CHAPTER 04  ホテルにて



早川もえみは暗闇の中にいた。

記憶が混乱していた。

(あれ・・・?・・・私、どうしたんだっけ・・・?)



ザーーーーーーー!!



雨の音が聞こえる。ただの雨ではない。激しく叩きつける豪雨だ。

(そうだ・・・。私・・・新舞くんのバンドの練習に呼ばれて・・・この台風の中、学校に行ったんだっけ・・・。確か・・・そこで・・・。)

記憶が甦ってくる。

二人の男が現れる。

その顔が獣欲に歪む。

もえみに向かって、手が伸びてくる。

(い・・・いや・・・・!!)

もえみは夢の中で二人から逃げようとする。

(夢・・・これは、夢よ!!・・・目を覚ますのよ!!)

意識がはっきりしてくる。悪夢が去っていく。

目を開いていく。



ザーーーーーーー!!



雨の音がする。

激しく降りしきる雨の中でもえみは合羽を着ているようだった。

雨の向こうに誰かが立っているのが見える。

(・・・誰・・・?)

土砂降りの雨の中に濡れながら立ち尽くす新舞貴志の姿が見える。

(・・・新舞くん・・・。)

もえみははっきり見ようと目を凝らす。

新舞である。もえみは嬉しくなった。新舞は約束通り来てくれたのだと思う。そして、私を助け出してくれたんだとも。

「・・・よかったァ・・・来てくれたんだ・・・新舞くん・・・。」

もえみの口から言葉がこぼれ出す。

ほっとした。

「よかった・・・・・・。」

安心すると、また疲れが出てきた。

もえみはそのまま、また意識を失っていく。













もえみが気付くと、ベッドに寝かされていた。

天井が目に入る。どこかのホテルのようだった。

周りの様子を見る。



ガチャ・・・バタン・・・。



ドアが閉まる音がする。

もえみは部屋の周りを見回す。

部屋には二人の女性がいた。天野あいともう一人。

(・・・あいちゃん・・・それとこの娘、たしか山口夏美さん・・・。)

山口夏美・・・弄内洋太の幼馴染である。もえみも何度か会ったことがあった。あいと仲の良い友人だったように覚えている。

その夏美ともえみは目が合う。

「あっ」

夏美が声をあげる。もえみが気付いたのを知る。あいも、もえみの方に振り向く。

もえみは新舞が自分を助け出してくれたと思っていた。そして、彼がこの目の前の二人を呼んでもえみを介抱させてくれたのだと感じた。

その新舞は今この部屋にいない。

「新舞くん・・・帰っちゃったの?今、出て行ったでしょ・・・。」

もえみが言う。

もえみは今出て行った人間が新舞だと考えていた。

本当は、もえみを助け出したのも、その彼女を介抱するためにあいや夏美を呼んだのも、弄内洋太であったことを、もえみは知らない。

「そうだよ・・・。」

あいが言う。あいはもえみに嘘をついた。

もえみにはそれが嘘とはわからない。彼女の心の中は新舞でいっぱいだった。そんなもえみをあいは少し憎らしく感じていた。

「なんだ・・・。そばにいて欲しかったナ・・・。」

もえみの本音が出る。

あいは複雑な気持ちでそんなもえみの様子を見る。

あいは、洋太が今でももえみの事が好きなのを感じている。みんなの反対を押し切ってまで、もえみを助けに行った洋太の事が可哀そうに感じられた。洋太が行かなかったら、もえみは更にひどい目にあっていたかもしれない。なのに、もえみの中には洋太の存在はない。新舞の事で頭がいっぱいなのである。あいは、そんなもえみの様子に腹が立っていたのである。

「お風呂入れてあるから入ったら?」

夏美がもえみに声をかける。

「うん・・・」

もえみはベッドから起き出す。身体を起こすとまだ頭がふらっとするようだった。

記憶も混濁している。

また、足取りも鈍かった。何度もよろけながら、もえみはバス・ルームへ向かう。

そんなもえみの様子を見ながら、あいは洋太からの電話を受けたときのことを思い出していた。













「うん・・・とにかくホテルを大至急とってくれ。詳しいことは後で話すから

・・・とにかく、すまん・・・。」

洋太はそういって電話を切った。

あいは、洋太の様子に何かとんでもないことが起きたことを感じ取った。

あいはすぐさま電話をかけ、駅前のビジネス・ホテルの一室を予約した。そして、夏美を伴い現地に向かった。



ガラガラガラ!!



