第40話 天命〜参〜


 暗闇の中、男は少女を犯す。まだ大人になりきれていない少女を下に組み敷き、覆いかぶさって犯す。その幼さが残る少女の膣を、その太く猛々しいものを突きたて、何度も何度も抉り、こすりあげる。その度に少女は歓喜の声を上げて男に縋りつく。
 「お、御館様・・・すごい・・・すごいのぉぉっっ!!」
 焦点の合わない眼差しで男を見つめながら少女は大きく足を広げ男を迎え入れる。少女にとって男は初めての相手であったし、夜伽を命じられてからまだ三回目ではあったが、もう不思議と初めてのときのような痛みはなかった。むしろもっと男に愛されたい、その想いが強かった。
 「むうっっ・・・そなたのここが一番きついのぉ・・・」
 少女にその猛々しいペニスを突き立てながら男は喜びの声を上げる。事実、男のペニスは少女の膣壁に断続的に締め付けられ、少しでも気を抜けば、イってしまいそうだった。そのイきそうな感覚を必死でこらえながら男は少女を攻め立てる。
 「あ、ありがとう・・・ございます!あああっっ!!」
 少女は男に誉められたことに喜びながら、更に歓喜の声を上げる。腰を高く持ち上げて突きたてられる少女の膣からは、止め処なく愛液が溢れ出し、お臍の辺りまで滴り落ちてきてた。男のペニスが少女の膣を抉る様は少女からは丸見えでペニスに突かれる度に膣から愛液が噴出してくる様子は卑猥であった。
 「ああああっ、もっと、もっと奥まで!!」
 少女は更なる快感を求めて男の腰に足を絡みつかせてさらに奥へと男を導く。まだ幼い少女の膣はペニスを全て飲み込むことはできず、先端がこつこつと最奥へとぶつかる。その感触に少女はまた歓喜の声を上げる。その声に答えるように、奥からはさらに大量の愛液が噴出してくる。
 「あああんんっっ!!そこ、そこっっ!!」
 男のペニスが最奥をノックするたびに少女は頭を振って喜ぶ。そんな少女の腰を支えると男は軽々と少女を抱き上げる。その鍛え上げられた肉体にとって少女程度の体重などどうということはなかった。少女の腰をがっちりと固定すると今度は下から突き上げる。
 「ひああっっ!!すごい、すごいですっ!御館様〜〜!!」
 その野太いペニスが突き上げられるたびに少女はさらに大きな声を上げて喜ぶ。これまでの地の強い攻めに加えて自重も咥えた攻めは少女の子宮を突き破らんばかりの勢いを備えていた。その攻めに耐えようと少女は男に縋りつく。
 「んっ、んっ、んっ!!ひゃぐっ!!ひょこっ!!」
 こつこつと子宮口をペニスに先端がノックする感触に少女は嬉しそうに悶える。こみ上げてくる快感の波に意識はさらわれてもはや何も考えることはできなくなっていた。男もまた少女の膣の狭さにペニスが耐え切れず、限界が近いことを察していた。
 「お、御館様ッッ、もう、もう!!」
 「では、そろそろ終わりにしよう!」
 「はひっ!中に・・・お腹の中に注ぎ込んでください!!」
 お互いに限界が近いことを察した二人は終わりに向けてさらに動きを加速させる。少女をまた床に寝かしつけると、男は腰を叩く持ち上げて真上から少女をを突き立てる。子宮を突き破らんばかりの攻めに少女は男にしがみ付き、迫り来る絶頂を喜んで迎え入れた。
 「ひぐぁっっ!!お、御館様ッッ!!イく、イっちゃうッッッ!!」
 少女がもう限界であることを告げると、男はさらにペニスを激しく突き立ててくる。ジュボジュボと愛液を撒き散らしながら突き立てられるペニスの動きに導かれて少女は絶頂の門をくぐる。
 「むうっっ!ちゃんと我が子を宿せよ!!?」
 「はひ、はひぃぃっっ!!」
 「むおおおぉぉぉっっ!!」
 「あああああっっっ!!!」
 一際大きな喘ぎ声を上げると、少女の小さな体は大きく飛び跳ねる。そしてその後は痙攣するように小刻みに震え狩り、少女が絶頂に達したことを意味していた。男の方も絶頂に達した少女の膣の締め付けに耐え切れず、少女の最奥に己の欲望をぶちまける。少女の最奥に放たれた欲望は少女の子宮を満たしてゆく。その感触を確かめながら少女は絶頂の余韻に浸りながら、深い眠りへと誘われて行くのだった。



 仮面を外したシンゲンは自分の周りで健やかに眠る女性達を眺めながらホッと一息つく。ほぼ一晩掛かり、五人の女性を満足させるのはかなり骨が折れた。それでも大切な跡継ぎを産ませるためには仕方がない。実際これまでに生まれてきたのは女ばかりで、数少ない息子も皆、隣国との戦の中死んでしまっている。
 「今度こそ・・・」
 自分にもしものことがあったときのために、この南の国を任せられる跡継ぎを作らなければならない。そのために多くの妾を屋敷に連れ込み、こうして毎晩種付けを繰り返している。が、この三ヶ月間、頑張ってきたのにいっこうに成果が見られないことがシンゲンの悩みの種であった。
 「相性の問題か・・・」
 跡継ぎが生まれないことで妾たちを攻めることはシンゲンはしなかった。もちろん彼女たちのことは愛していることに違いはない。だが、いまだ生まれてこない跡継ぎに最近少しイライラしてきていた。それが彼女たちの攻めとなって表れてきている。
 「こやつらが悪いわけではないのだがな・・・」
 シンゲンは溜息をつきながら眠りこける女の髪を優しく撫でる。
 「お休みのところ、申し訳ありません」
 「何事だ?」
 いつの間にか部屋の前に現れた若武者がふすま越しに声をかけてくる。すでにその気配を感じ取っていたシンゲンは仮面をかぶり、応対する。若武者はふすまを開けようとはせずに、そのまま報告を始める。
