行間話【 悪戯 】(視点・神崎和人)


 僕は一枚の写真を大切に保管してあったアルバムから抜き去る。
 都内の高校に進学が決まった姉ちゃんが、東京に上京するときの記念に二人で撮った、その時の一枚だ。
 僕も姉もこの先の未来にあるものを知らず、ただ笑顔を浮かべて並んでいる。もっとも僕の方はあくまで、懸命に笑顔を装っていたのであったのだが・・・・
 中学の級友は無論、後輩や(あの田中先輩も含む)先輩は、中学校一の人気者であった姉の弟であることに、羨望の眼差しで羨ましがられたものである。
 そのたびに僕は心の中で反論をしたものだった。
 僕は好きで姉ちゃんの弟になったのではないッ! と。
 実際、姉ちゃんの彼氏候補から真っ先に脱落させられたのは、まぎれもなく僕なのだから。
 異母兄弟(破天荒な父様なだけに無理はない)が多い中で、実の姉に欲情してしまった僕は、確かに歪んでいたのだろう。
 その父様の後継者たる次期神崎家の当主候補として、母様には厳しく躾けられてきた、その反動なのかもしれないし、愛人愛妾を多く抱える父様の血を、濃く受け継いでいただけなのかもしれない。
 そう、僕は実の姉に・・・・恋焦がれてしまっていたのだ。

 その姉ちゃんが上京してから久しく、実家である琴乃家に帰省したのは、それから約半年後のことで、しかも帰省した姉の身体は既に妊娠中という、僕の想いを踏み躙(にじ)るものでしかなかった。
 中学時時代では清楚で、無垢で、色欲には全くの無縁であったはずの姉ちゃんが、何故!
 という思いは拭いきれなかった。
 まぁ、その姉ちゃんの相手が、幼少の頃から憧れていたという、隣の田中先輩、というのなら、まだ話は解かるというものだったが、実際に姉ちゃんが実家に連れてきた人は、僕よりも・・・・いや、父様(31)や母様(35)よりも年長で、それで一企業の課長止まりという風貌の上がらない男性であった。
 男性の名前は、内藤仁。四十二歳。一方の姉ちゃんが後三カ月程で、やっと十六歳なのである。
 これでは母様でなくても、二人の結婚に反対するのは当然の、常識というものであっただろう。実際、僕も事前に姉ちゃんから話を伺っていなければ、猛反対していたことに疑いない。
 状況が複雑なのは、まず姉ちゃん自身が結婚することを望んでおり、また妊娠してしまったという、子供に至っても、自らの過失の上と認めていたことであろう。
 本来なら、内藤さんには責任を負う義務はないのだ。
 内藤さんはその上で、姉に求婚し、こうして琴乃家に頭を下げにきたのだから、二人の結婚に関して、年齢差や相手の出自などで、とやかく言われることではないだろう。
 何よりも、姉ちゃん自身が内藤さんとの結婚を望んでいるのだから。
「・・・・」
(でも、過失で妊娠するなんて、どんな考えをしていたのだろう?)
 まぁ、勉強はできるのに、どこか抜けている姉ちゃんらしい、といえば姉ちゃんらしいや。
 そんな内心の苦笑を隠しながら、僕は一同の揃ったその場所で、姉の望むようになるよう、ささやかながらに助力をした。

 姉が母様との再対話を決意し、客室に残った内藤さんの相手を僕に委ねると、僕は二回りも年上となろう、相手に尋ねてみた。
「やっぱり、姉と結婚されたら、義兄さんと呼ぶべきですよね?」
「ん、いや・・・・素直にオジサンで、構わないよ」
 穏やかな笑顔を見せて、内藤さんは遥かに年下の僕と語り合った。
 たった二、三十分の間だったけど、初対面の僕にも関わらず、そして僕の失礼であろう言動にも、内藤さんは終始、余裕のある笑顔を崩すことはなかった。
(きっと度量が深くて、意外と世間に揉まれ、相当な苦労してきた人なのだろう)
 なんとなく、姉ちゃんが惚れたのも解かった気がする。
 途端に僕は、この内藤さんになら、姉を任せられる・・・・と姉への想いを断念する一方で、これまでにおける僕の行った姉への所業、悪戯に満ちた想いも許して貰えるのかな、と抱かせずにはいられなかった。

