第六話【 相思断絶 】( 過去 )
《弥生》
11時59分50秒。
《カチッ、カチッ、カチッ・・・・》
定期的に小刻みに刻まれる秒針。それが正午を挿したとき、わたしは目を覚ました。
どうやら本当に、風邪を引いていたらしい。
丸一日、寝込んでいたのにも関わらず、全身が凄く気だるく感じる。
「んっ・・・・」
わたしは室内を見渡した。もう見慣れた殺風景の部屋だ。
ただ、それだけ・・・・。
・・・・夢!?
わたしは夢を見ていたのだろうか?
それはそうだ、と思った。和馬さんがこの部屋を知るはずがない。
彼が、こんなわたしを抱いてくれるはずがない。・・・・のだと。
ポロ、ポロ、と・・・・わたしの瞳から雫がこぼれる。
夢なら、ずっと醒めないで居て欲しかった。
わたしの主張が現実的に理不尽なことだと解かっていても、ずっと夢の中で抱かれていたかった。
彼のぬくもり・・・・
夢の中の出来事とはいえ、わたしには心地よいものだった。
わたしと和馬さんがSEXしている夢・・・・
そして目覚めた途端、押し付けられる現実という名の絶望。
「夢なら・・・・夢なら、醒めないでよぉ!!」
わたしは肩を抱くようにして、泣きじゃくった。
「和馬さん・・・・」
わたしは呼ぶ。
名前を呼び続けなければ、彼のぬくもりが消えていってしまうようだった。そして名前を呼ぶたびに、わたしの心は締め付けられていく。
このぬくもり・・・・
この心地よい、ぬくもり・・・・
「和馬さん・・・・」
手放したくないのに!
和馬さん。和馬さん。和馬さん・・・・・・
編み物の途中、わたしは唖然として、お母さまを見上げる。
「神崎・・・・和馬さま?」
わたしが初めて、和馬さんの名前を口にしたのは、今から三年前のことでした。草薙家が神崎家を招待する新春会の、その一週間前・・・・
「弥生、いいわよね」
お母さまのそれは、確認というよりも断定の響き。
最初、母が何を言っているのか、わたしには理解できなかった。神崎和馬という人が、わたしのなんだというのだろう。
わたしは編み物を止めて、編み針を置こうとしたとき・・・・その意味を理解した。
いつかはくる、とは思っていた。いつか、わたしにも両親が取り決めたお相手が。
それが神崎家の次男、神崎和馬さまでした。
わたしの知らないことではありましたが、当初の予定では、長男の一樹さまで進められていた新春会でした。が、先方の事情によって、急遽、和馬さまに替わったということです。
深刻なほどの窮状にある草薙家としても、名家の血を取り入れたい神崎家としても、新春会は何としても行いたい意向であり、わたしの両親は二つ返事で、神崎家に承諾したという。
そこにわたしの意思が挟む余地はない。
「はい・・・・」
わたしは頷いた。いや、両親の言葉に従うそれ以外に、選択は許されなかった。どんなに由緒正しき家柄に生まれても、絶対に自由にならないというものは確かにある。特に一人娘であったわたしには尚更だろう。
お母さまは、わたしを出産した後、身体を損ない、二度と子供を身篭れなくない身体になってしまったのである。当然、わたしに課せられた期待と責任は、他の令嬢たちよりも重いものであった。
「お母さま、安心して。わたしなら平気だから」
それは嘘。
正直、不安でたまらなかった。
和馬さまとは、一体、どういう人物なのであろう?
優しい人なのか、それとも強面の人相なのか・・・・失礼だな、と思いつつも、醜い顔立ちや気持ちの悪い人だったら・・・・ちょっとヤダな。
わたしはブルブル、頭を振った。
でも、どちらにしても、その和馬さまに求められたら、わたしはその運命を受け入れなければならない。それから逃れることは許されない。その見知らぬ和馬さまが、わたしを望まない限りは。
「断られちゃうかも知れないし・・・・ね」
それはそれで、ちょっとショックかな。
お母さまに心配かけまいと、笑ってみせる。
「弥生、今、確認するけど・・・・」
「はい?」
「SEXがどういうものか、は解かっているのでしょうね?」
「お母さま・・・・わたしだって、もう子供じゃないんですから」
わたしは思わず、赤面して俯いてしまう。
常に女子校で、男性には全く免疫のないわたしでも、もうそれぐらいは解かっている年頃だ。
「処女よね?」
「うん・・・・」
わたしは俯いたままの頭で頷く。
古来より名家同士の縁談には、処女性を重んじる傾向があった。ゆえに神崎家を新春会で迎えるにあたって、わたしが処女であることは、重要なファクターの一つである。
つまり、わたしの「処女」と、この「身体」は、草薙家の商品ともいえただろう。それはわたしだけに限らず、名家の令嬢として生まれた女性には生まれ持った責務である。その例外も少なくはないが・・・・
「ごめんね・・・・弥生」
「お母さま」
「家のためにとはいえ・・・・ごめんね・・・・」
抱きしめられて、わたしは思わず瞼を閉じる。
泣いてはだめ。
逃れることができない決断を強いた両親のためにも、わたしは泣くことが許されなかった。なにより、まだ和馬さまがどういう人物であるのか、また、わたしが必ず不幸になるとは限らないではないか。
結局、わたしは・・・・和馬さまの温情で、お手付けは成立させてもらったものの、処女の身のままでした。
新春会における和馬さまの印象は、決して悪いものではなかったはずなのに、わたしは直前で破瓜されることを恐れてしまったのだ。
「別にそういうわけじゃないんだけど・・・・家のことで無理をすることはないんじゃないかな〜って、お互いにね。本当の契りは、もっとお互いを知ってから、からでも遅くはない、と俺は思うんだけど・・・・どうかな?」
物凄くありがたかった。直前で逃げてしまったわたしを、四つも歳下の和馬さまは優しく接してくれた。挙句にわたしは泣き出してしまう始末。
覚悟だけはしていたのに。
もう、わたし、最悪だぁ。
だが、既にこの時から、芽生えていたのではないだろうか。
