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第３９話 天命〜弐〜
そのころもう一方の戦いも佳境に入っていた。
「うなれ、”雷神”！！」
「なんの！舞いなさい、チャイルド達！！」
シズカの放つ式神が雷を帯び、プリスティアに襲い掛かる。プリスティアはその攻撃を華麗に宙を舞って回避する。さらにそこから小型のブーメランを振るってシズカを攻撃する。三本のブーメランが唸りを上げてシズカに襲い掛かる。その攻撃に対してシズカは懐から一枚の札を出して呪を唱える。
「覇を持って邪を弾け！”玄武”！」
符が燃え上がり、シズカの体の周りを目に見えないカベが覆い尽くす。そのカベがプリスティアのブーメランを弾き返す。弾かれたブーメランは勢いを殺さずにプリスティアの元へと戻ってくる。それを指で受け止めると、プリスティアは大きく息を吐く。
「なかなかやりますね・・・」
「貴方も・・・」
手にした符が燃え尽き、シズカの体を覆っていた防御壁が消滅する。プリスティアもシズカもお互いの実力を認め合い、笑みを浮べる。予想外の戦いに気分が高揚してきたのだ。そんな二人の耳には遠くで聞こえていた戦いの音がいつの間にか聞こえなくなっていた。
「姉様・・・やられたのですか？」
「そのようですね。さすがはアンジェリカ様・・・見事な手際です・・・」
そちらの方向に視線を送りながらシズカが呟くと、プリスティアは満足そうに頷く。そして自身も手にしたブーメランの数を増やして構えなおす。左右の手から三本づつ、計六本のブーメランが宙を舞い、シズカに襲い掛かる。シズカは舞うような動きでそれを回避する。
「さすがですね。でも、まだです！」
プリスティアはシズカがブーメランを回避することを予測していた。だからすぐさま次の行動に出る。指を立て左右に動かす。その指の動きにあわせて、戻ってきたブーメランの動きが変化する。気配を察したシズカはそれをかわそうとする。
「この程度・・・なに？」
今度も華麗にかわそうとしたシズカだったが、彼女が予測した軌道をブーメランは飛んでこない。まるで何かに操られているかのような不規則な動きでシズカに迫る。その攻撃を何とか回避しようとするが、不規則すぎてその動きを見切ることができない。
「仕方がない・・・餓鬼召喚！」
回避しきれないと悟ったシズカはすぐさま懐から新しい札を取り出すとそれを放つ。放たれた札は子鬼の形をなし、飛んできたブーメランに向かってゆく。ブーメランに飛びついた小鬼たちはそのままブーメランに喰らいつき、これを噛み砕いていゆく。
「ふう・・・これでどうですか？」
「なかなか面白いものを召喚しますね。なんですか、それは？」
「餓鬼です。常に空腹で、何でも喰らい尽くしてしまう小鬼のことです」
ブーメランを食べつくした餓鬼たちは元の札に戻り、燃え尽きる。それはその役目を終えたことを意味していた。シズカは新たな札を取り出すと、プリスティアを睨みつける。対するプリスティアは武器も取り出さずに平然としていた。その態度にシズカは不気味なものを感じる。
「もう武器がないとでも言うのですか？」
「そうですね。この戦いように用意した武器はいま食い尽くされたので終わりです」
プリスティアはそう言ってにっこりと笑う。シズカは怪訝そうな表情を浮べる。いくらなんでもアレで終わりとは思えない。それにプリスティアの笑みが妙に空々しいものに見えてならない。だがここで手を抜くわけには行かない。
「焼き尽くせ、業火の嵐！”朱雀”！！」
静かは手にした札をプリスティア目掛けて放ち、呪を唱える。発動した札は業火を巻き起こし、プリスティアに襲いかかかる。攻撃を放てば何かしら行動を起こすと踏んでいたシズカだったが、プリスティアはまるで動こうとはせずに、まともにその攻撃を受けてしまう。
「何を考えて・・・」
爆風をまともに食らったプリスティアは煙に包まれてその姿を隠してしまう。あっけない結末にシズカは拍子抜けした顔をしていたが、今の爆炎の札は自分の持つ札の仲でも屈指の破壊力を持った札である。それをまともに喰らっては無事ではすまないとシズカは確信していた。
「アレを喰らって無事のはずが・・・」
徐々に自分の勝利を確信し始めたシズカは体から力を抜く。やがて視界を遮っていた煙が晴れてゆく。その煙の向こう側から現れたのは無傷のプリスティアであった。自分の渾身の攻撃で傷一つつけられなかったことにシズカは驚きを隠せなかった。
「そんな、わたしの攻撃が・・・」
「なかなかの攻撃でしたよ。この子たちがいなかったらやられていたかも・・・」
驚くシズカににっこりと笑いかけながらプリスティアはスッと手をかざす。その腕に、肩に六羽の鳥達が舞い降りる。体格はそれほど大きくはない。小鳥程度の大きさである。しかし、どの鳥も美しい水晶のように透き通った体をした鳥達であった。
「クリスタル・バード・・・これがわたしの神具です」
その言葉を聞いた瞬間、シズカは背筋に寒いものが走るのを感じた。あの六羽の水晶の鳥はまずい。あれと真正面から戦うのは危険である。長い戦いの経験がそれをシズカに教えてくれている。しかし、ここで逃げ出すわけにも行かない。いや、逃げ出せないのだ。
「ならば、全力で叩き潰すのみ！！」
意を決したシズカは新たな札を懐から取り出す。それを手に新しい呪文を唱え始める。対するプリスティアは腕に止まっていた六羽に水晶の鳥たちに何事か話し掛け、指示を送る。その指示に従って六羽の水晶の鳥は宙を舞い始める。
