イーネスト村の戦い・後編



 人獣たちが攻撃を開始し2週間が経過した。人獣たちの被害もそれなりに出ていたがラルデリカ軍の被害はその10倍以上、さらに士気は低下し疲労も相当蓄積していたそんなある日の人獣たちの本陣のフェイリンの元に報せが届いた。
「た、大変です!!シ、シンシア様が・・・連中に捕まりました。」
 傷ついた、猿族の男が左右から支えられながら報告に来た。
「それで、フェイロン様が慌てて飛び出されてしまい・・・」
 今度は、犬族の男が続けて報告した。
「大変だよ〜さっそくねえさん達を呼んで・・・ちょっとタイミングが早いけどもう四の五の言ってられないな〜」
 フェイリンは床にここ数日の間に調べた地図を広げあね達の到着をまった。
 その頃一方
 囚われのみになったシンシアは本陣へと幽閉されていた。
 少女は全ての身包みを剥がされ鎖で手を縛られそのまま天井から吊るされており全身には鞭で叩かれた赤い筋が浮き立ち中には鞭によって裂けた傷もあった。
「くっくっくしぶといのぅ」
「こ、これくらい・・・どうってことない・・・・・・」
 息も絶え絶えになりながらもシンシアは屈することなく
「まったく、だが、これはどうかな?」
 むせ返るほど濃厚な草の匂いただようドロリとした液体をシンシアの体にかけた。
「ひゃうっ・・・な・・にを・・・・・・」
「それはメルギスと呼ばれる植物の樹液から作った媚薬さ。悶え苦しんでくれたまえ。卑しい獣人」
 シンシアの全身が火照り大粒の汗を滝のように流し呼吸は乱れ秘裂からは止めない蜜が溢れ始めた。それを見つめる豚どもは卑しい笑みを浮かべ少女の口から哀願の声を待ち望んでいた。彼らにとって人獣は家畜以下の存在でありその苦しむ様を堪能するためのペットとしてみていた。
「シンシア!!」
 ドアを突き破り血まみれの少年が駆け込んできた。
「なっ・・・獣人のガキか・・・ふん犬猿の仲とはいうがまさか猿を犬が助けに来るとはな。おっと動くなよ。動けばこのメス猿の命は無いぞ。」
「くっ・・・」
 フェイロンは跪いた。しばらくすると騒ぎを聞きつけた衛兵が駆け寄ってきた。
「お前達抑えておけ、おい犬。これから面白いものをみせてやる」
 衛兵達に押さえつけられ歯軋りをしながら豚を睨みつけた。豚はシンシアの足を開き陰部を見せつけた。
「そこで犯されるさまを見てるがいい」
「ぐっシンシアァァァァァァァ!!」
 絶叫を叫ぶがそれをかき消すように外から轟音が鳴り響いき、兵士の1人が慌てて駆け込んできた。
「何事だ!!」
「た、大変です。牛と馬が暴れてこの陣内になだれ込んできました!!」
「何をやっている早く沈めろ!!」
 ほんの僅かだが将軍達の兵たちの意識がそがれた瞬間、フェイロンの動きは速かった。取り押さえていた兵たちを蹴り飛ばした。むろん生死を確認している暇はないそのまま勢いを殺さず鎖を爪で切り裂くとシンシアを後ろに庇うように構えた。だが、そのフェイロンにかまうことなく豚はあたふたとするばかりでろくな対応も取れずにいた。
 陣幕の外では、人獣たちの猛攻が繰り広げられていた。突然に馬と牛の暴走も無論、偶然ではなく人獣の能力の一つである動物との会話の力を使い馬と牛に暴れてもらったのである。そして混乱した兵たちはろくに防具どころか武器すら持っていない、さらに加え陣に火が放たれていたため混乱に拍車をかけていた。あとはそれを切り捨てるだけの単純な作業だった。兵たちは蜘蛛の子を散らすようにほうほうのていで逃げ出していった。