わたしが生涯かけて愛することになる、その最初の第一歩を・・・・
新春会のそれから、数週間が経過した。
わたしは学校の勉学において、部活において、今まで以上に真剣に取り組むようになっていた。
和馬さんの相応しい妻になれるように、と。
左手の薬指には、和馬さん(正確には神崎家)から贈られた指輪が填められている。わたしと和馬さんの婚約指輪だ。学校内で填めることはさすがにできなかったが、登下校では填め忘れたことは一度としてない。
この指輪を見るたびに、わたしは一つ一つに全力を傾けた。
そのわたしの姿勢が表に出てしまったのか、部室の更衣室で着替えているときに、部活の中でもっとも親しい友達の清美が口にする。
「弥生、あんた、男できたでしょ?」
「えっ?」
わたしが通っていたのは女子高であり、そういうことには驚くほど敏感だ。
「ホント!? マジマジ・・・・」
「奥手の弥生に彼氏!」
「いいなぁ〜〜」
部室の中だけに、ドドドド・・・・と、一度に押し寄せてくる。
わたしの所属するテニス部は強豪であり、他校のそれ以上に親密感が高いほうかも知れない。
だが、この連帯感の凄まじさは・・・・さすがにわたしも怖いぞ。
「でも、弥生の家って、恋愛厳禁じゃなかった?」
「うん」
それは一年のころから、わたしが口外してきた事実だ。
部活帰りに良く誘われたものだが、全て断ってきた。付き合いが悪い、と言われたことも少なくはなかったが、こればっかりは自分では決められない。それも最初の半年ぐらいまでで、それ以降はわたしの意思は部内に浸透していった。
つまり、和馬さんは両親公認の仲である。のだが・・・・
「じゃ、親に内緒で・・・・意外と弥生って大胆!」
な、な、なんでそうなるのぉ〜〜。
密集していた女生徒が「キャー」と、一斉に雲の子を散らす。
「もう和馬さんは、そんなんじゃないんだからあぁ!」
しまった、と、思ったときには、もはや手遅れだった。
仲の良い友達(・・・・のはず)が、ニヤリとする。
「ふぅん、和馬くんって、言うんだ・・・・」
「ここら辺に住んでいるの? ねえねえ教えてよ」
「和馬くん〜〜弥生がらぶらぶ、だって〜〜」
とてもではないが、追求から逃れられそうにもない・・・・絶対に逃がさない、というような殺気が部室に充満している。
「か、和馬さんは、両親が決めた相手なのぉ!」
嘘は言ってない。
確かに和馬さんとの出会いは、両親が取り決めたものであるが、その後のメールのやり取りや、出会いの口実を求めていたのは、わたしの意思によるものである。
「で、で、その和馬君と、どこまでいったの?」
「両親公認だもん、勿論、最後までだよね?」
その意味が解からないほど、わたしも無知じゃない。
新春会のお手付けの場面が思い出される。
「もうぉ〜知らない!」
わたしは和馬さんの誕生日を、妹の和美さんから教えて貰っていた。
「かずにぃのこと、よろしく、ね」
彼女は和馬さんより一つ下の、今、小学六年生で、まだ直接に会ったことはなかったけど、わたしのことを懸命に応援してくれる。わたしにとっては掛け替えのない、小さな協力者だった。
その和馬さんの誕生日、わたしは部活を早引きし、彼が通う中学校へと足を伸ばした。
同じ都内といっても、移動時間がないわけではない。またお互いに学生という身分である以上、そう頻繁には会うことも叶わない。
学校内の和馬さんを見るのは初めてだったが、「やっぱり・・・・」という思いが、わたしの心をざらつかせた。
決して表には出してはならない感情が、わたしの胸中を締め付ける。
・・・・嫉妬、だ。
校内における女生徒の、和馬さんを見る目がいずれもそうであるように、また後輩や、年上のわたしがそうであるように、彼は他者の心を惹きつけて離さないのだ。
学友に、わたしのことを話さないのは・・・・
和馬さんの人前における和馬さんの姿勢も・・・・
和馬さんの存在、関連その全てが、わたしの不安をかきたてる。
逢ってまだ数ヶ月。わたしは既に、和馬さんに恋に落ちていた。
クスクス、と懸命に笑ってみせたが、内心はもう張り詰めていた。和馬さんへの想いだけで、胸が一杯だった。
年上の許婚が嫉妬で嘘泣きなんて、恥ずかしい。
誕生日プレゼントは腕時計を選んだ。理由はなんとなくだが、今、流行のモデルらしい。和馬さんも喜んでくれた。
お返しにと、一月遅れの誕生日プレゼントをわたしは貰った。
「本当に、こんなものでいいの?」
わたしは彼の腕をとり、カメラを持つ直人さんのほうに微笑む。
「直人さんにこんなことをお願いして、ごめんなさい」
「いえいえ。お安い御用ですよ」
不思議な人だと思った。普段はまじめに精練して、時には飄々として、でも見ているところは鋭くて。
その直人さんは和馬さんの直属SPで、彼だけは例外であった。人前では素っ気無く振舞う和馬さんだが、恐らくずっと一緒にいることで自身の半身という感覚なのだろう。
和馬さんとずっと一緒。
この思いは、このときも、これからも、わたしが羨望して止まない思いであり、この思いが満たされる日は・・・・あるのだろうか?
和馬さんと初めてお会いした新春会から三年目の日。
わたしは意図して白のワンピースを着た。さすがに白装束を着て街には出られない。
「もう、いいです・・・・」
もう、限界だったのかもしれない。
和馬さんを待たせ過ぎてしまったことに。
わたしの心が悲鳴を上げていることにも。
「ですから・・・・手付け・・・・いいです」
和馬さんに処女を捧げれば・・・・肉体関係を結べば、この無限の不安から解消されるのではないか。浅はかな思いだったかもしれない。でも、わたしは、和馬さんに抱かれたかった・・・・
未遂に終わってしまったそれ以降も、何度か和馬さんの携帯に電話してみたが、《電波の届かないところにあるか、電源が入っていません》と、無機質な宣告が繰り返された。
わたしは途方に暮れた。
浅はかな女って・・・・嫌われちゃったのかな?