 そう、僕は・・・・

 僕は三つある自室のうち、遊戯室と(勝手に)命名した個室に戻り、厳重な金庫で保管してある宝物・・・・重厚な一冊のアルバム、一本の光学用メモリースティック、そして、姉ちゃんの不在を狙ってくすねてきた下着類を取り出す。
 わ、解かっているよ・・・・自分のやったことが許されない、とても恥じるべき行為だって、ことぐらいは・・・・
 でもね、でもね・・・・仕方ないじゃないかぁ!
 なんとも子供じみた言い訳をしつつ、僕は重厚なアルバムを取り出す。
 このアルバムは、まさに僕と姉ちゃんの歴史語録だった。
「姉ちゃん・・・・」
 姉ちゃんと僕の幼少からの写真が並び、少しして隣の田中先輩がそれに加わり、幼稚園、小学校、中学校時代・・・・姓は異なるのに、そして実の姉だったそれだけに、僕たちはほとんど一緒だった。
(ほ、本当に<姉ちゃん・・・・幸せに、ね・・・・)
 僕は涙交じりに、姉への未練を断ち切るようにして、重厚なアルバムを閉じると、一本のメモリースティックを取り出す。この映像はメモリードライブには記録、保管してなく、この一本をへし折れば、あの日の悪戯である証拠は完全に抹消されることになろう。
「んんっ・・・・」
 僕はそれを実行しよう、として・・・・断念した。
 この一本には本当にお世話になり、だからせめて、もう一回だけ見ることで見納めとし、それから闇に葬り去ろうと思ったのだ。
 光学用メモリードライブ機器にメモリースティックを差し、映像がこの遊戯室に起動される。三次元映像のそれだけに、この遊戯室そのものが、この映像の部屋・・・・姉ちゃんの個室のように映し出されるのだった。

 思えば・・・・姉ちゃんの部屋(も全部で三つ)を盗撮するようになったのも、田中先輩との交際が田中家から申し込まれた(危うく婚約の話まで進展しそうな)ことが、そのきっかけだった。
(そういえば、田中先輩・・・・社内で姉ちゃんに迫って、失敗したって聞いたけど・・・・とうとう本性を隠しきれなかったんだなぁ)
 僕とも幼馴染であり、幼少の頃は良くお世話になった先輩であり、僕にとっても兄貴的な存在であった田中先輩であったが、のほほんとした姉ちゃんとは違い、僕は先輩の本性に気付いていた・・・・いや、正確には他の先輩たちから聞かされていたのだ。
 確かに田中先輩は容姿よく、その穏やかそうな物腰から優等生として、そして異性からは憧れの対象として目されていた。実際、僕だって田中先輩を慕い、色々とお世話になった時期が確かにあった。
 もうミーハーな姉ちゃんなんて、もうメロメロさ・・・・
 その田中先輩の悪行を・・・・他の先輩たちや、その先輩たちの弟であった級友たちから聞かされた時は、同性の僻みや妬みかな、と思ったものだが、それが本当の真実であったことを、僕自身が目の当たりにしたのだ。

 その田中家からの申し出で、向こうの面々と母様が気を利かしてしまったのだろう。たった一つの個室に姉ちゃんとその田中先輩を二人きりにさせてしまったのだ。
 そ、それじゃ、わざわざ狼に襲ってくれ、と我が家から子羊を差し出したようなものじゃないかぁ!!
 姉ちゃんの想いを知っており、その淡い恋心を幻滅させたくない余り、僕は姉ちゃんを後押ししてしまったが、そのときはもう気が気じゃなかった。
 幸い、田中先輩もすぐに本性を出して・・・・(まだ婚約が正式に成立していたわけじゃなかったこともあり)幼い姉ちゃんに嫌われたくはなかったのだろう。他愛のない会話だけで切り上げられ、特に進展はなかったことは、僕にとっても・・・・そして後の内藤さんにとっても、きっと喜ばしい結果であっただろう。
 だが、僕はその際に、姉の部屋に光学用メモリードライブのカメラと盗聴マイクを仕掛けて、盗撮するようになっていたのである。

