第五章【混迷の大地】正義の旗を掲げて・・・

(5)

 
 「・・・シンルピア帝国軍は、自らの此度の出征に正義と掲げ、今年に入って数カ国の国家が帝国軍の軍靴によって踏み躙られた。無論、その危機は、我がロンバルディアとて例外ではなかった。
 実際、近日のフリーデル戦役がそれである。
 この放送をお聞きの皆様には、その結果は、殆どの方々の存ずるところではあろう。

 我が弟、カルロスは殺された・・・
 それは・・・いい。弟は軍人であり、これは戦争だ。戦死していった将兵と同様この悲しき結末も、戦場に赴いていた時から、彼らにも弟にも相応の覚悟はあったろう。
 (ギリィ・・・)
 だが・・・・
 だが、私は・・・敢えて、問う!
 シンルピア帝国などとという、大層な国名を語る蛮族如き輩の何処に、正義があろうか、と!
 (ギリィ・・・!)

 我がカリウスは健在である!
 そして、我がの生命が続く限り、彼らには相応の報いをくれてやろう。
 礼節を知らぬ蛮族には、蛮族の!
 悪には、悪の!
 奴らに相応しき、相応の末路を――っ!



 敢えて、今一度問おう・・・
 シンルピア帝国の何処に、正義があろう?」


 ―― 発  パフリシア・カリウス一世 ――




 ロンバルディア王国の国王、パフリシア・カリウス一世が王弟カルロス戦死の報を、重鎮ガンドルフ及び、若き勇将ファリスから受けたとき、予めカルロスの戦死を聞かされてはいたが、それでもあまりの衝撃的な報告に、呆然とせずにはいられなかった。
 戦果の報告の最中、ガンドルフが倒れてしまった事もあって、ファリスが途中から引き継ぎ、その彼も頭部に巻いてあった包帯を赤黒く染め、辛うじて、意識を繋ぎ止めていた。
 報告を受けたカリウスが自失呆然としている事もあって、宰相マードックは越権行為と知りつつも、早急に二人を医務室に運ばせた。
 二人が謁見の間から退出した後も、玉座にある王者は一言も口にする事はできなかった。無論、ファリスやガンドルフを咎めるつもりはない。彼らの労力なくしては、ロンバルディア王国の被った損害は、この程度ではすまなかった事であろう。何より「フリーデル戦役」のその最中、自身は愛妻パッフィーとの甘い情事に没頭していたのだ。
 その自分が何故、彼らを咎められよう?
 ――と。

 (兄さん、カフェインの過剰摂取は、身体に毒ですよ)
 (あの時の失敗をまた繰り返したいのですかっ、カリウス様!)
 (この者はファリス。いずれ、きっと兄さんやガンドルフのお役に立ちますよ)
 (外出、買い物ですか・・・? きっと、パッフィーも喜びますよ)

 現在のカリウスの身体に乗り移った幼少の頃から、常に側にはカルロスの存在があり、時にはこの思考内会話も疎ましく思いながらも、兄である自分を立て、支えてきてくれた弟・・・
 この時点で王者の内心は、怒りよりも落胆する気持ちの方が強く、如何にカルロスを失った喪失感が大きいか、を物語っていた。
 だが、戦死したカルロスの遺体を回収したシンルピア帝国軍が、帝都ルースパレスにおいて、この「フリーデル戦役」最大の戦犯者として、晒し首に処したとの報告は、落胆していた国王を激昂させた。

「さ、晒し・・・・首、だと!!」
 カリウスの憤りも無理はなかった。
 同じ戦死だとしても、一応は王族として丁重に葬られるのと、死しても尚晒されるのとでは、全く事情が異なる。特に残されていく遺族には天と地ほどの心理的差異があろう。
「な、なんて事を・・・」
 パッフィーは愕然とした。同時に、シンルピア帝国との和平の道が完全に途絶えた事を理解した。もはや、どちらかの国が完全に滅びるまで、両大国は戦争をやめないであろう。
 少なくとも、ロンバルディア王国から和平という言葉を持ち出す事は決して有り得ない。
「くっくくっ・・・・」
 静粛な謁見の間に、乾いた冷笑が響いた。
「はっははははは・・・・・そうか、そうか・・・晒し首か・・・」
 伝えられてきた報告では、討ち取ったカルロスの遺体をシンルピア帝国はカリウスと誤認した模様だということだった。居並んだ廷臣たちには、春の陽気とは裏腹に、室内の気温が一気に下がったように肌で感じられたことだろう。
「そうか、俺と間違えて、ね・・・・クククッ、愚かな連中だぜ」
 ――その瞬間、カリウスの表情が激変した。
 常に帯剣しているヴァルハラ・ブレードを乱暴に掴み上げると、カリウスの咆哮が噴火したように爆発した。
「ぶっ殺してくれるぅ!!!」
 かつて【時空の魔導師】とさえ呼ばれた大魔導師の所以を、シンルピア帝国の連中に味合わせてくれよう!
「影も形も残らぬよう、シンルピアの連中を皆殺しにしてくれるわ!!」
「か、カリウス・・・」
 パッフィーは慄然とした。
 カリウスとの肉体関係から始まった昨今から、今日に至るまで、これほど錯乱している彼を見ることはなかったからだ。
 それだけに、如何ほどにカリウスが激怒しているかが、彼女には理解できた。彼女としてもカルロスは、心の安らぎともいうべき存在であり、彼の訃報には心を痛めたものである。また確かにシンルピア帝国の今回の所業には、言葉には表せないほどに許し難いとは思う。
 だが・・・・
「マードック、兵を早急に集めろ!!」
「お止めくだされ、カリウス陛下!」
 今にも再出陣を促す王を、宰相マードックは身を挺して引き止めた。
 先日の「フリーデル戦役」には、現在のロンバルディア王国が動員できる全ての兵力を動員しており、とてもではないが、最出兵できるような状態ではないのだ。
 帰還した兵士には休息を与え、破損した機体は早急に修理し、経済大国の全力を挙げて補充するにしても、少なくとも五日以上はかかろう。しかもマードックの即座に算出したそれは、期間が長くなる事はあっても、決して短くなる事はない。
 他の廷臣たちと同様、カリウスの宝剣で殴打されても、彼は暴走しつつある国王を懸命に引き止めた。
「だ、誰か陛下を寝室へ・・・」
 過去の経緯から、普段は避けがちのはずの宰相が、パッフィーに視線を送る。とにかく今は、カリウスの心理を落ち着かせるのが先決だと言わんばかりに・・・・
 宰相の視線を受け止めた彼女は頷き、宰相の懸念に同意した。
 そう、今のカリウスが非常に危険だと、彼女にも思わずにはいられなかったのだ。過去、今のカリウスに良く似たような心境に陥った人物の末路を彼女は知っている。
 後に【覇王】と呼ばれた、あの男の悲しい末路を・・・・
 どうしても今のカリウスの姿が、そのかつての【覇王】と呼ばれ、復讐という名の下に、圧倒的な力だけでアースティアを手に入れんとした男の姿と酷似しているように、彼女には思われてならなかった。

