第六章【 崩壊の波動 】

( 3−1−A )

 
 【 崩壊の悪夢 ロンバルディア王国 サイト 】

 《ピッ・・・・、ピッ・・・・、ピッ・・・・》
 無機質な機械音が、定期的に室内に響いている。
 室内の中央には広大なベッドがあり、一人の男が身動き一つする事もなく横たわっている。まさに死んでいるか、ように・・・・
 男は延命機器によって、辛うじて心臓を鼓動させ、救命器具によって呼吸をしている。ただそれだけが、この男が生きている証であった。


 ここは、ロンバルディア王国の首都、王都ロンバルディア。
 およそ二ヶ月前までは、このアースティア中央大陸を二分した、大国の拠点であり、同時に大陸最大の経済都市でもあった。
 だが、南方からのもう一つの大国、シンルピア帝国の予期せぬ奇襲によって、数ヶ月前までの繁栄の、その見る影さえなくなっていた。特にロンバルディア王国軍の主力は、最前線にほぼ集結しており、和平の準備を進めていた、この時期だっただけに、シンルピア帝国軍の王都強襲に意表を衝かれた感は否めない。
 だが、最終的に王都を防衛する事に成功したロンバルディア王国に対して、その四日後、シンルピア帝国からの和平受諾の電文が送られてきたのだから、ふざけた話ではある。

 この王国を立腹させるタイムラグは、必ずしも偶然の産物ではない。むしろ巧妙に計算された上での、必然的な結果であった。

 確かに帝国軍最強の第一師団を動員して、それでも王都を陥落せしめる事が叶わなかった帝国軍ではあったが、そもそも帝国軍の最大の狙いは、王都を陥落させる事にあった訳ではなく、たった一人の人間を亡き者にするために、そして、たった一人の少女を連れ去る事にあったのである。
 この二つの作戦目的は、帝国陣営でも異なる頭脳から生まれている。前者の《カリウス暗殺計画》は、帝国宰相ミストラルフからであり、後者の《パッフィー救出計画》は、レンヌ・カスタネイド皇女からであった。
 そして、前者の作戦を指揮したのが、アデュー・ウォルサム(第一師団長)であり、後者の作戦を指揮したのが、サトー・マクスウェル(近衛師団長)であった訳だが、これがもしも、指揮官が逆だったら、また異なる歴史がアースティアに訪れていただろう。


 サトー・マクスウェルが率いる近衛師団の精鋭は、かつてこの地を根拠地とした《オリハルコン》の特務工作部隊であり、アデューたち勇者一行に壊滅させられた《アレックス》の残党である。彼ら全員が勇者一行に対して、苦い思いを共有していたのである。
 その勇者一行の一人であり、救出目標でもあったパッフィーに対して、その積年の恨みを彼女の身体に報わせたのである。
「俺らを路頭に迷わせた屈辱を、たっぷりとその身体で償って貰うとしようか!」
「失神したところで、キッチリ、その身体で支払って貰おう!」
「愉しむ事は愉しませてもらうぜぇ!」
「おらおら、順番は支えているんだぞぉ、もっと腰を振れやぁ!」
 サトーによって犯された彼女には、既に意識というものが定かではなかったが、男たちはそんな事に意を解さず、小柄な少女の身体に群がり続けていく。
 かくして、パッフィー・パフリシアは、この王都ロンバルディア(当時はモンゴック)に赴いてはレイプされ、そして奇しくも、王都を連れ去られる際も、レイプされながらであった。


 一方の、
 ロンバルディア王国の国王、パフリシア・カリウス一世の命数は、現在に至っても、風前の灯火といったところである。
 開戦する前後に狙撃された負傷に、戦闘の最中に《リューパラディン》から受けた傷は深刻なもので、主治医の懸命な処置も、王国の科学力の粋を尽くしても、決して芳しいものではなかった。
 まずカリウスの利き腕である、左腕が切断された。
 《リューパラディン》によって負傷していた状態で、海面に浸かっていた事が原因である。そのまま放置すれば、左腕だけでなく、全身に至って化膿してしまう恐れがあったからで、早急に手術を行えば、回復できたものであっただろう。だが、今現在のカリウスには、その手術に耐えるだけの体力がなかったのである。
「我々も全力を尽くしておりますが・・・・このままでは・・・・」
 彼を診断した主治医は敢えて語尾を濁したが、現状のカリウスの姿を見て、その意味するところを理解できない者は皆無であった。

