ラムルテッド篭城戦『火』



 夜。フリーダの作り出した『光のカーテン』によってラムルテッド城は光り輝いていた。
 そのカーテンによりラルデリカ軍の進攻は留まったが、『新兵器』がもうじき到着するという上層部の楽観視により新兵器到着までは包囲し牽制しているという方針に決まった。
だが、そのラルデリカ軍『金牛騎士団』および『金牛蓮花兵団』の陣内で、
「ば、化け物だ!!!」
 絶叫が響いた。漆黒で全身を覆った女―アバドンが百の手と頭を持つ巨人―ヘカトンケイルを引き連れ暴れていた。女が兵たちに触れると漆黒の炎が兵士達の体だけを焼き払い一瞬で肉体を炭へと変えていき。ヘカトンケイルは遠くの兵は矢を射り、近づく者は手に持って斧でなぎ払った。防御結界はきちんと効いている。だが、それも完全に無効できるわけではなく負傷者は徐々に増えていった。
「そこまでだ!!!」
 声が空から響き渡ると、巨漢が空から降ってくるとその勢いのまま百顔百腕の巨人を大斧で一刀両断した。
「おお、副団長殿!!」
 まわりから歓声が上がる。巨人の屍の上に悠然と構える男の名はガッチャ・バンバラ。団一の実力者である。
「化け物め退治してくれようぞ!!」
 両手でしっかりと握った斧を横薙ぎに振るう。だが巨人すら両断する一撃をアバドンは片手で受け止めるとそのまま斧を握りつぶした。
「ぐっ馬鹿な!!」
 アバドンはそのままの体勢で空いている片手をガッチャに向けてかざすと黒い炎が噴出しガッチャの体を包み、
「なんだ、ぐあぁぁぁぁぁがぁぁぁぁぁぁあ」
 炎がガッチャの体を蝕む、肉も、骨もゆっくりとしかし確実に黒い炎に蝕まれやがて砕けた斧と分厚い鉄の鎧とガッチャだった黒い塊だけが残り
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
 兵士達は自身の信じていた者の無残な姿を目の当たりにしみなわれ先にと逃げ出していきその様子を眺めるアバドンは夜の闇へと飛びたっていた。

「戻ったのね『アバドン』」
 ベネルはバルコニーでターニャを出迎えるとターニャは
「はい、金牛騎士団副団長ガッチャ・バンバラを討ち取ってまいりました。ですが・・・・・・せっかく頂いた『ヘカトンケイル』を失い手傷を負いました・・・どのような処罰でも・・・」
 ガッチャは死の寸前に『光の鎚』を放ち、ターニャに一矢報いていた。その報告をきくとベネルは嬉しそうな微笑み、
「罰?使い捨てのコマを失おうと罰する理由にはならないわ。なにより貴方が戻ってきてくれたことのほうが嬉しいわ。それに副将クラスを始末したのなら賞賛に値するわね。なにせ連中の中で副将となれば一番の実力者なんてのがざらだからね・・・これで連中の中で不安と欲望が膨らむわ。これは素晴らしい功績よ。そうだは、ご褒美をあげましょう。なにがいいかしら・・・」
 ベネルはしばらく思案するような仕草をすると、
「そうだ、これから私を呼ぶときは『さま』をつけなくていいわ。これは貴方を同士として認めた証拠。これからも我らが主ゼクロさまのために力を尽くしてね。ターニャ」
「はい、べ、ベネル・・・」
 戸惑いながらも、ターニャは嬉しそうにベネルの名を口にした。
「それじゃ手当てを済ませたらお茶でもしましょうか?」
 2人の姿は室内へと消えた。

 ★ ★ ★

「貴様らなにをやっていた!!」
 金牛騎士団団長、トラン・ブルは団員達を怒鳴り散らしていた。トランは恰幅はいいが決して鍛えられたとはいえない、実力で言っても団内でも最も弱いといってもいい。だが、その家柄のために団長の座についている。
 団員達の内心は
(なんだよ・・・自分は何もしないくせに)
(ああ、まったくだぜ)
 不平不満で満ち溢れていた。
「無能な部下が多くて大変そうですな。ブル卿」
「ポージュ卿か、他人の陣内まで出てくるとは暇ことで」
 やってきたのは銀十字騎士団団長コン・ポージュである。こちらは狐顔の長身で細身の男である。
「まーこのことはしっかりと陛下にもご報告が入ることだろうな。まったく陣内に敵の侵入を許すとはな・・・・・・」
「そういうポージュ卿こそ行方不明のチェルシー・フィリスの一件が有りましたな。」
 終始2人の互いの欠点の揚げ足とりで結局会議は終わった。
 『光のカーテン』でラムルテッド城が覆われ攻撃を中断したラルデリカ軍内では当初予定していた攻略期間を越えたことにより不安が高まり士気にも影響を受けていた。

