第17話 聖獣


 少女は目を覚ました。暗い闇に落ちた意識がようやく覚醒する。いったいなにが起こったのか思い返してみる。
 (あれは・・・)
 自分が仕える商人が家族を連れて隣国へ向かう途中、盗賊団に襲われたのだった。うわさには聞いていたが、冒険者を何人も雇ったことで安心していた一同だったが、盗賊団はそれを遥かに上回る規模だったのだった。盗賊団の手に掛かって使用人たちが、冒険者たちが次々に殺され、この家の主人である商人もその首をはねられてしまった。
 (そして私たちは・・・)
 生き残ったのは商人の一人娘とメイド数人、女性の冒険者たちだった。みな盗賊団に生け捕りにされ彼らのアジトまで連れてこられたのだった。おびえるお嬢様を抱きしめながら自分は泣き出したい心を押さえ込んで我慢していた。自分が泣けば、お嬢様まで泣いてしまう。だから、我慢できた。
 (ここに来てあの男は・・・)
 このアジトに連れてこられたあと、ボスと思しき男にお嬢様が汚されそうになったとき、少女は自分がその代役を果たすことを望んだ。男は少女に全裸になり全てを晒すことを強要してきた。お嬢様を楯に取られた少女はその言葉に従うしかなかった。
 (そして、あの男は・・・)
 少女に全てを晒させた男は、さらに自分のペニスを舐めることを要求してきた。拒絶することの出来ない少女は懸命に男のペニスを舐めた。熱く、気持ちの悪いものを必死に口に含み懸命に奉仕した。が、男の吐き出す精子はとても量が多く、とてもではないが少女には飲み干せるものではなかった。
 (・・・・・)
 男は全て飲み込めなかったことを理由に少女に襲いかかった。股を大きく開かせ、無理矢理ペニスを押し込む。大切に守ってきた処女は無残に散らされ、男のペニスを激痛と共に受け入れるのだった。男にやさしさなどという言葉は微塵もなく、ただケダモノのごとく少女に腰を叩きつける。
 (あの痛み・・・忘れない・・・)
 処女膜を破られ、膣を無理矢理広げられた痛みは今も少女の下腹部に残っている。男は痛がる少女を無視してペニスを抜き差しし、自分の快楽だけを貪るのだった。そして泣き叫ぶ少女の子宮に己の欲望の全てを放出する。それが少女に絶望を与えることを知っていながら。
 (私・・・汚された・・・)
 少女の目にまた涙が浮かぶ。己の純潔を忌み嫌う男に無理矢理散らされ、子宮に射精までされたのである。絶望が少女の心を覆い尽くそうとしていた。だが、男の欲望はそこで終わらなかった。
 (そのあとも・・・)
 男は少女を四つん這いにさせると、後ろから少女を貫く。硬さを取り戻したペニスで、少女のアナルを遠慮なく貫いたのだ。再び襲ってきた激痛に少女は絶叫した。引き裂かれるような激痛に少女は涙し、懸命に逃げ出そうとする。男はそんな彼女を押さえつけ、さらに部下たちを呼び寄せる。
 (あいつら・・・全員人間じゃあ・・・ない!!)
 少女の目には悪夢の光景が繰り広げられていた。他のメイドたちが、女冒険者たちが、男たちに襲いかかられていたのである。みな裸にされ、遠慮などせずにヴァギナを、アナルを貫く。泣き叫ぶ口にペニスを押し込む。姉のように慕ってきたメイドたちが、頼りにしてきた冒険者たちが男たちによって壊されてゆくさまを少女はアナルを犯されながら見つめるしかなかった。そんな彼女も例外ではなかった。
 (私も・・・)
 余った男たちが少女に近寄ってくる。男は下卑た笑みを浮べて少女の足を無理矢理開いて、部下たちを迎え入れる。少女もまた男たちにヴァギナを、アナルを、口を犯された。何人もの男が入れ替わり、立代わり少女を犯す。終わることのない陵辱劇は少女の心を壊すのだった。
 (そうだ、お嬢様だけは・・・)
 壊れかけた少女の心を繋ぎとめていたのは自分が仕えるお嬢様だった。幼き日にめぐり合い、彼女だけに仕えてきた。自分を姉のように慕ってくれ、いつも自分の後をついて来てくれたお嬢様。彼女だけが少女の心の拠りどころだった。だから彼女を守るために自分はなんでもするつもりだった。
 「お・・・じょう・・・さ・・・ま・・・」
 覚醒した意識がようやくあたりの状況を確認させてくれる。今自分をお犯しているものは一人もいない。全裸で地面に放置されている。膣からも、アナルからも、口からも、止め処なく精液があふれ出してくるのが分かる。体のあちこちに精液が附着し、体を汚しているのも分かる。拭っても拭いきれない穢れが自分には染み付いてしまっている。それが悲しかった。男たちはどれほどの欲望を自分に放出したのだろうか。
 「お嬢・・・さ・・・ま・・・」
 少女の視線があたりをさまよう。メイドたちも、冒険者たちも同じように地面に放置されている。彼女たちもまた全身性液にまみれている。自分と同じように穴という穴から精液があふれ出していることだろう。意識はないのか、ピクリとも動かない。彼女たちのことを心配しつつ少女は視線を動かす。
 「お嬢・・・様・・・」