 カリウスが宝剣を駆使して、引き止めようとしていたマードックやその他の廷臣を乱暴に引き剥がすと、今度は愛妻であるパッフィーが駆け寄ってきた。
「カリウス、今はとにかく、落ち着いて、ねっ・・・・」
「あぁ〜、落ち着け、だとぉっ!!」
 その彼女の言葉が、今のカリウスには非常に燗に障った。
 抱え寄る彼女の襟首を鷲掴みすると、軽々と掴み上げた。二人の身長差は約30シン(約30cm)以上である。当然、パッフィーの身体は地に脚が届くはずもない。
 王妃を掴み上げる王の乱行を、周囲の廷臣たちは固唾を呑んで唖然とせずにはいられなかった。
「か、カリウス・・・・く、苦しい・・・・」
「奴隷の分際で・・・・」
 ギリギリとドレスの喉元を締め付け、彼女が苦しそうに喘ぐと、カリウスは途端に小柄な彼女の身体を叩き付けた。厚い羽毛のカーペットが床全体に敷かれており、それが彼女の身体のクッションになってくれていたが、それでも一瞬ほど息がつまるような衝撃が、パッフィーを襲った。

 その直後、激しい衝撃が、謁見の間全体に響き渡った。

「少し甘く接してやっていれば、付け上がりやがってぇっ!」
 叩かれた頬を抑え、パッフィーは、その痛み以上に叩かれた事に愕然とした。
 彼女がカリウスに従属するようになって、二人が夫婦となってから、初めて振るわれた暴力ではあった。だが、それまでに受けた暴力とは比べ物にならないほどの痛みが、パッフィーの頬に残る。
 初めてカリウスが、本気で彼女を叩いた証拠であろう。
 地に叩き伏せられた彼女は、頬を抑えながら涙目にも宰相に目配りをした。カリウスの抑えきれん怒りをその身で受け止める事で、カリウスの暴走をなんとか止めよう、少なくとも時間を稼ごうというのだ。
 その彼女の気丈な思いは、鋭敏なマードックに伝わり、周囲の廷臣たちを見渡した。如何にカリウスが溺愛する彼女とはいえ、恐らく数日が限界であろう。
 マードックに与えられた時間は非常に貴重なものであった。
「カリウス陛下の事は、王妃にお任せするとして、我々にはまだ、早急に決せなければならない事項が多々ある」
 恐らくはそう遠くないだろう、再出兵の準備。それに伴い、《フリーデル戦役》において破損した機体の修復、将兵の補充。新型ソリッドの生産も急がせる必要があるだろう。
 また、新領土の復旧支援や統治者の選定など、本来なら早急に決せなければならない事項が山済みである。ましてや、これまで王国の内外を支えてきたカルロス亡き今、彼らの責務の比重は更に増したのだから・・・

「帝国には、かつてのお前のお仲間、勇者一行がいる。さては未だに奴を忘れられていないようだなぁっ。それほどカルロスを殺した奴らが忘れられないかぁっ! それほどまでに、未だにアデューが心配かぁっ!」
 酷い言われようであったが、カリウスの語尾が強まる度、パッフィーは立ち上がらされては叩き伏せされ、反論する事さえ許されなかった。
 無論、カリウスには解っていた。パッフィーもカルロスの戦死を悼んでいる事が・・・・だが、内々から沸き起こる怒りは、彼自身でも留めようがなかった。
「・・・・」
 本来のカリウスの嗜好が真性のサディストであった事も、少なからず影響してはいただろう。深いスリットから覗けたパッフィーの生脚がカリウスの目に止まると、留めようがない怒りが、抑えきれない欲情にとって変わっていった。
 もはや手馴れた彼女の身体、そのスカートの中に手を忍ばせる。
「なっ・・・・」
「今のお前の・・・・男が、誰であるかぁっ、今一度その身体に刻み込んでやる!」
 曝け出した股間のショーツを掴んだ瞬間、
 (・・・!?)
 カリウスは僅かな違和感を覚え・・・・力なく片膝をついた。
「えっ!? か、カリウス・・・?」
「くっ!」
 カリウスの突然の異変に、それまでの暴言も忘れて気遣おうとしたが、そんな彼女の行為は、痛烈な平手打ちで報われた。
 再び叩き付けた彼女の身体に近づき、すかさず両股を抱え上げると、先ほど手にしたショーツをむしり取った。これまでにも幾度もなく挿入してきたパッフィーの膣内。恐らくはまだ、昨夜の膣内出ししたカリウスのザーメンに満たされている事だろう。
「カリウス・・・いっ、痛い!」
 そのヴァギナに人差し指と中指を突き込み、乱暴に抜き差しする。その痛みと彼女自身の感度良さから、カリウスの指が次第に湿り出してきた。
 《ピチャピチャ》と出し入れされるたびに、カリウスの指とパッフィーの膣口は糸を引き、突き壊さんばかりにカリウスの指は彼女の身体の中に突き刺した。
「フン、すぐに濡れ濡れじゃないかぁっ、この牝豚がぁっ!」
「・・・・あぐぅ! いっ、痛い!!!」
 そのようにパッフィーの身体を開発してきたのは、紛れもなくカリウスではあったが、彼は罵倒する事をやめなかった。罵倒しては彼女の頬を、折檻するように形良いヒップを、叩いて止まなかった。
 そんな体勢から、これまでに幾度もなく彼女の身体の膣内に挿入してきた唯一のペニスを曝け出し、後にアースティア史上最高の名器と評されるパッフィー・パフリシアの名器に宛がう。
 大胆な屈曲位からの結合である。
「くふぅぅぅぅ・・・・」
「判ったかぁ! この牝豚!」
「か、カリウス・・・」
「この雌豚がぁ! 奴隷なら奴隷らしく、お前は黙って俺を受け入れていればいいんだよぉっ! 愛してもいない男にもすぐ濡らす、変態めがぁ!」 
 これまで様々な体位で、色々な状況で、パッフィーとカリウスは肉体関係を結んできた。それこそ昨年の、あの港倉庫区域でレイプによる破瓜された初結合から、昨夜までの七日間昼夜問わぬ限界性交と、数え切れないほどに・・・・
 だが、今日ほどに、こんなにも悲しいSEXはなかった。いつもの技巧は影を潜め、ただ乱暴に、ただ力任せに強姦するような、お互いに快楽のない、虚しい結合・・・・
 受け止めさせられる彼女の身体は、そのカリウスの一突き、一突きごとに、彼の抑え切れない激しい怒りが、心の慟哭が、出口のない葛藤が伝わってくるようであった。
「んっ・・・・んっ、んんっ・・・・」
 既に幾度もなく結ばれてきた経験からか、パッフィーは、カリウスがそろそろ限界を迎えるであろう事が理解できた。彼女自身は未だ高みに昇る事は叶わなかったが、それでもカリウスの腰に脚を絡ませる。
「あっ・・・・んっ!」
 《ドクッ、ドクッ、ドクッ・・・・・》
 パッフィーの膣内でカリウスのペニスが大きく怒張した後、激しく波打ち、吐き出された濁流が彼女の子宮を満たしていく。既に彼女の子宮には、新たな生命が宿されつつあったのだが、カリウスに受精させられるたびに、彼女は常に妊娠を予期・・・・実感していた。

