第十話【 返還 】


 人生には選択を強いられるときがある。
 ときには幾つもの選択肢があり、二つしかないときも・・・・いや、最悪の場合、たった一つしかないときも・・・・
 その選択如何で、人の人生は大きく変わるものもある。
 迂闊には選べない。
 だが、時間には限られている。
 だから・・・・俺は・・・・

「課長・・・・」
 俺は自宅への帰路の運転中、助手席に座る美少女に視線を向けた。
 会社の帰宅を共にするようになって久しく、だが、今でも他の社員たちの目を警戒して、帰路の途中で落ち合う形を取り合っていた。
「私の身体・・・・」
 俺は赤信号ともあって、彼女の質問に眼を閉じた。
 とうとう、この日がきたか・・・・
 思えば夏期休暇が終わってからも、良く続いたほうではあろう。
 だが、この日を覚悟していたとはいえ、簡単に割り切れるほどに、覚悟を決められていたわけではない。正直、運転するハンドルを掴んでいた手が震えていたほどだ。
 俺は信号を確認して、再びアクセルを踏み込む。
「良くなって・・・・いますか?」
「うん・・・・」
 俺は正直に頷いた。
 彼女に対して、もう嘘偽りを口にしたくはなかった。
「安心していいよ。そうだな・・・・俺が今までに抱いてきた女性の中でも抜群だよ。琴乃くんの身体は・・・・」
「なら・・・・」
「・・・・」
「今度、彼と・・・・彼に抱かれても・・・・いいですか?」
「そうだな・・・・」
 俺は覚悟しながらも、すぐに潔い返答を口にできなかった。
 何と女々しい男だろう、と我ながら情けなくもなる。
「田中とSEXしたら・・・・俺はお役御免かな・・・・」
「・・・・そ、それは・・・・」
「・・・・」
 彼女の言い辛そうな口調が、俺との関係の終焉を物語っている。
 正直、手放したくはなかった。これほどの美少女を・・・・そして、これほどの名器を。何よりも琴乃初音という存在、そのものを・・・・
 だったら許可を与えなければいい!
 俺の脳裏に悪意の声が響く。
 そう、再び天野に催眠術を施して貰い、永遠に許可を与えなければ、彼女は田中とSEXをすることが叶わず、人格崩壊に陥るそれまで、俺の傍から離れることはできなくなる。俺の求めには、その身体で応じなければならない。
 例え琴乃の人格が崩壊しようと、俺は一生、彼女の身体を愛し続けることができるだろう。
 だが・・・・
「いいんじゃないか、それで・・・・」
 俺は脳裏に囁いた悪意を振り切り、彼女に同意の意思と、田中とのSEXを容認した。
 彼女の抱いている苦悩は、最も身近にいた俺が良く知っている。かなり思い詰めてもいたことだろう。
 確かに俺は琴乃が好きだ。二回りも違う年下の相手にする言葉じゃないかも知れないが・・・・好きだった。彼女の身体の具合も最高ではあったが、何よりも彼女の存在のそのものに・・・・
 その琴乃の眩しい笑顔を見れるほうが嬉しかった。
 そして今の俺は・・・・その彼女の笑顔を奪うだけの存在でしかない。
「まぁ、できたら・・・・琴乃くんとの関係を維持しておきたい、ってのが、正直な本音」
「・・・・」
「だから、そんな顔はするな」
 俺は苦笑する。
 既に催眠術の有効期間が過ぎている今、琴乃がそんな要求を受け入れるはずがない、ということは解かりきっていたことだ。
「ご、ごめんなさい・・・・」
「琴乃くんが謝ることじゃないさ」
 既に俺の願いは叶えられた。
 琴乃は俺に処女を捧げ、そして、恐らくは妊娠もしている。前回の生理が七月十日であり、だが、今月の彼女の生理が訪れていないのだから、もはや彼女の妊娠を疑う余地はない。
 そして・・・・彼女は自分の意思に関わらず、俺との子を出産する。
 それに琴乃の膣内は、既に俺の精液だけによって染められており、これから彼女が田中だけにでなく、他の誰の男に抱かれるようなことになっても、俺に染められた上での出来事となろう。
 そもそも、俺が琴乃くんを抱けた・・・・それだけで俺は、彼女に。そしてその機会を作ってくれた天野に、感謝するべきであろう。