「宰相・・・・お主はどうするのだ?」
 ロンバルディア王国の重鎮にして、現在は王都防衛長官の任にあるガンドルフが、機械による延命措置によって辛うじて生き長らえている国王を見舞った際、ロンバルディア王国の宰相、マードックに問いかけてみた。
「どうするとは・・・・?」
「このままでは、ロンバルディア・・・・は滅ぶのだろう」
 ガンドルフのそれは不吉なまでの予測ではあったが、的確な推察であっただろう。
 現在、シンルピア帝国から和平受諾の電文が届いており、ロンバルディア王国の選択肢は二つある。そのまま和平を推し進めるべきか、それとも王都襲撃を非に、徹底抗戦を主張するか、である。だが、そのどちらかを選んでも、ロンバルディア王国の行く末は、滅亡であった。
 まず徹底抗戦を選んだ場合である。
 現在、ロンバルディア王国の主力部隊は、最前線のファリスが率いており、その数は四万であり、例えそれに「フリーデル戦役」で負傷した将兵が復帰しても、そこから王都防衛への戦力を割いてしまった場合、とてもではないが、帝国領を再侵攻する事など不可能である。
 確かにバイフロスト、エタニア両国の協力を得て、帝国最大の要害ローゼンカバリー要塞を陥落せしめてはいるが、それはあくまで、国王カリウスの個人プレーによる戦果の副産物なのである。
 その間、帝国軍は「フリーデル戦役」「ローゼンカバリー要塞攻防戦」において負傷した将兵の傷が癒す事ができ、それでなくても、元々の国土に開きがあるロンバルディアとは、軍事力と生産力において遥かに勝るのである。
 今現在のロンバルディアが、帝国に交戦を主張する事は、滅亡に向けて大合唱するようなものなのであった。
 また、今一つの和平を締結させた場合である。
 この場合、確かにロンバルディア王国の命数は、交戦するよりも長引くかも知れない。が、結局は、軍事力と生産力の比嘉の差が物をいい、後々にロンバルディアは解体されてしまう運命を免れないであろう。
 寡兵ながらもロンバルディア王国が、帝国と互角以上に渡り合う事を可能にしていたのは、【時空の魔導師】国王カリウスが王都にあって、その王弟カルロスの才幹があってこそ、であったのである。
 そのカルロスは「フリーデル戦役」において戦死し、今また、カリウスまでもが死者の列に並びかけている現状なのである。この二本の柱石が倒れてしまえば、ロンバルディアが尚も国家として、形勢していけるはずがなかった。

 そして何より、最悪の場合、ロンバルディア王国は二つに分裂する可能性を秘めている。王国が建国される前のロンバルディアに所属していた、武断派のガンドルフと、ロンバルディアが建国された際に仕えるようになった新参派を代表するマードック。奇しくもロンバルディア王国の両翼を担う第一人者からして、必ずしも足並みが揃うとは限らないのだ。
 彼らこれまで互いに協調してやってこられたのも、確かに互いの実力を認め合っている事も上げられるが、何より、カルロスとカリウスという、彼らの間に軸となる人物があったからこそで、大過なく己の職務をまっとうできたのである。
「私はカルロス様、カリウス陛下をこのようにした帝国の軍門にむざむざ降るつもりは、毛頭ない。例え私一人になったとしても、反帝国運動を続けていく事だろう」
 ガンドルフとしても、譲れない意地がある。討ち取られたカルロスの首を帝都で晒し、和平の協議に入っている段階において、今度はカリウスを亡き者にしようとする、シンルピア帝国のやり口に、実直な武臣たる彼には我慢の限界であった。
「だが、我々の立場と・・・・宰相、貴方は違う」
 元々、マードックはガンドルフたちと異なり、ロンバルディアの、カリウスの部下であった訳ではない。モンゴック独立政府の代表であり、首相ともいうべき表社会の第一人者であったのである。
 恐らく、シンルピア帝国でも彼の実績と才幹は高く評価され、それでなくても引き手が数多であろう。何しろ、このロンバルディア王国の経済基盤ともなった、この経済都市である王都ロンバルディア(当時はモンゴック)を再建したのは、彼の手腕によるものであるのだ。
「確かに貴殿の言うように・・・・私は元々、カリウス陛下たちと敵対する側の組織に属していた人間であり、ロンバルディア王国に建国されてから、仕えた新参者にしか過ぎないのかも知れない」
 その意味においては、ガンドルフが言うように、正道にあった彼には、馴染みのある国家ではなかった。
「だが・・・・カリウス陛下は、そんな経歴の浅い私に、宰相という要職を与えてくれた」
 当時、この人事が他者の驚きを買ったのは間違いなかった事だろう。確かにマードックの才幹と官僚としての能力を、モンゴックの街を再建した実績から疑う者はいなかったが、まさか内政と政策を司る宰相に任じられるとは、誰もがカリウスの人事に意表を衝かれたものである。
「それに例え僅かでも、私はロンバルディア王国に、カリウス陛下に仕えて禄を食んだのだ。今更、途中下車するつもりは、私にもない」
 宰相は、先の王都攻防戦から、また再建されている都市を見据えて、言葉を選ぶようにして告げる。
「私は、この街が・・・・好きだった」
 それはかつて自分を政府首相にしてくれたから、ではない。ただ純粋にこの街の発展を願い、商業を奨励し、陸路を整備した。いくつもの港を構えて、海路を引いては交易を栄えさせた。その尽力の賜物からくる、愛着からである。
 ロンバルディア王国は、カリウスというより、カルロスが建国したものであったが、この王都ロンバルディアの生み親は、このマードックだと言って過言ではなかった。
「この街を・・・・王都を損壊させたシンルピア帝国には、私としても、このまま看過しておけるほど、私の度量は広くはないつもりだ」
 ガンドルフは頷いて、めずらしく熱弁を奮った宰相の思いに同意する。
「王国の方針は決まりましたかな・・・・」
「そうですな・・・・だが、ロンバルディアが滅亡しないように尽力はしますが・・・・その為にも、カリウス陛下には・・・・」