 二人きりの謁見の間で乱暴されたパッフィーは、そこで初めて、自身と繋がっている男の変調に気がついた。
「か、カリウス!?」
 膣内出ししたペニスをパッフィーの膣内に挿入したまま、カリウスは意識を失っていたのだった。挿入していたカリウス自身も、乱暴されていたパッフィーにも、彼の意識がいつ途絶えたのか、は解らない。恐らくは無意識のまま、パッフィーに精を放ったのではないだろうか?
「カリウス! しっかりしてぇ・・・・」




「精神的な衝撃からくる心の負荷、突然の興奮による錯乱状態に、極度のストレス・・・・」
 カリウスに下された診断である。
「対策としては、そうですね。しばらくの安静と・・・・」
「何か?」
 言いにくそうにする女医に、彼女は促した。
「夜の営みは、ほどほどにされるが宜しいか、と・・・・」
「///」
 パッフィーは赤面して、マードックなどは苦笑せずにはいられなかった。
 彼女はパッフィーの主治医で、パティの出産にも携わっており、専攻は異なるとはいえ、パッフィーにとって信頼のおける医者といえば、彼女だけであった。
 カリウス病臥の報は、その時、閣議に出席していた宰相マードックをはじめ、多くの廷臣たちが肝を潰しては騒然とした。特に近日、王弟のカルロスを失ったばかりのロンバルディアだっただけに、事は重大であった。


 カリウスが昏睡状態から意識を取り戻したのは、三度目の朝日が頂点にたった、春の昼頃であった。
「カリウス・・・?」
 (マーリアか!?・・・・ま、眩しい・・・・)
 久しぶりの朝日が、彼女の姿を錯覚させたのであろう。確かに髪の色こそ異なるが、彼女は亡きマーリアの生き写しである。
「・・・・パッフィーか・・・・っ」
 久しぶりに身を起こそうとしたカリウスは激しい頭痛に顔をしかめ、再び瞼を閉じる。深い溜息を一つ漏らし、長い間、深い眠りについていたような錯覚を実感していた。
「マードックを呼んでくれ」
「はい・・・」
「それから・・・・いや、なんでもない」
 (夢ではなかったのだな・・・・)
 パッフィーの頬を見据えて、まだ殴打に癒えない口元に、カリウスは何も言えなかった。
 意識を失う直前の出来事は、彼もよく覚えてはいた。自分が何を叫び、彼女に何をしたのか・・・・だが、それを詫びるほど、まだカリウスの心には余裕がなかった。
「陛下・・・・」
 それから間もなく、宰相マードックがいくつかの資料と報告を携えて、入室してきた。

「パッフィー、おまえは退出しろ。目障りだ」
 一昨日ほどにカリウスの口調は厳しくなかったが、疎外されたような思いであった。
 宰相と扉で擦れ違うように、彼女は一度だけカリウスに振り返ったが、既に夫の瞳は、もはや彼女には向けられていなかった。

「帝国への出兵はどうなっている?」
 開口一番、国王の言葉は性急だった。
「今、早急に準備を整えております。後、二日はくだされ・・・・」
「おまえがそう言うのだから、仕方ないのであろうな」
 ロンバルディアの軍門に降る前から、カリウスも、亡きカルロスも、このマードックの才幹は疑っていなかった。アースティア大陸最大の経済大都市と呼ばれたロンバルディア(当時はモンゴック)を、一年で復興させ、それ以上に発展させたのは、この男の手腕による所が大きいのは、カリウスも認める所であった。
「動員兵力は四万・・・・今回の出兵には、それが限界であります。ただし、エタニア王国、バイフロスト王国からも戦力は出させます」
「エタニア、バイフロストの両国が?」
 これはカリウスには初耳であった。今は亡きカルロスが、外交政策よって両国と不可侵条約を結んだ、とまでは知らさせていたのだが・・・・
 エタニア王国とバイフロスト王国は、ロンバルディアと不可侵条約を締結させた後、両国は多大な援助を受けられる代わりに、従属を強いられたのである。国家としての存続は認められ、領内に関しては一切関与しない代わりに、ロンバルディアの方針には絶対服従するという、属国制度である。
 自勢力を拡大する手段として、全てを武力で平らげた場合に、そこからの再生と機能回復までに、膨大な時間と出費、多くの人材と労力を要してしまう。それならば、ある程度の事は目を瞑ってでも、その国家組織そのものを併呑してしまう方が、明らかに手っ取り早く、効率的であろう。
 元々のロンバルディア王国の基本方針は、この属国制の併呑にあり、ロンバルディア王国樹立の際もこれによって形成されたのだ。
 特に・・・・アースティア一の大国、シンルピア帝国との決戦が迫っている今、ロンバルディア王国は少しでも多くの即戦力を欲していたのだから・・・・
「それから、帝国領内部の攪乱として、現在、治安が不安定な旧パフリシア領で暴動を勃発させます」

 現在、旧パフリシア領の民衆が騒がしいのは、ロンバルディア王国でも確認されている。旧パフリシア王家唯一の直系、パッフィー・パフリシア(カリウス自身もパフリシア王家出身ではあるが、公式記録の系譜に彼の存在は表記されていない)というカードが、敵対国であるはずのロンバルディア王国にある以上、旧パフリシア領の民衆が不安定になるのも、無理はない。
「それで帝国軍の動きを封じ込める、か・・・」
「帝国軍の全軍はさすがに無理でしょうが、まぁ、やってみるだけの価値はありましょう」
 その後、この二日間で決まった幾つかの政策、「フリーデル戦役」で獲得した新たな領土の人事などの報告が交わされた。

「では、あと二日間・・・・俺も養生する、としよう」
 宝剣ヴァルハラ・ブレードを手に、カリウスの瞳はまさに復讐者に相応しく、鋭い光を帯びていた。




  ―― 一方、シンルピア帝国 ――




 アースティア中央大陸の覇権をかけて、両大国が初めて対峙したシンルピア帝国とロンバルディア王国は、膨大な将兵の犠牲を払い、後に後世の歴史家の頭を悩ませる「フリーデル戦役」は幕を見た。

 この「フリーデル戦役」の勝者をどちらに挙げるか、は、極めて判断するに難しい。犠牲者の数だけで言えば、三倍以上の兵力を投入した帝国軍の方が圧倒的に多く、また今春から得た所領の全てを奪われるなど、政略面においても手痛い打撃を被っていた。
 帝国軍の敗因は明らかで、主力機の最新鋭ソリッド《L3》の火力に過信し、この一機種だけに限定してしまった事が挙げられよう。確かに火力及び射撃適正と運動性能は、従来のソリッドを遥かに凌駕しているものの、近接戦闘においては頭部の連動機動銃だけ、と心許なく、盾さえ持っていなかった事が、帝国軍全体の致命傷となった。
 今回の「フリーデル戦役」においては、その特化した一機種に限定してしまった危うさと、《L3》の機体の脆さを露呈してしまった。
 帝国軍の技術総監Dr.ポンテは、「フリーデル戦役」において露呈した欠点を早急に補うべく、《L3》の追加武装による再設計、盾の所持、そして、近接新型機の開発案などに着手しているが、暫くは旧式の機体を運用しなければならないだろう。
 その内部事情もあって、帝国の基本方針はしばらく防衛に注がれる事で落ち着いた。それもあって、ロンバルディア王国との国境に位置する、難攻不落の要塞、ローゼンカバリーに対する比重が極めて大きくなった。