 翌日。
《コンコン》
「か、課長・・・・おはよう・・・・ございます」
 出社してきた琴乃が課長室に入室する。今の彼女の立場は課長付き補佐であり、出勤時は課長室でタイムカードを打刻することになっている。
 それほど月日が過ぎたわけでもないはずなのに、彼女の姿を眺めるだけでも嬉しかったころが、今では懐かしくも思えてならない。
 そんな琴乃と昨日まで、外回りの部下たちが戻ってくる三時ごろまで、SEXだけに勤しんでいたのだ。
 今までいい思いをしてきた分、今となってはこの人事が辛い。
「ああ、おはよう・・・・」
 そんな思いを微塵も見せず、俺は彼女と今日二度目の挨拶を遂げた。
「あ、これ・・・・」
「・・・・」
 琴乃が申し訳なさそうにセキュリティカードを差し出す。
 確かにそれはもう、彼女には必要のないものであろう。
「今まで・・・・その、お世話になりました・・・・」
「そんな大したことはできなかったけどな」
「いえ・・・・そんなことは・・・・」
 思えばこの約一カ月、俺は彼女にほとんど何もしてやれなかった。結局はそのほとんどの時間をSEXだけに費やさせてしまっていたのだ。
 俺は内心でその自身の愚かさを詫びるような思いであった。
「今日・・・・彼と・・・・約束しましたから・・・・その・・・・」
「うん。そか・・・・」
 特に心配していなかった。
 確かに処女こそ俺が奪ってしまっていたが、彼女の膣内はそれこそ快感の詰まった宝庫である。それを補って余りあるほどの快楽が、田中には感受されることであろう。
 また処女喪失の件を誤魔化すことができれば、田中は二度と彼女の心と身体を手放すようなことはしないだろう。
 差し出されたカードを受け取って、財布の中にしまう。

 この瞬間に、俺たちの関係は完全に終結したのであろう。

「まぁ、田中も幸せ者だな・・・・」
「ひーくんがですか?」
「うん。こんな可愛くて、抜群の彼女だからなぁ・・・・」
「そ、そんな・・・・ことは・・・・」
 俺は微笑して、手にしていた書類を片付けて課長室を出ようとする。
「あ、課長の理想のお相手は・・・・課長の子供を出産、してくれる人でした・・・・よね?」
「うん。正解」
 俺は振り返って頷いた。
 まぁ、だからこそそれは琴乃のことであるのだが、催眠術で出産を余儀なくされている以上、迂闊にそれを口にするわけにはいかない。
「そ、その・・・・」
「ん?」
「課長には・・・・お世話になりました、から・・・・もしかしたら、その・・・・」
「いつか、俺の子も産んでくれる、かい?」
「えっ、あ・・・・その・・・・」
「ははは、冗談だよ・・・・」
 俺は軽快に課長室を出る。
 催眠術で彼女は俺の子供を出産することになっているが、素面で俺の子供を出産しようとは思わないだろう。それぐらいのことは解かっている。そしてだからこそ、今の俺は二重に辛いのかもしれない。
 琴乃を孕ましてしまった現実。
 もう彼女を抱くことができない、その現実に。

 それだけに・・・・

「琴乃ちゃんと・・・・別れたのですか?」
 《 グサッ! 》
 その何気なくさりげない柴田くんの台詞が、俺の胸に突き刺さる。
「えっ、あ・・・・なんで?」
「そりゃあ、琴乃ちゃんとの雰囲気と、今の課長の顔を見れば、何となく解かりますよ」
 片手に頭を乗せた。
 やはり柴田くんのような敏感な女性には解かってしまうものらしい。
 そもそもこの手の問題は、彼女のほうが遥かに上手であった。
「ま、正確に言えば・・・・元の鞘に戻った、というのが正解だろうね」
「そうですか・・・・すみません。課長に良かれ、と思った人事の異動を申し出たつもりでしたが・・・・」
「いや・・・・」
 琴乃くんが課長付き補佐となったのは、柴田くんの働きかけによるものである。今となっては、それは無意味というより、不都合と呼べなくもない。だが、それまでは俺も存分にその機会を活用していたのである。
 また私用を抜きにしても、琴乃が業務のサポートをしてくれることで、俺の仕事も助かっている側面もある。
 今更、不都合になったからといって、柴田くんが俺に謝罪する必要はないのだ。
「その、お詫びというわけではないですけど・・・・」
「だから、詫びて貰う必要はない、って・・・・」
「今晩、私が食事をおごりますわ」
「・・・・本当に詫びて貰う必要はないから・・・・でも、そうだね。今夜からは予定も全くないわけだし」
 そう、今日からは昨日までと違う。
 広い自宅に戻っても、もうそこには琴乃はいないのである。
 約一ヶ月・・・・彼女の私物も増えてきていたこともあって、暫くは孤独感を刺激されるかもしれないだろう。
「今までの感謝、あ、そうそう。この前の約束どおり、俺のおごりということで、誘わせて貰おうかな」