 かつて王弟が健在であった頃、ロンバルディア王国において、カリウスの存在は、その身分にも関わらず、それほど大きく重要視は抱かれていなかった。
 一つには、カリウス個人の人格が、確かに王として欠けている部分があった事もあったが、何よりも、王弟カルロスの存在があっての、国家として形成できていたのだと、思われていたからだ。
 だが、ガンドルフもマードックも、今になって、カルロスが常に兄を立てていようとした理由が、解ったような気がした。
 確かにカリウスには国王としての統治能力に欠けている、疑問視されている部分は多々としてある。人格も非道や冷酷からは程遠いが、決して褒められたものではない。パッフィー・パフリシアをレイプし、その撮影した映像を公表した上で、王妃と迎えているだけに、カリウスには反論する余地はないだろう。
 統治能力や人格でいえば、遥かに王弟のカルロスの方が国王に向いていたのである。
 だが、ガンドルフも、そして敵勢力に属していたマードックでさえも、カリウスという個人の個性を嫌う事はなかった。存在を疎ましく思えた事はあっても・・・・
 カリスマ性というやつなのかも知れないが、王弟に比べて、完璧でなかったが故に、カリウスの人間臭さには愛着を抱かせるのである。
 それは主君として、得難い素質の一つではなかっただろうか?
 そして確かにカリウスは、現在のロンバルディア王国にとって、大切な主君であったのだから・・・・

 そして、その瀕死のカリウスの元に、ガンドルフやマードックでさえ、思いにも寄らなかった人物が尋ねてくるのは、それから間もなく、数日後の事であった。






       ( 3−1−B )

 【 崩壊の悪夢 パッフィー サイト 】



 まどろみの暗闇の中で、彼女の身体は彷徨い続ける。
 どちらが天井で、どっちが地表なのか、
 重力までもが曖昧であり、想像以上に感性が鈍い。
 今、パッフィー・パフリシアは深い暗闇の真っ只中・・・・夢の最中にあった。