 耳に男たちの声が聞こえてくる。下卑た笑い声、喜ぶ男たちの声、泣き叫ぶ声・・・まだ誰かが犯されているのだろうか・・・少女は声のする方向に視線を移す。うつろな瞳が眼の前で広げられる陰惨な宴を写し取る。男が何かに群がっている。全員性器をむき出しにし、そこに己の欲望をたたきつけている。
 「えっ・・・?」
 少女は眼の前で繰り広げられている光景を信じることが出来なかった。ボスは自分の身長の半分ほどしかない少女に圧し掛かり、彼女の膣に己の分身を捻じ込んでいる。幼い膣は大きな異物の侵入に悲鳴を上げ、血の涙を流している。女の子が汚された証だった。
 「う・・・そ・・・」
 少女は信じたくなかった。その光景を。男がその幼い少女のアナルにペニスを捻じ込み、犯している。女の子の幼い口は男の欲望でふさがれ、くぐもった声しか出てこない。嫌がった女の子の口からペニスが外れるたびに、女の子は泣き叫び、父を母を呼び助けを求める。そして少女の名を呼び助けを求める。
 「お嬢様・・・やだ・・・約束が違う・・・」
 彼女にとってお嬢様は全てだった。彼女のために自分はいかに汚されてもかまわないと思っていた。だから男たちの欲望のはけ口になっても耐えられたのだ。全てはお嬢様を助けるためだった。しかし、その助けるべきお嬢様は今男たちに汚されている。少女は這いずってお嬢様のもとに近付く。
 「なんで・・・?わたし・・・言うとおりにしたのに・・・何でお嬢様を・・・」
 ボスに縋り付いて理由を問いただす。そんな少女を最初は何かという顔をしてみていたボスだったがすぐにいやらしい笑みを浮べる。
 「何言ってやがる。俺たちを満足させられないで失神しちまったのはお前じゃねぇか。なら約束を破ったのはお前だろう?」
 ニヤニヤ笑いながらボスは女の子のヴァギナを貪る。男の剛根に貫かれたヴァギナは血まみれで愛液と一緒に赤い雫を滴らせている。女の子は涙目で何か訴えようとしているが、口をペニスでふさがれていて何も話せない。あまりに痛々しい姿に少女はボスに懇願する。
 「私が・・・私が何でもしますから・・・お嬢様をそれ以上・・・汚さないで・・・・」
 「うるせえな!約束守れねえ奴の言葉なんて信じられるか!!お前らこの娘の相手してやりな!!」
 すがりつく少女を振り払うとボスは順番待ちをしていた男たちに命令する。待ちくたびれていた何人かが少女に襲い掛かる。精液の溢れるヴァギナにペニスをねじりこみ、アナルをふさぐ。口を手をふさがれても少女は女の子の無事を祈った。
 「くぅ!狭いマンコだ。きつすぎてもう我慢できねえ!!」
 ボスの叫びに少女は頭を振ってそれをやめるよう懇願する。だが、口をふさがれていては声を出すことも出来ない。必死にペニスを口から追いやり、懇願しようとした瞬間だった。ボスのペニスが大きくはじけ、女の子の膣内に射精する。男の精液が女の子の子宮を満たしていく。その光景を少女は声もなく見つめるしかなかった。
 「ふう、大量に出たぜ。さすがにガキのマンコはきつくて気持ちいいぜ!」 
 そういいながらボスは女の子から体を離す。ボスが離れた女の子の体は糸の切れた人形のように脱力する。時折見える顔に精気はなく、その目には光りは宿っていない。うつろな表情で男たちのなすがままになっていた。その姿を見た少女は絶叫した。それは悲鳴であり、怨嗟の雄たけびであり、己への自責の叫びだった。ただ、血の涙を流し、眼の前の男たちを、全ての人間を憎んだ。そんな少女の叫びに何かが答えた。崩れてゆく。二人の少女の心はそこで完全に壊れてしまった。
 それでも宴は終わらない・・・狂乱の宴は終わらない。いつまでも、いつまでも・・・

 サーナリア森林王国。国土の80%を森が占めるこの国はエルフと人間が共存する国だった。そのためエルフの弓兵隊や魔導師隊などが軍隊には存在し、お互いの平和をも持っていた。そしてこの国にしかない独特の部隊も存在した。それが一角獣騎兵隊であった。
 一角獣は処女しかのその背中には乗せない。そのため一角獣騎兵隊は少女たちで構成された精鋭部隊として名高かった。彼女たちはこの国に住むものたちの憧れであり、希望であり、象徴であった。
 一角獣・ユニコーンはテリウスの森にしか生息しない聖獣である。そのため、テリウスの森は聖域として人々に崇められ、不可侵の地といわれていた。その不可侵の地に異変が起こったのは数ヶ月前のことだった。盗賊団が森の奥地に住み着き、街道沿いを通る商人たちを襲い始めたのである。
 この異変に森林王国は大いにもめた。聖域を汚す盗賊団を討伐し、人々の安全を守るべしという意見と、聖域での戦闘を良しとせず、盗賊団を別の場所におびき出して討伐すべしという意見に分かれ激論が交わされた。だが、その意見がまとまらないまま時は流れ、被害は拡大するばかりだった。