 無論、盗撮なんて最低の奴がすることだ。
 同時に・・・・清楚で無垢な姉ちゃんの私生活を盗撮することほど、全く無意味なものはなかった。
(着替えはともかく・・・・そ、そりゃ、少しずつ色気づく姉ちゃんの身体には、盗撮する以前から、もうハァハァしたものだよ!)
 でもね、田中先輩を慕っているから、といって、あの姉ちゃんが部屋で何をするでもなく、本当に普段と全く変わらない日常なんだ。盗撮することで、画面で(姉ちゃんのあられのない姿を)期待して待機する僕のほうがアホらしくなった。
 だから、僕は・・・・以前、田中先輩から貰った睡眠薬を、上京を前日に控えたあの日、姉ちゃんの部屋にある冷蔵庫に、その飲料水に盛ったのである。

 ちょうど僕の部屋に展開された映像も、姉ちゃんが帰宅してきた姿を捉えてくれた頃だった。まだ春先なのにも関わらず、この日の一日は本当に暑い一日で、気温だけでも二十度後半を記録し、物凄く蒸している一日であった。
 上京するその準備で早朝から多忙だった姉ちゃんは、パタパタと手のひらで仰ぎ(そんな小さな手じゃ、全然、涼しくなる気がしないのだが)ながら、室内のクーラーを起動させ、早速、冷蔵庫を開けると飲料水を選ぶ姿が映し出された。
(姉ちゃん、大丈夫だよ。その中の飲み物には全部、睡眠薬を入れて溶かし込んでおいてあげたから・・・・好きなのを飲みなよ!)
 そのおかげで田中先輩から貰った睡眠薬を使い切ってしまったけど。後は姉の冷蔵庫にある飲料水と同じ物を揃えて用意しておけば、僕の計画は完璧だった。
 姉ちゃんは一本の飲料水を選び、一口だけ口につけると、小さな手提げ鞄を置き、長年にお世話になった学習机を感慨深く見詰めて触れていく。
 そして・・・・
 姉ちゃんの机の上には田中先輩の写真立てがあり、小さく呟かれた囁きが僕の鼓膜をうった。
『ひーくん・・・・もうすぐ、だよ』
 上京を明日に控え、再会のときを待ち遠しく思うような、盗撮している僕のほうが痒くなる光景だった。
 その交際を開始したばかりの彼氏である、田中先輩の写真を見詰めたのも束の間、姉ちゃんはやや(まるで睡魔を振り払うように)頭を振って、そして今一度、飲料水に口をつけた。
 飲めば飲むほど、眠くなることも知らずに・・・・
(でも、さすが田中先輩から貰った睡眠薬だ・・・・)
 その効果の即効性は説明された通りのものだった。
 まさか、その説明をした田中先輩も、交際を開始したばかりの彼女に・・・・そして実の姉に使用されることになるなんて、思ってもいなかったことだろう。
 僕は背徳感たっぷりに浸りながら、既に股間を固くして、固唾を呑んで姉ちゃんの動向を探っていった。
 そして遂に姉ちゃんは外出用の私服姿のまま、ベッドの上に座り込むと・・・・ゆっくりと身体を伏せていく。もはや眠りにつくのは時間の問題であっただろう。
「よし・・・・」
 僕はポケットに、これまた田中先輩から譲り受けたアイテムをしまい、そして大量の飲料水の入ったビニール袋を持ち出す。
 母様は琴乃家の行事で昼間から外出しており、屋敷内にはまだ多くの雇い人たちがいるが、弟が姉の部屋を訪ねるのに、咎めようとする者は皆無であった。
(・・・・よし)
 僕は光学用メモリードライブを起動したまま、その盗撮されている姉ちゃんの部屋へ静かに入り込むと、これも極力、音を殺して扉を施錠する。僕の侵入に気付いたような様子はなく、姉ちゃんはベッドの上で鮮やかな肢体を横たわらせていた。
 早速、僕は姉が含んだ睡眠薬入りの飲料水、そして冷蔵庫に残された飲料水を回収すると、ビニール袋に詰め込んで持ち込んだ飲料水と入れ替える。
「・・・・」
 計画は完璧だった・・・・
 睡眠薬の即効性は折り紙つきで、その効果は抜群。
 母様も外出し、家従の人たちにも邪魔されることはないだろう。
 そう、計画は完璧・・・・だったのだ。
 唯一の誤算は・・・・今、回収したペットボトルの量である。
 姉が含んだのは、たったの二口か、三口程度でしかない。
(薬の持続時間が全く解からない・・・・)
 だが、それを気にしていても始まらない。僕は姉ちゃんの昏睡具合を確認する意味でも指先で頬を突き、続いて唇に触れた。