「・・・猛き雷の虎！”白虎”！！！」
シズカの呪に答えて雷を纏った白き虎がプリスティアに襲い掛かる。その虎を三羽の水晶の鳥が迎え撃つ。並んで飛んでいた三羽は”白虎”の周りを飛び回り、やがてその進行方向に割り込んでくる。三羽のくちばしが重なり合い、楯の様になって”白虎”とぶつかり合う。
「くっ、そんな・・・」
目の前で起こったことにシズカはまた驚く。あんな方法で自分の技が破られていたとは思いもしなかった。しかも爆煙の向こう側から現れた水晶の鳥はまったくの無傷であった。あんな小さな鳥に自分の呪文が負けたということになる。
「そんな呆けていていいのですか？」
プリスティアは驚くシズカに声をかけてくる。その言葉にシズカはようやく我に代える。いつの間にか自分の周りを残りの三羽の水晶の鳥たちが飛び回っていたのだ。その三羽に先ほど防御に廻った三羽が加わり、合計六羽の水晶の鳥達がシズカの周りを飛び回り、攻撃の機会をうかがう。
「あの水晶の羽根と嘴、まともに喰らったら怪我ではすみませんね・・・」
クリスタルバードの動きを見ながらシズカはその特性を冷静に分析する。逆を返せばあの羽根と嘴にさえ気をつければいいということになる。事実ここまで怪我らしい怪我は受けていない。しかし、神が使う道具と伝説にまでなった神具、それがこの程度のものとは思えなかった。
「何か隠している・・・そう考えるのが常道ですね」
その何かを見極めようとしたシズカはある変化に気付く。プリスティアの指の動きにあわせて動くクリスタルバードに変化が出てきたことだった。正確にはクリスタルバードが通った大気であった。何か違和感のようなものが感じられる。
「何ですか、この感覚は・・・？？」
言い知れない不安がシズカの心を支配してゆく。このままではまずい、こちらから攻撃をしないと何かが起こる、そう感じ取ったシズカはすぐさま呪符を取り出し、攻撃に移る。
「駆けろ、猛き雷の虎！！”白虎”！！！」
再度”白虎”を召喚したシズカはそれでプリスティアを攻撃しようとする。先ほどのようにクリスタルバードがガードすることはなく、相変わらずシズカの周囲を跳びまわっていた。だから、プリスティアを守るものは何もないはずだった。なのに攻撃は彼女には届かなかった。その目前で四散してしまったのである。まるで何か楯のようなものにぶつかったかのように。呆然とするシズカの耳に先ほどから感じていた違和感が具体的な音に名って聞こえてくる。
「何ですか、この音は・・・？」
徐々に大きくなってゆく音はやがて耳鳴りとなってシズカの耳に襲い掛かる。脳に響くような音にシズカは思わず耳を塞ぐ。新たな銃符を使おうにもその集中がそがれて、使うことが出来ない。音の出所は間違いなくクリスタルバードであった。
「あの鳥・・・あんな仕組みが・・・」
「どうですか、クリスタルバード達の囀りは・・・」
耳を塞ぎながら苦しそうにするシズカに、プリスティアはまるで指揮をするように腕を振りながら尋ねてくる。しかし、この高周波の中ではその言葉はシズカには届かない。シズカを取り巻く音はどんどん大きくなる。音は肌を通して体の中にまで浸透し、体内の血液を震わせているようにすら思える。
「この音、何とかしなければ・・・」
シズカは何とか反撃を試みようと思うが、クリスタルバードの囀りが思うように反撃をさせてくれない。やがて体を包む高周波に耐え切れなくなった鎧の一部が弾け飛ぶ。四散する鎧に破片を身ながらこのままでは自分の肉体も持たないとシズカは判断する。
「頼む、持ち堪えて・・・”玄武”！！」
絶対防御の符を必死の思うで唱え、クリスタルバードの囀りを遮断する。何とか音の地獄から逃れたシズカは反撃の機会を考える。いつまでもこの”玄武”の中にいても勝ち目はない。ならばクリスタルバードの囀りをかき消してしまえばいい。そのために呪符は持っている。
「行きなさい、”青龍”！！」
シズカは手にした呪符を放ち、青き龍を解き放つ。解き放たれた青き龍は大空を駆け、水の奔流でクリスタルバードを包み込む。水に包まれたクリスタルバードからは囀りが聞こえなくなる。敵の脅威がなくなり、シズカがホッとした瞬間だった。左肩に激しい痛みが走る。
「な・・・に・・・？」
なにが起こったのかまるでわからない。しかしシズカの左肩は大きく抉られ、激しく出血をしている。肩から下の左腕は痺れ、もはや使い物にはならなかった。使い物にならなくなった左腕をだらりと下げたまま、シズカはなにが起こったのかを理解しようとする。
「どうですか、わたしのもう一つの神具、”スターライト・シューター”のお味は？」
にっこりと笑ったプリスティアは手にした大振りの弓をシズカに示す。その話を聞いたシズカは自分の浅はかさを呪った。神具”クリスタルバード”を封じて勝ったつもりでいた自分が間違いだったのだ。彼女は一言も神具がひとつとは言っていない。それを勝手に一つと思い込み、その一つを封じて勝った気になっていた自分が間違いだったのだ。
「くっ・・・でもこのまま・・・」
このままやられるわけにはいかない。ヨシツネのためにも負けるわけにはいかないのだ。シズカは”白虎”を放つと、それを目くらましにして一端物陰に隠れる。直接プリスティアに狙われない位置に移動して怪我を治そうと考えたのだ。
「かなり深いな・・・でも・・・」