 連日に渡っての退却戦を余儀なくされた帝国軍が、辛うじて壊滅を免れた第一の要因は、何と言っても、総司令官アデュー・ウォルサムが駆る《リューナイト》と、サルトビの《リューニンジャ》の奮闘が大きい事は、誰しもが認めるところであろう。
 その功績もあってか、帝国軍首脳部も、敗軍の将である彼らに敗績を問うような真似はしなかった。もっとも、アデューもサルトビにしても、軍法会議に出られるような状態ではなかったが・・・・
 彼らはロンバルディアの追撃の最中、敵将との交戦によって、アデューは軽傷ながら、頭部を強く殴打された事で数日間の安静が、サルトビに至っては、尚暫くの入院生活が余儀なくされたほどである。
 また・・・・アデュー・ウォルサムは、皇帝トュエル・カスタネイド・ジェームズ一世の孫娘、レンヌ皇女との婚約が正式に交わされており、遠くない未来、新皇帝に即位するであろう、側面的な事情もあった。

 一方、その敵将を討った(正確には暗殺した、だが)サトー・マクスウェルの功績は、帝国軍軍部内でも非常に高く評価された。
 敵将がロンバルディア国王カリウス一世と誤認していた経緯(カルロス自身が戦場で否定しなかったため)もあるが、先の大戦の英雄たるアデュー、サルトビといった帝国軍内でも無類の勇名を誇る両名でも、歯が立たなかったという事で、彼には帝国軍事勲章、皇帝直属の一軍が任せられるだけでなく、領土や諸侯の位など、その他様々な特権が与えられる運びになった。


 シンルピア帝国は、帝国領内で回収したカルロスの遺体を、「フリーダル戦役最大の戦犯者」という罪状で、帝都ルーンパレスにて晒し首に処した。
 無論、帝国が主張できない罪状もある。
 一年と数ヶ月前、皇帝の三男夫婦の殺害(事故死と公表)と、皇女レンヌ・カスタネイドのレイプ、輪姦(未公表)である。当時、帝国は威信と体裁を取り繕って、両親を事故死とし、また、皇女がレイプ、輪姦されたなどと公表できるはずもなく、この忌々しい出来事は限られた人物だけに留められたが、そもそも帝国軍が最も忌むべき男が、カリウス・ハーミットないし、パフリシア・カリウス一世だったのである。

 この晒し首に処した敵将の首が、誤認ではないか、もしくは誤認である、と気付いて者は意外と少ない。
 かつてパフリシア王国に仕えた経緯のあるイズミや、旧パフリシア王国の科学者であり、帝国の技術総監でもあるDr.ポンテでさえも、圧倒的多数派に入る中、二人の人間だけが少数派を占めた。

 一人は、これはカリウスではなく、カルロスである。と断定することが出来た人物・・・・彼を射殺した人物である。
 サトー・マクスウェルだ。
「まぁ、改めて訂正する必要はないだろう」
 サトーは敢えてその事実を黙殺した。
 一つには自らの功績を訂正して、評価を下げるような事であったし、何よりそれ以上に、ロンバルディア王国の柱石ともいうべき男を葬ったのである。ロンバルディア王国で一番の難敵こそ、カリウスでも、ガンドルフでもなく、このカルロス・パフリシアだったと断定している。
 その見識に間違いはなかったが、もし彼が真実を公表していれば、この後におきる歴史は、大きく変わっていた事であろう。

 今一人は、サトーほどに断言できたわけではない。ただ、違うような気がする・・・・程度の違和感しか抱けなかった。そう、この男に犯され、輪姦された、レンヌ・カスタネイド皇女である。
 無論、彼女がレイプ・輪姦された時は、山荘の深夜、真っ暗闇の中である。相手の男の顔を見る余裕も、確かめる術さえもなかった。

 このカリウス誤認の件に気付いた二人は、そう遠くない未来、顔をあわせる事になる。
 奇しくも・・・・レンヌ・カスタネイドをレイプした男と、サトー・マクスウェルにレイプされた女の、この二人が・・・・


 「フリーデル戦役」が終結し、帝国軍は、ロンバルディア王国との出入り口であり、最大の要害ローゼンカバリーを重点に防備を固め、損害激しかった将兵の補充、機体の修復に努めていた。
 数日間の安静を余儀なくされていたアデューも、レンヌ皇女の手厚い看病の甲斐があってか、予定よりも早く全快に向かいつつあった。
 そんな彼の退院が迫った前日・・・・
「・・・強かった・・・・っ」
 アデューは純白の毛布をきつく握り締め、独白した。
「えっ?」
「・・・・まるで、歯が・・・・立たなかった・・・・」
「アデュー・・・・」
 それが「フリーデル戦役」で交戦した、敵将の戦いであった事は、彼女にも理解した。
 アデューの長い戦歴の中で、敗北した経験がなかった訳ではなかった。特にかつての師であり、【覇王】と呼ばれたギルツとの一騎討ちは、仲間の協力を得てなんとか一太刀を浴びせた、だけで、紛れもない完敗だった経験さえある。
 だが、あの時のそれ以上に・・・・アデューには、この敗戦が悔しかった。負けてはならぬ相手・・・・それに負けた時の落胆は、推して計る事はできない。
「でも、その敵将は死んだわ・・・・」
「・・・・・」
 そう、レンヌの言うように、カリウス(カルロス)は死んだ。無論、戦死した・・・・と聞いただけで、どのように帝国軍が討ち取ったのか、その詳細までは明かされなかったが・・・・
「でも・・・・俺は・・・・自分の手で、あの男を、倒したかったぁっ!」
「・・・・」
 (それは・・・・きっと、私のためでなく・・・・きっと・・・)
 そんな打ちのめされたようなアデューの姿に、レンヌの心は一瞬何故か、チクリと痛みを憶えた。



 ――その時である、ロンバルディア王国・パフリシア・カリウス一世がアースティア全土に向けて、自らの健在と戦線布告を発したのは・・・・



「か、カリウスめが生きておった!!」
 帝国軍の狼狽振りは絵に書いたように慌しかった。当初、討ち取ったカルロスの首と全く同じ容姿に唖然としたものだが、カルロスはカリウスの双子の弟なのだから、当然ではある。
「か、影武者ではないかぁっ!」
 帝国宰相のミストラルフは、これが帝国を動揺されるロンバルディア王国の謀略ではないのか、と勘ぐったものであるが、暫くして、カリウスに双子の弟が存在していた事を、軍本部が報告してきた。
 「フリーデル戦役」の戦前から、サトーはカルロスの存在を強調してきては、いたのだが・・・・それを軍部が上層部に報告していなかったツケが、もっとも痛いしっぺ返しとなったのだ。
「か、カリウス・・・・カリウスめが・・・・!!」
 全国に発せられたカリウスの激論を聞き、病臥から回復の兆しに向かっていたはずの皇帝、トュエル・カスタネイド・ジェームズ一世の容態が悪化した。
 その日・・・・奇しくも二人の王が、病臥によってベッドの上にあった。
 一人は、二日後に出陣を控え、覇気を漲らせていた。
 一人は、激しく怒気を漲らせ、死出の旅へ出発する。


