第三章【螺旋の迷宮】
(2)
「お目覚めのご機嫌は如何かな、パッフィー姫?」
それが彼女にとって最も嫌悪する男の第一声だった。その男の存在に、全身の血の気が引いていくのを、彼女は肌で感じた。
彼女には初めての面識で、見た事もない男性だった。年齢は三十代前半であろうか、物静かな、穏やかな雰囲気を漂わせる第一印象だったが、その男の声を、彼女は・・・・・・彼女の身体は、しっかりと憶えていた。
・・・悪夢のような出来事が、フラッシュバックする。
「返答も戴けないとは・・・姫にとって初めての男、純潔を捧げた男に対しては、つれない態度ではないのかな?」
「・・・・・・」
パッフィーは身体を硬直させたまま、思考は悲惨な前夜に混乱し、口もまともに機能を果たさない。
「まぁ、それはそれで、俺は一向に構わないがなぁ!!」
不必要な会話は無用であった。何より彼は、心を開かなかった妹のマーリアを一年間、抱き続ける事ができた実績がある。彼にとって、妹のマーリアも、その娘のパッフィーも、その具合の良い名器な身体で愉しめ、カリウスの種を宿らせられれば、一向に構わないのだった。
「くっ!」
今まで伏せていたベッドに組み倒されて、パッフィーは硬直した身体でも懸命に抵抗した。前夜と違って、後ろ手に拘束されていなければ、視界と身体の自由も奪われてはいない。
だが、彼女の懸命な抵抗も、カリウスの手痛い平手打ちに、容易に鎮圧されてしまった。
「小娘が・・・身の程をわきまえろ」
冷笑をこぼした男の手がアンダーシャツを掴みあげると、昨夜に散々嬲りものにした乳房をあらわにさせ、破瓜した証を刻んだ短めの白いスカートを剥ぎ取る。
下は何も着けておらず、昨夜まで穢れなかった・・・・・・そして、カリウスを懸命に愉しませてくれた谷間が晒される。
手際よく彼女の太股を掴み上げ、マングリ返しの体勢にする。その誰もが羨望するであろう情景を一瞥して、毒づかずにはいられなかった。
「フン、まだ未使用同然の色合いか! 生意気な・・・・・・」
もし今の状態が昨夜ならば、カリウスはまさに滑稽なピエロを演じていたであろう。彼はわざわざ観衆に向けて、この穢れなさそうな彼女の色合いから、未だパッフィー姫が処女であると匂わせ、観衆を沸かせたのだから・・・・・・
「今日は観衆も・・・姫のお仲間も立ち合わせてやれなくて、姫も盛り上がりが欠けて、残念かも知れないが・・・・・・」
昨夜、思う存分に犯した、彼女との結合部に口を這わせると、丁寧な舌運びで、巧みに彼女の性感を刺激する。
「その分、誰にも気兼ねする必要もなく、たっぷりと性交を楽しもうではないか」
意識を取り戻してから間もなく、十分に感じ取れない彼女の身体であっても、その感度は抜群・・・・・・性感は敏感な身体の持ち主である。カリウスの舌先が触れてから間もなく、彼女の身体は小さく、≪ピクッ≫≪ピクッ!≫と震える。
「相変わらず、男を愉しませてくれる身体だな・・・」
パッフィーは、また犯される・・・・・・という恐怖を前に硬直して、歯をカチカチと口内で奮わせる。数々の苦難と激戦を潜り抜けてきた歴戦の英雄の一人とはいえ、それ以前にまだ年頃の女の子である。犯された恐怖は、また、魔族に命を狙われ続けた恐怖と、また異なる異質な恐ろしさであった。
太股から腕を絡ませ、あらわにした乳房を鷲掴みする。十五歳の少女にしては、少々豊満に過ぎる持ち物だが、これから大切な次世代への赤ん坊を育てる事を思えば、カリウスにとっても好都合である。
(フフッ・・・これからは毎晩、俺の手によって、もっと立派な胸に育ててやろう)
まだ彼女の身体は、カリウスを受け入れるほどに濡れてはいないが、その分、カリウスの唾液が役代わりを果たしてくれるだろう。
「もう、いいだろう・・・・・・」
抑え込んでいた身体を解放し、既に怒張しているペニスを抜き出すと、正常位の体勢から、彼女の身体に宛がう。その時、パッフィーは覆い被さった男の胸板に対し、両の手の重ねて突き出した。
「何の真似だ?」
そのか細い両腕では、カリウスの行為を妨げる事はできないだろうし、前夜ほどではないだろうが、激痛を和らげるつっかい棒の役にも立たないだろう。
「わ、私を犯せば・・・魔法を打ちます!!」
断固として決意した意思が、その濃蒼色の瞳からも窺えた。
如何にカリウスが伝説の魔導師で、千年近い歳月を生きてきた男とはいえ、その身体は普通の人間である。この至近距離から魔法を受けて、無事なはずがない。
「さ・・・昨夜、貴方が・・・・・・」
忌まわしい限りの悪夢が脳裏をかすめたが、彼女はそれを懸命に振り解き、その声質には微塵の揺るぎもなかった。
「わ、わたくしに・・・した・・・・・・事は・・・・・・忘れて差し上げます・・・・・・だ、だから・・・わ、わたくしを・・・わたくしと、アデューたちを解放・・・アデューたちは無事なのですか?」
語尾が僅かに強張った。そのカリウスの返答次第では、ただでは済まさない意思が、彼女の姿勢からも伝わってきた。