傷口の具合を確かめるとシズカはそこに呪符を貼り付け傷を癒す。今自分のいる位置はプリスティアの死角になり、攻撃することはできないはずである。何とか反撃の機会を得なければならない。手持ちの呪符を調べながらシズカはどうしたものかと考え込む。そのシズカ目掛けて光の矢が飛んでくる。それに気付いたシズカは間一髪のところでそれを避ける。
「まさか、ばれた？？」
矢の飛んできた方向を調べるが、そこにはプリスティアの姿はない。首をかしげていると、今度は逆方向から光の矢が飛んでくる。今度もそちらの方角にプリスティアの姿はなかった。何が起こったのかシズカにはまるでわからなかった。わかっているのは未だに自分がプリスティアの死角にいること、その死角にいるのに攻撃を受けたこと、それだけであった。
「一体彼女は何をしたんですか？」
シズカはなにが起こったのかを理解するために自分の目となる呪符を放つ。呪符を通してプリスティアの様子を観察する。白き翼を羽ばたかせた彼女はおもむろに手にした弓を引き絞る。すると、弓に光の矢が現れる。しかし彼女が狙っている方向はシズカが隠れている方向とはまったく別方向であった。
「？なにをしている・・・」
シズカが首をかしげていると、プリスティアは引き絞っていた矢を放つ。放たれた矢の行く先にはクリスタルバードが待っていた。光の矢を受けたクリスタルバードはそれを吸収する。そして今度はその嘴から光の矢が放たれる。まるで光が反射するように光の矢はクリスタルバードにぶつかっては進む方向を変えてくる。
「まさか！！？」
その攻撃の意図を読み取ったシズカははっとなって辺りを見回す。自分の真正面にクリスタルバードを見つけたときにはすでに遅かった。クリスタルバードから放たれた光の矢は寸分の狂いもなくシズカの右腿を貫く。さらに二発目、三発目が次々とシズカの五体を貫いてゆく。
「うぐっ・・・こんな・・・」
貫かれた箇所を押さえながらシズカはその場に蹲る。負傷した箇所は何とか癒せたが、それでも受けた傷が深いことに代わりはない。出血も激しく、体力の消耗も激しい。おそらくあと一撃打てるぐらいの力しか残っていないだろう。
「ならば、これで・・・」
このまま負けるくらいならば相手を道連れにしてやろうとシズカは腰にしまってあった大型の呪符を取り出す。普通の呪符よりも大振りのそれにはさらに細かく呪文が刻み込まれていた。さらにシズカは懐の中から残りの呪符を取り出し、確認する。
「青龍が一枚に白虎が一枚・・・これで何とかしないと・・・」
普通の攻撃用や治療用の呪符はまだ多く残っているが、プリスティアに攻撃しても無駄なものばかりである。彼女の攻撃を、防御を貫けるほどの呪符となると四神の呪符とこの最後の一枚しか残っていない。
「それでも最期はわたしが・・・勝つ！！」
呪符を握り締めるとシズカはプリスティアの目に飛び出してゆく。プリスティアはすぐさま攻撃に移ってくる。クリスタルバードが高速でシズカの周りを飛び交い、光の矢が何本も射掛けられ、クリスタルバードに反射してシズカの周囲を取り巻く。
「”光と風のロンド”・・・かわせますか、これを？」
「かわすまでもない・・・こうするまでだ！！」
シズカは自分を中心として青龍と白虎を同時に解放する。水の奔流が周囲に広がり、水を伝って雷が周囲に広がる。水がクリスタルバードを押し流してゆく。光の矢もあらぬ方向に発射され、雷を纏った水を避けるためにプリスティアは一時的に攻撃を打ち切らざるを得なかった。
「いま！！天を駆け、出でよ、”麒麟”！！！」
その隙をシズカは逃さず、最期の呪符を使用する。天に放たれた光は金色の聖獣を召喚する。金色の聖獣はプリスティア目掛けて飛来する。プリスティアは”スターライト・シューター”でこれを迎撃しようとするが、全てその表面で弾かれる。それを見たシズカは勝利を確信する。たとえプリスティアがいまから自分を攻撃したとしても、先にこちらの攻撃が当たる。悪くても相打ちだろう。そしてプリスティアには”麒麟”を打ち消す力はない。最低でもプリスティアを倒すことができる。シズカはそれを確信したのだ。
「なるほど、これが貴方の最期の力ですか・・・では！！」
”麒麟”を見つめたままプリスティアは右手をスッと頭上にかざす。それに答えるかのように弾き飛ばされていたクリスタルバードがプリスティアの頭上に集結する。六羽のクリスタルバードが一箇所に集結するとレンズのような形を取る。
「砕け散れ！！”スターライト・ノヴァ”！！！」
クリスタルバード目掛けてプリスティアは光の矢を射掛ける。放たれた渾身の光の矢はクリスタルバードのレンズを通して極大の光の柱となり、”麒麟”を包み込む。強烈な光に目を焼かれたシズカは思わず目をそむけてしまう。やがて光の奔流は収まり、シズカはようやく目を開ける。
「そん・・・な・・・」
プリスティアに襲い掛かろうとしていた”麒麟”は跡形もなく消え去り、光の残照がキラキラと輝いているだけであった。もはや万策尽きたシズカはがくりと膝を折る。札の尽きた自分とクリスタルバード、”スターライト・シューター”共に健在のプリスティア、勝負はもはや決していた。
「さすが、プリスティア様。ご助力する必要はありませんでしたね？」
勝負の決した戦場にトモエを伴なったアンジェリカが降り立つ。クリスタルバードを肩に止まらせたプリスティアはその言葉ににこりと笑って答える。縛り上げられたトモエの姿を見たシズカは完全に戦意を失い、一切の抵抗をしなかった。