 ――皇帝トュエル・カスタネイド・ジェームズ一世、崩御す――

 享年七三歳。
 シンルピア共和国時代に即位し、彼の特筆すべき功績は、結果的に見て所領を数倍に膨れ上げた事であろう。旧スレイヤー王国、旧パフリシア王国を併呑し、皇帝を僭称した頃が彼の全盛期ではあった。
 早逝した皇后との間に三人の子供を儲け、いずれもが男児と、後継者に恵まれた感があるものの、まず三男夫婦が殺害された。当時、一緒だった孫娘レンヌ皇女は一命を取り留めたものの、彼女の誕生日のその日に、殺害される両親の眼前において、レイプによる輪姦され、ボロボロの無残な状態であった。
 続いて、長男が次男の策謀によって嵌められ、謀殺された。後日、この件は明るみにされ、帝位継承問題のもつれである事が発覚した。だが、その頃には次男が不治の病に侵され、兄弟の後を追った末の事である。
 その身内の不運と不祥事があってか、皇帝は唯一の孫娘レンヌを溺愛した。例えならず者に穢されようと・・・・いや、それだけに孫娘には幸せになってもらいたかった。
 今年の新年、勇者アデュー・ウォルサムの来訪を知り、レンヌの思いを察した彼は、勇者一行の助力を条件に、孫娘との結婚を強要したが、それはひとえに、深く傷ついていたレンヌの幸福を求めての事であった。

 皇帝崩御の際に、国政を託された宰相ミストラルフは、その頭脳明晰な才幹を振るって、浮き足立つ宮廷を一喝すると、いくつかの布告を発した。
※先帝の喪が明け次第、レンヌ皇女とアデューの婚礼。
※婚儀と同時に、アデュー・ウォルサムの戴冠。
※それまでの国政は、これまで通り、ミストラルフが継続する。
※新皇帝即位まで、このミストラルフの言は、先帝の言葉である。
※ロンバルディア王国との徹底交戦!
 である。
 帝国宰相ミストラルフが冷淡巧緻な人格である、とは宮廷内でも知らぬ者はいないであろう。だが、冷酷であったとも、ましてや強欲であったなどと何人たりとも卑下する事は叶わない、後世に渡って知れ渡る事実である。
 彼が発した布告を利用すれば、彼が戴冠する事も、レンヌ皇女を娶ろうとしても、異議を唱える者は存在できなかったのである。もっとも、皇女の婚約者アデューに恐れをなした、もしくは、ミストラルフが(当時、先帝と同年の七三歳)あと三十ほども若ければ、皇女を寝取っていた、という陰口は絶えなかったが・・・・

 ロンバルディア王国が進発したという報は、瞬く間に帝都ルーンパレスへと届けられた。
 考えられる行軍路は二つ。フリーダルの野を経由した陸路と、ロンバルディア港からの海路である。ただし、海路を利用する場合は、動員兵力に応じて戦闘艦を用いなくてはならず、輸送にも艦艇は入用になる。
 ミストラルフと帝国軍上層部は、海路の線を切り捨て、侵入路は陸路だけに絞った。迎撃軍が編成され、帝国主力の第一師団の司令官アデューがその任を直訴したが、第一師団は先の「フリーデル戦役」においての損害が癒えておらず、これを退けた。
 代わりに第二師団と第三師団が動員され、迎撃軍はおよそ十万。これに帝国最大の要害とされるローゼンカバリー要塞があり、そこの守備軍が三万五千。合計十三万五千の大軍であり、ミストラルフと帝国上層部は万全を期した。
 また、ロンバルディア王国軍の進発に伴い、旧パフリシア王国領の暴動が勃発した報が相次いで届いた。
「うろたえるなっ、諸君!」
 騒然とした上層部をミストラルフは一喝した。齢七三になる老人の声とは思えず、また頼もしくも思えた。
「敵にはパフリシア王家の末裔が居るのだ。その程度の事は十分予期できていたはずだ。何を今更どよめく!?」
 確かに今回の暴動は、ロンバルディア王国が仕掛けたものである事は、容易に想像がつく。このロンバルディア王国軍の出兵時期に、この計ったようなタイミングである。ただ民衆を力づくで鎮圧するつもりは、ミストラルフにもなかった。
「アデュー将軍、しばらく麾下のイズミ殿をお借りしたい」
「えっ?」
「暴動を鎮圧することは、正規軍を動かせば容易い。だが、それでは根本的に問題を解決した事にはなるまい?」
 その程度の事はアデューにも理解できた。
「かつてパフリシア王国に仕えており、また先の大戦の英雄でもある、イズミ殿には、民衆の説得に赴いてもらう」
「解りました」
 議席の末席にいたイズミが、帝国宰相の言に了解した。
 確かに旧パフリシア王家に仕え、勇者一行の一人でもあるイズミは、公式記録上、唯一のパフリシアの末裔であるパッフィー・パフリシアの側近として、彼女の存在と同様、広く知れ渡っている。そのイズミの言葉ならば、民衆も無下には思えないだろう。

 かくして、帝都ムーンパレスが皇帝崩御という重大事にも関わらず、またロンバルディア王国の侵攻という難事にも関わらず、帝国宮廷は普段同様に機能した。
 その手腕は帝国宰相の統率力が大きかった事は、宮廷内で誰しもが認めるところであろう。
 だが、唯一、アデューだけが一人、疎外されたように落胆していた。
 確かに彼麾下の第一師団は、現在、再編成中である。「フリーデル戦役」の損害も癒えておらず、師団が動かせない事は解る。
「だが、こんな時に動けないなんて・・・・情けない!」
「そんなに落胆する事もなかろう?」
 気落ちしていたアデューは横には、いつの間にか帝国宰相ミストラルフの姿があった。
「・・・・お言葉ですが、みんながそれぞれ持ち場についているのに、俺は・・・・」
「ふふふふっ、貴殿ならそう言うと思ったわ。貴殿は若き頃の陛下にそっくりじゃの」
 懐かしむように帝国宰相が目を細めた。
「ジェームスの奴も、まっすぐで融通が利かず、色々とよく困らせてくれたものだった・・・・」
「宰相閣下・・・」
 過去を振り返っている宰相の感慨を邪魔しないように、アデューは静かに相手の動向を待った。そして・・・・ミストラルフの視線が、私人の目から、公人の目に変わったのを、アデューは自覚した。
「アデュー殿。密命である・・・・」