 このことに心を痛めたのが国王だった。自ら聖域を汚すわけには行かず、国民を見殺しにも出来ない。板ばさみの状況に心を痛め、大いに苦しんでいた。そんな国王を支えていたのが二人の娘であった。長女のティリナトアは政治面に手腕を発揮し、国王を助けた。次女のユフィナトアは一角獣騎兵隊隊長として姉を助けていた。二人とも国民的人気は高く、サーナリアの双美姫として有名だった。その二人があることで今もめていた。
 「ですから姉上、私自らやつらを討伐に・・・」
 「なりませんよ、ユフィ。テリウスの森で戦闘など森を汚すことになります」
 「その森を汚している輩を征伐するのです。エルフ族の若長たちももう我慢できないと申しております!」
 テリウスの森を拠点にサーナリアお荒らしまわる盗賊団はもはや野放しに出来ない状況になっていた。ユフィナトアはそれの討伐を望んだが、ティリナトアは聖地を汚すことを嫌がってなかなか許可を与えなかった。お互いにぶつかり合い、事態はいまだに進展を見せなかった。
 「奴らを森に居座らせることは聖地を汚すことなのですよ?」
 「だからといってその血で聖地を汚すのも・・・」
 「姉上はあの少女のことをどうとも思わないのですか!!」
 ユフィナトアの言葉にティリナトアは表情をこわばらせる。数日前、テリウスの森で保護された二人の少女。二人とも全裸で陵辱されつくした姿をしていた。幼い少女はサーナリアでも有名な商人の娘で、その隊商が襲われたことはティリナトアの耳にも入っていた。そしてその幼い娘が行方不明であることも。発見された娘はこちらの問いかけには何の反応も示さず、ただ抱きしめる少女に縋り付くだけだった。そんな女の子を抱く少女もこちらに敵意むき出しの表情で保護するまで一騒動があったほどだった。それほど二人の心に深い傷を残した出来事があったということだった。
 ユフィナトアはその少女たちの姿を見て以来、毎日のように姉に盗賊団討伐を申し出ていた。これ以上彼女たちのような被害者を出さないために一刻も早く奴らを討たなければならないと。ティリナトアとてそのことを無視するつもりはなかった。そして彼女もまた、少女たちのような被害者をもうだしたくはなかった。
 「分かったわ、ユフィ・・・討伐の許可を出します。ただし極力森での戦闘は避けるように、いいわね?」
 「はい、姉上!!」
 さすがのティリナトアも折れるしかなかった。これ以上の被害を出さないためには盗賊団を討つしかなかった。姉から討伐の許可を得たユフィナトアは勇んで一角獣騎兵隊を召集するべく部屋をあとにしようとする。そんな妹姫をティリナトアはあわてて呼び止める。
 「先ほど使者の方が見えられて、エリウス殿下が我がサーナリアへ参られるそうです」
 「エリウス王子が?姉様にお会いにですか?」
 妹の一言にティリナトアの顔が真っ赤に染まる。そんな姉にしてやったりという顔で見つめるユフィナトア。浮いた噂のない姉をからかうにはこの手が一番だった。
 「ユフィ!まだ、エリウス様のお相手、”巫女姫”が私と決まったわけではないでしょう!貴方だって・・・」
 「ははっ、私みたいなはねっ返りが”巫女姫”のはずないじゃないですか!騎士をやっている・・・」 
 「レオナ姫もやっていましてよ?」
 「あの方は特別です。いかなるときも優雅さを失わないから”姫将軍”と謳われているじゃないですか」
 ユフィナトアはそう言うと短く切りそろえられた赤い髪をかきあげる。姉のような美しく長い黒髪ではない。野暮ったい髪型だったが、これが自分に一番似合っていると思っている。これを変える気はない。
 「では、街道沿いを気をつけておきます。粗相の内容に伝令も出しておきますか」
 「そうね。お父様にお会いになるためにいらっしゃるのですから、粗相のないようにね?」
 「畏まりました、姉上」
 ユフィナトアは深々と姉にお辞儀をすると部屋を辞し、一角獣騎兵団の詰め所へと向かうのだった。詰め所に入った彼女を副官のササナが迎える。
 「姫様、どうでしたか?」
 「討伐の許可が出た。森林遊撃隊にも伝達。奴らを完全に駆逐するぞ!!」
 「は。奴らに関する詳しい情報も入りましたがこれは?」
 ササナから盗賊団の情報の話を聞かされたユフィナトアはしばし考え込み、情報を聞いておくほうがいいと判断し報告するように指示する。ササナは頷くとレポートを読み上げるのだった。
 「盗賊団の構成は、ストラヴァイド軍の脱走兵、セルビジュ・サンゼルア軍残党、シーゲランス帝国国境警備隊の脱走兵、あと冒険者崩れで構成されている模様。その規模は50人を超えています」
 「50人?なかなかの規模じゃないか・・・」
 ユフィナトアは感嘆の声を上げる。自分たち一角獣騎兵隊が20人なのだからそれを遥かに超えている。もっとも一角獣騎兵隊はその特殊性から数が少なく、少女だけで構成されていた。それが数が少ない理由だった。とはいえ、相手は50人規模、さらに各国の軍隊の所属だったものたちである。
 「慎重には慎重をきさないとな・・・」