「さてと・・・中央に向かわれたレオナ様とファーガント様たちは・・・」
プリスティアが先行した二人のことを気にかけた瞬間、大地が大きく揺れる。まるで地震でも起こったかのような揺れと共に地鳴りが遠くから聞こえてくる。何か大きなもの同士がぶつかり合っているような音であった。それが大地を揺らしながら、何度も何度も断続的に起こる。
「ファーガント様が戦われているようですね・・・」
「はい。でも相手は・・・」
「ベンケイよ。巨人族の・・・」
ファーガントが戦っていることは分かったが対戦相手がわからなかったプリスティアとアンジェリカは首を傾げるが、トモエがその答えを教えてくれる。巨人族同士の戦いならば大地がこれほど揺れるのも納得が行く。いまだ続く大地の揺れを感じながら、プリスティアとアンジェリカはトモエとシズカを従えてレオナたちの元を目指すのだった。
鍛え上げられた肉体と肉体がぶつかり合う。極限まで高められたパワーとパワーがお互いの肉体を押し合い、掴み合う。うっすらと肌に汗を浮べながら二人の巨人がその持てる力を駆使して相手をねじ伏せようとしていた。肩と肩をつかみ合い、力の限り押し合い、お互いの隙を窺う。
「おうっ！！あの上腕筋、さすが若様！！」
ホウルが上腕筋をヒクヒクと戦慄かせながらポージングを取り、ファーガントの上腕筋を頬を赤く染めながら見つめる。その目はうっとりとしている。
「いやいや。あの腹直筋もなかなかどうして・・・」
カウルも頬を赤く染めながらポージングを決め、背筋をピクピクと蠢かせる。その視線はファーガントの腹部から離れない。
「てめえら、相手の胸筋も見やがれ！」
ピウルがポージングを決め、胸筋を上下に動かす。ファーガントと対戦するベンケイのぶ厚い胸板をほんのりと頬を染めながら見つめている。
「ああっ、あの大腿筋も美しい・・・」
チウルがポージングを決めながら腹筋をひくつかせる。ベンケイのその棍棒とも見紛うばかりに鍛え上げられた太股をじっと見つめる。
「というか、あなたたち、どこから現れたのですか・・・？」
どこからともなく現れ、ポージングを決めながら筋肉談義に華を咲かせる四バカをレオナはげんなりした表情で見つめる。そんなレオナの視線もどこ吹く風で四バカは鍛え上げられた肉体を駆使してぶつかり合う二人の巨人族の戦いを注視していた。その視線がどこかに集中している気がしたが、レオナはあえて無視することにした。その間にファーガントとベンケイはまた四つに組み合う。
「てめ・・・やるじゃねえか！！」
「オレ・・・マケラレナイ！！」
力を込め相手をねじ伏せようとする二人の筋肉は膨張し、血管を浮かび上がらせて戦慄く。拮抗しあった力はお互いを押し合い、潰しあう。力比べではらちが明かないと感じたファーガントは組み手を切ると、そのがら空きになったベンケイの横面を思い切り殴りつける。棍棒で殴りつけたようなすごい音が響き渡る。
「ウグッ！オ、オレハマケラレナイ！！」
一瞬大きく体が傾いだベンケイだったが、すぐさま体勢を整えると反撃に出る。ファーガントの腹部を拳で思い切り突き上げる。ファーガントの巨体が宙に浮かび上がり、その顔に苦悶の表情が浮かぶ。腹部を貫かれるような一撃を喰らいながらもファーガントは反撃の一撃をベンケイの顔面に見舞う。
「ガウッッ！！」
盛大に鼻血を撒き散らしながらベンケイは大きく仰け反る。仰け反りながらも渾身の蹴りがファーガントの横腹に見事にめりこむ。油断していたファーガントはこれをモロに喰らい、二体の巨人は地響きを立てて大地に横たわる。ファーガントは横腹を、ベンケイは顔を抑えながら立ち上がるとお互いにニヤリと笑う。
「おもしれぇ・・・おもしれえぞ、てめぇ！！」
ファーガントは牙をむき出しにして笑いながら、大声で吼える。その言葉尻には歓喜が含まれていた。そんなファーガンのと様子を見ていた四バカが怯えた表情を浮べる。
「まさか、若・・・」
「昔のやんちゃが・・・」
「いけませんよ、このままでは・・・」
「この辺りの地形が変わるかも・・・」
深刻な顔をする四バカだったが、ポージングを決めながら言っているのでどうにも真実味に欠ける。そんな四バカの心配を他所のファーガントと四バカはまた四つに組み合う。お互いに筋肉を肥大させ、渾身の力を込めて相手をねじ伏せようとする。
「ぐおおおおぉぉぉぉっっっ！！！」
「オレハ・・・マケナイ！！！！」
力比べは拮抗しているように見えたが、徐々にベンケイがファーガント押してゆく。力負けしたファーガントは膝をつきベンケイの力を何とか押し返そうとする。しかし、どうやってもベンケイを押し返すことはできなかった。ファーガンのと顔が屈辱に歪む。
「く、くそ！！おれが力負け・・・するなんて！！」
「オレノカチ！オレノホウガチカラガウエダッタ！！」
力でファーガントを押さえ込んだベンケイはさらに上からファーガントを押さえ込み、そのがら空きの腹部に何度も蹴りを見舞う。そのけりの嵐に晒され、ファーガントは屈辱にまみれていた。これまで負けたことのない力勝負、それに完敗したことはファーガントにとって屈辱以外の何ものでもなかった。
「こんなの・・・認められるか！！」
「ミトメロ！オレノホウガツヨカッタト！！」