 そして、再び陣幕の中――
「牙裂翔破斬ぅぅぅん」
 アンリは斧を振り下ろすと地面が隆起し牙のような岩が無数に出現し兵たちを吹き飛ばした。牛族のビーストロア『地操』大地を自在に操る術である。もっとも本来は農耕に用いるのが精一杯のものだがアンリの能力はずば抜けて強いのである。
「それじゃ〜いくよ〜」
 フェイリンは空間を跳躍すると同時に無数のナイフを投げつけるその空間の移動を巧に利用した死角のないナイフ投げによって兵たちはなす術無く次々に倒されていった。
「多阿鼻遊嵐巣」
 その横でメイの疾風怒濤の連続突きにより瞬く間に次々に兵をなぎ倒されていた。
「こんな・・・・・・馬鹿な」
 将軍達はその悪夢のような光景に腰を抜かし座り込みガタガタと震えた。
「無事か、フェイロン。シンシア」
 蔵の中にはメイがいち早く駆け込むと将軍達を気にすることなくフェイロンたちにかけより安否を確認した。
「はぁはぁ・・・なんとか・・・大丈夫です・・・・・・よ。俺は・・・」
「大丈夫じゃないでしょぉ?かなり無茶したのねぇ。とりあえず致命傷は無いけどぉそれども放置してると危ないわ。それにシンシアちゃんの方も大変ねぇ・・・これはメルギスの樹液かしらぁ?とりあえず傷の治療するわねぇ」
「俺よりも・・・・・・フェイリンを先に・・・」
「だまってなさいぃ〜」
 アンリの手の平が光を発すると2人に手をかざすと見る見る間に傷がふさがっていった。
「ば、馬鹿な・・・なぜ獣人が・・・神の奇跡を・・・在りえん・・・・・・」
「私たちは人獣だ。それと勘違いするな人間。あれは己の気を高め他者の傷を癒す術だ。断じて神の奇跡などではない」
 侮蔑するように言い放つと背を向けしばらくすると
「外は終わったよ〜」
 報告にフェリンがやってくると、腰を抜かした男たちの横を無視して通り過ぎた。もはやそこにいる男たちには何ら興味が無い。人獣たちの社会は完全な実力社会、実力の無いものにいささかの価値も無い。
「さてと、一様あのお方からの命令では始末しろとのことだったな・・・」
「あらあらぁ、ではさっさと始末をしましょうねぇ」
 アンリは微笑を浮かべながら斧を構えた。だがそれを制止するようにフェイロンが前にでた。
「アンリさん・・・ここは俺に」
 傷の癒えた少年は横たわる少女を目を一瞬向けると男たちを再び睨んだ。男たちは後退りをするとそこには血まみれになった若者たちが立っていた。若者達の身につけているものは貧相な防具であることから農民から徴兵されたものだということがわかる。
「お、お前達、や、やつらを早く、早くぅぅぅしま、始末しろ」
 背後に立っていた若者達はその命令を聞くことなく見下ろしていた。
「なにを・・・して、しておる、はやくせんか!!」
「どうやら、決意はきまったみたいだねぇ」
「ど、どういう・・・ぎゃぁぁぁぁぁ」
 言い切る前に若者達は無言のまま武器を振り下ろし生きたえた男たちを肉塊へと変えた。
「あららら〜答えを知る前に死んじゃったぁ」
 フェイリンは残酷な笑みを浮かべその表情は普段の天真爛漫なものと変わらないのがさらに恐ろしさをました。
「おらたちは・・・もういやだ!!貴族を倒すぞ!!!」
 青年達は雄たけびを上げた。