 これまでも何度か追撃してきたがそのことごとくが逃げられているのである。確実にしとめなければならないとユフィナトアは気を引き締める。出撃を指示しようとしてふとあることを思い出す。姉から伝えられたエリウス王子のことだった。あわててササナにそのことを伝えておく。
 「ササナ。ヴェイス皇国エリウス王子がわが国をご訪問なさるそうだ。粗相のないように全軍に指示を」
 「エリウス王子が?畏まりました」
 ササナはユフィナトアの言葉を聞くと部屋を飛び出してゆく。全軍にこのことを伝えに言ったのだろう。これで彼のことは気にかけなくても大丈夫だろう。ユフィナトアの頭の中はすでに盗賊団絶滅に切り替わっていた。


 テリウスの森沿いの街道。そこを通る商隊を狙い規模を広げてきた盗賊団の目に新たな標的が近付いていた。規模は幌馬車五つ、数人の冒険者が同乗している。規模としては中程度だが、十分な規模だった。冒険者がいようが彼らには関係なかった。実力、規模共に自分たちの方が上。その慢心があった。
 「一気にたたいちまうぞ!!」
 ボスは部下たちに命じる。ボスの号令一過、盗賊団は森から飛び出すと商隊を取り囲む。突然の襲撃に商隊はあゆみを止める。冒険者たちは身構え警戒している。ボスはそんな彼らをニタついた眼差しで見つめると、手にした斧を振り下ろす。それを合図に部下たちが幌馬車に襲い掛かる。
 「奪え、殺せ、犯せ!!俺たちの自由だ!!」
 「そんな自由誰が認めるか!!」
 幌馬車に同乗していたササナはフードを脱ぎ捨てると、隠してあった槍を振りかざす。それに答えるかのように、幌馬車の屋根が落ち、中ならエルフ魔導師隊が姿を現す。炎の魔法が、雷の魔法が、氷の魔法が、盗賊たちを打ち倒してゆく。さらに木の上からはエルフ弓兵隊が姿を現し、一斉に盗賊たちを狙い撃ちする。
 「くそ!!罠か!!」
 ボスは自分たちがはめられたことに気づきあわてた、だが、すでに遅かった。多くの部下が魔法で、弓で討ち取られてゆく。さらに街道を何かが駆け寄ってくるのが見える。馬のように見えるがその額には美しい角が生えている。そんな生き物、この世に一種類しか存在しない。
 「一角獣・・・ユニコーンライダーか?」
 ボスは大いに驚いた。一角獣騎兵隊といえばこの国の精鋭中の精鋭である。そんな部隊が自分たちの討伐に乗り出してきたのである。驚かない方がどうかしている。盗賊団は完全に混乱し指揮が取れる状態ではない。こんな状態でその精鋭を相手にするのは得策ではなかった。
 「引け!!森の中に逃げ込め!!奴らは森の中まで追っては来ない!!」
 この森は彼らの聖域。そこでの戦闘はないと高をくくっていたボスはそう命令する。劣勢の盗賊たちはあわてて踵を返して森の中に逃げ込む。逃げ込めばおってこない、その前提のもとに。だがその前提は見事に打ち砕かれたのだった。
 「逃すな!盗賊団をここで絶滅する!!」
 一角獣・ミストに跨ったユフィナトアはエルフや部下たちにそう命じる。ここで逃がせばまた被害を受ける者たちが出る。徹底的に叩く。そうユフィナトアは考えていた。その彼女の命令にエルフたちは弓をいる。脚を射るようにして殺さず捕縛するようにする。攻撃魔法から”スリープ”や”バインド”、”パラライズ”といった補助魔法に切り替え生け捕りにする。予想外の相手の対応に盗賊団は完全に混乱しきっていた。
 「奴ら個々で俺たちを完全に絶滅させる気か!!」
 ボスは後ろを振り向きながら木を楯に走った。数人の部下と共に敵の攻撃をかわしその場を撤退する。それを見逃しユフィナトアではなかった。ミストを自在に操り、盗賊の脚を刺し貫き、自由を奪ってゆく。
 「ササナ!ボスと思しき男が逃げた!捕縛する、ついて来い!!」
 「畏まりました!!」
 ユフィナトアの命にササナは自分の一角獣・レインを呼び寄せると、騎乗しユフィナトアのあとに続く。もともと一角獣は森の生き物である。木々をかわして進むことぐらいどうということなかった。ユフィナトアもササナも自在に手綱を捌き、盗賊団のボスのあとを追う。
 「逃さん!!」
 一角獣を駆り、華麗に盗賊を追うユフィナトアとササナ。みるみるうちにボスに追いついてゆく。苦し紛れに数人の部下が振り返り槍で、斧で二人を攻撃する。それを綺麗に受け流す。次の瞬間、二閃輝き、相手の武器を吹き飛ばし、石突きで後頭部を痛打し、意識を奪う。そうして動けなくなった者たちは後続に任せ、二人はさらにボスを追うのだった。

 「うーん、きれいな森だ・・・」
 テリウスの森の中。エリウスは自分の名前によく似たこの森を堪能していた。その後ろにはエリザベート、サーリア、アンがつづく。エリザベートは少々うんざりとした表情で前を行くエリウスに言葉をかける。
 「殿下、森の出口はこちらでよろしいのでしょうか?」
 「えーと、たぶん・・・」
 三人は目を丸くする。エリウスの道案内でここまで来て、その実は迷子だったのである。サーリアは脱力してその場にへたり込んでしまう。エリザベートも頭を抱え込んでしまった。唯一アンだけがいつもとかわりがなかった。
