第四章【華燭の輪舞曲】
(1)
それは盛大な催しであった。
このアースティア西部一の大都市であるモンゴックの名士や主だった大富豪、そして各国の諸侯などが一斉に募り、まさにモンゴック史上、最大の行事が控えられていた。
このモンゴックを表裏から支配する・・・即ち、経済面からこのアースティア大陸の支配体制を確立させたロンバルディアの当主、最大の権勢者カリウスが齢三十七歳にして、いよいよ結婚するというのだから、当然ではある。
相手はまだ十五歳という、年端もない少女だが・・・誰もが認める可憐さと清らかな性格を兼ね備え、アースティアの至宝とさえも崇められてきた【聖女】であるから、その誰もが容易に納得する事ができた。
旧パフリシア王国の王女にして、先の大戦における英雄の一人に挙げられるパッフィー・パフリシア、その人である。
その誰もが見惚れる純白の花嫁衣裳を身に纏った彼女が、生涯の伴侶として従うに男に連れ立ってその場に姿を現したとき、その場に駆けつけた多くの人間が、この一対の男女の未来を祝福したものである。
小柄だが、可憐な花嫁が自身の腹部にこれもまた純白の手袋を填めている手を当てた。まだ目立つほどに膨れていないが、それでも気になってしまうのは、女性として当然ではあろう。
この小柄な身体に、一つの生命が宿っている事など、この数多の参列者の中で知っている者は、極一部の少数に限られた事から、彼女が身重と感知できる者はまずいなかった。
「この場に駆けつけた皆に、心から感謝を申し上げよう」
最大の権勢者にして、まだ年端もいかないが、可憐で美しい少女を手に入れた男が叫び、また会場は盛大な歓声に盛り上がった。
参列者の最前列には、カリウスの股肱の腹心であるカルロス、また重鎮のガンドルフの姿もあった。寄り添いながら最上段に登りつめる先には、この街の前市長マードックが、似合わない神官帽と重そうな教本を手にして、祝福の輪にある二人を待っている。
「汝はこのパッフィー・パフリシアなる女性を、書外の伴侶として、永遠の愛を誓えますか?」
過度の緊張からだろう。マードックの声が裏返り続き、その手は激しく震え、結婚証書の紙が今にも破れそうなほどである。そのマードックの狼狽ぶりに、招かれた諸侯は同情を、身内は舌打ちと顔を覆うものが続出した。
「少しは落ち着け・・・マードック。別におぬしが結婚する訳ではないだろう?」
承認(証人)役の人選を間違えたな、と思わずにはいられない。
この式典には、ロンバルディア王国の樹立と、その母体となったロンバルディア組織創立十周年も兼ねており、モンゴックだけに留まらず、各諸国の人間も多く招待している。それ故に、前市長で表においての名声が高いマードックに任せたのだが、この調子ではカルロス辺りに任せておいた方が無難だったかも知れない。
だが、今更、人選の再選ができるはずもなく、カリウスは簡潔だが、明確な誓いを誓約した。
「では、汝パッフィーは、このカリウスなる男性を、生涯の伴侶として、永遠の愛を誓いますか?」
「・・・・・・はい・・・誓います」
僅かな沈黙を挟んで、彼女はカリウスを夫として認めた。
二人の間で指輪の交換が交わされ、それぞれの指に填め合う。
「では、ここに永遠の愛を誓い合う、神聖なる愛の口付けを・・・」
カリウスが改めてパッフィーの小柄な肩を抱き、パッフィーはつま先を尖らせては男に顔を差し向け、ゆっくりと濃蒼色の瞳を閉じた。
時間にしておよそ数秒、端正な花婿と可憐な花嫁が、公然の前で触れ合う。
ここに一組の夫婦が、今、成立した瞬間であった。
(・・・さようなら・・・・・・アデュー・・・・・・)
その瞬間、彼女は・・・胸に秘めてきた少年に、別離の言葉を送った。
それは今から一ヶ月余り前の・・・勇者一行が、モンゴックの街を離れた日の出来事であった。
パッフィーが監禁されている部屋に三人、彼女に丁重な姿勢を貫くカルロスと、そして、永遠の伴侶となるカリウスだけである。
「俺がこのまま勇者一行を見逃した、として、俺にどのように益するところがあるのかな?」
当のカリウスの要求は、正当なものであった。だが、要求する彼にも、彼女が交渉材料に用いる事ができるものが、たった一つ、しか持ち合わせていない事も熟知している。
そう、カリウスが心から望んでいるものを・・・
「・・・あなたが、アデューたちを・・・わたくしの仲間に、もうこれ以上の手出しをしない、と・・・約束してくださるのなら・・・」
