ゼクロ軍VS従属国連合軍『PEACE』



 本陣を落とされた後の従属国連合軍の動きは速かった。けが人を回収すると一気に転身しそのまま撤退した。
 ゼクロ軍はソレを追撃することなく、むしろ回収できなかったけが人達を回収し、そして治療を施すなどと手厚い看護を命じられていた。また、特筆すべきは非戦闘員が消滅したと思われる本陣から無傷で救出されたということである。
 
 10日後――

 アイゼル達は現在連合査問委員会にかけられていた。罪状は敵前逃亡――

「では、マーカス将軍。貴公は本陣を落とされるとすぐに撤退したと?」
 30代位の女性の審問官は各国の国王が見守る中、査問会は始まった。
「はい、本陣と共に食料の60%が損失、くわえ「指揮官」殿が死亡したため軍の統率が不完全になり敗退し無用な死者を出す前に撤退いたしました。」
 アイゼルは淡々と解答した。
「無用な死者と?これは神の為の聖なる戦い。それを無用な死者とは何事ですか?!!」
 審問官は怒気をこめて声を荒げたがアイゼルは一切動じることなく沈黙のまま睨みつけた。その鋭い歴戦の勇士であるその眼光に審問官が耐えられるわけも無く
「な、なんですその目は!!わ、私は神聖王国ラルデリカより派遣された審問官ですよ!!」
 だが・・・
「それが、どうした。戦場で命をかけているの俺たち兵士だ。そして、俺たち兵士が命をかけるのはラルデリカのためではない!!大切な人を守るためだ!!あのまま戦えばムダに血を流した!!だから撤退した。おまえらのよこした無能な指揮官は何をしていたとおもう?敵から遠く離れたい場所で酒を飲み肉を喰らいブタのような肥えた体でただ吼えていただけではないか!!」
 怯むことなくアイゼルは吼えた。
「き、貴様。これは立派な反逆罪ですよ!!」
 それにたいしてロスが口を開き
「ならば、私も裁くがいい。私も同感だ。私の剣は民を守るためにある。」
「ええ、そうですね。私の力も民達の暮らしを守るためにあるのです」
 それに追従するようにアスランも同意した。
「くっなら、貴方達三人を・・・」
 審問官が採決を下そうとしたとき扉が開き
「お待ちをください審問官殿。ならば我が、グーグニ軍もお裁きください。我らの心はアイゼル様と同じでございます。」
「我らブリュッス軍もロス様の御心と共に有りますゆえに捌かれるのなら我らも同罪です」
「アスラン様が命を断たれるのならば共としてニベル軍もともに旅立ちましょう」
 三軍の兵たちが乗り込み、自身の命を差し出さんとはせ参じた。
「すごい人望だ。いやはや流石は名将というところか・・・」
 突如、新たな声が響いた。
「誰ですか!!」
 審問官は慌てて周りを見回した。
「誰かと聞かれてもな・・・俺の名はゼクロ。まー神に仇名す者というところかな。」
 ゼクロは天窓近くの梁に腰掛けておりそばには黒衣の人物を携えていた。
「さて、各国の国王がた。我らの要求はそう多くはない。まずは一つ、オーガ、エルフ、ドワーフ、リザードマン、人獣の国家建設の容認。二つそれらの国との対等の平和的国交、そして三つ他種族に対しての差別の廃止。この3つの条件を受け入れるのなら我らは攻め入ることはしないことを誓おう」
 悠然としながらも王者の風格を漂わせていた。
「し、しかしアルグレには進攻したではないか!!」
 1人の臣下が当然の疑問を投げかけた。
「ああ、それか・・・あそこは元々俺の国だったのさ12年前までな。それが奴が進行して奪い取り建国を宣言をしやがった。まったくなにが魔王に支配された土地だ。平和だった俺の国をむちゃくちゃにしてよくも言えたものだ」
 ざわめきが会場内を支配する。
「では、君は・・・」
「かつて『剣王』と呼ばれた剣士の息子。まーどうする?俺はどっちでもいいぜ?」
 それに割り込むように審問官が慌てふためきながら
「そ、そのようなこと認めるわけには『神よ。かのものに神の裁きを』」
 信仰魔法の光がゼクロに襲うが・・・ゼクロが何もすることなくその光がはじける。
「どうやら、神は俺を裁く意志はないようだな。裁きを受けるのはお前のほうだ。」
 ゼクロが梁から飛び降り審問官の前に降り立つと腰に帯刀していた剣を抜き一気に首を刎ね
「さー、国王達返答はいかに?」
 返り血を浴びながら振り向き問い掛けた・・・・・・

 ★ ★ ★

 ラルデリカ城最高司令官執務室――

「それでどうなった?」
 フランシス・ヴィルジールは部下の報告に手元の資料に目を落としたまま耳を傾けた。
「はっ・・・そ、それが・・・じゅ・・従属国は離反いたしました。」
 震える声で報告し次の指示を跪いて待つとしばらくして
「そうか、判ったでは下がっていいぞ」
 その言葉に安堵し立ち上がると
「はっ」
 敬礼をすると退室をした。
「ふっ・・・まさかゼクロが首謀者だったとはな・・・因果なものだ。」
 フランシスはそういいながら袖を捲り上げるとうっすらと腕には龍の痣が浮かび上がった。
「離反が起きたのならこれから忙しくなりそうじゃな」
 老人は音も無くあらわれるがフランシスは慌てることなく
「ドクターか、そうだな。だが、まだネフィリムの準備が完全ではないであろ?」
「ほっほっほっ。だから捨て駒として一角獣騎士団を残してあるのであろう?」
「彼女達の能力は使えるが・・・突出した力は扱いに困るからな・・・とりあえず準備が終わるまでの時間稼ぎとなってもらおうか・・・それまではゼクロが上手く踊ってくれるだろう」
 冷徹ながらも冷静に現状を思案しドクターにそう答えた。
「ならば敵はどう手を打ってくるとおもうかの?」
「向こうもまだ準備ができていないであろうからな・・・こちらを牽制するために首都に散発な攻撃をして注目を集めるだろう。だが、本命はあくまで地方。徐々に外堀を埋めてというところだろう・・・だからこのさいネフィリムを輸送部隊まわして主都防衛を一角獣騎士団にまかせようと考えている・・・」
「なるほどのそれは良い案じゃな。補給を充実させればこちらの運行もしやすいからの。ならば運送用ネフィリムをさっそく手配するとしようかの」
 ドクターはそういい残し部屋を後にする。
「ゼクロ。最後に勝つのは俺だ。昔のようにな・・・」

 窓を見つめそう呟き再び書類の始末を始めた・・・・・・


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