和馬さんに嫌われる想像をしただけでも、わたしには悪夢であった。
このとき、わたしの知らないことではあったのだが、和馬さんの携帯は彼の手元にはなかった・・・・長男の一樹さまと険悪な関係にある、とは聞いてはいたが、まさか、わたしと引き裂くための策略の一環だったなんて、思いにも寄らなかった。
それから一週間が過ぎ、草薙の家に一本の電話がかかってきた。
「あら、和馬さま。お久しぶりですわね。源蔵さまがお倒れになった、と伺いましたが・・・・そうですか」
ホッとするお母さま。
「弥生ね、あの子まだ帰ってきてないのよぉ。・・・・解かりました、帰ってきたらあの子に伝えておきますわね。これからも、あの子のこと、よろしくお願いしますわ」
そのころ、わたしは・・・・
東京大学に進学したわたしは、神崎家と同じ区内にある住居を探し求めた。和馬さんに相談すれば、もっと格安で、いい場所を提供してくれたかもしれなかったが、驚かせたい一心で黙っておく。
でも・・・・
「ううっ、高いなぁ」
同じ都内といっても、やっぱり都心地。敷金礼金を含めると、予算内で見つけられたのは、高級住宅地に囲まれたこの《一刻館》のみ。
「まっ、いっか」
同じ区内なら、二日ほどバイトに当てても、和馬さんと会える時間は今まで以上に増えるだろう。和馬さんも高校受験を控えているから、「ほどほどにしなきゃ・・・・」なんだけど。
105号室に空きがある、ということで、わたしは仮契約をお願いする。
「では後日、敷金礼金含めてお伺いしますね」
「ふふっ、そう畏まらないでくださいね」
「変わった住人が多いけど、基本的にはいい人たちばかりですから」
管理人(五代響子)さんはとても綺麗な女性の人で、その旦那さんもとても優しそうな人だった。
ここにお世話になるようになって解かったことですが、管理人さんは怒るととても怖い・・・・旦那さんもタジタジだ。基本的に嫉妬深くて、やきもち焼き屋さん。それでも十分に魅力的な女性であることには間違いない。
素敵な夫婦だな、と思った。
わたしもいつか、和馬さんと・・・・
草薙の家に戻ったわたしは、和馬さんから電話があったこと知る。
「えっ、和馬さんから・・・・」
源蔵さまが持ちこたえたことと、そして明日の金曜日、都立国際公園で待っている、とのこと。
わたしにとってこれは一大事だった。これまでに和馬さんからデートの誘いはおろか、電話さえされたことがなかったのだから・・・・
その和馬さんがわたしの草薙の家にまで電話してきて、わたしにデートを申し込んだのだから、舞い上がるな、というほうが難しい。
「弥生?」
鼻がツーンとして痛い。わたしは感涙していたらしい。そんなわたしの様子を母が心配する。
・・・・うん。当然、するよね。
「お母さま。わたし、明日・・・・その・・・・帰れない、かも」
意味は正しく、お母さまに伝わった。
「そう。二年も和馬さまを待たせたものね」
「・・・・」
お父さまは気付いていなかった様子だったが、お母さまは、わたしがまだ生娘であることを見抜いたようだった。
「ごめんなさい・・・・」
新春会でわたしは自分の役目を果たせなかったのだ。「わたしは大丈夫」だと、お母さまに公言しておきながら・・・・。
わたしは母の胸に飛び込み、泣きじゃくった。
「ごめんなさい・・・・ごめんなさい」
「ううん。家のために、本当に弥生には悪いことした、と思っているわ」
わたしは母の胸の中で頭を振った。
「わたし、和馬さんに逢えて・・・・和馬さんと結ばれて、幸せよ」
「弥生、素敵な人に出会えて、良かったわね」
大きく頷いた。
和馬さん。わたし本当に・・・・
あなたに逢えて、幸せよ・・・・
時計を見る。まだ三十分もある。深い溜息を吐く。
時計を見る。まだ二十九分もある。深い溜息を吐いた。
さっきから、この繰り返しだ。
「クスクス、あのお姉ちゃん面白い・・・・」「こら、そんなことを言っちゃダメでしょ」という親子の声が・・・・わたしには聞こえても、全く気にはならなかった。
今日は何を食べよう・・・・ううん、きっと何を食べても、味なんて解からないだろうな。やっぱり、痛いのかな・・・・和馬さん、今日も怖くなるのかな。
それも待ち合わせ時刻が迫るに連れて、わたしの鼓動は高まっていく。
約束の時刻になったとき、わたしの鼓動はピークを迎え、わたしは大きく深呼吸をする。
少しだけ、落ち着いた。大丈夫・・・・今日、わたしは和馬さんに何をされても、我慢できる。
だが・・・・五分が過ぎ、十分が過ぎたころ。
「和馬さんが遅刻するなんて、初めてだな・・・・」
何か罰を与えよう、と思ったのは、十五分過ぎたころだ。
「ん・・・・何してもらおうかな〜」
この場でプロポーズの予行でもしてもらおうかな、とか、色々と意地悪な想像を浮かべる。
慌ててふためく和馬さんの姿が目に浮かび、わたしは頬の筋肉を緩めた。
「あなたが弥生さん!?」
「えっ? あ、はい」
全く知らない人に声を掛けられて、わたしはビックリとした。
白いワイシャツに神崎家の家紋が入った黒のスーツ。サングラスをつけていることを除けば、和馬さんの護衛、直人さんと同じ格好である。
「和馬さま、さっき、家を出たところで・・・・」
「えっ・・・・」
ドサッ、とわたしの小物入れが地面に落ちる。
目の前が急に真っ暗になったような気がした。
交通事故・・・・
そ、そんな・・・・だって、今日・・・・
「いま、病院に救急車で・・・・」
「早く! 車へ!」
運転席と助手席から声がして、わたしは慌てて従った。後部座席に座っても、まるで生きた心地がしなかった。
全身の身体が強張って自然と震える。
「そ、それで、和馬さんは!」
「大丈夫、落ち着いて、弥生さん」
男の人はわたしに紙コップを差し出す。
「これでも飲んで、まず落ち着いてください」
それを震える手で受け取り、ゆっくりと飲み干していく。
和馬さん・・・・無事でいて!
わたしは一息ついて、次第に視界が歪みだす・・・・
あ、あれ・・・・?
わたしは気だるく視線を上げ、彼らの表情を不審に思った。
和馬さんが事故にあったんだよ? それなのに何故・・・・
・・・・なんで、この人たちは笑っていられるの?