  ―― ローゼンカバリー要塞 フリーデルの戦役跡地 付近 ――

「カリウス陛下、あれがローゼンカバリー要塞です」
 負傷を負って参陣したファリスの《リューファントム》が、カリウスの《リューソーサラー》と供に最前線を見渡した。
 帝国領との国境を指差し、数多の山脈がそびえる中、威風堂々と君臨しているローゼンカバリー。
 ローゼンカバリーはこれまでに、三十何度も帝国領を護り続けてきた難攻不落の要塞である。帝国制を敷く以前まで遡れば、その戦績は数え切れない。四方を山脈に囲まれ、敵軍は糧道を断つ事も、包囲する事さえも叶わない。何重の城門に阻まれた正門からしか、突破口がないのである。
 そして、そのローゼンカバリー要塞に、今回、新たにロンバルディア王国軍が挑む事になる。
 ファリスは医師に、尚も安静と診断されたが、カリウスの出陣を耳にしては、黙ってベッドで寝ている事などできなかった。恐らくそれは、重傷で参戦できなかったガンドルフとて同様であろう。
 なにしろこれは、カルロスの復讐戦なのだ。
「帝国という、対象には感謝しておくとしようか・・・・」
「はぁ?!」
「俺はかつて、自分の失態で、妹を失った」
 ファリスは黙って、カリウスの言葉を聞いていたが、その妹とは、カリウスの妻であるパッフィーの母、マーリアであるとは思いも寄らなかっただろう。
 近親婚が絶対に禁じられているアースティアの世界ではなかったが、父と娘という極端な近親婚は極めてめずらしく、まず、誰もが偏見を持つであろう事は間違いなかった。
「その時の喪失感は、弟・・・・カルロスを失った時と同様か、それ以上であったかも知れぬ。なにせ、自分以外に責める者はなく、恨む事さえもできなかったのだからな」
「それで帝国軍に・・・・恨むべく存在に感謝、と・・・・」
「ああ・・・・容赦なく、屠ってやる!」
 謁見の間でのカリウスの錯乱、そして、王妃への暴行事件は、ファリスの耳にも届いている。何しろ、その直後に国王が倒れたのだから・・・。それ故に、そのカリウスの中で渦巻いている憎しみと怒りは、相応のものであると踏んでいたが、勇将ファリスには、今のカリウスの視線をまともに見ることさえ恐ろしかった。
「我々より先んじて、帝国軍がフリーデル平野に布陣しました。数はおよそながら十万・・・・」
 話題を逸らすように、ファリスは布陣した敵軍を指差した。
「我々は四万、エタニアが三万、バイフロストが五千・・・・。合わせても七万五千か。フリーデル戦役同様、我が軍の圧倒的不利だな」
「・・・・」
 ファリスは沈黙しつつも、カリウスの言を否定しなかった。
 そもそもカリウスは、友軍であるエタニアの三万にはそれほど期待していなかった。確かに三万という軍勢は、ロンバルディア王国軍に匹敵する数だが、そのいずれもが旧式、旧型のソリッドで構成されている。額面どおりの戦果を期待するのは、酷というものであろう。
 (フン、せめてギザー級ぐらい持って来い!)
 そのロンバルディア王国は、遂に《ギザー改式》が完成し、今回の復讐戦にも惜しみなく投入された。
 ロンバルディア王国製・最新鋭機《ギザー改式》は、《ギザー》の流れを汲む後継機で、火力・機動性・運動性・武装・防御能力のいずれにおいても《ギザー》を凌駕している。
 最大の特徴は、稼動システム、電磁磁気モータードライブ方式による、ホバーリング機動が可能な点であろう。この新システムの恩恵によって、《ギザー改式》は、従来のソリッドとは異なり、速やかな速攻・奇襲・強襲に適応できる。前身の《ギザー》は、機動、砲戦、格闘の三種による汎用性が特性であったが、《ギザー改式》はまさに戦法を選ばない。別次元の汎用性を獲得していると言えよう。

 この《ギザー改式》の後、ソリッド開発戦争は、頭打ちになる。この《ギザー改式》を武装変更した別バージョンがラインナップされるものの、これといって目立った変更は見受けられない。
 それも仕方ない事だったかもしれない。
 その頃には、帝国によってアースティアが統一された後の話であり、そう長くはなかった戦乱の時代が、終幕してしまっていたのだから・・・・
 つまり現在、《ギザー改式》は、アースティア最強ソリッド、と豪語しても過言ではないのだ。

 一方の友軍であるバイフロスト王国軍は五千であるが、こちらは、数はともかく、乗り手が貴重とされる《リュー》が二体あり、さすがは【騎士の国】と呼ばれるだけの事はある、と、カリウスも認めた。
 現在、両大国の確認されている《リュー》の乗り手は、
※ロンバルディア王国 カリウス、ファリス、ガンドルフ 計三体
※シンルピア帝国 アデュー、サルトビ、イズミ、サトー 計四体
 アースティア中央大陸を二分する大国でさえ、僅かにこれだけである。
「だが、それよりも・・・・」
 (名将スワン、か・・・・)
 カリウスは昨夜、バイフロスト王国から、王弟カルロスの弔問にきた男の存在が頼もしく思えた。もしカルロスが存命だったならば、戦略戦術で競わせてみても、面白かったかもしれない。
 僅か数刻、他愛もない会話を交わした間ではあったが、それだけの才幹の持ち主である事を、カリウスは見抜いていた。
 また現在、ロンバルディア王国は、軍指揮能力に富んだガンドルフが参戦できていない事もあって、名将スワンの采配にはどうしても期待してしまうのだった。
「ファリス、頼みがある」
「はっ!」
 まだ負傷が完治していない彼に、頼むのは酷かも知れなかった。だが、カリウスには他に頼むに足る将帥が自国にいない事も熟知していた。
「全軍の指揮を執ってくれ」
 その国王の頼みは、ファリスにとっても意外であった。
 カリウスは今までに軍勢という軍勢を指揮した事がなく、またその必要もなかった。必要がある時は全てカルロスが、時にはガンドルフが采配をとった。
 そして、今回の出兵にその両名の姿はない。だが、カルロスが戦死し、ガンドルフが重傷を負った「フリーデル戦役」において、最終的に全軍の指揮をとったのは、紛れもなくこの若き勇将であり、それだけにカリウスは、彼を総指揮官に任命したのである。
「俺は、俺のやり方で・・・・ロンバルディアに勝利をもたらす」


 その頃、バイフロスト王国の陣営では、
「もしかすると、あの向こう側に、あの少年が居るのだな」
 物思いに耽りながらも、白銀の甲冑を身に着けた男はシンルピア帝国軍が布陣した敵陣を見据えた。
 【騎士の国】バイフロストの名将、スワン。
 彼は、【音速の騎士】アデュー、並びに【覇王】ギルツとも面識があった。特に後者とは実際に剣を交え、後世に【覇王】の生き様を擁護する歴伝を記している。
「もしかすると、あの少年と・・・・まみえる事になるかも知れん。ギルツよ、時代の流れというものは・・・・残酷なものだ」
 彼も昨日、ロンバルディア王国軍に赴いた、その国主との邂逅に思いを馳せた。
 出会う前のアイスの抱いていたカリウスの印象は、最悪の一歩手前であった。何せ、少し前まで闇社会の当主であり、また罠にかけて嵌めた勇者一行の眼前で、【聖女】パッフィー・パフリシアを公然の場所で破瓜している。また、それ以上にこの名将を唖然とさせたのは、そのパッフィー姫をレイプした場面を画像に収め、流出させているのだから、スワンがカリウスを侮蔑するのも無理はなかったかもしれない。
 だが、カリウスと二、三回、会話しただけで、その出会う前に抱いていた印象は修正を必要とした。確かにパッフィー姫一連の一件は、揺るぎ難い事実ではあったが、溺愛しているという噂は、彼の言葉の節々から、それが偽りのないものであると解った。
 また、少し前まで闇社会の当主だった、という、陰険なイメージと掛け離れおり、ただの成り上がり者にも見えなかった。
「貴公に出会えてよかった」
 とは、別れ際のカリウスの言葉であったが、それはスワン自身が思った心境でもあった。彼はロンバルディア王国への従属に異議を唱えた人間ではあったが、カリウスという男には、およそ領土欲や出世欲といった、強欲さは感じられなかった。
「我が陛下も、まぁ、懸命な選択をされたのかも知れんな」
 自国に引き篭もっているだろう、凡王を、この時に限って、アイスはめずらしく称賛したという。
「だが、それも・・・・この戦いに勝ってから、だっ」
 名将と謳われた男の表情が、戦場に馳せる者に変わっていく。
 最終伝達でロンバルディア王国軍のカリウスから届いた命令書は、極めて単純で明快なものであった。
 ――暫くは各軍司令官の判断に委ねる。ただし勝機が見えた時、追撃をよろしく頼む――
 である。
 そこに戦略も戦術のヘッタクレもなく、さすがのアイスも拍子抜けしたように憮然としたものだが・・・・・