自分の勝利を確信したベンケイはファーガントの鼻柱に膝を叩き込む。鼻の骨が砕け、大量の鼻血を撒き散らしながらファーガントは仰向けに倒れこむ。倒れたファーガントの腹部に追撃の一撃を見舞うと、弁慶はファーガントを無理矢理引きづり起こす。ファーガントの首に腕を巻きつけると、腰を掴んで持ち上げそのまま頭頂部を地面に叩きつける。二人分の体重のかかった一撃を頭に喰らったファーガントの意識が一瞬途切れる。
「ヨシツネ、オレガカッタ！！」
うつろな目をして倒れこむファーガントを見下ろしながらベンケイは勝利宣言をする。対して四バカたちは動揺していた。まさかの光景が信じられなかった。
「まさか、若が・・・」
「信じられねえ！まさかあのころのやんちゃを思い出した若が巻けるなんて・・・」
昔、同じ巨人族を相手に大暴れをしていたファーガントはまさに無敵であった。そのファーガントを打ち倒しらのがストナケイトであり、彼を諭して八大将軍として招き入れたのがエリウスであった。以来、その粗暴さを押さえ込んで将軍らしく振舞っていたのだが、今しがた見せた荒々しさこそがファーガントの本質であった。その本質を見せて負けたのだから四バカには信じがたかった。
「ふむ、ファーガント殿がここまで押されるとは・・・」
戦いをじっと見つめていたレオナはスッとファーガントに近付く。意識を取り戻したファーガントは何とか起き上がろうとしていた。しかし、体は痺れ、上手く起き上がることができない。ファーガントにとってここまで完璧に負けたのは初めてのことだった。
「ファーガント殿、どうしますか？このまま負けを認めますか？」
「認められねぇ・・・認められるかぁっっ！！」
「そうでしょう。では封印を解きましょう」
レオナの言葉にファーガントは動揺する。その言葉が何を意味しているのか知っているのは当のファーガントだけであった。よろよろと立ち上がりながらレオンの方をじっと見つめる。
「だけどよ、レオナ様・・・」
「エリウス様からのお言葉です。『自分が納得がいくまで戦いなさい』だそうです」
エリウスからの伝言を聞いたファーガントははっとなる。自分はまだ納得などしていない。ここで諦めることなどできるはずがない。ならば答えは一つしかない。レオナを見つめたファーガントは狂気の笑みを浮べて、大きく頷く。それを見たレオナは手をかざし、何事か唱え始める。
「かの者を戒めし力よ、その楔を解き放て！！」
レオナの言霊に答えるようにファーガントの体が光りだす。正確にはファーガントの四肢が光りだしたのである。両手首、両足首が枷のように光り、そこから光りの鎖が何本も延びて大地に突き刺さっていた。その鎖がファーガントの四肢の自由を奪っていた。レオナはファーガントの両手首、両足首でそれぞれ呪を刻むと、光りの戒めが解き放たれる。
「ぐふっ・・・がははははあぁぁっっっ！！久しぶりだぜ、こんなに体が軽いのは！！」
自由になった自分の手を何度も握り締めながらファーガントは狂喜する。その視線はすぐにベンケイの方に向けられる。そのファーガントの喜びに満ちた視線を受けながらベンケイはもう一度身構える。
「今度はさっきみたいにはイカねえぞ、こらぁっっ！！」
「ムダダ。ナンドヤッテモケッカハカワラナイ！！」
にらみ合った二人がまたぶつかり合い、四つに組み合う。今度はファーガントが力押しでベンケイを圧倒する。先ほどの負けが嘘であるかのように易々とベンケイを押し込み、膝をつかせる。何とかこらえようとするベンケイだったが、力の差は歴然としていた。
「ソンナ・・・バカナ・・・」
「うるあぁぁぁっっっ！！こんなもんじゃねえぞっっ！！！」
ファーガントの力に驚くベンケイの額目掛けてファーガントは頭を振り下ろす。鈍い音を立てて二人の頭と頭がぶつかり合う。その一撃にぐらりと揺らぐベンケイの額にファーガントはニ発、三発と頭突きを振り下ろす。その度に鈍い音があたりに響き渡る。
「うらっ！うらっ！うらぁぁっっっ！！」
狂ったように何度も、何度も頭突きを繰り返すファーガント。その頭突きによってベンケイの額は割れ、鮮血が顔を真っ赤に染め上げる。完全に力の抜けたベンケイの肩を掴むと、無理矢理起き上がらせ、そのがら空きの腹部に今度は膝を叩き込む。その一撃にベンケイの巨体がふわりと浮かび上がる。
「まだまだぁぁっっ！！」
ファーガントはさらに腹部への一撃で下がったベンケイに後頭部に両拳を握り合わせて振り下ろす。完全に頭の下がったベンケイにファーガントは追撃をかけ、頭を下げたまま腰に手を回し、そのまま持ち上げる。ちょうど頭が真下に来るように持ち上げると、そのまま直下に叩き落す。
「ゴゥゥゥッッ！！」
鈍い音と地響きと共にベンケイの巨体が大地に叩きつけられる。先ほどのファーガントのように一瞬意識を失ったベンケイは大の字になって倒れこんでしまう。しかし、すぐに意識を取り戻し、必死になって立ち上がろうとする。よろよろとよろめいてしまい、上手く立つことができず、何度も地面に突っ伏してしまう。それでも諦めずに立ち上がろうと両手を突っ張り、両足を踏ん張って立ち上がろうとする。
「オレ・・・ハ・・」
「若のあの一撃を喰らって・・・」
「まだ立ち上がれるのか？」
「まだ彼の心が折れていない証拠でしょう」
そのベンケイの執念に四バカは驚きの声を上げる。その隣にいたレオナはベンケイの必死の眼差しを見つめながらその奥に光る執念を読み取っていた。絶対に倒れるわけにはいかない、負けるわけにはいかない。その想いがベンケイに実力以上の力を与え、粘りを与えていた。
「心を完全に折らない限り、彼は何度でも立ち上がってきます」