「パッフィー・・・・」
 (えっ?)
 暗闇の向こうから、自分の名を呼ぶ声が聞こえる。凄く懐かしく、そして最も身近に感じていた人の声が・・・・
 私は恐る恐る目を開け、愛する事に決していた彼を見据える。
「か、カリウス!」
「パッフィー、無事だったか・・・・」
 そうとう心配してくれていたのだろうか? カリウスは私の表情を一瞥して、安堵の溜息をついた。そのカリウスの手には、まだ生まれて間もないだろう、産着を纏った赤子の姿がある。
 それが彼女には、男の子のだと解っていた。
 何故なら、主治医である女医が前もって教えてくれていたから。
「パッフィー、良くやった・・・・元気な・・・・本当に元気な男の子だぞ!」
 本当に嬉しそうに抱え上げている。カリウスにとって、それはあらゆる意味において、待望の男児であったからなのであろう。
 元気な声で産声を上げる赤ちゃんに、カリウスだけでなく、私も一つの重責を果たしたのだと、安堵の溜息をついた。
「この子は凄い子になるぞ・・・・この魔力に・・・・この健康の状態、今の俺を遥かに凌駕する、凄い魔導師に・・・・」
「だって、私とカリウスとの子だもの・・・・」
 私は純血のカリウスの子孫であり、そしてまた、カリウスも代々、近親相姦の果てに生まれた純血の血筋である。つまり、純血のカリウスと純血の私の間で生まれた子供は、限りなくオリジナルの(カリウス)をベースに、二乗されていくのである。それでいて、カリウスの血にパフリシアの血が重ね掛けされ、二人の間には、遥かに魔力の高い子供できるのだ。
 それによってカリウスは、代々、未来永劫に渡って生き続けていくのである。
 ふと、置いて行かれてしまう様な寂しさが、私の胸に去就してきた。
 (でも、すぐ、って訳じゃないしね・・・・私はもっともっと、カリウスとの間に子供を作らなきゃ、ね・・・・)
 カリウスには過去、一人だけ兄弟がいる。いや、いたのだった。双子だったのだから、当然ではある。そのカリウスが生かした唯一の兄弟こそ、カルロスさんだった。
 また次のカリウスが寂しい思いをしないように、私はもっと、もっとカリウスとの間に子供を設けなければならない、と改めて思ったものである。
 できれば、また男の子を・・・・
 だが・・・・
「なぁ、パッフィー? これは・・・・」
「ん? なに、カリウス?」
 怪訝そうな表情を浮かべて、カリウスは衝撃的な一言を言い放たれた。
「本当はこの赤子・・・・俺との子供では・・・・ないだろう?」
「えっ?」
 そんなはずはない、と、私はカリウスから産着に包まれた赤子を受け取り、そして・・・・次第に自分の顔色が蒼褪めていくのを実感した。
「そ、そんなはず・・・・は・・・・」
 生まれたばかりのはずのカリウスと私の赤子には、生まれたばかりなのにも関わらず、その頬に深い傷跡があったのである。

 その傷跡が、船上での激しく陵辱された瞬間を脳裏にかすめた。
 サトーに背中を抱え上げられ、激しく蹂躙されてしまった性交。

「お前・・・・ほ、他の男に・・・・抱かれたのかぁっ!?」
 カリウスという男には確かに美点もあるが、それ以上に欠点も多く、その中でも、特に独占欲が強かった。その独占欲の強い彼だっただけに、その口調は激しくも厳しい。
「ち、違うのぉっ!」
「何が違うんだよ?」
 突然、慌しく否定しようとした私の背後から、これもまた懐かしい声が聞こえてきた。
「あ、アデュー・・・・」
「パッフィー、お前は抱かれたんだろう? サトーって、奴に・・・・」