もうこの人たちが何を口にしているのか、解からない。だが、彼らはわたしの身体を揺らしながら、その口元は明らかな笑みをたたえている。
手にしていた紙コップが掌から落ちる。
その瞬間、わたしの意識は・・・・途絶えた・・・・
《一樹》
クックククク・・・・
後部座席で、意識を朦朧とさせている弥生の身体を、俺の膝の上に座らせる。そして大きくはないが、形の良い胸を掴みながら、首筋に口付けをした。
いい匂いだ・・・・。これが名門草薙家の令嬢の香りか。
「おい、近藤。しっかり撮れているか?」
「ああ、バッチリだ・・・・」
俺の問いはスピーカー越しに返ってきた。
弥生をレイプする貸し倉庫には、和馬声の木崎伸介、撮影のプロである近藤が主演女優の到着を待ち構えている。車に同乗するのは、親友の柴田誠と、田村浩二。俺に眠れる弥生の四人だ。
「マジレイプの撮影なんだから、当然だろう」
近藤雅人が言うには、基本的に市販されているレイプものは全て、事実らしく偽装されたものであるという。つまり、ヤラセだ。
田村浩二が非難めいた声を上げる。
「エー、全部偽装なのかよ」
「当たり前だろう。んなもん、流通させられるかぁ」
正論ではある。
レイプは強姦罪であり、その罪は刑法で重く罰せられる。それを撮影してメディアに流すことなどできるわけがないのだ。
「まぁ、俺も睡姦レイプをビデオに収めても、公表はできないわな」
生粋のレイプ魔である柴田誠も同感であるらしい。
だからこれがマジレイプだと、リアリティーを持たせるために、車内からの隠しカメラによって撮影を開始しているのだ。
「もうすぐそっちに着く。そっちの準備は?」
「ああ、もうこっちも万全だぜ。いつでも・・・・弥生ちゃんだっけ? いつでもいらっしゃい、って感じだぜ」
片手で背後から抱きかかえるように胸を弄び続け、首筋に何度も接吻を続ける。残された右手をスカートの中に忍ばせ、パンティーの布地を擦り付けた。
一般車両に比べて広い空間のあるBMWとはいえ、これぐらいしかできる行為がないのだから仕方ない。本番に向けて、今から弥生の身体に暖気運転させておいてやる。
気持ちよくしてやっているんだ。非難されるような憶えはない。むしろ感謝して貰いたい気分だ。
「んっ・・・・」
睡眠薬によって眠りに落ちた弥生の口が反応を示す。
感度の良さが伺えた。
目的地である貸し倉庫に着いた俺たちは、弥生の身体を両脇から抱え、すぐに倉庫内へと運んだ。
ガチャーン、と内側から鍵を閉める。
既に倉庫内の内装は完了しており、そこはあたかも普通の男の部屋を弄している。名門の令嬢をレイプするにはずいぶんと味気ない場所ではあったが、既に和馬の手垢のついた女には、これでも十分過ぎるであろう。
「よし、じゃ、まず・・・・ほぉ。こりゃすげー上玉じゃないか」
眠れる弥生の身体を一瞥して、近藤が唸った。
「ふふっ、これならお前の要望も条件を満たしているだろう?」
「ああ。予想以上だぜ・・・・よし、眼を覚ます前に女の素顔を撮らせておいてくれ」
近藤雅人には後日、弥生のレイプシーンを編集させる仕事があり、その指示をする姿は、まさにAV撮影の現場監督のようでもあった。
白いパイプベッドの上に弥生の身体を乗せ、俺たちはその間、ゆっくりと弥生の身体を撫で回し、衣服を一枚一枚、剥いでいく。そして下着だけのあられない姿に晒すと、両手首を左右のパイプに拘束した。
「よし、一樹・・・・そろそろ、いいぜ・・・・」
俺たちは一旦、全員の顔を見合わせた。これより後、俺たちは名前を呼ばないよう、慎重にことを運ばなければならないからだ。
目隠しを施し、俺は弥生の唇を奪うと、ゆっくりと口内に侵入し、舌を絡み取る。チュッパァッ、チュッパァッと音を立てて、その口内を侵していった。
誠と浩二が弥生のブラを上にずらし、二つの膨らみを露呈させる。乳房を揉み、乳首を刺激させる。基本的に膣以外の全ては、彼らにも開放してやる条件である。
「くくくく・・・・起きてくるよ、起きてくるよ・・・・ほら、乳首が起きてきた」
「気持ちいいんだよ、きっと・・・・なぁ、弥生ちゃん?」
ピクッ、と反応し、口元から「んっ」と漏れる。
意識のない眠りにある弥生は、時折、寝返りをうつようにして首を移動させた。そして俺は唇を伸介に譲ると、弥生の両脚のほうへ赴き、パンティーを引き摺り下ろしていく。
パンティーを片脚に引っ掛け、まんぐり返しの体勢から大開脚させる。
「さぁ、令嬢のオマンコのご開帳!」
「イェーイ! 綺麗なピンク色じゃん」
くぱっ、と押し広げた状態から、俺は唖然とした。
ま、まさか・・・・と、思った。
草薙弥生は和馬と婚約し、手付けを済ませているはずである。当然、非処女だと思っていた。が・・・・和馬の性格から、俺はおおよその見当がついた。
ククククッ・・・・
このときほど、和馬という弟の存在に狂喜したことはなかった。
俺のこの日のために、弥生の処女を残しておいてくれたのか、とさえ思えてならない。もしくは弥生自身か。俺に破瓜されるこの日のために、和馬にも身体を許さなかったのだろう。
ククククッ、他にこれをどう捉えればいい?
「見ろよ、この綺麗に整ったオケケ・・・・やっぱり令嬢ともなると上品だね」
和馬に処女を捧げる・・・・そのときのために丹念に手入れしていたことが、この場合、弥生にとって最悪な結果になってしまっていた。無論、それは俺たちにとっては、全くの関係のない話ではあったが・・・・
「おい、ここをアップで撮ってくれ・・・・」
「ん? 膣内・・・・?」
俺は頷き、一同を歓喜させる言葉を口にする。
「処女膜を発見した」
せっかくの処女である。記念に撮影に残しておいてやるべきだろう。
その俺の意見に誰も反対するものはいなかった。意識のない弥生の沈黙も、その容認の証であろう。
「ま、まじかよ!!?」
「この女、この顔のこの身体で、処女かぁ!」
正真正銘の処女をレイプする撮影・・・・AVを撮影するものにとってそれはまさに夢のような一大事である。しかも弥生のような美女で、由緒正しき令嬢とあっては、その喜びようも当然のものであった。
俺は弥生の下の口に口付けを交わし、令嬢の身体から生産された液体を、弥生純正の愛液を啜る。
これが名家の処女が滴らす、愛液か。
それは確かに、これまでの女の愛液とは、性質の異なる精分を含んでいるようにしか思えなかった。
「んんっ!」
俺が弥生の性器を舐め、左の乳首を柴田が吸い付き、右の乳房を田村が乱暴に揉む。木崎が濃厚なディープキスをして、そこに十六台のカメラの撮影固定を再び終えた近藤が、他の性感帯を刺激していく。
「くぁ・・・・ああっ・・・・」
五人がかりの愛撫に意識のない弥生は、処女の未開発の身体とはいえ、現在、性感に無防備な状態である。手馴れた五人がかりの責めに、弥生の身体は生まれて初めての絶頂に達した。
「今、イッたな?」
「どんどん気持ち良くさせてやろうぜ」
「本番はこれからだよ、弥生ちゃん」
「せいぜい頑張ってくれや〜〜」
誰がどの台詞を吐いたのか、俺たちでさえ把握できてなかったが、(撮影中、木崎伸介だけは沈黙する、という条件なので、他の四人による)俺たちは同時に嘲笑を上げていた。
弥生が目覚めるときが本番であり、その本番を迎える前までに、既に弥生の身体は五回も絶頂を覚えていた。もはや目覚めたところで、この場から逃げ遂せるだけの、俺との性交から逃れるだけの体力は、もはや残されていないだろう。
弥生のレイプによる・・・・処女喪失。計画の首謀者である俺でさえも予定にしていなかったその瞬間が、もう間もなく訪れようとしていた。
《弥生》
五度目の絶頂に身体が達したとき、わたしはその衝撃の余波で覚醒へと向かっていった。が・・・・薄く目を開けても真っ暗だった。重い感じのする両手も、わたしの意思に反して動かない。
「んんっ・・・・うっ・・・・」
そして胸を圧迫するような感覚。股間を弄られている感覚さえも曖昧だった。その五度目の絶頂に達した余韻が引いていくにつれて、わたしは意識を失う前の・・・・車に乗り込む前の記憶を取り戻す。
あ、今日は和馬さんと・・・・処女を捧げる・・・・
睡眠薬の副作用によって、服用したその前後の記憶が、すっぱりと失われていた。
「ああ・・・・和馬さん・・・・んっ、」
「おっ、お目覚め?」
途端にわたしの心が、顔が硬直した。
和馬さんじゃない!!