ベンケイを倒すにはもう立てないと思わせる一撃を見舞う必要があると感じていた。そしてそれは実際に肌を合わせているファーガントも感じ取っていた。ベンケイは必ずもう一度立ち上がってくる。そう確信してベンケイから距離を取って待ち構える。
「これで、どうだ！！！」
ベンケイが膝立ちになったところでファーガントはベンケイ目掛けて走り出し、その立ち膝に駆け上がると勢いを殺さずにその側頭部に膝を叩き込む。ファーガントの膝に鈍い感触が伝わってくる。それが彼に勝利を確信させる。先ほどの一撃でふらふらになっていたベンケイはそのこめかみへの攻撃で完全にその意識を断たれる。それは彼の心がついに折れる瞬間でも合った。
「ヨ・・・シツ・・・ネ・・・」
轟音とともに大地を揺るがしてベンケイは大の字に倒れこむ。その意識は完全に断たれ白目をむいて泡を吹いていた。ファーガントも限界を越えた戦いに疲れ果てその場にしゃがみこんでしまう。そのファーガントにレオナはもう一度呪を唱えると、光の鎖でその戒めをかけなおす。レオナの行動をファーガントは文句も言わずに見つめているだけだった。
「しかし、すごい奴でしたね、若？」
「これだけの巨人ガなんでこんなところに・・・」
「おそらく追放された巨人族の誰かだろう。でもまさか大陸を横切ってここまできているとは・・・」
ファーガントは気絶したベンケイを見つめながらそんな事を言う。ファーガントのように一族に迷惑をかけるようなことをした巨人は部族を追放される。ファーガントは次期族長であったこともあって追放されなかったが、その昔には追放された巨人もいたという。そいつらは大陸の人里はなれた場所で隠れ住み、その生涯を終えるという。大陸で目撃される巨人族はこういった面々のことである。ベンケイはそういった巨人族の一人だろう。
「ベンケイ、ベンケイ！！」
ベンケイの戦いを見守っていたヨシツネは慌てて倒れ伏したベンケイに駆け寄る。ぐったりとしたベンケイの胸がかすかに動いていることにヨシツネはホッと胸をなでおろす。それでも重傷であることに変わりはない。早く傷の手当てをしなければならないことは明白だった。
「ベン・・・ケイ・・・」
倒れ伏した大切な人を見つめながらヨシツネはしばし考え込んだ。ベンケイの傷は深い。しかし、致命傷には至っていないことは明らかだった。もしここでベンケイを助けるために引けば、自分の望みが失われる可能性がある。それだけは避けなければならない。
「ベンケイ・・・少しの間我慢してくれ・・・」
眼の前の敵を倒す。その目標を立てたヨシツネは腰の刀に手をかけると一気に跳躍し、レオナたちに襲い掛かって来る。レオナも腰の剣を抜くとこれを迎え撃つ。ヨシツネの早い太刀筋をレオナは悠然と受け止める。剣と刀がぶつかり合い、激しい金属音を立てながら激しく火花を散らす。
「やっ、やっ、やっ！！！」
すばやく手首を返してヨシツネは何度も何度もレオナに切りかかる。その刀をレオナは冷静に見切りかわせないたちは必ず剣で受け止め、それ以外は完全に回避していった。しかし、レオナの立ち位置は徐々に後退してゆく。それだけヨシツネの攻撃が激しかった証拠であった。
「受身では勝ち目はないか！！」
このままではまずいと感じたレオナは受け止めた刀を大きく弾く。刀を弾かれ大きな隙ができたヨシツネの横腹目掛けて鋭い一撃を振う。二人の戦いを観戦していたファーガントも、四バカも、絶対かわせない一撃と見ていた。事実レオナの剣は確実にヨシツネの腹部に吸い込まれていった。
「なに？？？」
確実に腹部に吸い込まれたはずの剣に何の手ごたえも感じられなかったレオナは驚きの声を上げる。それどころか、目の前にいるはずのヨシツネの姿が薄らいでいく。なにが起こったのかまるでわからないレオナが呆然としていると、いつの間にか真横に回りこんだヨシツネが切りかかる。
「くっ！！いつの間に？？」
「そら、そら、そら！！！」
その一撃を受け止めたレオナだったが、またしてもヨシツネのすばやい攻撃に受身に廻ってしまう。すばやい攻撃で何度もレオナにたちを振うヨシツネの動きを見極めながら、レオナは今度こそとその喉元に突きを見舞う。鋭いその一撃は間違いなくヨシツネの喉を貫くはずだった。
「そんな、ばかな・・・」
戦いを見つめていたファーガントは驚きの声を上げる。それは一緒に見ていた四バカも同じ意見であった。確実に喉を貫いたはずのレオナも驚いていた。喉を貫いた感触はまるでなく、その姿はうっすらと薄れ消えてゆく。二度も消え去ったヨシツネの動きにレオナは何かを彼女がしていると悟った。
「今度はそれを見切らせてもらう・・・」
今度は背後から姿を現したヨシツネの攻撃を受け止めると、レオナはじっとヨシツネの動きを注視する。指一本一本、脚捌き、体重移動、全ての動きを観察する。その上でヨシツネの肩口目掛けて剣を振り下ろす。ヨシツネはこの攻撃をかわすために何かをする。その何かを見極めようと、全神経をヨシツネに集中させる。
「あの足の動き・・・それに・・・アレは『空間跳躍』？？」
ヨシツネの動きを見つめていたレオナはその正体に気づく。『空間跳躍』、簡単に言ってしまえばテレポートのようなものである。しかし、テレポートは本来上位に位置する魔法で、長い呪文の詠唱を必要とする。エリウス級になれば呪文の詠唱なしに使うことが出来るが、そんなこと普通の人間にできるはずがない。
「ならば、生まれ持った能力ですか・・・」