 再び、脳裏に過ぎる、船上での激しい性交。
 身体ごと抱え上げられ、私の股間と結合している、忌まわしき記憶。

「あ、あれは・・・・無理矢理に・・・・私だって・・・・」
 私だって懸命に抵抗したのだ。だが、身体ごと抱え上げられては、どんな抵抗も無力でしかなかった。カリウスに初めてレイプされた時も辛かったが、精神的苦痛だけなら、この時の容赦ない抽送ほど辛いものはなかった。
 その最中にあった会話を思い出した私は、恐る恐る聞いてみた。
「・・・・アデュー、貴方があれを容認していた、って・・・・本当なのですか!?」
「ああ、本当さ!」
 その衝撃的な告白に、私は愕然とせずにはいられなかった。例え、夢の中であっても、彼に肯定される事はショックであった。
「パッフィーをレイプしたカリウスを殺せれば、後はパッフィーに何をしてもいいから、レイプしてもいいから、って御願いしておいたのさ」
「ひ、酷い・・・・酷過ぎるわ」
「でも、俺たちが戦っている間、サトーに抱かれて、パッフィーも感じてはいたんだろう? 良かったじゃないかぁ」
 そのアデューの余りの言い草に、私は憤りを感じたが、再び背後のカリウスの声に、その怒りは瞬く間に萎えてしまった。
「か、感じて・・・・いたのか?」
「ち・・・・違うの、あれは、違うのぉ・・・・カリウス、信じて!」
 だが、振り返ったところに居たのは、カリウスではなく・・・・別の男であった。
「ああっ〜? あんなに気持ち良く、よがっていたじゃねぇかよ!」
「あ、ああっ・・・・」
 忌まわしい男の登場に、私は、蛇に獅子に睨まれた兎のように、全身で震えて恐怖した。その男の視線が怖かった。だが、それ以上に、身体に刻みこまれた記憶を再現させられる方が、遥かに恐ろしかったのだ。
「ほれ、見ろよ・・・・あんなに気持ちよく、豪快に、イってる、じゃないか!? ええっ!?」
「イったのか?」
 再び、背後からカリウスの声が・・・・いや、アデューの声だったかも知れないが、もう振り返るだけの気力がなかった。いや、二人に会わせる顔がなかった。
 特に・・・・カリウスには・・・・
「辛かったのですね、パッフィー姫・・・・」
 私は突然、ハッとなる。この優しげな声の主は・・・・
「か、カルロスさん・・・・」
「やはり間違いだったのですよ・・・・」
 カルロスさんは優しげに私を受け止め、髪を撫でてくれる。まるで泣く子を宥めるような仕草であったが、それでも私には嬉しかった。
 だが・・・・
「貴女などに、カリウス様を任せたのはぁ!」
「か、カルロスさん、なにを・・・・えっ?」
 眼前に、彼女が見た光景が・・・・アデューの《リューパラディン》がカリウスの《リューアークメイジ》を突き刺す、あの一瞬の刹那が私の前に広がっていた。
「お前を庇って受けた銃弾が・・・・せめて魔法が使えていれば・・・・俺がこんなに苦しんでいたのに、そのお前はその時、他の男に抱かれていたのかぁっ!? 気持ちよく、よがっていただと!!」
「か、カリウス・・・・信じてぇ!! 御願い、私は!!」
 私は懸命に哀願した。
 私はこれまでにカリウスに全てを捧げ、彼を愛する、と言った言葉に微塵の偽りもなかった。そんなカリウスに冷たい視線を向けられる事は、私には到底に耐えられないものであった。
「パッフィーってさ、結構、淫乱だったんだな〜」
「ア、アデュー、やめてぇ! これ以上、カリウスを刺激しないで!!」
「だってよぉっ、ほら、見てみろよ、あれ・・・・」
 アデューが指差した光景には、貪欲なまでに快楽を貪り続けている、私の姿があった。ベッドの上にサトーが寝そべり、私は懸命に腰を振って降ろして、激しく求め合っている。互いに身体を重ね合い、抱き締め合っている。信じられない言葉を口にして、私から求めている、その光景が・・・・
「なっ、何よ・・・・こ、これは・・・・?」
 見覚えがあるようで、身に憶えがない。まして、カリウス以外の男性を求めている自分の姿が、私には信じられなかった。
「あれを見ても・・・・まだパッフィーは、自分が淫乱だと、認められないのかよぉっ?」
「ああ、淫乱だ、淫乱な聖女さまだったぜぇ〜」
 アデューの指摘に同意して、ただ寝そべっている男が、その光景を見据えている私の方へ見上げる。
「クククッ・・・・最高の身体だったぜぇ。俺に抱かれて貰える嬉しさの余り、淫乱な自分の本性を曝け出しやがったのさ・・・・」
「そ、そんな事・・・・」
 私は今でも、カリウスだけを愛している。そう、断言できる。だが、私のその想いまでも否定させるような、痛烈な一言が下される。
「では・・・・何故あの時、立ち止まったのです?」
「か、カルロスさん・・・・」
 私を庇う事で魔法を封じられたカリウスの《リューアークメイジ》が、私の為に時間を稼いでくれたのである。だが、私はアデューの叫びに立ち止まり、結果的にカリウスの懸命の努力をふいにしてしまった。
「私は、二人を止めようと・・・・」
「違うな・・・・俺に抱かれる為にさ!」