 「異国の軍勢が国境を越えて攻め入ってきております」
 「ほう?あの結界を超えられるものがいたか?」
 「あの程度の結界、わたしでも破壊できます。ならば・・・」
 「異国にその程度の術者がいてもおかしくない・・・か?」
 シンゲンはふすま越しにいる若武者の言葉に笑みを浮べる。川沿いに異国の軍勢がいるとの情報を得た彼は過去に捕まえた山賊をその戦力を測る道具に使って送り込んだことがある。結果はたった一人に惨敗であった。そのとき国を取り巻く結界を一時的に開放したのがふすま越しにいる若武者であった。このときシンゲンが得た答えは、異国の軍は強力である事、しかし、彼らと渡り合える武将がこの国に入るということであった。だからそれ以上の追撃はしなかった。そして彼らは結界を越えて本国へとやってきたのである。
 「カンスケ、敵はどう動くと思う?」
 「おそらく侵攻して来た敵はおとりでございましょう。狙いは・・・」
 「ワシの宝玉、か・・・」
 カンスケの言葉にシンゲンはふむと唸り、仮面の額に手をやる。そこには大振りの宝玉が納められていた。相手がこれを狙っているのならば、これを奪うために動いている部隊がいるはずである。それの迎撃をしなければならない。
 「カンスケ!!」
 「すでにユキムラとサスケ、コタローが出向いております」
 シンゲンの命令を待つまでもなくカンスケはすでに迎撃の手配を終えていた。その手際のよさにシンゲンはニヤリと笑う。放ったのは自分の軍の中でも指折りの兵である。ならば自分はここで待ち構えていればいい。もっとも彼らを倒してここに来れる者がいればの話であるが・・・



 南国の首都の大通りを隠れようともしないで進む影が三つ。ユフィナトアを先頭にゼロとオリビアが続く。三人とも臨戦態勢を整え、いつでも戦闘を始められる準備が出来ていた。しかし、ここまで彼らに襲い掛かってきたのは警邏の兵ばかりで、主力が動いた気配はない。
 「全軍出払っているんでしょうかね?」
 いっこうに敵が表れない様子にオリビアは肩を竦めて他の二人に尋ねる。ゼロはどう答えていいものかわからず黙ったまま、ユフィナトアは辺りの様子を気にしながら考え込む。
 「おそらくここには王都守護部隊ぐらいしか残っていないのでしょう・・・」
 「敵が侵入してきたのにその守護部隊を出さないと?」
 「こちらの実力はわかっているのでしょう」
 オリビアが首をかしげるとユフィナトアは静かに答える。警邏の兵の実力から見て守護部隊の実力はたかが知れている。しかし、それを束ねる将軍級がいかほどのものかまではユフィナトアたちにもわからない。しかし、敵が自分達の実力を把握し、それにあわせた布陣を引いてきていることは間違いなかった。
 「でも、どうやって我々の実力を?」
 「一度結界が解かれて出てきた兵がいたと聞いています?ソレがここの国の尖兵だったとしたら?」
 それまで黙っていたゼロがはじめて口を利く。確かに相手が自分達の実力を知った上での布陣である事に異論はなかった。しかし、敵がどうやって自分達の実力を見極めたかが疑問として残った。その疑問にユフィナトアはあっさりと答える。
 「たしかストナケイト様にあっさりと倒された・・・」
 「ええ。それが捨て駒であり、こちらの実力を試すだけの存在だったとしたら?」
 なかなか頭の切れる策士が敵に入る。ゼロもオリビアもそう認識した。味方をあっさりと切り捨てられる非情さと、その戦いから敵の実力を見切る眼力。なかなかの実力者であることは間違いなかった。その策士が実力的に劣る守護部隊を配置して被害を大きくするとは思えない。確実に勝てる策を練ってくるはずである。
 「数で押すのより、質の高い兵一人に任せたほうが被害が少ない。そう考えるのが常道ですか・・・」
 オリビアは肩を竦めながら大きな溜息をつく。今は敵が出てこないのでいいが、この先強敵が出てくる可能性が高い。そいつらの相手をしなければならないのだ。それを思うとまた溜息が漏れる。いつしか三人は歩みを止め、辺りの様子を伺うようになっていた。
 「います・・・ね・・・?」
 「ええ。二人・・・いえ、三人ですか・・・」
 「ちょうどこちらと同数ですね」
 ならば答えは簡単である。『一人一殺』、これを実践すればいい。ただそれだけである。三人は大きく息を吐くとその表情を一変させる。まさに戦士の表情に変わる。その表情にあわせるようにして三人を取り巻く空気も変化する。殺気に満ち満ちた空気が辺りを追いつくす。
 「すごい殺気ですね・・・」
 その殺気につられる様にして家の影から一人の青年が姿を表す。美形と呼んで差し支えのない青年は髪をかきあげながらユフィナトアたちを正面から見つめる。笑みを浮べたその表情の下には相手を打ち倒そうとする殺気に満ちたいた。左手は刀の鞘にかけたまま放そうとはしない。
 「これはなかなか楽しい戦いに・・・」
 「なりそうですね?」
 今度は背後から男女が一組姿を現す。大柄の女と小柄な男。なんとも奇妙な二人組みであった。こちらは鎧は着ない軽装で、背中には短めの刀を背負い、顔を隠して目元だけむき出しにしている。そのむき出しの目がじっとユフィナトアたちを見つめてくる。もちろんその瞳にも殺気が込められていた。
 「小柄の男は自分が・・・」
 「ならその隣の女はあたしね?」