時として人は特殊な力を持って産まれてくる。それはエリウスが感じていた人間の可能性の一つである。ヨシツネの持つ『空間跳躍』は短い距離しか跳躍できないが、十分な可能性であった。ヨシツネはその可能性を十分に発揮しているのだ。
「どうだ、我が『八艘跳び』は？！」
「『八艘跳び』？なるほど、素晴らしい力です・・・」
刀を構えなおすレオナの顔を見つめながらヨシツネは自らの力を誇示する。レオナはその力に心底感心する。こちらの攻撃は当たらない、向こうの攻撃は変幻自在。いつかやられるかもしれない。しかし、レオナもこのままおとなしくやられるつもりはなかった。
「そちらが本気ならば、こちらも本気をお見せしよう！」
レオナは愛用の剣を地面に突き刺すと、唇に指を当て、呪文を唱え始める。レオナを中心に魔法陣が形成され、それが光り始める。
「来たれ我が鎧甲冑、そして剣よ！！」
レオナの呼び声に答えてレオナの前に純白の鎧が召喚される。レオナがその甲冑に手をかざすと、身につけていた鎧甲冑、鎖帷子、下着までが全て弾け飛ぶ。キラキラと光の粒子が舞い踊り、レオナの金色の髪を輝かせる。そのレオナの白い肌を純白のドレスが覆ってゆく。そしてさらに、そのドレスの上から目の前に現れた鎧がその体を覆ってゆく。
「これが我が神具、”ミラー・メイル”と”ディメンション・ブレード”です！」
レオナは最期に地面に突き刺さった剣を抜き取ると、それをヨシツネに向ける。純白の鎧はレオナの白い肌と金色の髪と相まってその美しさを何倍にもしていた。その美しさに一瞬心を奪われたヨシツネだったが、すぐに正気を取り戻す。
「そんな鎧がなんだというのだ！！」
跳躍し攻撃を再開したヨシツネは、鋭い一撃をレオナに見舞う。しかし、レオナはその一撃を受け止めるどころか、かわそうともしなかった。何を考えているのか理解できなかったヨシツネだったが、そのまま遠慮なく攻撃をレオナに見舞う。その攻撃は確実にレオナの体を切り裂くはずだった。
「そんな・・・ばかな・・・」
レオナの肩口に決まったはずのヨシツネの太刀は何故か彼女の肩口を切り裂いていた。激痛によろめくヨシツネはレオナを見る。レオナの肩口にはまるで傷はなく、今自分が放った攻撃が自分にかえってきたようだった。なにが起こったのかわからずにいたヨシツネに、今度はレオナが攻撃を仕掛けてくる。
「くっ！『八艘跳び』さえあれば・・・」
「そういつまでも逃げ回れると思うな！！」
いつものようにレオナの攻撃を『八艘跳び』で回避しようとしたヨシツネだったが、その彼女にレオナの”ディメンション・ブレード”が襲い掛かる。その一太刀を何とかかわしきり、空間跳躍して距離を取ろうとしたヨシツネだったが、その右肩から左脇腹にかけて大きく切り裂かれ、仰け反るようにして大地に倒れ伏す。
「な・・・なぜ・・・？」
口の端から血を滴らせながらヨシツネは喘ぐ。これまで誰にも破られたことのない『八艘跳び』がいとも簡単に破られ、これだけの傷を負わされたのは彼女にとって初めての経験であった。なにが起こったのかまるでわからず、ただ呆然としていた。
「こんなこと・・・あるはずが・・」
傷口を押さえてよろよろとヨシツネは立ち上がる。傷口は傷むが、致命傷には程遠く動けないほどではない。まだ、ベンケイのあだ討ちができていないとよろけながらも立ち上がり、レオナと向き合う。いまだ心折れないヨシツネをレオナはじっと見つめる。
「まだやるおつもりですか？貴方に勝ち目はありませんよ？」
「うるさい、うるさい！！ベンケイの仇を討つんだぁぁっっ！！」
この戦い負けるわけにはいかない。その想いがヨシツネを突き動かす。刀を構えなおすとレオナに挑みかかってゆく。レオナは剣を構えこれを迎え撃つ。ヨシツネの鋭い一撃を弾き返すと、とどめの一撃をヨシツネに見舞う。これをヨシツネは『八艘跳び』でかわす。
「今度こそ！！」
レオナの頭上に移動して逆に切り倒そうと狙ったヨシツネだったが、空間移動中に体に負荷がかかり、元の空間に戻ってしまう。気付けば先ほどと同じように肩口から深々と切り裂かれていた。大量の血が逆流してきてヨシツネの口から吐き出される。
「なんで・・・なんで・・・」
「わたしの剣は空間を切り裂く剣。こういえば全てわかるでしょう？」
血を吐きながらヨシツネは自分に怒ったことがわからず呻く。そんなヨシツネにレオナは自分の剣をかざしながら説明する。その言葉でヨシツネは全てを理解した。空間跳躍中に空間ごと自分はレオナに切られたのである。そんなことが出来る奴がいるとはヨシツネには信じられなかった。信じられなかったが、今眼の前で起こっていることが現実である。
「まだ・・・まだ負けるわけには・・・」
もう腕に力は入らない。それでも必死になって刀を握り締めると、ヨシツネは刀を構える。目の前が朦朧とし、まともにレオナを見ることもできない。それでも負けられない信念がヨシツネにはあった。だからそれを曲げないためにヨシツネは立ち上がり、戦いを挑む。
「傷を癒しなさい。無駄死にする必要はありません。今ならまだ・・・」
「いらぬ！！わたしには曲げられない信念があるのだ！！！」
残された全ての力をしびり出してヨシツネは八艘跳びでレオナに襲いかかる。これが最後の一撃、ヨシツネはそう理解していた。それはレオナも理解していた。だから全力を持ってこれを迎え撃つ。手にした剣を高速で振う。目で追う事も出来ないような剣の軌跡が真空の剣を生み出し、ヨシツネと迎え撃つ。真空の剣は宙を舞い踊り、空間を切り裂く。ヨシツネはこれに対応することはできなかった。