(や、柔らかいなぁ・・・・)
 思い切って姉の唇を・・・・恐らくは、姉ちゃんのファーストキスも奪いたい気分であったが、強力な睡眠薬を含んだばかりの姉である。ここで僕までが昏睡して、姉ちゃんが先に・・・・いや、たとえ同時に目覚めることができたとしても、もはやどんな言い訳も通用しないことだろう。
 残念に思いつつも、たった一つだけのことに固執する必要はない。
 僕は改めて気を取り直すと、ベッドの上で姉ちゃんの身体を覆い被さり、まだまだ小振りだが、脹らみのある胸を衣服越しに触れた。
 こ、これが姉ちゃんの・・・・おっぱいかぁ。
 何度も脱衣所で覗き、いつかは触れてみたい、とは思っていたが。
 感無量だった。衣服越し・・・・しかも、僕の同世代の女生徒たちよりも劣ると思われた質量の胸ではあったが、それは紛れもなくあの姉ちゃんのおっぱいなのである。
 ああ・・・・姉ちゃんの弟で良かったぁ。
 と、このときだけ(?)は心の底から思ったものである。
 そして、いよいよ・・・・
 僕の手と視線は次第に・・・・姉ちゃんの絶対領域でもあろう、下半身へと向かっていく。
『ゴクッ』
 姉ちゃんの中学時代だった際に、一つの語り継がれた伝説があった。一つ下の僕のクラスにおいても風物詩、語り草であったが・・・・それは姉ちゃんのスカートの中身だ。
 確かに規定に適した長さであったのだろうが、あんなに短く見えるスカートなのに、誰一人として姉ちゃんのパンチラを見た、という幸運を授かった男子生徒(教師含む)がいない、ということであった。
 でも、その姉ちゃんは今、熟睡しており・・・・僕の行為を邪魔する者はいない。
「そ、そうだよ。僕が悪いんじゃない・・・・僕の前で無防備に眠っちゃった、姉ちゃんがいけないんだぁ!!」
 完全に責任を転嫁させることに成功した僕は、その報酬を・・・・同学年や数多の先輩、後輩の男子生徒が懸命に思い描くしかできなかった、それを露出させることに成功したのだ。
 白い・・・・本当に純白のパンティー・・・・ショーツだった。
「こ、ここに・・・・姉ちゃんの・・・・」
 僕は自らの指で白いデルタ地帯をなぞる。
 そう、ここにあるのだ。姉ちゃんの身体の入り口が・・・・そして、まぎれもなく姉ちゃんが処女である証、処女膜が・・・・
「い、いいよね?」
「・・・・」
 無論、返事などあろうはずがない。
 僕はポケットから田中先輩から譲り受けたピンクローターを取り出すと、スイッチを入れて起動させ、振動させたそれを徐に姉ちゃんの股間へと触れていく。
「・・・・」
「姉ちゃん、気持ちいい? 気持ちいいよね?」
「んっ・・・・」
 その姉から漏れた声に、僕はビクッ、と震え・・・・ベッドから転げ落ちてしまった。
(し、しまったぁ!!)
 慌ただしい物音に不審に思う雇い人が居るかもしれないし、姉ちゃんも不審に思うかもしれない。そもそも、姉ちゃんが含んだ睡眠薬の量は決して多くないのだ。
 僕はビニール袋を取ると駆け出すように扉を解錠し、廊下を駆け出した。慌てて自分の娯楽室へと飛び込んでいったのだが、幸い、その間に僕を呼び止めるような人物は皆無であったし、誰に咎められることもなかった・・・・
「ハァハァ・・・・」
 荒々しい息を整えつつ、尚も盗撮が続いている映像に目を向ける。
 実際に姉ちゃんはいよいよ覚醒しようとしていた。まだ薬の余韻が抜けないのか、すぐに起き上がるようなことはなかったが、あのまま留まっていたら、間違いなく、僕は姉ちゃんに嫌われていたことだろう。
(い、いや、殺されるかも・・・・)
 そして映像の中の姉ちゃんは、起き上がると同時に、ガバッと晒している下半身を抑え、顔を一杯に赤面させた。
(も、もしかして・・・・ば、バレたぁ!!?)
 もう心臓はバクバクだった。
 姉に半殺しにされ、(勿論、それでも運が良くて)母様には変質者扱いを受けて拘留所(僕の場合は少年院か)に送られる想像が容易につく。父様も、僕の悪戯がバレてしまった以上は、庇ってくれようはずがない。
 だが、姉ちゃんは室内を退出したものの、僕の部屋に来るわけでもなく、暫くして自室に戻ってきた。

