしかなかった。
胸に仕込んだナイフの感触を確かめつつ、順調に進行していく式中の合間に、一般参列者にも開放された教会内へと押し込んでいく。結婚成立の宣言が鳴り響くと、盛大な拍手が一斉に送られ、俺もその参列者に倣って惜しみない拍手を送った。
最期の手向けだ。
再び門扉が開かれて、新婚夫婦となった二人が参列者によって囲まれた。その花嫁である初音の鮮やかな姿が功を奏し、誰一人、俺の動きに気付くような者はいなかった。
柄からナイフを抜き取り、かつての上司に向かって・・・・
『ズブッ!!』
確かな手応えがあった。
刺された腹部を抑えて赤い鮮血を確認した内藤は、俺の姿を見て言葉にならない表情を浮かべている。当然の報いであろう。それは俺から女を寝取った男に与えられる天神の、天罰による刃だ。
事態に気付いた参列者の一人が悲鳴を上げた。その切り裂かれたような悲鳴に呼応して、参列者たちが距離をとって離れていった。タキシードが真っ白だった故に、刺された部位を中心に赤く染まり・・・・
そして、今、俺の目の前にはもう一人・・・・当然の報いを受けるべく人物が横にいる。俺はすかさず、かつての交際相手であった彼女の腹部を突き刺していった。
『ザクッ!』
この売女があぁぁぁ!!!
どうだ、苦しいか?
俺に刺されて、苦しいかぁ!?
だがな。俺が味わった苦しみは・・・・画策されて、冤罪の罪で無為の時間を余儀なくされた苦渋の日々。課長室で再現された、あの映像。俺が味わった悔しさ、憎悪、嘆き、苦しみはこんなものの比じゃない!
『ザクッ!』
ああ、初音の肉は柔らかいなぁ・・・・
その美肉を突き刺す感触は、初音の身体を刺した軟肉の心地良い感触だけが、ナイフの柄から伝わってくる。かつての上司とかつての彼女。二人の夥しい鮮血によって、血塗られていく刀身。
俺は今、確かに至福の瞬間を迎えていた。
その俺の感動を遮るように、腹部を刺された間抜けな元上司が割って入ろうとする。
邪魔をするなぁぁ!!
胸から突き刺し、より深くへ、と突き込む。
貴様が・・・・貴様がいなければ、俺と初音は・・・・
そして初音も俺に刺されることはなかったはずなんだぁ!!
「はぁ・・・・はぁ・・・・」
さすがに内藤の肉は硬かった。
深々と突き刺してしまったこともあり、もう容易には抜けそうにない。いや、もう抜く必要もないか・・・・そのまま苦しみ悶えながら、二人とも死んでいくといいさ。
「た、田中・・・・き、貴様ぁぁぁぁぁ!!!」
な、永沢!!
参列者の囲いを掻き分け、一直線にこちらへと向かってくる。もはや見慣れつつあった熱血漢。悲しい習慣だった。俺は本能的に身を竦んでしまう。これまでの体験もあって、怯えてしまったのだ。
げ、迎撃しなきゃ・・・・は、早い!
迎え撃つことも、逃げることもできなかった。
永沢の拳が俺の顎を捉え、吹き飛ばされる間にも蹴りが入れられる。なんとか受け身をとって即座に立ち上がろうとするが、既にダメージは深刻だった。
「ううっ・・・・」
膝は痙攣したように笑って、直撃を受けた顎の感覚もおかしい。な、なんて膂力だよ。
続いて神崎和馬、和人の親子が駆けつけてきた。内藤、初音の身体を抱え、救急車の要請を叫ぶ声が教会に響いた。
「・・・・」
できれば完全に息が途絶えるまで、もしくは致命傷と確信できるまで、二人の最期を見届けたかったが、もうこれ以上の報復は断念するべきであっただろう。
まぁ、俺の気も少しは晴れた。
「そう簡単に逃がすものかよぉ!!」
「じょ、冗談じゃない・・・・」
誰が筋肉自慢の脳内ゴリラと遣り合うものか。
と、悪態をつきながらも、俺の分が悪いことを認めないわけにはいかなかった。鞘の部分を永沢に向けて投擲し、踵を返して距離を稼ぐ。それでも身体能力の差であろう。すぐに追いつかれそうになった。
「均さま!!」
中川だった。本来なら親父のサポートにまわっていた側近が、俺の窮地を予測して、救援に駆けつけてきてくれたのであろう。
「さぁ、今のうちに・・・・」
「す、すまない!」
その側近の言葉に従い、尚も逃走の邪魔をしようとする参列者たちを蹴り飛ばし、殴りつけ、俺は記憶していた退路の道をひたすら駆け抜けていった。
それから暫く、神聖な教会の敷地内では無粋な銃撃戦の響き、それによる多くの悲鳴が轟いていった。
忠実な側近・・・・中川の無事を祈ったが、あの周囲の状況から逃げ遂せられるとは思えない。それでも俺は逃げた。ひたすら逃げ続けた。
復讐を遂げると同時に、忠実な側近を失ってしまった。
この充足感を得るためにしては、余りにも痛すぎる損失であろう。
中川の献身によって包囲網を突破した俺は、それからも数日間、警察や神崎家の追跡を悉く潜り抜けた。
「それも、もうすぐだな・・・・」
他人名義の戸籍と身分証。そして国外に脱するチケットをポケットに、親父が手配してくれた送迎の車に乗り込んだ。このまま空港まで駆け抜けて、俺の第二となる新たな人生が待っている。
「へぇ〜。親父たち、いい車を持っているじゃん!」
いつの間にこんな高級車を購入していたのだろう?
後部座席に深々と座り、その心地の良さを満喫する。
「くっくくく・・・・」
次第に笑みがこぼれた。
内藤を・・・・そして初音を殺害できた、という確信はない。もしかすると一命を取り留めている、その可能性もあるだろう。
報道管制が敷かれているのか、その後の二人の安否を告げる情報が公開されないのだから、仕方のないことだった。
まぁ、いいさ。
俺の気は済んだ。
今後、二人が生き残ったとして、これからどんな新婚生活を送ることになろうが、もう俺の関知するところじゃない。人の女を寝取る最低野郎と、俺を嵌めた最低糞女のことなど、な・・・・
「それにしても・・・・やっぱり、神崎和馬といったって、たいしたことはないじゃん」
何が日本の企業の全てを掌握する、神崎グループの総帥だ。
あの男の何処が、『アジアの覇者』だ・・・・笑わせてくれる。
「そりゃ、どうも・・・・」
「なっ!?」
途端に俺の表情は凍りついてしまった。
その俺の真向かいに座っている、その男こそ・・・・
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