 「ふー、それでこれからどうなさるおつもりで?」
 溜息交じりに問い詰めるエリアベートにエリウスは視線を泳がせながら思案する。だが、名案があるわけでもなく、困り果ててしまう。しかたなく適当に案を出してみることにした。
 「アンに大きくなってもらって脱出するとか?」
 「森を破壊するおつもりですか。和平交渉に来て戦争を引き起こすおつもりですか?」
 「じゃあ、木の倒れた方向に進む」
 「それでは今となんら変わりありません!!」
 出す意見全てエリザベートに窘められる。エリウスは何とか意見を搾り出そうと考え込む。
 「うーん、歩いていればそのうち誰かに会えるんじゃあ・・・」
 「この森は聖地。この国の人間はこの地に踏み込んできません!」
 エリザベートは溜息交じりに答える。自分が使える王子である。相手の動きを読み、それにあわせた策を立てる。そのため策にはまった者は自分たちが彼に操られてそこにいるような感覚に陥るところから、”操りし者”という二つ名がこの王子には与えられている。その王子が今このダメダメ振りである。エリザベートがため息をつきたくなるのも無理はなかった。
 「エリウス様〜。誰か前から来ますよ〜?」
 案の間延びした声にエリウスもエリザベートもアンの視線の先を見る。確かに数人の男がこちらにかけてくるのが見える。エリウスはホッとした表情を浮べると、エリザベートに胸を張る。
 「ほら、人がいたじゃないか」
 「まっとうな人間ではなさそうですが・・・」
 エリザベートの目には男たちが手に下武器が目に入っていた。斧や槍、どれも血がこびりつき、赤黒くなっている。刃こぼれも激しく先ほどまで戦闘をしてきた痕跡があった。エリザベートは警戒し弓を構える。
 「殿下、お気をつけて・・・」
 「みたいだね・・・」
 エリザベートの警告に、エリウスは溜息交じりに答える。気楽な和平交渉になるはずだったのがどうも厄介ごとに巻き込まれそうになっている。それが溜息の原因だった。そうこうするうちの男たちもエリウスたちに気づきこちらに駆け寄ってくる。間違いなく敵意むき出しの目で。
 「こいつらを人質にとって逃げるぞ!!」
 ユフィナトアの追撃を懸命にかわしてきたボスにとって目の前にいる旅人は絶好の獲物だった。人質にとって一角獣騎兵隊を退かせ、うまくいけば彼女たちを慰み者に出来るかもしれない。さらに言えば男と子供を除く二人は滅多に会えないような美女である。これほど運のいいことはないとボスは心から喜んだ。そんなボスたちの進行方向に女の子が割り込んで来る。
 「あのぉ、止まっていただけませんか?」
 間延びした口調でアンはボスたちを止めようとする。しかしそんなことで止まるような男たちではない。武器を振りかざして突撃してくる。
 「あのぉ、止まってください。止まってくれないと困りますぅ」
 まだ懸命にボスたちを止めようとするアン。しかしボスたちは血走った目つきでアンに襲い掛かる。まずはこの子供を人質にしようと考えていたのだ。最強の神竜を・・・
 「止まって下さい・・・あのぉ、とま・・・れっつてんだろうが!!」
 アンの口調が激変する。それまで穏やかだった目つきが釣りあがり、敵意むき出しの口調になる。普段穏やかなアンとはかけ離れすぎた表情だった。これがエンやライがアンを恐れる理由である。切れた彼女ほど恐ろしいものはないのだから。そんな彼女を見たエリウスは頭を抱える。
 「あ〜あ・・・アンが切れた・・・仕方がない、”アナザー・フィールド”!!」 
 溜息混じりに呟くと、手早く呪文を唱え、異空間を展開する。発生した異空間はアンと盗賊団を包み込む。
 「エリウス様、アレは・・・」
 「アソコに別空間を作り出したんだ。アンは切れると力の加減が出来ないからね。この森を傷付けてしまう」
 サーリアの質問にエリウスは笑顔で答える。力の加減の出来ない神竜ほど怖いものはない。あの異空間の中で盗賊団がどんな目にあっているかと思うと、サーリアもエリザベートも背筋に寒気が走った。ちょうどそこへ一角獣を駆ったユフィナトアとササナが到着する。
 「あなた方は・・・」
 ユフィナトアは訝しげな目でエリウスたちを見つめる。盗賊団を追って珍妙な一団に出くわしたのだ。それも無理はなかった。三人をじっと見つめると、ユフィナトアはエリウスに問いただす。
 「何故このようなところに?ここはわが国の聖地ですが?」
 「いや、シーゲランスから来たのですが、きれいな森だと散策していまして、道に迷ってしまいました・・・」
 エリウスはユフィナトアの問いに頭をかきながら答える。嘘はいっていない。事実である。ユフィナトアはまだ訝しげな表情を崩さなかったが、悪人ではないと判断し、辺りを見回す。先ほどまで見えていた盗賊団の姿が消えたからだ。どこかに隠れているのではと、辺りを見回す。しかし、どこにもその姿はなかった。
 (まさかこの者たちが?)