 かくして、戦端はロンバルディア王国が先陣を切る形で開かれた。
「敵軍の主力は《L3》、さすがに今回は近接機も参列させているようだが、所詮は旧式だ。蹴散らせぇっ!」
 ファリスの《リューファントム》は《ギザー》を三つに、そして《ギザー改式》で構成された一隊を予備兵力として、要塞外に布陣した帝国軍を牽制しつつも後衛に廻した。
 戦端が切られた報は、ローゼンカバリーに立て篭もる守備軍にもすぐに伝達された。
「愚かなロンバルディア王国、カリウスよぉ、この難攻不落のこのローゼンカバリー要塞と、不敗の名将キゼル様に挑むとは・・・・」
 それを聞いたギゼルの参謀が呆れたように目を瞑った。
 確かにギゼルは不敗の将である。だが、同時に野戦で戦った事がない将でもある。つまり、ギゼルの戦績とは、あくまでもローゼンカバリーの要塞がもたらした戦果とも呼べるのである。
「所詮は、旧パフリシアの小娘に現を抜かしておる、児童博愛主義者よぉ」
 (軍資金を流用して、その画像を手に入れておりませんでしたか?)
「何か言ったか、参謀長?」
「いえいえ」
 (その画像で、何度も愉しんでおられませんでしたか?)
 とは、さすがに参謀長も言わなかった。いや、正確にはそう心に独白する時間的な余裕がなかった、と言うべきか・・・・
「も、申し上げます!!」
「なんだぁ? ロンバルディアに新たな動きでもあったかぁ?」
 だが、伝令の発した言葉は、ギゼルの予想を、そして、参謀長も唖然とさせるものであった。
「こ、この・・・・ローゼン、カバリーに、・・・・、火・・・・強大な火の・・・・塊が・・・・」
 その伝令の言葉によって、ギゼルと参謀長が上空を見上げたそこには・・・・確かに、強大な火球が目前に迫ってきていた。
 (あ、あれは・・・・流星召還・・・・まっ、まさ・・・・・)


 その瞬間、ローゼンカバリー要塞は、難攻不落という評価をそのままに、三万五千の将兵と共に、このアースティア大陸から、完全に消え去った。


「流星召還(メテオ)の魔法!!」
 戦場に居る誰もが目を奪われた光景を前に、スワンにして歴戦の名将が驚愕の色を示した。
「ぜ、全軍、何かに?まれぇぇぇぇぇ!!!!」
 ――流星召還(メテオ)の魔法。
 遥か天空の浮遊している、とされている隕石を次元の門を介して、標的にぶつけるという、非常に攻撃能力の高い魔法である。無論、一つ間違えばとんでもない大惨事が待っている(成功しても、敵が大惨事なのだが)非常に難度も高い、失われていたはずの古代魔法である。
 流星の流れと落下地点を選定する詠唱を織り交ぜながら、更に長時間の詠唱を要する為、まず移動する標的には使えない。だが、そう・・・・ローゼンカバリーのような、移動する事がない要塞には、この上ない攻城戦魔法になるであろう。無論、成功すれば、の話だが。
 遥か彼方の流星の流れを把握しつつ、次元の門を自在に開閉させるために、熟練した魔導師でも、この究極魔法を使用するのは、実質不可能とも言われてきた。
 いや、・・・・はず、だった。

 落石による振動がフリーデルの地を中心に響き、続いて余波があらゆるものを吹き飛ばした。スワンの早急な判断と指示によって、バイフロスト王国の被害は少なかったが、戦死者こそ出なかったものの、戦端をきった先陣のロンバルディア王国でも、余波に吹き飛ばされた者は少なくない。
「ロ、ローゼン、カバリーがぁぁぁ・・・・」
「さ、山脈が・・・・変わってぇ」
 両軍が愕然と、唖然とする中で・・・・
 開戦して間もなく、シンルピア帝国軍は、難攻不落の要塞と三万五千の将兵を、まさに消し飛ばされたのである。どちらの戦況に大きな影響を与えたか、は、火を見るより明らかであった。

「クククッ・・・・・ハハハハハハッ・・・・・」
 遥か上空に浮遊する漆黒の機体がある。カリウスが駆る《リューソーサラー》の上級転職された機体、《リューアークメイジ》である。
 カリウスは上機嫌に帝国を見下した。
 彼がこれほどまでに高揚した、優越的な超越感を覚えたのは、久しかった。勇者一行の前で、パッフィー・パフリシアを破瓜し、彼女の危険日なその時に膣内出しで締めた、あの日以来の事であった。
「さぁて・・・・お次は、」
 《リューアークメイジ》の掲げた両腕から爆炎が噴き出すと、両腕を広げ、爆炎がその両手の動きをトレースするように半円を描く。
 (狙う、は・・・・帝国軍が布陣している、およそ中央!!)
「シンルピア帝国よ――ぉ! これがカルロスを殺した、貴様等の鉄槌だぁァ――」
 《 バーニングブレイズ 》
 それはホノオン系の魔法に属する攻撃魔法ではある。ただし、ホノオン系最上級とされてきたホノ・メガンを両手で発動し、凝縮して放たれる一撃は、言葉にするよりも遥かに難度が高く、またホノ・メガンを連発するよりも遥かに強烈な威力を誇っていた。

 まさにカリウスが持つ、最強の攻撃魔法とされるだけに・・・・その威力は帝国全軍の士気を根こそぎ奪い去るだけのものがあった。

 《ヒュー》
 (風の警告だとぉっ!)
 カリウスには、武人としてもカルロスに遠く及ばない。かつてはカルロスの武術と剣術の師でもあった彼ではあったが、弟子が優秀に過ぎたがために、その立場が逆転するのに、そう長い時間は必要としなかった。
「き、貴様かぁあ・・・・貴様がぁあ、カルロスを!!!!」
 遠距離から放たれた、ロングレンジパルスライフルの射線を《リューアークメイジ》は難なくかわした。
 確かにカリウスにはカルロスと違って、殺気を察知して、弾道を避けるような離れ業はできない。だが、事前に周囲に風の精霊を施し、飛行物の火力、射線を通達させておければ、回避する事は不可能ではないのだ。
 カリウスは予め、カルロスの時と同様に、帝国が暗殺してくる可能性を想定しておいた。奇襲とはあくまでも、相手の意表を突く事で成立するものである。
「貴様が――ぁ!!!」
 《 流星召還 》《 バーニングブレイズ 》といった最上級魔法を連発したせいで、カリウスの魔法力は限界に近づきあった。だが、残った魔法力を掻き集め、最後の一撃、ホノ・メガンを放つ。
 手応えはあった。完全に焼き殺せたか、どうかは定かではなかったが・・・・