 途端にサトーとの結合が、眼前に再現される。
 一つのベッドの上で、互いに身体を抱き合い、自ら進んで腰を振り続ける自分のその姿を・・・・

「お前は俺に抱かれたいが為に、あの場に立ち止まり、俺に対して自ら股を開いていく・・・・そういう、お前の運命だったんだよ!」

 サトーの嘲弄が私の心の中で渦巻く。

「恨むのなら、そんな素晴らしい肉体を生まれ持った自分と、俺に抱かれて貰える運命にあった、その自分の幸運を恨むのだな!」


  ――俺に抱かれて貰える運命にあった、その自分の幸運を・・・・





「はぁ、はぁ・・・・」
 荒い息を肩に、パッフィーは深海よりも深く、永遠のようにも長く感じられた眠りから、ようやくにして目を覚ました。
 (ゆ、夢・・・・なの、ですね!?)
 パッフィーは薄い毛布を片手に、ゆっくりと身を起こした。
 自分が裸体であった事に驚きを禁じえなかったが、それ以上に、久しく柔らかなベッドで眠る事が、いつ許されたのか、彼女自身でも定かではなかった。
 (それにしても、酷い・・・・夢・・・・?)
 先の悪夢が残滓のように、小柄な身体から、噴き出すように汗ばませている。
 酷い悪夢でしかなかったそれが、余りにも生々しく、何処までは夢であり、何処までが現実であったのか、パッフィーは暫くの間、その境界線を彷徨い続けた。
 それも無理はなかった。
 パッフィーが、このパフリシア城に連れ込まれてから、既に二ヶ月以上の時が経過していたのだが、彼女の意識にはその間の記憶が、完全に欠落しているような状態であったのだ。
 ふとパッフィーは胎内からの躍動を感じて、身篭っている生命の無事を確認する。いつのまにか(二ヶ月が経過しているのだから、当然ではあるが)腹部が明らかなまでに膨らみ始めており、その後の経過も彼女が見る限り、順調ではあった。
 (カリウス・・・・この子は何があっても護ってみせるから・・・・だから早く、迎えに来て・・・・)
「はぁ・・・・はぁ・・・・ふぅ〜〜」
 荒い息を整えて、深く深呼吸をする。


 ―― 《 ドックン 》 ――


 だが、安堵の溜息を漏らした、その途端、パッフィーの青緑の瞳が大きく見開かれた。
「あっ・・・・ああっ・・・・」

 そのパッフィーに、ここ二ヶ月の記憶が、一気に襲い掛かったのだ。
「ああっ・・・・い、いや・・・・いやぁ!・・・・」
 弱々しく、頭を振り・・・・その首元にある確かな感触。
 あれがただの悪夢でなかった、その証の証明が、彼女に残酷なまでの現実を突き立てていく。
「いっ!! 嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ぁ!!!」


 パフリシア城を揺るがすような、壮絶な悲鳴が鳴り響き・・・・
「くくくくっ・・・・」
 その瞬間、それを耳にした頬に傷ある男は、隣室の寝室に眠っていた少女の覚醒を確信して、不敵なまでの笑みを浮かべた。
「どうやら、アンミストルウム(アン・ミスト・ルウム)が抜けたようだな」
 領主としての職務を終え、ちょうど一息つこうとしていた頃合だったのである。
「パッフィー姫が選んだ運命の男として、挨拶ぐらいはしておいてやるか・・・・俺なりの挨拶を、な」
 無論、サトーの挨拶とは、ペニスとヴァギナを結合させる、男女の営み以外に他なかった。


 《 ガチャ! 》

「!」
 隣室からの扉が開き、パッフィーは恐ろしいまでの形相で、その人物を睨みつけた。彼女には、それが誰であるか、など見るまでもなかったのである。
 この寝室に入室できるのは、この寝室の主であり、現在のパフリシア領主のそれ以外にありえないからだ。
「どうやら全てを思い出せたようだな・・・・」
 だが、サトーはそんなパッフィーの態度など意に解する事もなく、平然としたまま語りかけてきた。
「どうだい、全てを思い出した、この二ヶ月間の記憶は?」
「ひ、ひどい・・・・酷すぎる・・・・お、お腹の子には・・・・絶対に手を出さない、って!」
「ああっー? 俺は手出ししてないぜ・・・・」
 その男の言葉に偽りはなかった。衝撃的な記憶が見せた現実が、パッフィーに突きつけられ、彼女は思わず言葉につまった。
「全て、お前が望んだ事じゃなかったか?」
「そんな事、ある訳・・・・!」
「全て思い出したんだろう? 俺に抱かれる事も・・・・カリウスではなく、この俺だけを愛する、と言った言葉も、なにもかも全て・・・・ククククッ、なぁ、パッフィー?」
「あ、あれは・・・・きっと、貴方方が私に、変な薬を・・・・」
 そのサトーが語る言葉は確かに、蘇ったばかりの記憶が示すように現実のものであり、それに対するパッフィーの発言には、それを打破できるほどの裏付けも、その根拠も何一つなかった。