 ★ ★ ★

 戦闘は終わり囚われの人々は解放されていた。これも作戦のうちに組み込まれていたことである。作戦はまずは囮の部隊が兵士達の数を減らしながら証拠を残す、これにより人数が減ったまま探索を繰り返すことになる。そして今度は一切の証拠を残さないように兵を減らすこれにより不安が広がり士気もさがるうえに単調な作業がさらに士気を下げるそれに加えて疲労も蓄積されれば兵の能力は低下する。そこを突いて牛や馬の暴走をさせ奇襲をかけ、混乱が起きた隙に人質を解放し、将軍達の警護をするためにずっと陣を守っていた兵士を倒す。そう、初日では兵の配置が詳しくできなかったが数日のうちに兵の配置を調べ終え将軍たちの居所を割りだし機会をうかがっていたのである。
 それはさておき、捕虜を閉じ込め終わると王国軍がもってきた材料を使いフェイリンの指示で堅牢な砦へと作り変える作業が始められていた。
 そんななかある一室。 
「フェイロン・・・」
「シンシア・・・」
 フェイロンがシンシアにのしかかる形でベッドに横たわっていた。二人は見目会いどちらからともなく唇を重ね合わせ舌を絡め合い互いを求め合った。メルギスの体液をかけられたシンシアの性欲に歯止めが利かずさらに感覚の鋭い犬族のフェイロンも影響をうけ本能のままに互いを求め合った。
 2人はたどたどしい手つきでお互いの陰部を丁寧に愛撫を始めた。
「挿入(い)れるぞ・・・」
「うん・・・」
 ゆっくりといきり立つ陰茎を秘裂へと挿入するとシンシアをぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫か?」
「大丈夫だから・・・その・・・」
「ああ・・・動くぞ」
「フェイロン!!フェイロン!!フェイロン!!」
 愛すべき人の名を呼びながら子供のように抱きつきフェイロンの全てを受け入れた。フェイロンはシンシアの体をいたわりながらゆっくりと腰を動かし始めた。互いに互いを求め合い続け夜はふけた。

 そんな行為のさなかすぐ外では・・・
「上手くいったみたいねぇ〜」
「アンリねえ〜わざとメルギスの効か高めておいたでしょ?」
 アンリは治癒のさい新陳代謝をわざと高めておくことで媚薬成分の効きを精神に影響が残らない程度に高めておいたのである。
「てへっ。でも、いいじゃないぃ〜フェイロン君がんばったからこれくらいわねぇ?」
「まあ、そうだけどねぇ」
 そんな2人のところに顔を真っ赤にしたメイがやってきた。
「二人とも聞き耳とは趣味が悪いです。」
「もうぅ〜メイちゃんにいわれたくないわよねぇ〜」
「うっ・・・」
「それでメイねえ。なに?」
「あっああ、クロエが来ている」
 三人の顔つきが真剣なものにと変わった。クロエは闇に溶け込んでいたかのように姿を現すと『ご苦労様。このままこの地に駐屯し時が来るのをまっていてください。』そうかかれたフリップをだした。
「駐屯なの?あっそれよりも各地の様子を教えてよ」
 フェイリンはそんな質問にクロエが頷くとフリップの文字が代わり
「えっと・・・羊族、鼠族、蛇族のほうも順調と・・・でも、やっぱり被害が出てるわ・・・犠牲がないのに越したことは無いけどそれは無理ダヨねぇ〜。でもフリーダの方は大丈夫なの?えっ『フリーダのほうに王国軍と傭兵団約23000・・・』てっそれやばいんじゃない?」
『問題は無いそうです。』
「陛下のお言葉ならばそれに従うまでだ。あのお方のためならば・・・てっ姉さんにフェイリンなんだその顔は?」
「べつに〜」
「そうよぉ。ねぇ〜」
 顔を赤くしたメイをにやにやと見つめた。
「とりあえず任務は了解。私たちはうまく立ち回っておくわ。たぶん王都防衛には近衛騎士団と貴族の私兵とかが残ってるだけだと思うから・・・たぶん12000くらいが駐屯かな?それに逃げていった兵も加わるだろうな。でも近衛軍も私兵団も遠征とかには指揮系統の問題で動かないから想定する敵は傭兵か冒険者・・・たぶん私達の首に賞金でもかけて自主的に私達の討伐に向かうように仕向けるってとこかな・・・・・・もっともそれなりに対応をとれるだろうから何とかなるわ」
 現在の状況から考えられる次の手段を計算に入れフェイリンは不敵な笑みを浮かべた。それを確認するとクロエは再び闇に溶け込んだ。


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