 その直後、カリウスの《リューアークメイジ》は《リューソーサラー》へと姿を変え、ゆっくりと降下を開始し・・・・・次第に勢いよく落下していった。


 後に、この戦争は、アースティアを統一した帝国の歴史書にも、表記される事はなかった。
 この歴史から抹消された《ローゼンカバリー攻防戦》は、戦争や戦いと言うよりも陰惨な、一方的な虐殺だったのである。
 確かにカリウスは、カルロスほどに将帥として万能でもなければ、ガンドルフのように軍を指揮して敵軍と戦うだけの才覚はない、かも知れない。
 だが、それでも彼には・・・・例え敵が無敗の名将だろうが、常勝の指揮官だろうが、味方を勝たせる事は不可能ではなかったのだ。

 開戦して間もなく、難攻不落のローゼンカバリー要塞と三万五千の将兵を失い、また、瞬く間に迎撃軍の中央に放たれた爆炎によって、シンルピア帝国軍には、もはや士気は完全に萎え、我が先にと壊走を始めた。
 そこに満を持してロンバルディア王国軍が、エタニア王国軍、そして名将スワンに率いられたバイフロスト王国軍が襲い掛かった。
 こんな一方的な虐殺劇を指揮したファリスは、血の酔いから醒めると、静かに嗚咽した。確かに大恩あるカルロスを晒し首に処した帝国軍への憎しみ、復讐したい気持ちは今もあるが・・・・目の前の、まるで地獄図のような光景は、彼の望むところではなかった。
 ただロンバルディア王国としても、已むを得なかった。
 この戦争に勝利しても、ロンバルディア王国とシンルピア帝国との兵力差には、まだまだ大きな開きがあり、この時に討てるものは討っておかなければならなかったのである。


 ロンバルディア王国軍は、エタニア王国軍、バイフロスト王国軍と再び合流した後、帝国領に侵入し、これからの帝国戦線における橋頭堡ともいうべき、この地に城の建設を開始した。
「ロンバルディアだけに限らず、エタニア王国、バイフロスト王国の諸歴々の武功に、乾杯!」
 仮城、といっても、まだ野陣を少し強固にしたような造り小屋ではあるが、この仮本営においてカリウスは、両国の指揮官を労った。
 魔法力使い果たし、地表に落下したカリウスは、墜落した際に頭部と左肩を痛め、至る所から包帯が目に付く。
 軍医が大袈裟に巻き付けた、と毒づいていたが、国王という立場上、軍医の大袈裟な処置も仕方ないのない事なのかもしれない。

「「乾杯!」」

 その場居合わせた全ての人間が、【時空の魔導師】と謳われた男の言葉を復唱した。もっとも同時に、畏怖を憶えない者も少なくはなかったが・・・・
 それから三国による宴が催され、カリウスもこの日ばかりは無礼講のふれをファリス以下、全将兵に許した。また軍事行軍中とは思えないばかりの豪華な料理に、各種様々な酒が国王の名を下に配された。


 しばらくして、カリウスは宴の席から姿を晦ました。
「カリウス陛下!?」
 その君主の退出にただ一人気付いたファリスは、カリウスの後をつけていった。いくら自軍の中とはいえ、供をつけずに出歩くのは危険と言うものであろう。

 カリウスの脚が運んだのは、帝国とロンバルディア王国、両国の国境沿いに比較的近く、ややロンバルディア側の丘であった。
 その場には一本の長槍突き刺さっており、アースティア最強とも謳われた《リューエンペラー》が今、深い眠りについていた。
「お前の仇、とったぞ・・・・」
 カリウスは誰に教わったわけでもなく、その場に辿り着いていた。かつての搭乗者を《リュー》が導いたのかもしれない。だが、カリウスはそれをカルロスの思考による呼び掛けだ、と信じたかった。
 現にカリウスは、この長槍クーゼの前に赴いたのだから・・・・・
「お前はアルコールが全くダメだったからな」
 (ダメだったのではなく、飲まなかっただけです。あれは人外の毒ですよ。兄さんもほどほどに・・・・)
 手持ちの水筒から、長槍クーゼに薄茶色の液体を浴びせかける。
「フフフッ、不味くても文句は言うなよ。俺が初めて、淹れた・・・・生涯最後の紅茶だ・・・・」
 (うっ・・・・まっ、不味い・・・・これは飲み物じゃないんじゃないですかぁっ〜・・・・全く兄さんはガサツなんですから)
 (そうそう、ガサツとは言えば、もっと部下たちを大切してあげてくださいよ。兄さんは君主、王様なんですからね・・・・)
 (あっ、それと・・・・)
「ふっ、最後のまで最期まで、お節介なうるさい奴め・・・・」

 無論、その兄弟の会話を聞いていた訳ではなかった。
 だが、その光景を盗み見していたファリスには、流れ出す涙を留める術を知らなかった。
 (パッフィー姫には、もっと優しくしてあげてください。彼女はカリウス様にとって、あらゆる意味において大切な女性ではないですか)
 娘であり、妹であり、そして、妻でもある。
 カリウスは自分の杯を、槍と重ねて、ゆっくりと傾け、
「ああ、そうだな・・・・そうするとしよう・・・・帰ったら、まず・・・・」
「陛下!!!!」
 その瞬間、気分を害されたのは、カリウスだけでなく、こんな無粋な部下をもったファリスも同然であった。
 カリウスは部下の声に振り返り、ファリスの存在に気が付いた。
「恥ずかしいところを見られたな・・・・」
「いえっ、そんな事は!・・・」
 ファリスはカリウスに気付かれる事なく、涙を拭った。兄のカリウスが涙を見せていないのに、自分が泣く訳にはいかなった。
「カリウス陛下はここだぁ!」
 一人の兵士が国王を探してここを発見する事は、まず有り得ない。恐らく幾人の者が姿の見えない主君を探した事であろう。
「はぁはぁ、ここにおられましたか」
「一体、何事だ!?」
 カリウスはファリスに垣間見せた表情を消して、手にしていた杯を口に運んだ。それはどの君臣が見ても、様になっていると認めざるをえないだろう。
「帝国軍の新しい動きでも何か解ったのか?」
「いえ、王都、ロンバルディアからの急報です・・・・」
「ほぉ――」
 カリウスは興味なさげに酒を飲み干そうとして、杯を落とす。
「ロンバルディアに、アデュー・ウォルサムが・・・・!」



 何かが、音をたてて壊れるような旋律を、カリウスはこの時、聴こえたような気がした。


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