「勇者一行は生かしたまま、捕らえてある」
自分の命を彼女に握られ、形勢逆転の状況に見えたが、カリウスは平静な口調、そのままだった。
昨夜の出来事を忘れる・・・・・・いや、彼女には忘れがたい出来事であり、二度と取り返しのつかない傷を身体に刻み込まれ、ほぼ妊娠も揺るぎない現実である。忘れる事など不可能だろう。だが、彼女はこの現状打破のために、敢えて大地剣から飛び降りる、断腸の思いでの交渉であろう。
だが・・・・・・
「撃つならば・・・・・・撃て!」
カリウスは宛がったままの腰を沈め、パッフィーとの四度目の結合に及んだ。このモンゴックを・・・いや、いずれこのアースティアを席巻する覇者が持つに相応しい凶悪なまでのペニスが、彼一千年の歴史の紐を解いても、極上と評するしかできなかった、パッフィーの身体を、膣内を掻き分けて侵入を果たしていく。
カリウスに小さな両肩を抑え付けられ、その男の象徴全てを突き込まれてしまう。彼女は再び犯されてしまった事に絶望しつつ、意を決したように詠唱を唱える。
ここでこの男を殺して、無事ですむとは思わない。また、これでアデューたちに危険が及ぶ可能性も否定はできなかった。
だが、ここでこの男に再び犯されるぐらいならば・・・・・・
「ヒュントォ!」
パッフィーが四たび、カリウスを受け入れた時、彼女は男の胸元に向けて・・・・・・魔法を解き放った。
カリウスが彼女に告げたように、彼女の仲間・・・・・・つまり、勇者一行は、カリウス私邸の地下室で監禁されていた。
拘束こそ解かれていたが、そこには一切の窓もなく、無数の鋼鉄製の鉄格子付き。当然、全ての武器を剥奪され、二重の格子先には、完全装備の警備兵が目を光らせている。
「クッ・・・奴ら、こんな所に閉じ込めやがって!」
サルトビが壁を蹴り込む。超硬質素材の壁は無機質な音を鳴り響かせたが、それ以上の変化を認めなかった。腹立たしい限りだが、完璧な監禁状態であった。
「だが、少なくても、生命の危険だけは保証されているようだな」
イズミが指摘したように、彼らは昨夜・・・・・・あの忌まわしい限りの出来事を見せ付けられた最中、完全に自由を奪われていた。その後、殺されようとしても抵抗一つさえできなかっただろう。また、ここに移されてからも、朝と昼の食事は運ばれてきたし、毒も盛られてはいなかった。
もっとも、こんな状況で、どこまで保証されているか定かではなかったが・・・・・・
「だが、この間にも、パッフィーは・・・・・・」
アデューが口惜しい口調で、サルトビ同様、無実の壁を殴りつけた。
その仮定が、腹立たしい光景を思い起こさせる。苦楽を供にしてきた彼女を嘲笑うかのように、穢れない純潔を・・・無垢だったパッフィーを穢したあの男は、泣き叫ぶ彼女を他所に、最も危険な状態であった彼女の身体の膣内に、大量の欲望を注いでしまった。
「あの時、俺があの嫌な予感をした時に・・・・・・」
市長マードックの邸宅で感じた奇妙な違和感・・・まるで誘き出されているような感覚が、今更ながらにアデューにはあった。実際にそれは、カリウスが勇者一行を厳重な防衛網に誘き寄せ、こちらが疲弊したところを待ち構えていた様子であった。何より、敵に魔導師クラスの使い手がいた事実を事前に掴めなかった時点で、アデューたちは完全に敗北したのだ。
そして、その敗北の代償が・・・・・・パッフィーの、あの陵辱劇である。一行の眼前で・・・数多の観衆の前で、パッフィーは破瓜されたのだった。
直感の鋭さが証明され、それが現実のものとなった訳だが、アデューには到底歓迎できる現実ではなかった。できる事なら、あの時を遡りたい思いであった。
「だが・・・・・・」
あの惨劇に打ちのめされ、あまりの衝撃に意識を失ってしまったイズミが、アデューの胸の内を否定した。
「遅かれ、早かれ・・・パッフィー様は、あの男に・・・カリウスに犯され・・・いや、既にもっと以前から狙われていたのかも知れない」
(もっと早くに、記憶が戻っていれば・・・・・・)
「せめて私が、あの男の・・・・・・カリウスの名前さえ覚えていれば、あんな事には!!」
再び忌まわしい光景が思い起こされ、三人の間に沈黙の幕が下りた。
あんな惨い処女喪失を体験し、想いを寄せ合っていた男の前で犯され、危険極まりないその日に、膣内に出されたのだ。望まぬ男の種を宿したかも・・・・・・いや、もう宿してしまった、であろう、彼女の心境を思うと、彼女の生誕から託され、彼女のこれまでの人生と共用してきた側近にとって、身を引き裂かれるような思いであった。
「そろそろ、話してくれないか?」
重く圧し掛かるような沈黙の空気を、サルトビがようやく破った。
「パッフィーを穢した男の事を・・・・・・」
「ああ・・・そうだな」
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