 一方、ラムルテッド城内ではけが人の手当てにチェルシーは奔走していた。もっともラルデリカの『神の奇跡』と呼ばれる魔法での治療というのは皮肉以外の何ものではないが・・・治療のさなかエルフの青年が運ばれてきた。
「し、しっかりしてください。いま治療を・・・」
 治療をしようとするチェルシーの腕を掴むと
「ぐぅ・・・頼む・・・ミーが・・・仲間が・・・・・・つかまった・・・俺は何とか報告に・・・あぐぅ」
「えっミーさんが?大変!!すみません後よろしくお願いします。」
 チェルシーは慌てて治療を済ませると駆け出し、それを見ていたフェアリーの少女―ビィビィは慌てて、
「えっチェル?た、大変だよ」
 後を追いかけ廊下に飛び出すと歩いてきた人物にぶつかってしまった。
「ご、ごめんな・・・あっ大変なんです!!チェルがたすけにきいてミーを飛び出して捕まったて・・・」
 慌てた様子で説明を聞きながらその人物は内容を理解するやいなやあっというまにチェルシーが向かったであろう方向へと駆け出した。

「はぁはぁ・・・急がなきゃ」
 チェルシーは馬小屋にきていた。
「どこに向かう気?」
 背後から少女の声が響く、びっくりして振り返るとそこには小柄な少女――フリーダが立っていた。
「それは・・・」
「捕まったエルフを助けに行くなんて無茶を言う気じゃないでしょうね?はっきりいって死ににいくようなモノよ。第一貴方は反逆者の妹であり、あなた自身もお尋ね者よ?捕まったらどういう目にあうとおもってるの?おまけにかつての仲間と戦う覚悟はあるの?」
 矢継ぎ早の質問をうけチェルシーは答えることができなかった。
「でも・・・私は・・・ミーさんを友達を助けたいんです!!」
 その瞳には強い意志が感じられた。フリーダは一瞬その瞳が誰かに似ている気がしたがその考えを流し
「勝算のない戦うなんて無謀よ!!それにあなたに何か在ったらアルトが悲しむでしょ?」
「それでも何もしないでいるなんてできません。私だって戦えます。それが例えかつての仲間でも友達を見捨てることなんて出ません!!」
 その言葉には確かな覚悟があった。種族を超えてただ純粋に友を助けたいという思いがチェルシーを支配していた。そして、その意志と呼応するように地下から低い「ぶんぅぅぅぅぅぅぅ」という音が響き渡った。
「これは・・・」
その音にフリーダは不思議な感覚を受けていると老人がかけよってきた。
「フリーダ様!!地下のアレが機動を開始しました!!」
「なんですって?いままで沈黙を保っていたのに?なにかに呼応した・・・・・・?いえ、それよりも爺!!反撃を開始するとアルトたちに伝えて!!切り札の出番がきたってね!!チェルシーついて来なさい貴方の願いをかなえる力をあげるわ」
 フリーダは若干興奮しながらチェルシーの手を取り地下へとテレポートした。

 ★ ★ ★

「これは・・・いったい?」
 チェルシーは「ソレ」を見て唖然とした。ソレはいままでの常識では考えられないモノだったのである。
「使い方はすぐに理解できるわ。敵陣内へとソレで乗り込みおもいっきり暴れなさい。すぐに増援も向かわせるしね」
 チェルシーはソレへと足をむけた。