 サトーは一つ一つ、衣服を脱ぎ放って、ベッドに向かって歩み寄ってくる。裸体のパッフィーに、裸体になろうとするサトー。この歩み寄るこの男が何をしようとしているのか、誰の目にも明白であった。

「俺だけを愛するっていうなら、俺にはその、愛、とやらを確かめる資格があるはず・・・・だよな?」
「い、いや・・・・」
 パッフィーは後ずさりした・・・・いや、しようとしたのだ。だが、彼女の身体はその意志に反し、そこから動く事はなかった。
「今更、嫌、もねぇだろうが・・・・昨日までにも散々、愛し合ってきた仲じゃないか」
 悪夢の中にあったあの光景は、紛れもなく現実のものであったのだと、パッフィーは今更ながら衝撃を憶えずにはいられなかった。確かにパッフィーは昨日までのこれまで、サトーと結ばれ合っていたのである。
 そう、このベッドの上で・・・・
「その身体で、たっぷり・・・・お前のその、愛、とやらを確かめてやろう」
 (そ、そんなの・・・・)
 昨日まで受け止めてきた男のペニスが、パッフィーの目に止まり、彼女の身体は、目前の男に・・・・自ら身体を開かせていく。
「な、なんで・・・・」
「クククッ・・・・身体の方は正直じゃないか? 是非たっぷり、確かめてください、てっか?」
 サトーは曝け出されたパッフィーの股間を一瞥して、指で左右に開く。既に運命の男を認識している彼女の身体は、子宮までを疼かせて、サトーの侵入を待ち望んでいるか、のようであった。
 その襞を一枚一枚、捲り上げながら・・・・サトーは更なるパッフィーの膣内を覗き見ていく。
「クククッ・・・・未だに綺麗な花弁じゃないか」
 サトーはパッフィーが差し出した入口を指で開いて、おもむろに口を添えた。そして、パッフィーの体液を啜って・・・・その舌でパッフィーの内部へと侵入を果たしていく。
「いやぁ・・・・いやあぁぁぁ、な、舐めないで・・・・飲まないでぇぇ」
 《ピチャピチャ》と、卑猥な旋律がパッフィーの股間から奏でられ、そのサトーの為だけに、パッフィーの身体の中で精製された、特製の体液が溢れ出してくるのである。
「クククッ、口では何とでも言えるよな・・・・こっちはどんどん密を滴らせているじゃないか。もっと俺に味わって欲しいんだろう?」
「そ、それは身体が勝手に・・・・」
「ああっ!? それじゃ、その勝手な口に、俺のペニスを咥えてもらうとするか!」
 サトーは一通りパッフィーの体液で喉を潤すと、怒張した剛直を彼女の身体に宛がっていく。パッフィーはその間、懸命に頭を振りながらも、身体はその結合を待ち構えているかのように、微動する事もなかった。
 《ズブッ・・・・ズブズブズブッ・・・・》
「あっ・・・・あぁぁ・・・・」
 座位からの結合によって、サトーはパッフィーの両肩を抑え付け、その身体奥深くまで抉っていく。既に完成していたパッフィーの身体は、サトーのペニスだけを過不足なしに受け止める、専用名器としての役割を担うかのように、その全てを締め付けていった。
「さすがに・・・・この身体の膣内は絶品だな」
「ううっ、うっ・・・・」
 そして、彼女の両腕はサトーの首筋を抱き締めていく。何処の誰が見ても、パッフィーはサトーという男に抱かれている事を望んでいるようにしか見えなかった。
「この、好きものが・・・・そんなに俺に抱かれるのが嬉しいかぁっ」
 《ズブッ、ジュプッ、ズブブッ、ジュプッ・・・ズブブッ・・・》
「こ、こんなの・・・・嫌・・・・嫌・・・・んんっ」
 懸命に嫌悪感を語る唇にサトーの舌が割って入り、瞬く間にパッフィーの舌を絡み取った。
 (か、身体が・・・・勝手に・・・・どうして・・・・?)
 激しいキスが応酬されたその後、今度はパッフィーの舌がサトーの口内に割って入り、淫らなまでにサトーとの舌と結合していく。その激しい結合の下でおいても、サトーのペニスをパッフィーが受け止めている。こちらの締め付けも、上にも勝ると劣らず、激しいものであった。
 (こんなの・・・・こんなの、いやぁぁぁぁ・・・・)
 だが、パッフィーの意志とは裏腹に、彼女の舌はサトーの舌を迎え入れて、淫らに絡み合わせては、サトーの唾液を飲み下していくのだった。
 唇を重ね合いながら、サトーは心の中で嘲笑する。
「クククッ・・・・だいぶ、順応になってきたじゃないか!」
「かはっ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
 サトーはパッフィーの身体を押し倒し、強烈な締め付けからくる射精感を解放するべく、悪魔的なスパートを試みる。
 《ズン、ズン》と突かれながら、パッフィーはサトーと熱いまでの口付けを交わし合っていく。
「くっ、さすがに・・・・そろそろ、出そうだ・・・・膣内に・・・・出すぞ・・・・いいな?」
「な、膣内に・・・・出してください・・・・」
 (えっ?)
 パッフィーは思わず、自分が口走った言葉に愕然とする。
 だが、彼女の意思とは裏腹に、パッフィーの身体は・・・・両腕はサトーの両肩を強く抱き締め、結合する底から両脚を、サトーの腰を抑え込む。明らかに彼女の身体は、膣内出しを希望していたのである。
 (いや・・・・こんなの・・・・いやぁぁぁぁぁ・・・・・)