「だ、誰!?」
「さぁね。これから弥生ちゃんに気持ちいいことをしてあげる、優しい人たちだよ、きっと」
「違いない。違いない」
そして全身に不可解な違和感が襲ってくる。
な、なに・・・・わたし、今、何されているの!?
なまじ視界が利かないわたしだっただけに、それは恐怖以外のなにものでもなかった。まさか、和馬さんにも見せたことがない身体を、ほぼ全裸にされて、乳房、股間を弄られているのなどと想像できようはずもなかった。
「い・・・・いあ・・・・くぅぅ」
何かがわたしの内から沸きあがってくる。意識的を初めての絶頂を目前にされて、わたしは懸命に堪えようとする。なぜかは解からないが、そうしなければならないような・・・・恋する女の本能であった。
「いあ・・・・な、なに・・・・くぅぅぅぅ・・・・」
だが、どんなことにも我慢の限界はある。ましてわたしの身体は無意識の間に五回も絶頂に昇りつめてしまっている身体である。六回目の絶頂に達するのも時間の問題だった。
「おお、今度のは、すげーーー、」
暗闇でしかない目の前が、バチバチバチバチと火花を散らし、全身が硬直したように強張っていく。今、自分の身体がどうなっているのか、視界の利かないわたしには理解できようはずもなかった。
「盛大な潮吹きだったな・・・・」
「この女。意識を取り戻して、我慢しやがったぜ、きっと・・・・」
はぁ・・・・はぁ・・・・身体が・・・・重い。
全身の感覚が・・・・今、どうなっているの?
まだ聴覚が不安定なのか、良く男たちの声が聞き取れない。そこに何人いるのか、何を言っているのか、わたしには理解できなかった。
その男たちの言葉を理解できなかったわたしにも、今から何をされるのか・・・・わたしの身体が教えてくれた。
「あっ・・・・いっ・・・・痛ァ・・・・」
股間から貫かれるような、激しい痛み。
ま、まさか・・・・
わたしの二年間。和馬さんへの想いを・・・・十八年間護り続けてきた純潔を、今、まさに突き壊されそうとしていた。
あっ・・・・嫌・・・・そ、それだけは・・・・
そ、それはか、和馬さんに捧げる、って約束した・・・・
そ、それだけは・・・・それだけはダメェェ!!!
《一樹》
俺は親友からローションを受け取り、これから弥生の処女を奪うべくペニスにトロリと垂らしていく。どんな淑女でもよがり狂うという、親友が実家のルートを通じて入手した逸品だそうだ。
弥生の素股を何回か擦り付け、ゆっくりと秘所地に宛がう。ギチィギチィと激しい締め付けを確認しつつ、俺は少しずつ埋没させていった。
「いっ・・・・痛ァ・・・・」
蒼ざめた弥生の引きつった表情は、この痛みと破瓜されることを自覚できた証明であったろう。
「か・・・・和馬さん・・・・」
「和馬ってのは、お前の彼氏かよ?」という言葉は誠で、俺は少しずつ腰を埋没させていき、「んじゃ、彼氏に伝えておいてくれや・・・・ごちそうさま、とよ!!」という伸介の宣言に、《ズブスブズブブゥ・・・・》、と弥生の身体への侵入を果たしていく。
和馬。ありたがく頂くぜ!
弥生の・・・・処女をなぁ!
《ブチブチ!!》と千切れる、この感触・・・・名家の令嬢の処女膜は確実に崩壊を遂げ、俺によって女へと成長を遂げていく瞬間である。
《ブッツ》と最後の抵抗が弾け、《ズブズブズブ・・・・》と俺の全てが飲み込まれていく。「いやぁあああああ・・・・」と絶叫する弥生の悲鳴が何とも心地よい。
「さすが、初物! すげー締め付けだぜ・・・・」
これが名家の令嬢の身体か。これが高校テニス界でも期待され、インターハイを制した膣内、さすがに凄い締め付け具合だ。これほどの名器には俺の性交歴の中でも、まず出会ったことがない。
「喰いちぎられそうだ・・・・」
俺の全部を納めて弥生は、唯一自由にできることをした。懸命に頭を振り、絶大な悲鳴を上げる・・・・その唯一に許された権利を。
いや、もう一つ弥生には権利があった。
俺を受け入れるという・・・・名誉が。
俺は弥生の悲鳴をお構い無しに、腰を突き動かし始めた。特製ローションを塗りこまれた俺のペニスを、弥生の膣内はきくつ締め付け、まるで極上の肉棒のように巻いて包んでいった。
破瓜の痛みによって自覚できていないようだが、確実に弥生の身体は感じていることが、犯している俺にははっきりと認識できる。
さすがは令嬢。さすがはテニス界の膣内。そう長くは持ちそうにない。
「すげっ、ヤバイゼ・・・・コレ!」
「処女喪失・・・・初めての男に、初めての受精というプレゼントだ。初めて尽くしに身体に記念品ができるかも・・・・な」
近藤の言葉に、悲鳴を上げ続けていた弥生が、一瞬にして愕然とする。
《弥生》
その男の抽象的な言葉の意味は、明白だった。
激しい激痛の最中、悲鳴を上げていたわたしに・・・・「妊娠」という最悪の結末が、わたしの脳裏によぎる。その悪夢のような想像は、破瓜された痛みも、レイプされている陰惨さも吹き飛んでいた。
「ケケケケ、膣内出しだ。膣内射精だ!」
「赤ちゃん、こんにちわぁ〜〜僕たちがパパでちゅよ〜〜」
今日は安全日のはずだが、その男たちの嘲弄が、現実になる可能性が全くないわけではない。顔をも知らない、いや・・・・和馬さん以外の子供などわたしは妊娠したくもない。
わたしは懸命に抵抗した。絶対にそれだけは忌避したかった。
「・・・・そんなに、膣内射精されたくないか?」
別の男の人の声が、わたしの耳元に届く。
わたしは目隠しされた頭で頷く。
当然だ。
破瓜されてしまった現実はもう覆らない。まだそう簡単に割り切れることでもなかったが、レイプされてしまった事情を説明し、懇願すれば和馬さんも、まだ許してくれるかもしれない。
いや、許して貰えないかもしれないが、それでも和馬さん以外の子供を妊娠したくはない、わたしの気持ちだけは絶対に変わらない。
「言われたように言えば、膣内出しだけは勘弁してやる・・・・やるか?」
わたしは頷く。
これが後日、和馬さんとの決別を決定付ける始まりとは知らず、わたしは頷いてしまった。
「だったら、レイプされていることに感謝しろ。たとえ演技でも、俺たちを喜ぶように振舞え・・・・」
「極端な話、気持ちいいぃ〜とか、膣内に出してもいいよぉ、とか、だよな」
「そ、そんなこと!」
言えるわけがない!