外は雷も鳴りだしていた。暴風雨はまだ続いている。

あいと夏美がホテルに着いて数分後に、洋太は気を失ったもえみをおぶり、ホテルにたどり着いた。

その様子が尋常ではないことは、あいにも夏美にもすぐに分かった。

洋太は二人にもえみをホテルの浴衣に着替えさせて、寝かせるように頼み部屋を出る。

あいと夏美は、雨合羽を脱いだもえみの姿が全裸であったことに驚愕する。そして、彼女の女性を象徴する部分が血で汚れているのを見て、更に戦慄が走る。彼女が、女性として、どんな酷い目にあっていたのか、想像出来た。

もえみを寝かしつけてから、あいは外に出ていた洋太を呼ぶ。

「なにがあったんだ・・・?」

洋太が部屋に入ってくると、あいはもえみに何が起こったのかを尋ねる。

「・・・男たちに・・・襲われたんだ・・・。」

「えっ!!」

あいと夏美は、予想はしていたことではあったが、洋太の口からその事実を聞くと絶句してしまう。

洋太は二人にこれまでの経緯を簡単に話す。

その上で夏美が洋太に助言する。

「洋太くんが助けたこと知らないのなら、隠しておいた方がいいな・・・。知り合いの・・・しかも男の子に・・・そんなとこ見られたら、それはそれでかなりのショックだと思うよ。」

洋太もその通りだと思う。

「そ・・・そうだな・・・。」

洋太は眠っているもえみの顔をもう一度見る。

「もえみちゃんのとこに電話しておいてくれ。『うちで遊んでますから』って。今頃心配してるだろうからさ・・・。」

洋太はあいに電話を頼み、部屋を出ていく。

あいも夏美もその先、どうしてよいのかよくわからなかった。

もえみが目を覚ましたのはその直後であった。













もえみは、バス・ルームに入る。

記憶がおぼろげだった。

とにかく身体が疲れていて、湯船に浸かりたかった。

もえみは浴衣を脱ごうとして初めて、その下に何一つ下着を身に着けていないことに気付いた。

(え!!!裸!!!)

心臓がドキドキしてくる。

体中の力が抜け、その場に座り込んでしまう。

頭の中に山田の獣欲に歪んだ顔が思い出される。

心臓の鼓動が早くなっていく。

(・・・私!・・・・・私!!!)

記憶が鮮明に戻ってくる。

学校の部室で、押し倒され、半裸にされていく事を。

(・・・いや!!・・・・あれは嘘よ・・・・!!夢に決まっている!!!)

もえみは、あの時感じた下半身の痛みを思い出す。

山田と身体の一点で完全に繋がったあの瞬間の痛みと絶望感を。

(・・・違う!!違う違う違う!!!・・・あれは夢・・・夢に決まっている!!)

もえみはそっと右手を自分の女性の部分に伸ばし、そっとそこを触る。痛みの余韻が感じられる。

(そんな・・・嘘でしょ・・・・!)

もえみは右手を目の前に持ってくる。その指先には、それが夢でいない証拠である破瓜の血がついていた。

もえみの頭の中が真っ白になる。

その瞬間、もえみは跳ね起き、バスタブに飛び込み、シャワーをむしり取る。

蛇口をひねると熱い湯が、ザーッと流れ出す。

もえみはシャワー口を下半身に持っていき、熱い湯を自分の女性自身にかける。

そして、そこにこびりつく精液や血の跡を指で必死に拭う。

(汚い!)

もえみは心の中で叫びながら、今度はまるで掻きむしるかのように血と精液の跡を拭い続ける。

(汚い!汚い汚い汚い!!!)

もえみの心の叫びはいつしか言葉になって口から出る。

「汚い!汚い!!汚い!!!・・・あああ・・・いやあああああああああああ!!汚いのおおおおおおお!!!」

もえみは自分の女性器を激しくこすり続ける。

その悲鳴にも似た叫びを聞きつけ、あいと夏美がバス・ルームに飛び込んでくる。

そして、もえみの様子に驚き、身体が一瞬止まる。

もえみが振り返る。

涙でぐしょぐしょになっている。

「・・・あいちゃん・・・私・・・私・・・・もう汚いのぉぉぉぉぉ・・・・・。汚れが・・・汚れが取れないのぉぉぉぉぉ・・・・・・ううううう・・・・。」

嗚咽しその場に倒れそうになるもえみを、あいはそっと抱き支える。

「あいちゃん・・・あいちゃん・・・・・・。ううううう・・・・・・。」

泣き崩れるもえみをあいは優しく抱いてあげるだけで精いっぱいだった。

シャワーのお湯が二人を濡らしていく。













続く













◎登場人物紹介



○山口夏美

弄内洋太の幼馴染。子供の頃に地方に引越している。ある目的の為に東京に来て、テント暮らしをしている少女。洋太と再会したのちは、洋太の家の庭でテント生活をしている。ブッキラボウなところがあるが、優しい少女。武道の嗜みがある。


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