「がはああっっっ！！！」
レオナの全力の一撃にヨシツネの鎧は切り裂かれ、刀はへし折られる。全てを失ったヨシツネは強かに大地に叩きつけられる。そのヨシツネを追って真空の剣が宙を舞い、ヨシツネに迫る。もはや全ての力を出し切ったヨシツネにそれをかわす余力は残されていなかった。シズカに目を閉じ、その瞬間を待つ。しかし、その瞬間はいつまでたってもくることはなかった。
「なんで・・・？？？あああっっっ！！」
目を開けたヨシツネは信じられない光景に絶句する。自分の視界を遮る巨大な壁が、真空の剣を遮っていたのだ。真空の剣は確実に壁を貫き、その命を奪い去っていた。
「そんな・・・なんでだ！ベンケイ！！」
愛する人の行動にヨシツネは絶叫する。ベンケイの体に縋りつく必死になって呼びかけるが、立ったまま、ヨシツネをかばう姿勢のままベンケイは真空の剣に体を刺し貫かれ絶命し、答えてはくれなかった。そんなベンケイに縋りついてヨシツネは大粒の涙をこぼす。
「もう一度言います。傷を癒しなさい。無益な殺生は・・・」
「うるさい！！このまま生き恥を晒して溜まるか！！」
傷を癒すように勧めるレオナの言葉をヨシツネは拒絶すると、懐から一枚の札を取り出す。力が発動した札は業火を巻き起こし、ヨシツネ達を包み込む。とっさのことに対応が遅れたレオナは彼女たちを助けることができなかった。炎は立ったまま死したベンケイの体を、それに縋りつくヨシツネの体を包み込み、焼き尽くしてゆく。赤い炎は二人の体を包み込んでさらに燃え盛る。
「バカなことを・・・」
燃え盛る炎を見つめながらレオナは思わず呟く。レオナたちを追ってきたアンジェリカとプリスティアもその炎を呆然と見つめていた。その隙を付いてトモエとシズカはアンジェリカのロープを切って自由の身となると、アンジェリカたちが止めるまもなく炎の中に飛び込んでゆく。
「ヨシツネ・・・わたし達も共に・・・」
「貴方にもベンケイにも寂しい思いはさせません・・・」
「姉上・・・・」
二人の姉に抱きしめられながらヨシツネは嬉しそうな顔をする。そんな四人を赤き業火はその肉片を一片たりとも残さずやきつくしてしまう。天守閣に納められていた宝玉を回収したレオナたちは、その3人の悲しい姉妹とその想い人の成れの果てに手を合わせ、彼女たちの魂が次は平和で幸せな人生を送れることを祈るのだった。
「んんっ・・・あふっ・・・」
暗がりの中、五人の女性が裸体を晒して悶える。出るところは出て引き締まるべきところは引き締まった美女から、まだ幼さが残る幼女まで、その年齢は様々であった。その女達が悶え絡みついているのは一人の男であった。均整の取れた肉体には無駄な筋肉はまるでない。その引き締まった体には無数の傷が刻まれ、その男の勲章を物語っていた。唯一つ、男には異様なところが合った。それは目元を仮面で隠していることであった。しかし、女たちはそんな事を気にした様子を見せないで、男に甘え、奉仕する。
「ああんっ！！あはぁ・・・」
自分の胸を押し付け、男の体に乳首を擦りつけながら二人の女が男の乳首を舐め上げる。二人の女は男の股間に顔を埋め、その大きくなったペニスを弄んでいた。交互に亀頭から竿、裏筋、玉袋、アナルに到るまで丹念に舐めあげ、男を喜ばせようと努力する。
「んっ、んっ、あふっ！！」
甘い声を上げながら女たちは自分の胸を男の腿にこすりつける。その度にたわわに実った果実は形を変える。そして最後の一人は男に口付けし、その舌を絡み合わせる。男の口内を丹念に舐め上げながら、自分の唾液を男に流し込み、男の唾液を啜り上げる。
「あふんっ！あああっっ！！」
女たちはやがてこすり付けるだけでは我慢できなくなり、自分の手で性器を弄り、慰め始める。形が変わるほど激しく胸を揉み上げ、硬く勃起した乳首を指で擦りあげる。滴り落ちた愛液を指でかき回しながら、膣の奥にまで指を押し込み、膣壁を指先でかき回す。クリトリスを指先で転がし、アナルに指を突っ込む。
「ああああっ・・・いいっ！！いいっ！！」
女たちは激しく悶えながら、男への奉仕は怠らない。男を喜ばせながら自分を慰めようと必死になる女達だったが、体の奥底からこみ上げてくる熱さは我慢の限界を超える。
「御館様・・・もう我慢できませぬ・・・」
「どうか、どうか、この・・・」
「硬くそそり立ったイチモツで・・・」
「わたし達をお慰め下さい・・・
「お情けをくださいませ・・・」
女たちは立ち上がると、愛液でビショビショに濡れそぼったヴァギナを割り開きながら男に懇願する。男は体を起こすとニタリと笑う。
「よかろう。だがわかっておろうな？」
「はい、わかっています。わたしたちは・・・」
「我らが主、シンゲン様の御子を宿すために・・・」
男のそそり立った逸物をウットリとした表情で見つめながら女たちは何度も頷く。それを見た男は満足そうに最古参の女の手を引く。嬉しそうに女はシンゲンの胸の中に抱かれ、その硬く勃起したペニスに刺し貫かれる。激しく突き上げられながら女は悶え、喘ぐ。その様子を他の女たちは羨ましそうに見つめながら、自分の指で己を慰める。激しい女たちの喘ぎ声が響く中、シンゲンは女たちをただ貪り食うのだった。新たな戦に備えて・・・自分の血を引くものを残すために・・・
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