「おい。こっちはレイプしているんだ・・・・別にいいんだぜぇ〜〜お前の膣内に出そうが、お前が誰の子を孕もうが・・・・よ!」
「形だけでも、どうせなら、楽しいSEXをしたいだけなんだよ。俺たちは!」
このとき、わたしが平静であったのなら、否・・・・彼らの嘘をすぐに見抜いたことだろう。だが、わたしは「妊娠」という悪夢のような出来事を忌避できるのなら、と・・・・わたしは頷いてしまう。
「そ、そう言えば・・・・」
「ああ、膣内出しだけは勘弁してやるし、お前の身体で愉しんだら、すぐにでも解放もしてやるよ」
それがどんなに甘い考えだったことか、すぐに知らしめられることになるのだが・・・・
わたしはあくまで演技の中で抱かれた。顔も知らない男を受け入れる、そのふりをした。激しい痛みしかない性交に、何度も「気持ちがいいの、もっと奥に・・・・」などと口走った。
ごめんなさい・・・・和馬さん。
でも、こうしなければ、わたしは完全に穢れてしまう。
和馬さん、ごめんなさい・・・・
「ぐっ、そろそろ・・・・」
わたしを犯していた男が、限界を口にする。
「な、膣内に・・・・出してください・・・・わたしは、大丈夫・・・・ですから・・・・」
「和馬って彼氏、いるんだろう?」
「いいんです・・・・和馬さんなんて、もう・・・・」
物凄く惨めだった。
物凄く悔しかった。
こんなことを言わなければならない自分に・・・・そして、他人の人に犯されながら、和馬さんの名前を口にしたことが、和馬さんに申し訳なかった。
「よし、全てのピースが揃ったな・・・・いいぜ、そろそろ」
「えっ?」
「彼女の要望どおりに、膣内に出してやれよ」
!!!
そ、そんな・・・・話が・・・・
全てが遅かった。その騙された衝撃に、わたしには膣内出しを抵抗する時間も、気力も残されていなかった。
《ドバァッ、ドクッ・・・・ドクッ・・・・》
膣内に出される不快な感覚が・・・・わたしの全身を襲う。
いやあ・・・・いやぁああああああああああ!!
《一樹》
「どうだ? 初めて知った男の味は、ってやつは、よ?」
弥生はもう、俺たちの言葉に微動だにすることはなかった。
破瓜レイプ、偽装SEX、そして初の強制受精。立て続けの衝撃に心が麻痺してしまったのだろう。
俺はその後も、三回に渡って弥生の身体を散々に嬲り続けて、その回数に等しい膣内出しを決行してやった。
レイプするのは俺一人であるから、相当な重労働である。弥生の身体のほうは感じているのだから、むしろ感謝して欲しいところではあった。
「男の味を知った感想を、彼氏に伝えてやれよ。彼氏きっと公園で待っているよ、恋人がレイプされたことも知らずに、ね。ククククッ・・・・」
「ああ、交通事故にあったって話、ありゃ、嘘だからよぉ!」
「安心したろぉ? その間に弥生ちゃんは男の味を噛み締められたわけだし。良かったなぁ。ヘッヘッヘ・・・・」
同志たちの心のないの言葉に、俺は弥生の携帯を取り出し、検索する。和馬の番号など検索するまでもなく知ってはいたが・・・・
「和馬・・・・和馬・・・・あった、神崎和馬、これだな」
フックをかけてダイヤルする。目隠しはしているが、耳栓はしてない弥生にも十分に聞こえるだろう。無論、電話したところで和馬が出ないことは解かっている。いや、正確には出られない、といったところだ。
和馬の携帯は【弥生陵辱計画】が立案した日から、電源を切って、俺の机に保管してあるのだ。
弥生の処女を譲って貰ったのだ。帰ったら携帯ぐらい、返してやってもいいか。
フフッ・・・・・
ハハハハハハハッ・・・・・・。
「ちっ、電源が落ちているのか・・・・空気の読めない彼氏だよな」
浩二のやつもよく言う。
「記念品にお前の携帯は貰っていくぜ」
俺は弥生の股間を写メで撮影し、自分のポケットにしまった。
これで弥生と和馬は、互いに連絡を取り合うことができなくなる。神崎の家の直通は俺が遮断するし、草薙の家にも既に仁科が例の交渉に赴いている。
俺の立てた計画は完璧だった・・・・そう、完璧だったはずだった。
たった一つの計算外のことがあったのだが、それを俺は知ることもなかった。
まさか弥生が和馬の携帯だけでなく、和美の携帯番号をも記憶していた、などとは・・・・
《弥生》
暫くした後、わたしは解放された。
古びられた倉庫の中にパイプベッドが一つ。シーツには破瓜された鮮血が滲み、わたしの股間からは、膣内出しされた証左が溢れ出す。
・・・・。
わたしはお気に入りのワンピースを身につけ、引き摺り下ろされていたパンティーを穿き・・・・崩れ落ちるように座り込んだ。
頬に涙が伝わる。
わたしはゆっくりと頭を振り、次第に激しく・・・・
わたしは蹂躙されてしまった・・・・のだ。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
わたしがレイプされた翌々日。
あの日の深夜に戻り、それから自室に引き篭りがちだったわたしは、その日のうちに病院へ足を運んだ。草薙の家と懇意のある病院であり、そこの一人の外科医には、わたしもテニスの部活などで何度かお世話になったことがある。
わたしは両親にも誰にも口外しない、という約束を取り付け、診察してもらうことを依頼した。
診察の結果・・・・
わたしは大きく安堵の息を吐く。
「まぁ、僕は産婦人科の人間じゃないからね・・・・まだ正確なことは何とも言えないが・・・・君の体内の中には精液が残っている」
基本的に男の人の精液は、三日間女性の体内に依存するという。
「その間に君が排卵しない、とは限らないだろう。これを飲んでおいてください」
わたしはその薬の意味を知っている。妊娠避妊薬・・・・通称「ピル」と呼ばれる、それである。
「草薙さん。言いたくなければ、言わなくてもいい。ただ、レイプは親告罪なんだ・・・・」
わたしは全ての事情を説明したわけではなかったが、先生はだいたいの事情を読み取ったのだろう。
「君が告訴しない限り、相手は罪に問われない」
「・・・・解かっています」
だが、わたしは告訴することはなかった。
一つには和馬さんには絶対に知られなくない、という思いがあったのは事実だろう。だが、それ以上にわたしは、あの悪夢のような出来事を一日も早く忘れたかったのだ。
とにかく・・・・まず、和馬さんに謝罪しよう。
デートの約束をしていたのに行けなかった理由は、もう別に考えてある。処女も捧げられなくなってしまったが、これは後日、きちんと謝罪するようにしよう。
その結果、婚約が破棄されてしまうかも知れなかったが・・・・
「うん。誠心誠意、謝れば・・・・きっと・・・・」
大丈夫ですよね・・・・和馬さん?