 盗賊の仲間で彼らをかくまっているのかとも思ったが、どうやらそうではないようだ。エリウスが彼女に視線に気づき笑みを浮べると、ユフィナトアは顔を赤く染めて視線をそらす。ふと視線を移したユフィナトアの目に顔見知りの姿が映った。本来こんなところにいるはずのない人物の姿に、ユフィナトアは驚きを隠せなかった。
 「サーリア姫?何故貴方様がここに?」
 予想もつかなかった人物の登場はユフィナトアを完全に混乱させる。サーリアのほうはすでにユフィナトアの存在に気づいていたが、彼女が気づくまで黙っていたようだ。驚く彼女を見てくすくす笑っている。
 「お久しぶりです、ユフィナトア姫、ササナ様」
 サーリアは笑みを浮べたまま優雅に挨拶をする。ササナもあわてて轡から脚を外し、槍を下げ、頭を下げる。ユフィナトアはようやく冷静さを取り戻し、サーリアに質問をするのだった。
 「サーリア姫、何故このようなところに?貴方様は確か、ヴェイス皇国に・・・」
 「ええ。その和平団に付き添ってまいりました」
 ユフィナトアの質問にサーリアは笑みを絶やさずに答える。その言葉でユフィナトアはようやく合点がいった。エリウス王子がこの国に来訪するという姉の話、その来訪団にサーリアも同行してきたのだろう。そして途中の休憩で散策をしているところで自分とあったのだろうと考えた。
 「そうでしたか・・・それでエリウス王子たちはいずこに?」
 「エリウス様でしたら、こちらに・・・」
 サーリアはニコニコと笑って先ほどの男性を紹介する。紹介を受けたユフィナトアもササナも顎が外れんばかりに驚くのだった。そんな彼女たちの姿を見てサーリアはころころと笑う。
 『エリウス様、サーリア様って実はいい性格してますね・・・』
 『これが本性なんだろう?』
 そんなサーリアの姿を見ながらエリザベートとエリウスはひそひそ話をする。ようやく正気に戻った二人は急いで一角獣から飛び降りると、エリウスの前で礼をとろうとするが、エリウスはそれを制する。
 「ところで、エリウス殿下。こちらに盗賊が・・・」
 「ああ、あいつらのこと?あいつらならそこだよ」
 ユフィナトアの問いにエリウスは指差して答える。その指の先には黒い1メートルほどの球体が浮いていた。
 「捕まえてくださったのですか?お手数をおかけしてしまって・・・」
 「いや、捕まえたというより、猛獣の怒りが周りに被害を出さないようにしただけ・・・」
 感謝の意を伝えるユフィナトアにエリウスは頭を掻いて答える。その言葉の意味が分からないユフィナトアは首をかしげていた。
 「エリウス様。猛獣などと言ったらアンが泣きますわよ!」
 サーリアに窘められたエリウスは分かった分かったと答えるだけだった。そしてそろそろ怒りも収まったことだろうと、呪文を唱えその黒い球体を消す。中ならアンが五人の盗賊を引きずって姿を現す。その表情はすっきりとしていて、穏やかなものに戻っていた。
 「アン。あまりところかまわず切れたらダメだよ。この森を傷付けてはいけないって言っただろう?」
 「すみません、エリウス様ぁ。でもこの人たちわたしの言うこと聞いてくれなくてぇ・・・」
 間延びした口調でエリウスに答えるアンは両手で男たちを前に突き出す。その顔は完全に変形し原形をとどめていない。体も何箇所も骨折しているようだ。かろうじて息はあるようだが・・・そんな男たちを見てエリウスは苦笑する。
 「まあ、アンが元の姿に戻らなくてこいつらにはラッキーだったかもな」
 元の姿に戻っていたらこの世界に塵一つ残っていなかっただろう。エリウスはそんなことを思う。突き出された男を見たユフィナトアはその顔を確認する。変形しきっているが何とか当人であると識別できた。同時に訝しげな表情を浮べる。こんな小さな少女がこの盗賊たちをこんなにしたことが信じられなかった。その表情に気づいたサーリアがこっそりとユフィナトアに耳打ちする。
 「あの子がやったのは事実ですよ」
 「本当ですか?あんな小さな子が・・・」
 「小さいのは外見だけ。本体は”黒帝竜”ですから」
 その言葉を聞いたユフィナトアはしばし固まった。とんでもない言葉を聞いた気がしたからだ。もう一度サーリアに問い返すと、彼女は静かに首を楯に振る。紛れもない事実だというのである。それが限界だった。ユフィナトアは思わず卒倒してしまうのだった。

 卒倒したユフィナトアを連れて、エリウスたちが王都に入ったのはその日の夕刻になってからだった。街を抜け王城に入ると、ティリナトアが彼らを出迎えてくれた。ユフィナトアが目を覚ますころにはすでに謁見は終わり、ヴェイス・サーナリア両国の和平は成立していた。そしてエリウスのもとに行く”巫女姫”の名前も・・・
 「わたしは何も聞けなかったな・・・」
 ユフィナトアは寂しげにミストの背中を撫でてやった。姉がエリウス王子に選ばれる瞬間を見逃したのである。姉の喜ぶ顔が見たかった。それを見逃したのは非常に残念だった。同時に見なくてよかったという気持ちもあった。姉が選ばれたことに少しだけ嫉妬していたのかもしれない。だからその瞬間を見なくてよかったのかもしれない。
 「嫌な顔で姉上におめでとうとは言いたくなかったからな」
 ユフィナトアは少し溜息をついた。エリウスに逢ってから自分が選ばれることはないという思いは揺らぎ始めていた。自分を選んで欲しい、そんな思いが心に広がりだしたのだ。必死に否定してもそれを打ち消すことは出来なかった。泣きたくなる気持ちを押さえ込むようにミストの首にすがりつく。
 「エリウス・・・様・・・」
 「呼びましたか?」