 「では、正面はわたしが担当します」
 ユフィナトアたちは姿を現した三人の発する殺気から戦いは避けて通れないと察し、それぞれ担当する相手を決める。相手も同じ意見らしく、腰を落とし臨戦態勢に入る。そん六人が動いたのはほぼ同時であった。空中で激しくぶつかり合い、三組に分かれて離れてゆく。お互いの勝利を祈りながら・・・



 「なかなかの腕だ・・・」
 ゼロとぶつかり合った小柄の男は感心したような声を上げてゼロを誉める。自分の一撃をゼロは事も無げに受け止め、それどころか反撃まで試みてきたのである。そんな相手にこれまで男はめぐり合えたことはなく、いま眼の前にいる相手は非常に興味深いものであった。
 「この男なら俺を喜ばしてくれるかも・・・」
 男は内心そう思い、心踊る戦いを期待する。それはゼロも同じ意見であった。ここのところ戦いに飢えていたゼロにとって復帰して最初の戦いがこれほどの相手とは想像もしていなかった。この男との戦いならば、ファンズロットとの戦いで得たものを、アインスとツヴァイが残したものを活かせるかもしれない、そう思った。
 「試してみるか・・・」
 ゼロは大きく息を吸い込むと変身を始める。これまでと姿が一部変わってきていた。特に拳はこれまでよりも1.5倍くらい大きくなり、爪も鋭くなっていた。腿や二の腕は一回り太くなり、その力強さを物語っていた。変身を終えたゼロはそのまま男目掛けて突っ込んでゆく。
 「まずは・・・」
 ゼロはぐっと拳を握り締めると、親指を弾く。拳によって圧縮された空気が弾丸のように男に襲いかかる。その攻撃を男は事も無げに受け止めてみせる。目に見えないはずの空気の弾丸を易々と受け止める男の実力を目の当たりにしながら、ゼロはその隙を突いて一気にその距離を詰める。
 「せいっ!!」
 相手の懐深くに飛び込むと、その脇腹にひじを叩き込む。その攻撃を男が脇を締めて受け止めると、今度は膝が逆の脇腹に襲いかかる。これを男は脇を締めて受け止める。しかし両脇を締めた格好になったため、体の中心に隙がうまれる。
 「でやぁぁぁっっっ!!」
 気合のこもった正拳が男の胸元に叩き込まれる。強烈な一撃に男は軽々と吹き飛ばされ、派手な土煙を巻き上げて地面に叩きつけられる。ゼロはその様子を冷めた表情で見つめていた。強烈な一撃ではあったが、どうにも納得がいかない一撃でもあった。
 「後ろに飛んだのか・・・」
 自分の拳を見つめながらゼロは男がやったことを分析する。つまり自分の一撃を手の平で受け止めながらそのまま後方に大きく跳んで、その勢いを殺したのである。あの一瞬でそれだけのことをやってのけた男の実力は相当なものであることはゼロにもよくわかった。
 「ならっっ!!」
 ゼロはさらに追撃をかけ、男を追いかける。大振りの一撃で男を吹き飛ばそうと振りかぶる。それを察した男はその勢いを殺して受け流そうと構える。しかし、今度はゼロがそれを読んでいた。男に拳が当たる瞬間、その勢いを殺す。勢いのない攻撃を受けた男の体が流れる。
 「そこっっ!!」
 ゼロの蹴りが唸る。ゼロの攻撃を往なしていた男には大きな隙が生まれていた。その隙を逃さないゼロの一撃だった。確かな手ごたえと共に男は大きく吹き飛ばされて民家の屋根に叩きつけられる。屋根を破壊し、柱をへし折り、民家を倒壊させる。
 「・・・・・来る!!」
 蹴りを放ち終えたゼロはすぐさま迎撃体勢に入る。そのゼロの死角から無数のくないが襲い掛かる。そのくないをゼロは上昇することでかわす。しかし、上昇した先にはすでにあの男が待ち構えていた。男はゼロにしがみ付くとそのまま頭を下にして急降下してゆく。二人分の体重のかかった攻撃によってまたも民家が倒壊する。
 「ふむ。この程度ではダメか・・・」
 地面にゼロを叩きつけた瞬間、ゼロから離れた男は少し距離を置いた位置に着地すると、鼻を鳴らす。普通の相手なら十分に倒せる攻撃であったが、今の一撃に手ごたえを感じなかったのだ。男の予想通り土煙の中からゼロがまるでダメージを受けなかったかのように現れる。
 「『百舌落とし』でダメージゼロですか・・・とんでもなく頑丈な体だ」
 「そう言うあんただって攻撃を喰らう瞬間、こっちの攻撃の勢いを殺しているじゃないか」
 ゼロも男もお互いを睨みつけたまま目を放さない。男はゼロの攻撃の上に乗って後ろに飛ぶことでその攻撃を無力化し、ゼロはその体を瞬間的に硬化する事で凌いだのである。お互い相手がしたことを理解し、その対策を瞬時に練ってゆく。
 「まだ、お互いに名乗りあっていなかったな」
 「だな。俺はヴェイス軍特殊実験部隊所属融合人間の『ゼロ』!!」
 「拙者はサナダ忍軍が一翼、サスケ!!」
 ゼロとサスケはお互いに名乗りを上げると、地を蹴って空中でぶつかり合う。ゼロはサスケの受けの上手さを考えて、サスケはゼロの体の硬さを考えて攻め立てる。一手、一手工夫を凝らし、相手の隙を窺う。同時に自分の隙を作らない攻防が続く。
 「打撃はなかなか・・・でも!!」
 サスケはそう言うと攻撃の方策を急に変えてくる。打撃ではなく受けに廻り、ゼロの腕を巻き込むとそのまま決めに入る。関節を決めた状態での投げ技にゼロの表情が曇る。タダの投げならば体を硬化した状態で耐え切れる自信があった。しかし、サスケは決めた腕を放さないで投げに入っている。
 (このまま硬化して叩きつけられたら・・・腕をやられる!!)