だが、草薙の家に帰宅したわたしに待っていたのは、その哀願をも打ち砕くような一個の宅配であった。
親しかったメイドから手渡しで受け取る。草薙弥生宛で、差出人は記入されていない。正規の宅配便ではないのが明白であった。
包みの中に入っていたのは、一枚のDVDに一通の手紙。
わたしは手紙を開き、愕然とする。
「これを和馬くんに見られたくなかったら・・・・」
わたしは恐れるようにDVDを再生させる。
「こ、こんな・・・・」
思わず口元を抑える。
こんなものを和馬さんに見られたら・・・・
わたしは慌てて、再び手紙に目を通す。「○×日(今日)七時。あの公園に一人で来い」
わたしは時計を見る。今、六時十分過ぎ・・・・
絶対に間に合わない。
だが、行かないわけにはいかなった。
確かにDVDが映し出されている映像は、あのときのレイプシーンではあるが・・・・わたしはこのときになって、一人の男が「全てのピースが揃ったな」という意味を理解したのだった。
お抱えの運転手に車を出して貰い、途中でコンビニに寄ってもらう。アパートを借りる敷金礼金のお金も含めて、たかが百万程度しか預金されていないが、この際、これ(お金銭)で手を打って貰うしかない。
また相手がわたしの身体を要求したら・・・・?
その恐怖がわたしに付きまとう。
だが、それでは永遠に和馬さんを裏切ることになるだろう。そのときは要求を拒絶し、全てを和馬さんに打ち明けるしかない。わたしは覚悟を決めた。
「お嬢様、着きました・・・・この公園でよろしいのですよね?」
わたしは時計を見る。二年前に和馬さんにプレゼントした時計の対となる女性用のやつだ。
七時二十五分・・・・。二十五分遅刻だ。
「ありがとうございます。ここからはわたし一人で行きますので」
「し、しかし、こんな夜分に・・・・」
一般的には普通でも、令嬢として育てられてきているわたしの家には、確かに夜分といっていい時刻ではある。
「そういう和馬さんとの約束なの」
今日はここに和馬さんはいない。解かっていて言った言葉だったが、わたしの胸中には郷愁が付きまとう。もう和馬さんの胸に抱かれることはないかもしれないだから・・・・
だが、待ち合わせた場所には、誰も現れなかった。正確には男女のカップルだけで、一人身の人間はわたしだけである。
当然ではある。わたしを呼び出した人間は、今、わたしの草薙の家にいたのだから・・・・・
《一樹》
俺の突きつけた要求に、草薙の両親は愕然としていた。
それもまぁ、無理はなかったかもしれない。事前に仁科を使って接触させてはおいたが、単刀直入に用件を告げたのはこのときである。
「もう一度言う。和馬との婚約は解消だ。無論、これを期に草薙家との関係も終幕となるのだが、俺と弥生との婚約を認めるというのなら、今までよりも多く、草薙の家を支援してやる・・・・」
「で、ですが・・・・あの子は・・・・和馬さまを・・・・」
「あれは神崎の名を語る、不届き者だ。それとも何か、その不逞な奴に義理立てして、家を潰す気か? それはそれで一向に構わないが・・・・」
草薙の家が潰れれば、それはそれで俺の当主への道が確定するのだから、草薙の家だけに固執する理由はない。
草薙の家は二者択一の選択に迫られ、両親共に額に汗を浮かべる。
「一つ、お前たちの重枷を外してやろう」
このままでは埒が空かない。時間を浪費していては、いずれ弥生が帰ってきてしまう。できるものなら、草薙の家も、弥生の身体も手に入れておきたい。
「元々、新春会に招かれていたのは、俺だ・・・・まぁ、確かにこっちの都合で和馬に替わったわけだが、こう考えろ。元の鞘に戻ったのだとな」
「し、しかし・・・・」
「それにいずれにしても、神崎の当主になるのは俺だ。そのとき、草薙の負債も全て受け止めてやる」
弥生の身体も含めてな。
「わ、解かりました・・・・」
フフフッ、俺はこのときに勝ったな、と確信した。
「仁科と巧くやれよ・・・・弥生がしびれ薬を飲み、準備が整い次第、手付けの儀に入る。それまで俺は休ませておいて貰おう」
今日は一晩かけて、弥生の身体を抱いてやろう。和馬のように契りを延期するような愚行など、俺は絶対にしない。たっぷりと膣内出しして、これを期に弥生を妊娠させてしまうのも、いいかも知れないだろう。
俺は知らない・・・・
この日の弥生は、避妊薬を含んでいたことなど・・・・
不可能なことに挑戦する、無益なことではあったが、それを差し引いても、弥生の身体の名器は気持ちよかったが・・・・
《弥生》
間に合わなかった・・・・
あれから二時間近く、あの公園で待っていたわたしだったが、とうとう呼び出した男に出会うことはなかった。
和馬さんがあのDVDを見てしまう・・・・その恐怖がわたしを二時間近く、あの場に留まらせていた。
わたしは公衆電話の前で立ち止まる。和馬さんに電話して全てを打ち明けよう、とも考えた。あのDVDが強要されて撮らされたものだと告白しておけば、少なくてもわたしに対する脅迫材料はなくなる。ただ和馬さんとの婚約を解消させられてしまう、その恐れはあるが・・・・
「明日、和馬さんの家に行こう・・・・」
ううん。こういうことは直接会って、謝罪するべきだ。
今日が和馬さんの婚約者としての、最後の夜になるかもしれない。そう思うと、それだけに重い足取りで帰宅の途についた。
草薙の家に帰宅したわたしは、両親と神崎家の執事と言い合っている、その最中のことでした。
「それが神崎の・・・・和馬さまのやり方なんですか!」
え?