 これは次の日に、上京する姉ちゃんを見送って帰宅した後に気付いたことであったが、姉ちゃんが覚醒したその際に晒されていた下着は、確かに濡れていたのである。(この起きるまでのシーンをリピートさせて、その翌日からは何度もオナニーしたものである)
 姉としては、寝ている間に漏らしてしまったのか、と誤解しただけのことであった。
 もう一つ、姉ちゃんの抜けた性格に助けられたことがある。
 僕が姉ちゃんの漏らした声で飛び上がった際、田中先輩に譲り受けたピンクローターを回収し忘れていたことだ。室内に戻ってきた姉ちゃんがその玩具に気付いたようであったが、使い道も解からないそれを暫く眺めた後、片付けられた箪笥の上に放置された。
 無論、翌日・・・・姉ちゃんが上京したその後、暫く空虚と化すことになる姉の部屋の入り、すぐに回収したのは語るまでもない。
 だが、この一件の映像は、その翌日から僕の大切な宝物になった。
 実際に、あの姉ちゃんが感じて、喘ぎ声らしき囁きを漏らしたのである。その姉ちゃんの声を繰り返し聞くことで、僕の股間は固く勃起し、その際に射精する量は、凄まじい閃光のようだった。


「そのお宝とも、もう、さよならか・・・・」
 僕は感慨深くメモリースティックを抜き取ると、展開されていた映像は終わり、ついでに盗撮状態のアクティブモードにする。
『やったぁ・・・・』
「えっ?」
 僕は唖然として、その映像の姉ちゃんの部屋を目視する。同時に、母様の再会見が良かったほうに進展できたのであろう、それが姉ちゃんの喜びようからでも窺えた。
 本当に良かったね、姉ちゃん。
(そしてさようなら、だね。僕の初恋、僕の宝物・・・・)
 だが、その僕の感想も束の間・・・・ベッドの上に寝そべった姉ちゃんの行為に、僕は唖然とさせられずにはいられなかった。
『んっ・・・・んん・・・・ああっ・・・・』
「!!!!」
 目玉が飛び出そうな光景、とは、まさにこういう場面を言うのだろう。実際に僕の目玉も、本当に眼球が大きく見開かれ、顔に激痛が走ったほどである。
 だが、その痛みも忘れそうになるほど・・・・目の前の光景は、衝撃的で扇情的だった。あ、あの姉ちゃんが・・・・自慰!?
「ま、まさか・・・・?」
 即座に新品のメモリースティックを突き刺し、展開されている映像の記録を開始させる。その間の僕の動きは、僅かに一秒・・・・自分でも驚くほどの早業であった。(もっともドライブに内蔵された記録容量内ならば、容量を超える記録が更新されない限り、自動で映像を保存してくれている)
 つまり、僕はこの日・・・・新しい宝物を手に入れることができた、その瞬間でもあった。