 このまま投げられて頭にダメージを負うか、硬化して腕を失うか。この二択にゼロはすぐさま判断を下す。体を硬化して頭へのダメージをなくす。しかし、硬化した腕はあらぬ方向を向き、へし折られてしまう。その激痛にゼロの表情が曇る。しかし、その激痛を押してゼロはがっしりとサスケの腕を掴む。
 「やっと捕まえたぜ!!」
 ゼロはそう言ってニヤリと笑う。今度はそのままの姿勢でサスケに連続して蹴りを放つ。相手の攻撃に乗ってその勢いを消していたサスケにとって、腕を掴まれての攻撃は命取りであった。何発、何十発もの重い蹴りがサスケの体に叩き込まれる。
 「がふはぁぁっっ!!!」
 内蔵にダメージを受けたサスケはようやくゼロが手を離したことで大きく吹き飛ばされる。壁に叩きつけられたサスケは大量の血を吐き出す。内蔵を傷めたことは間違いなかった。遠目からもわかるサスケの負傷にゼロは止めとばかりに飛び込んでゆく。
 「とどめっっ!!」
 「ぐっ・・・・かかったな!!」
 ゼロが飛び込んでくるとサスケはニヤリと笑い口元を拭う。アレだけ吐き出していた血はなくなり、サスケの負傷が演技であったことをゼロに教える。それに気付いたときにはもうゼロはサスケの攻撃範囲に入ってしまっていた。
 「しま・・・」
 「遅い!!秘術”蜘蛛糸斬り”」
 攻撃範囲に入ったゼロにサスケは片手を振う。何かキラキラと光ったかと思うと同時にゼロの体が切り刻まれる。さらにサスケがもう片手を振うと、ゼロの体はさらに切り刻まれる。見えない何か糸のようなもので切られている、それはゼロにもよくわかった。しかしそれを視認することは出来なかった。
 「くそっ!!」
 傷口を押さえてゼロは蹲る。先ほどの攻撃もサスケには効かなかったのかとゼロは自分の負けを想像する。これ以上はどうやってもサスケを捕らえる手段が思い浮かばなかった。だが、ゼロの前に降り立ったサスケも片膝を折る。先ほど蹴られた箇所を手で押さえていることは間違いなかった。
 「効いていた・・・のか??」
 サスケが手で押さえている箇所はゼロが先ほど蹴った場所であることは間違いなかった。つまりゼロの蹴りはサスケにダメージを与えていたのだ。しかし、それ以上にゼロが驚いたのはそれだけのダメージを受けていながら、そのダメージの深さを感じさせないようなダメージを受けた演技をし、ゼロを自分の懐に飛び込ませた事だった。ダメージを微塵も感じさせないサスケの精神力にゼロは感心仕切りだった。
 「次の一撃が・・・」
 「勝負を決める・・・」
 ほぼこの勝負は決まっていた。内臓に深刻なダメージを受けたサスケに対して、ゼロは体を切り刻まれ見た目の出血はひどいが、まだまだ戦える程度のダメージだった。サスケが逆転で勝つには一撃でゼロを葬るような攻撃をするしかなかった。
 「奥義”蜘蛛糸斬魔”・・・」
 サスケはもはや出し惜しみする気はなかった。自分の持てる力の全てを出し切る、その命に代えても眼の前の敵を打ち倒す、その思い出御漏れの最高の技を駆使する。見えない糸を指先から滴らせる。いや、先ほどよりも何倍にも糸の数が増えていた。
 「触れれば斬れる蜘蛛の糸・・・この糸から逃れる術は・・・ない!!」
 「ないなら・・・罷り通るまで!!」
 ゼロは目を瞑り、拳を力いっぱい握り締めると大きく息を吸い込む。体全体に気を、力を漲らせるように精神を集中させる。それに答えるかのようにゼロの肉体は肥大し、体を覆う甲殻もまた強固になってゆく。いかなる攻撃も弾き返す鎧、それがゼロの体だった。
 「やああああああっっっ!!!」
 「せいっっっっ!!!」
 しばしにらみ合っていた二人だったが、お互いに呼吸を合わせたかのように同じタイミングで攻撃に移る。サスケの無数の糸がゼロに群がり、ゼロの鎧の弾丸が一直線にサスケを目指す。サスケの体に到達するまでにゼロを倒せればサスケの勝ち、倒せなければ佐助にゼロの攻撃を耐える体力は残されていないのでゼロの勝ちだった。お互いにそのことは十分にわかっていた。だから己の最高の技で攻撃しあったのだ。
 「さあああっっっ!!」
 サスケの指の動きにあわせるようにして無数の糸が舞踊りゼロの体に襲い掛かる。触れただけでも切れるこの糸がゼロの鎧に触れると、さすがのゼロの鎧もそこかしこと切り裂かれてゆく。それでもゼロの突撃は止まらなかった。ならばとサスケは腕を振るって糸を回転させる。ゼロの進行を糸の竜巻が塞ぐ。そのまま進めば確実に全身を切り刻まれる。それがわかっていてもゼロは動きを止めなかった。まっすぐ、一直線に、ただサスケだけを目指す。
 「その一撃に全てをかけるか・・・ならば!!」