 一目ぼれしてしまった人の名前を呟いた瞬間、それに答えられてユフィナトアは心臓が飛び出しそうになるくらい驚いた。後ろを振り向くとそこにはエリウスが笑みを浮べて立っていた。
 「え・・・あ・・・あの・・・どうか・・・なさいましたか?エリウス様?」
 完全に狼狽しきったユフィナトアはあわあわとしながらエリウスに尋ねる。彼がこんなところまで来る理由が分からなかったのだ。そんな彼女にエリウスは笑みを浮べたまま答える。
 「いや、”巫女姫”がいつまで経っても僕に逢いに来てくださらないにので迎えに来たのですよ」
 エリウスの言葉を聞いたユフィナトアは呆然としてしまった。今エリウスは”巫女姫”を迎えに来たと言った。聞き違いかとも思ったが、エリウスはスッと自分に手を差し伸べてくる。
 「えっ?あの・・・姉上では・・・?」
 「我が”槍の巫女姫”は貴方ですよ、ユフィナトア=サーナリア」
 エリウスはユフィナトアの手を取ってそう告げる。ユフィナトアは顔を赤く染め上げてうろたえるばかりだった。自分が選ばれたことへの喜びと、ミストと別れなければならない悲しみとが入り混じっていた。そんな主にミストが声をかけてくる。
 ”主よ。汝は我が永遠の乗り手なり。いかなることがあってもそれは変わることはない”
 「それは私が”巫女姫”になれないということなの?」
 ”そうではない。王子と交わるがいい。貴方が本当の姿を取り戻したとき、全てが分かるだろう”
 ミスとはそこまで言うとエリウスに頼みますとだけ伝える。エリウスはその言葉に頷くと、そっとユフィナトアを抱き寄せる。その髪を撫でると優しくキスをする。初めてのキスにユフィナトアは驚きと感動を隠せずにいた。そんな彼女の思いに答えるようにエリウスの手が彼女の胸元を弄る。
 「んくっ、エリウス様・・・そんな・・・」
 想像以上に大きめの胸を弄ぶエリウスにユフィナトアは喘ぎ声をあげながら、縋り付く。ひとしきり胸を揉むとドレスの胸元を下げ、胸を露にする。ユフィナトアは悲鳴を上げてそこを隠そうとしたが、それよりも早くエリウスの口が阻止してしまう。桜色のそこを舌先で転がす。
 「あふっ・・・ああっ・・・そ、そこ・・・」
 モジモジと悶えるユフィナトアだったが、エリウスは遠慮などせずに丹念に乳首を弄ぶ。舌先で転がし、啄ばみ、啜り上げる。初めて感じる快感にユフィナトアは絶え間なく快楽の声を上げる。胸を弄ぶエリウスの頭にすがりつきながら快感を貪るのだった。
 「え・あ、だ、だめです!!」
 エリウスの手がさらに下に下がり、彼女のドレスの裾を炊く上げる。すると彼女は悲鳴にも似た声で拒絶する。必死になってエリウスの手の動きを止めようとするが、止まらない。白いももが露になるとそこをエリウスの手が這いずり回る。撫でているだけなのに気持ちよくなってくる。
 「あんっ、そこ・・・そこは・・・ああああっ!!」
 気持ちよさに喘ぐユフィナトア。そんな彼女の股の間に指が入り込んでくる。それを拒むことはもうユフィナトアには出来なかった。濡れた股間をユフィナトアの指がかき回す。濡れたそこはするりと膣内に入りこみ、ヒクヒクと蠢く膣肉を撫で回す。その動きに反応するように指を締め付け、蜜を滴らせる。
 「んんっ、あああっ・・・そ、そこ・・・」
 ユフィナトアの声に導かれるようにエリウスの指はさらに奥へと入ってゆく。その指を締め付けながらユフィナトアは快楽に身を任せるのだった。気持ちいい場所をエリウスの指が次々と掘り当ててくれる。その快感に身をゆだねていた。ぽたぽたと愛液がエリウスの手を濡らす。
 「そろそろ・・・いいかな?」
 エリウスはそう言うとユフィナトアの膣から指を引き抜く。そして彼女の体をミストに預けると、彼女の腰に手を添える。何をするのか察したユフィナトアはおびえた表情を浮べる。
 「エリウス様、ここでは・・・ミストが、ミストが汚れてしまいます・・・」
 涙目になって懇願するがエリウスは止まらなかった。ミストもそれを止めようとはしない。優しく主を見つめ、その顔を舐めてくれる。何故彼がやめさせようとしないのか不思議に思っていると、体を引き裂くような激痛が走る。エリウスのペニスがユフィナトアの膣内に入り込んできたのだった。狭い膣道はエリウスのペニスの侵入を拒む。それを押し広げてエリウスはユフィナトアの乙女の証を突き破り、最奥へと到達する。
 「いぐっ!ああっ!!い・・・・あうっ!!」
 激痛にミストの首に縋り付くユフィナトア。そんな彼女をエリウスは後ろから優しく突き上げる。蜜を破瓜の証で濡れたそこが動きを助けてくれる。ゆっくりと、徐々にスピードをつけながらユフィナトアの子宮を突き上げる。痛みを訴えていたユフィナトアの声が徐々に艶を増し、快感を求めてくる。
 「エリウス・・・様・・・そこ・・・あああっ!!」
 エリウスはユフィナトアの求めに応じ何度も彼女の求めるところを突き上げる。その突き上げが彼女を高みへと押し上げて行く。膣を押し広げ、刺激する。そのきつさはエリウスも高みへと導いていった。
 「もう・・・だめ・・・ああああああああっっっ!!」
 ユフィナトアは大きく戦慄き、絶頂を迎える。エリウスも精を彼女の膣内に放ち、果てる。ミストに縋り付くユフィナトアは快感を感じながら、ふとある違和感を感じていた。それは、乙女でなくなった自分がミストに触れていられることであった。不思議そうな顔をしていると、ミストが理由を説明してくれる。
 ”主は”巫女姫”となった。つまり神の巫女、永遠の乙女となったのだ。つまり我が”永遠の主”なり!”