 盗撮のカメラに気付かれたわけではないのだろうが、姉はベッドの毛布で身を包むと、徐に股間の辺りを弄り始め、毛布から唯一晒しているその表情にも、やや紅潮させていった赤みに帯びた。
『か、課長・・・・んんっ、もっと・・・・して・・・・よぉ・・・・』
(ま、マジで・・・・姉ちゃんが、お、オナってる!)
『い、いやぁ・・・・もぉと・・・・してぇ・・・・』
 甘えた声で、恐らくは客室に居るのだろう相手を懸命に思い浮かべ、映像の中の姉ちゃんは身を悶えさせている。
『かちょうぉ・・・・は、初音・・・・もうぅ・・・・』
 姉の切羽詰まった声に、潤んだ瞳からは涙交じりに告げられる。
 僕の姉の声に誘わるように、痛い股間から勃起したペニスを取り出すと、ほとんど無意識に激しい摩擦を繰り返し行っていた。
『か、かちょぉぉう・・・・い、・・・・』
 い、嫌、もう僕のほうがイキそうだぁ!!
『!!!!』
 次第に姉の行為が激しく、技巧は稚拙ながらも理に叶った身体の動きで、懸命に悶え続け・・・・遂に姉ちゃんは四肢を痙攣させた。

『・・・・』
 毛布に包まりながら、絶頂に達した余韻に浸りつつも、姉ちゃんは途端に泣き出す。盗撮している僕にしても、それはいきなりのことであり、すぐに理由が思い当たるはずもない。
『ち、ちがう・・・・こんなんじゃない・・・・』
「な、何が?」
 何が違うのだろう。勿論、映像上の姉ちゃんが僕の問いに答えてくれるはずもなかったが・・・・
『課長の・・・・昨日の・・・・あれ、は・・・・こんなんじゃ・・・・』
「・・・・」
 啜り泣きをする姉ちゃん。
 僕は改めて、思い知らされた。そうだ、姉ちゃんはもう妊娠しており、内藤さんとSEXをしている・・・・もう経験しているのだ。自慰の一つや二つ、行っても不思議ではない。
『ご、ごめんなさい・・・・ごめんなさい!』
 何に対して、誰に対して謝罪しているのだろう。
(まぁ、内藤さんに、だよね・・・・)
 だが、次の姉ちゃんの発言には、今までにない衝撃を憶えた。
『こ、こんな腐れマンコ・・・・で・・・・』
「!!!!」
 雷撃に打たれた、とはこのことを言うのであろう。

「な、な、なんだとぉぉ!!」
 あの姉ちゃんが・・・・卑猥な隠語を口にしたのもそうであったが、それと同時に、外見はもう完璧。身内の僕の目からでも、今すぐにでも抱きつきたい姉ちゃんの身体に・・・・
 こともあろうに、『腐れマンコ』と下した野郎が居る!
 って、ことだ。
(ま、まさか・・・・内藤さんかぁぁ?)
 だが、先ほどまでの内藤さんの印象から、その線は考えられない。
「しかし、じゃあ、誰が?」
 僕は半年の前の、姉ちゃんが上京する場面からトレースする。
 恐らく姉ちゃんは東京に上京して、都会の空気に染まり、それこそ毎日、田中先輩とSEXをしまくったのだろう。
(いいなぁ、姉ちゃんの処女・・・・)
 僕は懸命に頭を振る。姉ちゃんの処女は本当に惜しいが、今はそんなことに拘っている場合じゃない。
 姉ちゃんが東京に上京して半年・・・・そりゃ、毎日のようにSEXをしていれば、きっともうガバガハになっていてもおかしくはない。また内藤さんの子供を身籠った、ということは、勿論、膣内出しされたその結果でしかなく・・・・
(いいなぁ、姉ちゃんに膣内出し・・・・)
 僕は懸命に頭を振る。姉ちゃんの子宮に膣内出しできることは、本当に羨ましい限りであったが、今はそんなことに拘っている場合じゃない。

 な、内藤さんに聞いてみようかな・・・・?
 田中先輩は姉ちゃんを強姦しよう、として、今は僕も知らない場所に送られてしまったみたいだし、内藤さんと姉ちゃんが関係を持つ前に、他の誰かと寝た可能性も否定できない。
「姉ちゃんに直接・・・・」
 聞けよう、はずがない。僕の盗撮したことがバレバレじゃないか。
 僕は悶々としたものを抱えながら、だが、一つだけ確信していた。

 この日、確かに僕は永遠の宝物を獲得したのであろう、と。


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