 そのゼロの攻撃に答えるようにサスケも腕に動きを早くする。それにあわせてゼロの体を取り巻く糸の回転も速くなってゆく。超高速の糸の渦がみるみるうちにゼロの体を切り刻んでゆく。さすがに強固な高度を誇るゼロの鎧ではなったが、サスケの糸にはかなわなかった。
 「すごい攻撃だ・・・だがな、『弾けろ』!!!!!」
 切り刻まれた鎧を見ながらゼロは不敵な笑みを浮べる。その笑みが何を意味するものなのかをサスケが考える前にゼロの体が爆発する。強烈な爆風はゼロの体を取り巻いていた糸を吹き飛ばす。すぐさまサスケは糸を操り再びゼロを攻撃しようとするが、それよりも早くゼロがサスケの眼の前に姿を現す。
 「そ・・・んな・・・」
 「おれの・・・勝ちだ!!」
 勢いに乗ったゼロの正拳がサスケの鳩尾に深々と突き刺さる。強化された拳がサスケの腹部から背中まで突き抜ける。誰の目からもわかる致命傷だった。
 「なに・・・が・・・」
 なにが起こったのかサスケにはわからなかった。ゼロは自分の回りで爆発を起こして自分の糸を吹き飛ばそうとしたことまではわかった。それに気付いたサスケはすぐさま糸を操り、迎撃体勢を整えたはずだった。なのにゼロが急に加速して自分の視界の中に現れたのである。
 「なにを・・・した・・・?」
 「軽くなっただけだ、いらないものを捨てて・・・」
 大量の血を吐きながら項垂れるサスケにゼロはあっさりと答える。その答えにやっとのことで顔を上げたサスケはゼロの姿の違いにようやく気付く。先ほどまでのごつごつとした鎧を脱ぎ去り、余計なものを身につけていなうスリムな体をしていた。つまりあの爆発はごつごつとした鎧を脱ぎ去るときに起こったもので、ゼロはその爆風を利用して急加速したのだ。
 「やられたな・・・あの鎧は身を守るためのものではなかったのか・・・」
 「ああ。二段構えの策だ。鎧で耐え切れればよし、鎧が耐え切れなかったときの策も用意してあった」
 「くくっ、あの鎧は脱げない、そんな先入観が某にはあったようだ・・・」
 それが敗因か、サスケはそう思って素直に負けを認める。だが、負けは認めてもゼロをこのまま通すわけにはいかない。それがサスケの意地だった。残された全ての力を振り絞ってゼロにしがみ付く。糸もゼロの体に絡めて逃げられないようにする。
 「なにを??」
 「わるいが、この先に行かせる訳にはいかない・・・」
 言うが早いかサスケは懐の糸を引く。瞬間、閃光がサスケとゼロを包み込む。爆音と爆風が辺りを包み込み、建物を吹き飛ばしてゆく。もうもうと黒い爆煙が辺りに立ち込める。先ほどまで二人がいたところには大きなクレーターができ、そこには何も残されていなかった。タダ主を失った鎧の破片だけが転がっているだけだった。



 街並みを縫うようにしてかけるオリビアは自分のあとを追ってくる存在に気づいていた。つかず離れず、先ほどからズッと同じ距離を保っている。そのくせオリビアが進むルートを決めるように、オリビアの進行方向に割り込みをかけてくる。
 「邪魔ね、こいつ・・・」
 邪魔だとは思ってもいまだその姿すら確認できない。相手も相当の腕であることはオリビアにもわかっていた。だが、このままダラダラと進んでいくのは性に合わない。相手がどこかに自分を追い込もうとしていると言うならそれに乗ってやろうとオリビアは手を出さずにいた。そろそろ動くだろうと予測していたオリビアは両手の爪を伸ばして臨戦態勢を整える。そんなオリビアの動きに答えるように左右から手裏剣がオリビアに迫る。その手裏剣をオリビアは易々と弾き返す。
 「この程度の攻撃でっ・・・と思ったけど、なかなかやるみたいね」
 手裏剣を全て弾き返したオリビアは自分の腕を見つめる。手首のすぐ下辺りに深々と針が突き刺さっていた。ダメージとしては然したるものではなかったが、手裏剣の影に隠してこれを放った腕前の方をオリビアは感心したのだ。
 「どんな奴かわからないけど、あたしの腕に傷をつけたからには『いい夢』は見れないわよ?」
 オリビアは手首の針を強引に引き抜くと、その傷口をぺろりと舐めながら凶悪な笑みを浮べてこの針を投げつけた本人にそう宣告する。その脅しにも姿を隠して相手は動揺することはなく、その姿を現すこともなかった。気配を呼んでいたオリビアはその見事なまでな気配の消し方に内心感嘆していた。
 (これじゃあ、姿を捕らえるのは難しいかもね・・・)
 敵の移動スピードは目で追いきれるものではなかった。移動しながらの攻撃なので攻撃の瞬間、動きを止めることはなく、その瞬間を狙うこともできない。ならば気配を読んで止まっているときを狙おうと思っていたのだが、この気配の殺し方ではそれも難しい。オリビアは大きく息を吸い込む。
 「KoaaAAAaaaaaaAAA・・・・・・」
 吸い込んだ息を吐き出しながら低く響くような声を上げる。その声は周囲に反響しながら響き渡る。しばらくその声を出していたオリビアだったが、急に声を出すのをやめる。