「うわぁぁぁぁぁ」
 ラルデリカ陣内では突如の襲撃に混乱を極めた。
 それが魔物のたぐいなら別にココまで混乱はしなであろう。
 もし、エルフ達の襲撃ならば逃げ回ることはないだろう。
 だがそれは魔物でもエルフでもなかった。
 鋼の巨人――そう表現するのがもっとも適切だろう。全長4メートルはあろうかという鉄の鎧が巨大な剣と盾を構え兵たちを蹂躙していった。
「ひ、ひるむな!!あれはゴーレムだ!!所詮は木偶人形ぞ!!」
 隊長クラスの人物が必死に兵たちを鼓舞し戦いを挑む。
 ゴーレムは作成者に忠実で簡単な命令を実行する魔法で動く人形だ。ゴーレムは単純に「目の前のモノを壊せ」「この荷物を向こうまで運べ」などの命令は実行可能だが、細かい命令は理解できないために複雑な要素がかかわる戦闘には不向きなものとされている。
 だか鋼の巨人は違った。とんでくる魔法を盾で受け止め剣を振るい魔術師を優先的に攻撃し、矢や通常の剣ではダメージをうけないと判断するとこんどは結界の要である杭を破壊し始める。これらの動きは決して魔術師が傍にいなければゴーレムでは不可能な動きでるが魔術師の姿は何処にも見えずにいた。
 やがてその鋼の巨人がもう一体あらわれ同じよう蹂躙していく、遠距離から攻撃し様とするものもいたが今度は城壁に巨人が座しており手に持った巨大な筒を構えるとそこから放たれた閃光が兵たちを焼き払った。
 戦況は一変した。十体の鉄の巨人が同時に進行を開始し結界の要を破壊。
「これはなんたることか・・・アーマイト卿これは査問ものですぞ!!」
 このような状況でも将軍達は己を利益をもとめている。
「へ、兵たちは我らが逃げるためにここで奴らを食い止めよ!!我らがいなくなればラルデリカの大きな損失ぞ!!」
 だが、その命令を聞く兵は居らず逃げ出すことで精一杯だった。
 そんななかラグラ・アーマイトは膝をつき絶望にくれブツブツと呟きその心は現実を受け入れることができずにいた。そして・・・ラグラの近くの地面を閃光が貫きその余波でラグラの上半身は消し飛んび下半身だけがその場に残った。
 この鋼の巨人の僅か30分程度の攻防でラルデリカ軍は当初のおよそ6割に相当するおよそ13000人の死者を出し、その犠牲者の中には、金牛騎士団団長トラン・ブル、銀十字騎士団コン・ボージュ、神命騎士団団長オスト・ワルトがふくまれていた。
 そして、捕虜は200名にのぼり、逃走した者も無傷な者は1人もいなかった。
 鋼の巨人は跪くと胸部が下にスライドするとそこには人1人がはいるには充分な球形状の空洞がありその中央の椅子にはチェルシーが座っていた。
 鋼の巨人―それは古代の超兵器「ティターン」その戦力はいうまでもない。ゴーレムでは臨機応変な対応は不可能、ならば内部に人が乗り込むことでその臨機応変に対応し可能な兵器である。
 だが、力は一歩間違えればただの破壊しか生まない。そして破壊は恐怖を生みさらなる悲劇を生み出す。それを考え10年前、ラムルテッド国王ガーネストはその力を封印したまま戦いに挑みそして敗北した。
 まわりの様子を確認しているチェルシーの元に、ビィビィが
「チェルシー。まだミーが見つからないよ。捕まってたエルフの人たちはその・・・・・・いまはダークエルフの人たちがお城に運んでるんだけど・・・」
不安そうに報告に来ると、エルフの青年が
「馬車だ!!馬車が来るぞ!!ラルデリカ軍の馬車だ!!」
 大きな声でまわりに知らせた。
『チェルシー、警戒を』
 空洞内にアルトの顔が浮かびそう指示を出してきたが、
『いや、あれはどうやら味方のようだぜ』
 クルツからの報告が届いた。

 ★ ★ ★

 到着したのは人獣族の蛇族、羊族、虎族の面々だった。途中で輸送車を襲撃しておりそのまま合流する予定であった。そして、チェルシーが安否を気にしていた、ミーは無事その馬車から救出され現在はダークエルフ達のもと治療を受けている。
「報告は受け取った・・・・・・」
 蛇族の長であるゼロスはそっけなくフリーダに答えた。
「悪いわねせっかく来てもらったのに」
「構わん。」
「とりあえずゆっくりしていって」
「いや、ドワーフやエルフ達と見張りを代わろう。実際、疲労もあるだろうしな」
「そうありがとう。助かるわ」
 こうして代表者の面談はつつがなく終えた。その後コンコンとノックする音が響くと老人が部屋へとやってきた。
「フリーダ様。ご報告が」
「なに爺」
「こちらのデータをご覧ください」
 そういうと老人はフリーダに数枚のレポート用紙を手渡すとフリーダはすばやく目を通した。
「これは間違いないの?」
「はっ間違いないかと・・・どのように・・・」
「そうね。とりあず後日、私のほうからアルトには伝えるわ。下がっていいわよ」
「かしこまりました。」
 老人が部屋を後にすると、
「どう報告すべきかしらね」
 そういいつつレポート用紙に目をむけた。

 ラムルテッド治療施設――

「ずいぶん面白い薬を使ってくれてるわね」
 ベネルは少女たちが喘ぎ声を上げる部屋の中、薬の成分表をみながら爪を噛んでいた。
「そうですね。拘束用のベルトが足りませんよ」
「おマンコ!!おマンコ!!弄らセテ!!イじラセて!!」
「あははははじゅぼじゅぼして」
 少女達の発狂した声をあげる。
「とりあえず鎮静剤を」
「毒抜きの魔法はどうします?」
「難しいわね。これはもう薬物というよりも精神が病んでるわ。とりあえず、急いで治療をすると精神に負荷がかかりすぎるから、ゆっくりと魔法を使わずに精神を安定させましょ」
 ベネルは人体実験を行うことも在るがそれは復讐の対象になる貴族に連なる者であり一般の人間に手を出そうとは考えていない。これはベネルだけでなくゼクロ軍全体にそういう風潮がある。かれらにとって虐げられている民衆は同士と同じなのである。


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