お母さまが激昂している様子が、玄関先まで届いた。わたしは足早に会談室に向かった。
「弥生の純潔を奪ってしまえば、もうあの娘には用がない、とでも言うのですか!?」
一人娘であるだけに、母の憤りは当然のものであったかもしれない。だが、わたしは心の中で、母の言動を否定する。
お母さま・・・・それは違う。
わたしは和馬さんに処女を捧げてなどいない。和馬さんに捧げるその前に、見知らぬ男たちによって奪われてしまったのである。
だが、わたしの衝撃は、母の言動の最後・・・・「用がない」というほうに気を奪われた。
「お母さま! それはどういうこと!?」
「弥生!」
両親がわたしを一斉に見る。神崎家の執事の人は深く頭を下げた。
「弥生さま。申し訳ありません」
「いきなり、神崎家が弥生との婚約を解消したい、って・・・・」
そ、そんな・・・・
わたしは愕然とする。急だ・・・・あまりにも急すぎる。
「か、和馬さんに・・・・和馬さんに会わせてください!」
「重ねて申し訳ありません。和馬さまはここに来る必要はない、と申されまして・・・・」
「そ、そんな・・・・」
せめて理由がわかれば・・・・レイプされたことと関係しているのか、もしくは元々のわたしが嫌いになったからだけなのか?
後者なら和馬さんも人である。容易に諦めきれる想いではなかったが、わたしも受け入れるしかない。だが、もし前者であったのなら、和馬さんに会って謝罪し、詫びるしかない。
「ただ一言、DVDを見た、と言えば、弥生さまには解かると・・・・」
!!!
あ、あれを・・・・見られた・・・・。
目の前が真っ暗になり、わたしの心は、絶望による漆黒の一色に染まった。立っていることもままならなくなり、力なく、その場にへたりこんでしまう。
親しいメイドの肩を借りることで、なんとか自室まで戻れたわたしだが、その間、彼女の声も今のわたしの心には届かなかった。
もはや、絶望的だった。
あれはただのレイプ映像ではない。強制された演技と、映像の編集を重ねられて偽装された、わたしのSEX映像である。「いいんです。和馬さんなんて、もう・・・・」「膣内に出してください」と、明らかに和馬さんを裏切った言動が撮られていたのだから。
誰があれを見て、レイプされたのだと、信じるだろう。
暫くして、お母さまが入室してきた。
「弥生、少し落ち着いた?」
「・・・・うん」
わたしの身を案じてくれるお母さまには、そう言う以外になかった。
「な、わけがないわよね・・・・」
「・・・・うん」
確かに和馬さんとの交際は、もう絶望的だったが・・・・それでわたしの想いが完全に断ち切れるものでもない。恐らく一生、わたしには苦い思い出にしかならないだろう。
お母さまはメイドから小さな丸盆ごと受け取り、わたしにグラスを差し出す。
「少しアルコールが入っているから、これでも飲んで、少し落ち着くといいわ」
「ありがとう、お母さま・・・・」
まだ未成年のわたしだったが、こうやって大人は悲しみをお酒で薄めるのだと教わった。
暫し、母娘の間に無言の沈黙が流れた。
「弥生、ごめんね・・・・」
「えっ?」
突然、沈黙を破ったお母さまの真意を測りかねた。
「御家の存続のためとはいえ・・・・」
な、なにを、と、言おうとしてわたしは唖然とした。
口が・・・・か、身体が・・・・
「こうするしか・・・・なかったの・・・・」
お母さまはわたしの身体に白装束を身に纏わせ、下着を剥ぎ取り、純白の・・・・白雪のような蒲団に横たわらせる。かつて新春会で和馬さんを迎えた、あのときのように・・・・
お、お母さま・・・・そんな・・・・
こんなの・・・・嫌ぁぁ・・・・
神崎家の援助がなくなれば、草薙の家の経営が傾くのは一人娘のわたしにも解かる。そう、遠くないうちにわたしは売り出されることも覚悟しなくてはならなかった。が、まさかその日のうちにことが運ぶなんて、あまりにも性急に過ぎる。
「準備が整いました」
そのお母さまの言葉に一人の男が入室する。
「一樹さま。不束な娘ではございますが、なにとぞ、よろしくお願い致します」
わたしはお母さまに見守られながら、和馬さんの兄に抱かれていった。
その人物とは、東京大学の試験で面識があったはずなのだが、それを思い出すことはなかった。
が、わたしはこの男を知っていた。
正確には、一人の男しか知らないはずの、わたしのこの身体が、だ!
「やはり、弥生、お前の膣内は最高だぞ・・・・」
わたしは力の入らない身体で懸命に抵抗する。が、わたしを破瓜した男の象徴が、再びわたしの身体を貫く。
わたしは、わたしを売ったお母さまに懸命に手を伸ばし、障子が閉めきれられていく。
お母さまぁぁぁ、わたし・・・・
こ、こんなの・・・・・
いやぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!
・・・・三日後。
わたしは必要最低限の私物を持って、草薙の家を出た。
「さようなら・・・・」
《一刻館》の住所も、連絡先も両親には告げてはいない。わたしを和馬さんから一樹さまに売った両親も、敢えて問うような真似はしなかった。
わたしがこの家に戻る日は、もう二度とこない。
少しの間だけ、瞳を閉じた。
この家で和馬さんへの想いが始まり、そして、この家で断ち切られてしまった。
和馬さん・・・・
旅立ちの日だというのに、もう叶わない想いだというのに、わたしの胸中は痛いほど締め付けられ、瞼には熱が篭った。
和馬さんの婚約者でいられた二年間が幸せだった。恐らくわたしの人生の中で、もっとも輝いていたころであっただろう。
和馬さん・・・・そして、和馬さんを好きだった、わたし・・・・
・・・・さようなら。
わたしは号泣した。このときばかりは泣くことを恥とは思わなかった。
両親の出送りをわたしは拒絶した。
後日、わたしは少しだけそれを後悔する。それが両親との最期の別離となったはずだから・・・・特にお母さまとの最期は、一樹さまに抱かれている、あのときが最後になってしまった。
数年後、草薙家は圧倒的な財閥の力によって踏み潰れる。
その名も大原財閥。現在、日本でもっとも強大な勢力であり、その財閥の力は神崎家をも遥かに凌駕して・・・・
そう、わたしの幸福だった婚約者の人生があのときに終わりを告げ、
そして・・・・苦渋の人生がこの日から始まるのであった。
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