 「そこ・・・」
 オリビアが何かを捕らえるように右手を握り締める。瞬間、無数の蝙蝠が空間に現れ、屋根の一角に群がりだす。牙をむき、そこに噛み付いてゆく、まるでそこに何かがいるかのように。すぐにそこに姿を隠していたものがその蝙蝠の攻撃に耐え切れずに飛び出してくる。
 「よくここがわかりましたね?」
 飛び出してきた影はすくと立ち上がるとオリビアを睨みつけながら、オリビアにどうやって自分の位置を見つけ出したのかを問いただす。先ほどまでどうやっても自分を見つけ出すことができなかったはずのオリビアが急に自分を見つけたのが気になったのだ。
 「超音波よ」
 「超音波??」
 「そう、超音波。それがさっきの声の正体よ。それを周囲に響かせることで相手を見つけ出したの」
 「そんなことで・・・」
 「反響するものによってその正体を見つけ出すのに役立つわよ?人はどうやっても壁にはなれないから」
 オリビアはくすくすと笑いながらようやく姿を現した相手の方に向き直る。ようやく姿を現したのは長身の女であった。オリビアも大きな体格の方ではあったが、それをさらに上回る長身である。この女が先ほど自分に針を打ち込むような攻撃をした敵であるとオリビアはすぐに認識する。
 「この針、あなたがやったんでしょう?」
 「ええ。まあ、先ほどのは挨拶代わりだけれども」
 「いい度胸ね。このオリビア様に向かって・・・」
 「オリビア?第六軍団大将軍の?これはいい獲物を引き当てたわ!」
 女はオリビアの名前を聞くとニッと笑みを浮べる。それはまるで森の中で羊を見つけた狼のような笑みだった。その笑みを受けたオリビアの表情が一変する。相手が自分を倒せる、そう宣言されているようで気に食わなかった。その奢った態度をへし折ってやりたくなってきた。
 「あたしがいい獲物・・・だって???」
 「そうよ。八将の中で一番弱い貴方なら負ける要素はないでしょう?」
 「確かにあたしは八将の中で一番戦闘力がないさ。でもね・・・」
 オリビアは鋭い爪をぺろりと舐めながら女を睨みつける。その瞳は獰猛な獣が獲物を狩るときの様な鋭さを秘めていた。
 「仮にも八大将軍に任ぜられるんだよ?そこいらの雑魚に舐められるいわれはないよ!!」
 言うが早いかオリビアは大地を蹴って女に迫る。女はその攻撃を鼻で笑いながら手裏剣で迎え撃とうとする。しかし、その直前でオリビアの姿がぶれ始める。いくつにも分かれたオリビアは四方から女に迫る。不意を疲れた女だったが、大きく後退しながら4人のオリビア目掛けて手裏剣を放つ。
 「こんな攻撃、効かないって言っただろう?」
 オリビアはあっさりと手裏剣を弾き返すと、すぐさま女のあとを追う。二、三箇所に先程の針が突き刺さっていたが、気にせず女を追いかける。然したるダメージでないことは先ほどで分かっている。この程度の張りならあと何本受けても気にする必要はないだろう。それがオリビアの判断だった。
 「なかなかいい動きです。では、こういうのはどうですか?」
 女はそう言うと左腕を横に振う。するとオリビアの右腕が同じような動きを見せる。オリビアはなにが起こったのかわからずにいると、女はそのまま腕を捻り上げるような仕草を見せる。それにあわせてオリビアの右腕も捻り上げられる。まるで見えない力に操られるかのように、オリビアの腕はありえない方向へと向いてゆく。
 「そん・・・な・・・」
 「まずは、右腕!!」
 オリビアが苦悶の表情を浮べると、女はそのまま腕をそのまま捻る。鈍い音が連続してあたりに響き渡り、オリビアはがくりと膝をつく。オリビアの右腕は捻れ折れ、完全にその機能を失っていた。肩から下の腕の感覚は麻痺し、激痛だけがオリビアを苛む。
 「一体何を・・・」
 「言ったでしょう?貴方なら勝てる、と!!」
 額に脂汗を浮べたオリビアが何をしたのか問いかけると、女はそれには答えず、また腕を捻り上げる。すると今度はオリビアの左足が女に引っ張られるようにまっすぐに伸びる。突然のことにオリビアは対応しきれずに思い切り天を仰ぐこととなってしまった。さらに女の腕の動きにあわせてまたしても脚が捻られてゆく。
 「ああああああっっっ!!」
 オリビアが激痛に悲鳴を上げるのと同時に左足が鈍い音を何度も立ててへし折れ、砕け散る。女が何をしたのかまるで分からないオリビアは脂汗の浮かんだ額を拭おうともしないで、じっと折れた足を、腕を見つめる。そしてそこにあるものが存在していることに気づいた。
 「まさか・・・針・・・か??」
 こんな針で自分の体を自在に操ったとは考えに悔いが、それ以外に思い当たる節はない。この針だけではなく、何か他にも種明かしがあるはずだ。そう感じたオリビアは今度は女の方に視線を移す。よくよく見れば女の指には指輪が嵌められており、その中心には黒い石が納められていた。