 俺は退社して昨日までとは違う、それでも若い女性を助手席に座らせていた。俺と琴乃との終焉に気をかけて、そこに同情もあったのかもしれないが、それでも俺としては十分に彼女の好意が嬉しかった。
 そして食事を済ませたあと、俺たちは案の定・・・・

「柴田くん、その今回は・・・・一つ、お願いがあるのだが・・・・」
 俺は以前より気になっていた事実を、思い切って告白する。
「はい、課長?」
「その今回は・・・・生で挿入させて貰いたい・・・・」
 途端に柴田くんの顔色は変わる。
 まぁ、当然の反応ではあろう。
「ああ、勿論、膣外出しはする。膣内出しなんてヘマはしないさ」
「まぁその・・・・課長が、そこまで言うのでしたら・・・・」
 渋々ではあるが、柴田くんは生での挿入を容認した。
 俺の疑念は以前からではあるが、それは琴乃の膣内と他人の膣内、本当に違うのかを再認識してみたい思いがあったからである。勿論、それが解かったから、といって、現実がどう変わるというわけでもなかったが。
 まぁ、もし琴乃の膣内だけが違う・・・・俺が感じたように、名器だったとしたら、あれだけの名器の持ち主の処女を奪ったのだ、と自己満足したいだけ・・・・なんだろうなぁ。
 そんな実験まがいなことに付き合わされる柴田くんには申し訳ないが、一度抱いた疑念は、やはり早いうちに解消しておきたい。