 これは夢ではない。悪夢ではなく、今進行している現在なのである。
 昨日までの自分にもそうであったが、現在、意識がはっきりと認識していた今でおいても、彼女の思考を困惑させる材料でしかなかった。

「あっ・・・・んんっ・・・・」
「・・・・くっ!」

    《 ドックン! 》

 そして、遂に二人が結ばれている奥深くで、サトーの第一射が解き放たれた。
「あっ・・・・あっ・・・・」
 《ドックン・・・・ドクンドクン・・・・》
 と、
 懸命に受け止める少女には、その子宮まで到達していく衝動を、はっきりと認識する事ができていた・・・・認識できてしまっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
 互いにじっとり汗ばみ、射精した、受精した、体勢のまま身体を繋げあっていた。
 そんなパッフィーに衝撃的な言葉を語りかける。
「クククッ・・・・この光景を溺愛したカリウスが・・・・アデュー・ウォルサムが観たら、さぞ仰天するだろうな?」
「!」
 サトーの言葉の後者はともかく、前者の名前には、自身の不可解な行動に愕然とさせるのには、十分であった。



「クククッ・・・・確かに、お前の俺に対する愛情は、確かめさせてもらった・・・・」
 (ああ、素晴らしい肉体だぞ。誇るがいい、そして、光栄に思うがいい!)
「さすがにそこまで愛されては、俺も真剣に考えてやろう・・・・」
 一つしかない出口に手をかけ、傷のある頬を歪ませた。
「お前との、結婚をな・・・・」


 サトーが散々にパッフィーを抱き散らした後も、パッフィーは一人残された寝室のベッドの上で、唖然と虚空を見つめていた。大粒の涙を流しながら、ただ天井だけを見続けていた。
 だらしなく曝け出された股間からは、サトーのスペルマが夥しく溢れ出して、性交におけるその全てが、膣内射精で終幕した事を如実に物語っていた。
 パッフィーの身体はその全てを、受け止めるべく行動を、言動を示し、言われるがまま受け入れていってしまった。
 (・・・・・こ、こんなの・・・・)

 パッフィーのお腹は、サトーの精を大量なまでに受け止めた事もあって膨れ上がっていた。実際に臨月が迫っている状態なのであった。

 (こんなの・・・・いや、すぎる・・・・)
 サトーに散々弄ばれ、パッフィーは大粒の涙だけが零れ落ちた。
 (助けて・・・・カ、カリウス・・・・助けて・・・・)
 パッフィーは切実に願っていた。
 自分が愛しているのは、まぎれもなく、カリウスであると今でも彼女の心は断言できた。どれだけサトーに穢され、サトーに身体を許したとしても、それだけは絶対に変わる事がない。

 だが・・・・

 (ゆ、許して・・・・カ、カリウス・・・・)
 既にパッフィーは・・・・カリウスに助けてもらえるだけの存在ではなくなっていた、のかも知れない。少なくても、彼女にはそう思えてならなかった。
 (・・・・ごめんなさい、わたし・・・・カリウスとの子を・・・・)
 ベッドに顔を埋め静かに啜り泣き・・・・号泣していく。


 パッフィーが出産を間近に控えている、その胎児の父親は・・・・



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