 「磁鉱石??・・・・そうか、そう言うことか・・・」
 自分の体が操り人形のように女に操られた理由を理解したオリビアは、今更ながら自分の体に突き刺さった針の存在が疎ましかった。おそらく女は磁鉱石を使って針を操り、オリビアの体を破壊しに来ているはずである。かなり難しい技術ではあるが、不可能とはオリビアには思えた。
 「さてと・・・どうしたものかしら・・・」
 「その様子だと、こちらの術の正体がわかったようですね」
 「ええ。その磁鉱石を使ったトリックでしょう?」
 「・・・・・そうですか。なら、いたぶって殺す余裕はなさそうですね・・・」
 オリビアに自分の術を見破られた女はすぐさま次の行動に移る。そんな女の行動にオリビアは舌打ちする。自分の術に過信しない、確実に相手を仕留めに来る冷酷さと冷静さを持ち合わせている相手のようだった。こういった相手にはこちらも余力を残しておく余裕はない。
 「こちらも全・・・って、なに??」
 相手に止めを刺される前に全力で叩き潰す。そう決めたオリビアが動き出そうとしたとき、彼女の首が無理矢理横を向き始める。予想外のことにオリビアは戸惑うが、女の腕の動きをみる限り自分の首にも針が刺さっていることは間違いなかった。
 「首をねじ切って終わりにします。いかに貴方でも首をねじ切られては生きてはいられないでしょう?」
 「ぐぅぅっっ・・・・がああああっっっ!!!」
 みちみちと嫌な音を立てて首がオリビアの意思に反して曲がってゆく。首の筋肉が悲鳴を上げ、首の骨が軋む。口の端から泡を吹き、白目をむいて体中が痙攣する。どう足掻いても逃げることの出来ない業にオリビアはなす術がなかった。やがて鈍い音が響き渡り、オリビアの体全体から力が抜け、倒れ伏す。
 「ふふふっ、倒せた。誰も倒せたことのないヴィスの大将軍を・・・このあたし、コタローが討ち取った!」
 動かなくなったオリビアの死骸を見つめながらコタローは勝ち誇り、腕をかざす。これまで無敗を誇ったと言われた八大将軍の一角に穴を開けたのである。喜びはひとしおだった。
 「これでユキムラ様も、シンゲン様もお喜びに・・・」
 勝ちを確信したコタローはその場をあとにしようとする。しかし、その背後から異様な気配を感じ、慌てて振り返る。そこには倒したはずのオリビアが立っていた。首は後ろを向き、完全にへし折られている。普通の生物ならばこの状態で生きていられるはずがない。
 「そんな・・・どうして・・・」
 「そんなの決まっているじゃない・・・あんたを迎えに来たのよ、冥界の闇からね!」
 かくんと首が垂れ下がると、上下逆さまのオリビアの顔がコタローの方を向く。生気を失った顔はニタリと笑い、口の端からは血を含んだ泡が垂れていた。確実に首の骨は砕け、オリビア自身は死んでいる。それは間違いなかった。コタローは恐怖に混乱し、じりじりと後退る。
 「そんな・・・なら!!」
 恐怖に顔を青くしながらもコタローはオリビアに針を投げつける。突き刺さると同時に磁鉱石で操作して、オリビアの体を砕いてゆく。左腕が、右足が、腰が次々にありえない方向を向いて筋肉を引きちぎり、骨を砕く。ついにオリビアの体は立っていられなくなり、大地に倒れ伏す。
 「・・・・・・・そんな・・・」
 オリビアが倒れても気を抜けなかったコタローだったが、案の定オリビアは倒れたままズルズルとにじり寄ってくる。どうやっても倒せない化け物にコタローは混乱し、ひたすら針を投げつけ、骨を砕いてゆく。だが、それでもオリビアは死ぬことはなく、止まろうともしなかった。
 『さあ、一緒に悪夢の世界にいきましょう・・・』
 「ひっ!!ひゃああああっっっ!!!」
 ついにオリビアに捕まったコタローはそれでも必死に逃げようとするが、逃げ切れず、針を刺されまくり、血まみれになったオリビアがだらりともたれ掛かってくる。恐怖に駆られたコタローは手にした針でオリビアの顔面を何度も突き立てる。美しい顔は血にまみれ、傷だらけになってゆく。それでもオリビアは止まらない。
 「あっ、あっ・・・」
 『どう?なかなかの悪夢だった』
 「でしょう??」
 どこかと奥から聞こえていたオリビアのコアが現実にコタローの耳に届く。するとボロボロに成ったオリビアの体がドロリと崩れ始める。体は崩れ、無数の蝙蝠へと変わってゆく。蝙蝠たちはコタローの体から離れると、空を舞い、一箇所に集まってゆく。一箇所に集まった蝙蝠は人の形を成してゆく。
 「オリ・・・ビア・・・」
 「くくっ。なかなか楽しい夢が見れたでしょう?」