 区内のラブホテルに入り、部屋をとると俺は柴田くんを伴って入室をする。琴乃の身体よりもスタイルの良い身体を抱き締めながら、また触れ慣れた舌よりも滑らかな、柴田くんの舌と絡み合わせていく。
「柴田くんと関係するのは、今回で何回目だったかな?」
「私も数えていたわけではないので、正確な数字はさすがに・・・・」
 彼女の身体をゆっくりとベッドに押し倒し、着実にお互いの衣服を剥いでいく。恐らくは五、六回程度・・・・回数をこなしているだけに、俺も柴田くんも手馴れたものである。
「それじゃ、今回は・・・・いいね?」
「はい・・・・そ、その代わり・・・・」
「うん。約束はちゃんと守る・・・・よ」
 俺は初めて、柴田くんの膣内を生で直に蹂躙した。
「あっ・・・・くぅ・・・・んんっ・・・・」
 懐かしい喘ぎ声だった。聴覚が琴乃の声に慣れ親しんでしまっていただけに、その違和感だけは拭いようもない。同時に、彼女の膣内の容であった記憶が蘇ってくる。
 しかも、今回は生挿入・・・・直に。
 膣内で溢れる熱い体液、しっとりと湿った粘膜が圧力を持って締め付けてくる。俺に張り付いてくるこの密着感と心地良い感触。二十歳という若さだけでなく、彼女の身体が名器だという証明ではあろう。
「・・・・」
 だが、今の俺にはそんな柴田くんほどの名器でさえ、物足りなく感じてしまっていた。決して女性の身体如何で、その価値観が決まるとは思わないが、琴乃とのSEXに慣れ親しんでしまったが故に、この落差だけはどうしようもない。
 やはり琴乃の身体だけが格別だったのだ。
 一度でも挿入すれば・・・・もはや抑制することができない彼女の身体と比較すれば・・・・だが、それでも柴田くんの身体が他の女性より劣っているというわけでもない。
 実際に素晴らしい身体の持ち主である。
 俺は腰を動かし始めると、次第に柴田くんの喘ぎが荒くなっていく。
 と、こんなに・・・・乱れるような女だったか?
「その前に・・・・やはりゴムをしておくか・・・・」
「え、いやぁ・・・・そ、そのまま・・・・」
 柴田くんは結合している下半身に脚を絡めて、俺の背中に腕を回して強張った。
「えっ?」
 ゴムを付けるには、一度、彼女の膣内から抜き出さなければならない。もしくは膣外出しするには、やはり射精する事前に抜き取らなければ話にならない。
 し、しかし、このままでは・・・・
 こんな密着した体勢からでは、そのどちらも行うことができない。
「あっ・・・・そう・・・・もう・・・・いい・・・・」
「し、柴田くん・・・・そ、そんなに締め、付けられると・・・・」
 俺の切羽詰った声から察したのではあろう。
 彼女は頷く。
「こ、このまま・・・・膣内で・・・・いい・・・・です・・・・ですから、・・・・あっ・・・・いい・・・・」
 俺は呆然としつつ、柴田くんの膣内を抉り続けていた。
 俺自身が気付いていなかったのだが、この約一ヶ月の間、琴乃とのSEXにおいて開発されていったのは、何も彼女の性感、膣内だけではない。俺の性交による技巧(と、いっても大きく変わったのではなく、僅かな差異のものであったが)も向上していたのである。
「な、膣内・・・・?」
「はぁ・・・・き、危険日・・・・近い、です・・・・あっ・・・・けど・・・・」
 柴田くんは激しく乱れながら、膣内出しをも容認した。
 しかも危険日が近いというのにも関わらず・・・・
 き、危険日・・・・排卵・・・・ら、卵子!
 俺の怒張は更に硬度が増し、腰使いも激しいものになった。
 当然ではあろう。今、彼女の気が変わることがなければ、彼女の膣内には卵子が排卵されようとしており、それは膣内出しされることによって、俺の遺伝子と結び付く可能性があるのである。
「し、柴田くん、膣内、でいい・・・・のか?」
 ピッチを上げたことで、もう俺も限界が近くなってきていた。
 柴田くんはコクリと頷く。もう俺の問いかけに返答できるほどの余裕はなく、至高の絶頂へと昇り続けていっている。俺も射精をするためだけに懸命に腰の律動を早め、激しく彼女の膣内を貫いていく。
 そして・・・・より激しく、彼女の最深部へ突き入れた。
 臨界に達して、その手綱を一気に緩めた。
 《 ドックン 》
 《 ドクッ・・・・ドクッ・・・・ 》
 激しくも夥しい限りのスペルマが、彼女の膣内を席巻していく。
 俺は吐き出す全てを、彼女の膣内に搾り取られるように放出した。


「もし・・・・妊娠したら、どうする気だい?」
 俺は彼女に問いかけずにはいられなかった。
「・・・・ん・・・・」
 彼女自身、SEXこそ盛んではあったが、膣内出しされた体験は初めてのことであったらしく、暫くはSEXによる絶頂と、膣内出しされたその余韻もあって、返答できるような状態ではなかった。
「課長は・・・・ど、どうして欲しいですか?」
「そりゃぁ、勿論・・・・産んで欲しいかな・・・・」
「・・・・」
 柴田くんは膣内出しされた腹部に手を当てる。
 今ごろになって後悔をしているのかもしれない。だが、膣内出しされることを望んだのは彼女自身であり、もう今ごろは卵管で二つの遺伝子が結び合っている可能性もあろう。
「そうですね。出産費用・・・・」
「ん?」
「費用さえ出してくれるのなら・・・・考えておきます」
 それぐらいで柴田くんが出産してくれるのなら、お安い御用である。
「ok〜」
 俺は上機嫌に頷いた。

 だが、俺はまだ知らない。
 この日、本当に彼女の身体が受精し、俺の胤を宿してしまう現実に。
 そしてそれは、後日の俺と琴乃の関係にも少なからず影響を与えることになるのだということを・・・・
 俺はまだ・・・・
 何も知らなかった。


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