 ミストの説明で全て納得がいった。これからもミストと一緒にいられる。エリウスの傍にいられる。そんな喜びがユフィナトアの心に広がってゆくのだった。ユフィナトアは幸せを感じていた。しかし、その幸せは何者かによって引き裂かれるのだった。
 「ニクイ、イキルモノ・・・スベテガ・・・ニクイ・・・」
 背後に邪悪な気配を感じてエリウスたちはあわてて身構える。そこにはうつろな瞳の少女が立っていた。じっとエリウスとユフィナトアを見つめている。
 「そなたは、盗賊団から逃げてきた・・・」
 商家のお嬢様を連れて逃げてきた少女だった。うつろな表情でお嬢様を抱きしめていた少女だったが、何の反応も示さなかった。だがいま何事か呟いている。そんな彼女を見つめていたミストがユフィナトアに警告する。
 ”気をつけろ、主。彼のものただの人間にあらず!”
 ミストの言葉に反応するように少女の体に異変が生まれる。二人をにらみつけた少女の顔は憎しみに満ちたものだった。そんな少女の背後から黒い影が吹き出す。それが少女を包み込むと、人型をなしてゆく。ちょうど胸元に少女の顔を残して・・・
 「なんなの、こいつ・・・」
 その異形の敵にユフィナトアは絶句してしまった。影の振るった手がユフィナトアの眼前に迫る。すんでのところで交わしたユフィナトアはミストを開放し、その背中に飛び乗る。影と距離を置こうと考えたのだ。エリウスは大きく跳躍しその場から離れている。
 「ユフィ、そいつはシャドーレイス。人の負の心に寄生する古代の魔法実験動物だ」
 「どうしたらいいのですか?」
 「普通の武器は通用しない。神具を出したまえ。覚醒した君なら出せるはずだ」
 エリウスにいわれたユフィナトアはスッと目を閉じる。自分の神具をイメージする。刃幅の広く長い槍を。イメージされた神具が具現化する。それを手にユフィナトアはしゃッドーレイス目掛けて突進する。すれ違いざま槍が閃きシャドーレイスの腕を切り落とす。
 「ミスト、奴の動きをを!」
 ”了解だ、主よ!”
 シャドーレイスの横を駆け抜けたユフィナトアはミストに命令する。ミスともそれに応じ額の角に魔力を込める。
 ”樹木よ、奴の動きを封じよ!”樹縛”!!”
 ミストの呪文に答えるように木々が枝を伸ばしシャドーレイスの動きを封じる。その間にユフィナトアはやりに己の力を集中させていた。神具の槍が白銀に輝き始める。
 「我が一撃、受けるがいい!!”テンペスト・スプラッシュ”!!」
 無数の閃きがシャドーレイスに襲い掛かる。影を霧散させ、消滅させてゆく。後には少女だけが残されていた。その表情は穏やかなものだった。その少女を抱きとめたエリウスはユフィナトアのほうを見つめる。”槍の巫女姫”の完全なる覚醒。それがなされたのだ。
 「しかし、エリウス様。これはいったい・・・」
 「この子は何か負の感情に覆い尽くされる何かがあったんだと思う。その心にあのシャドーレイスが反応したんだろうね。もう霧散したから大丈夫だけど」
 エリウスが今回の件について説明してくれる。ユフィナトアはその言葉から少女が負の感情に覆い尽くされたわけを理解した。盗賊たちに陵辱されたのが原因である。そのことを思うと心が痛んだ。
 「ですがエリウス様、あのシャドーレイスはどこから・・・」
 「あいつは昔からアソコにいたんだろうね、テリウスの森を汚すために。まあ、作ったのは間違いなく”九賢人”の誰かさ。自分たちの不純な心があの森にいると痛いんだろうね」
 エリウスの言葉にユフィナトアは納得した。そしてミストの背中を優しく撫でてやる。
 「これからもよろしくね、ミスト・・・」
 ”了解だ、主よ”
 これからも付き合ってゆくパートナーにそっと挨拶をする。ユフィナトアにはミストがこれまで以上に身近な存在に感じられていた。ユフィナトアはこれからのことを思い、大きく息をするのだった。

 漆黒の闇の中・・・五つ目の燭台に火が灯る。その光景を男は笑って・・・いられなかった。
 「あごあ・・・はふれへ・・・ふぁらいふぎらみふぁい・・・」
 笑いすぎで顎を外していた・・・



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