 そこに現れたのはオリビアだった。五体満足でどこも怪我はしていない。ただ、その姿は先ほどまでとはまるで違っていた。身に纏った鎧は先ほどまでとは変わり、黒いレザースーツを身に纏っていた。胸元に大きな切込みが入り、その大きく、形の整った胸が強調されている。背中には大きな蝙蝠の羽が生え、爪は真っ赤に染まっている。中でも一番変わっていたのは目であった。その瞳は金色に輝いていた。
 「夢??どうやって・・・どうやって夢を操作した・・・?」
 「簡単なことよ。この『魔眼』で見つめられればね?」
 オリビアは相違ともう一度その金色の瞳でコタローを見つめてくる。その美しいまでの金色にコタローは吸い込まれそうな感覚に陥る。その誘惑を何とか耐え切ったコタローだったが、その彼女の足元が引き裂かれる。まるでコタローを飲み込まんとする亀裂から慌てて身を引く。だが、亀裂は縦横無尽に広がり、コタローをその大地の闇に飲み込もうと迫ってくる。
 「くっ、これが夢だと言うのか!!?」
 「大地は貴方を食べた言っているのよ。ほら・・・」
 「なっ!!??」
 跳び退りながら必死になってその攻撃をかわしていたコタローだったが、急にその攻撃の仕方が変わってくる。大地がまるで獣の口のようにもりあがり、コタローに喰らいついてきたのだ。その圧迫にコタローの体は悲鳴を上げる。体中の骨がミシミシと悲鳴を上げ、激痛が全身を駆け巡る。すぐに大地は元に戻ったが、体の痛みは消えずに残っている。それが今見たものが夢とは判別できなくさせていた。
 「さすが・・・八大将軍・・・でも、あたしも負けるわけには!!」
 気を取り直したコタローはオリビアの体をもう一度操ろうと、針を投げつけてくる。しかし、針は空中で静止し、オリビアに届くことはなかった。いや、届いても体が蝙蝠と化し、すり抜けてしまうのだ。これではいかなる攻撃もオリビアにはダメージを与えられない。
 「くそ・・・このままでは・・・」
 「このままではやられるとでも言いたいの?悪いけどもう終わっているのよ、貴方は!」
 攻撃の仕様がないコタローが悔しそうな顔をすると、オリビアは鼻で笑いながら指を動かす。するとその指の動きにあわせるかのようにコタローの腕が勝手に動き始める。針を手に握り、それを自分の腕につきたててゆく。さらに磁鉱石を使ってそれを操り、自分の腕を先ほどオリビアの腕を砕いたように砕いてゆく。筋肉が引き裂かれる音と、骨の砕ける音を聞きながらコタローは悲鳴を上げる。
 「そんな・・・なんで・・・」
 「あたしは夢魔。夢を操る一族。夢を操ると言うことは相手の脳を操ると言うこと・・・」
 妖しい笑みを浮べたオリビアがいぶかしむコタローに説明を始める。オリビアの説明を聞いていたコタローはその言葉の意味を理解し、ぞっとする。つまり、オリビアが夢を見せると言う攻撃自体は精神力で何とか抗える。しかし、その夢を見せられた時点で自分の脳はオリビアの支配下に置かれているというのだ。支配下に置かれた脳は勝手に信号を体に送り、先ほどのようにコタローの体を傷付け、破壊してゆく。
 「くっ・・・これほどとは・・・」
 「言ったでしょう?伊達に八大将軍を名乗っていないって。それはこういう意味なのよ!」
 残酷な笑みを浮べたオリビアは腕を水平に振う。コタローの体は彼女の意思に反して動き出し、体を切り刻み、砕き、破壊してゆく。その激痛に最期まで悲鳴を上げなかったコタローもいつしかその瞳から光を失ってゆく。がくりと力尽き、崩れ行くコタローは声にならない声を上げて愛しい人の名前を呟く。そんなコタローをオリビアは抱きとめる。
 「貴方、なかなか楽しませてくれたわね。ご褒美をあげるわ・・・」
 そう言うとオリビアは金色の『魔眼』でコタローを見つめる。その美しい金色の瞳に見つめられたコタローはまた夢の中に沈んでゆく。先ほど呟いた愛しい人に抱かれたまま深い深い、暗い暗い夢の闇へと沈んでゆく。そして二度と浮かんでくることはなかった。夢の闇に囚われたコタローの体は黒い球体に飲み込まれ小さくなってゆく。その球体をオリビアはそっと握る。
 「眠りなさい。その『夢玉』の中で・・・優しい夢に包まれて、永遠に・・・」
 オリビアが戦った敵の中でも特別な存在にしか使わない技、『夢玉』。それに包まれた敵は覚めることのない夢を『夢玉』の中で見続ける、永遠に。思いもよらなかった強敵の登場にオリビアは歓喜しながら、新しく手に入った『夢玉』を見つめる。
 「こちらは終わりっと。後はお二人次第って事か・・・」
 くすくすと笑いながらオリビアは『夢玉』に優しく口付けをする。それはこれから先、起こるであろう激闘にシグルドとユフィナトアが勝利することを確信するものであった。


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