彼女は躊躇いながらもゆっくりと言葉を紡ぎ、カリウスもまたその彼女の言葉を遮るような、性急に急かすような真似はしなかった。
「わたくしは・・・あなたの・・・望むままに、好きなように・・・」
大粒の涙が濃蒼色の瞳からこぼれ落ちた。彼女には、カリウスの望む自分の身体と未来を差し出し、仲間の安全を哀願するしかなかったのである。
「パッフィー姫・・・本当によろしいのですか?」
沈痛な表情を浮かべたカルロスが伺ったが、これを予期して画策したのは彼である。
「如何なさいますか、カリウス様?」
「・・・・・・」
当のカリウスは黙ったまま、室内にはしばらく、彼女の啜り泣きだけが流れた。
「今、一度、確認しておこう・・・」
特にこの時のカリウスは慎重だった。また彼女の状態を察し、少しの時間を置いて確認したのは、その場の流れだけで約束が反故されないよう、念を押した意味合いもある。
「パッフィー姫、俺が勇者一行の追討令を却下すれば、姫はその代償に、その身体と意思の全てを俺に差し出す・・・そういう事だな?」
パッフィーは手と涙で顔を覆ったまま、頷く。
「俺の求めに応じ、俺を常に悦ばせ、俺の与える快楽に身を委ねる?」
肯定する。それぐらいの覚悟はしている。
「つまり、俺の奴隷として認めるのだな?」
そして本題に入る。これがこの交渉の最大の要点である。
「・・・俺の子供を産んでくれるか?」
さすがにパッフィーの反応が止まった。だが、排卵期中、あれほど膣内出しされてしまったのだ。今、自分の身にカリウスの種が宿ってなかったとしたら、それはまさに奇跡に等しい。
このアースティアの世界において、一度着床した女性は数少ない例外を除いて、出産を体験しなければならない。
そして、既にパッフィーも着床している可能性は、極めて高いのだ。
「あ、あなたの・・・子供を・・・う、生みます」
「その姫の言葉は良し・・・だが、その覚悟を試させてもらおう」
確かな言質をとって、カリウスは微笑を湛えた。
「まず奴隷締結の証として、では、以前に拒絶された俺の要求を、果たしてもらおうか・・・その交渉を求めた口で、な」
カリウスは常に自分を犯し、彼の要求する全てを果たしてきたつもりでいた。だが、その男の最後の言葉で、唯一に拒絶した行為を思い起こす事ができた。
彼女は意を決して立ち上がったが、カリウスは座したまま、その場から動くような意志はなさそうだった。この体勢のまま、男はパッフィーの決意の覚悟を試すつもりなのだ。
「し、失礼・・・します・・・・・・」
パッフィーはカルロスの手前を遮り、カリウスの横から大きなテーブルの下に潜り込んだ。そして座したままの男の前で前屈みに屈すると、つたない手つきで、カリウスの下半身から忌まわしき象徴を曝け出した。
「・・・・・・」
嫌悪感一杯の心境に満たされながら、彼女は自らを破瓜し、連日のように自身の身体を汚し続けたそれを手に取ると、ゆっくりと口をつけ・・・激しい嘔吐感に見舞われる。
「その程度か・・・」
それは落胆というより、軽蔑する響きがより強く含まれていた。
この程度の行為に戸惑い、躊躇うようでは、姫の言葉はおろか交渉事態信用できたものではない。確かに破瓜した、これまで穢し続けた男のペニスを咥えるという抵抗は認めるが、その程度の決意で軽々しく交渉を口にするとは、カリウスでなくても許しがたい行為だった。
「・・・・・・」
涙で赤く腫れた瞳を瞼で閉じ、彼女は再び、手にしている男の最先端に口を添えると、小さな口を懸命に広げて咥え込む。口内が生々しい臭いだけに満たされながら、彼女は嫌悪感を堪えながら、ゆっくりと知る限りの知識を総動員して、男の要求に応えていく。
「姫が純潔を捧げられた、そしてこれから一生、その身体でお世話になっていく、姫には有難い肉棒だぞ。丹念に・・・もっと丹念に舐めて、懸命にしゃぶって奉仕するんだよ!!」
初々しくもあり、またそれだけに未熟でつたないフェラチオだが、愛らしい口に含まれ、姫の口内で舌に舐められている、という想像が徐々に男を高まらせた。
パッフィーに逸物を奉仕させる一方で、その彼女の潜むテーブルの上では今後の政策方針を語り合う。
「ロンバルディア王国の樹立と、創立十年を記念して、租税を軽減させてはどうだろうか?」
その提案を兄から聞かされた時、カルロスは政治に疎いはずの兄を見直した思いであった。確かに税率を下げれば、個人から徴収される金額は減るが、その分人口が増え、街は栄える。限度にもよるが、徴収金額は基本的に増すのである。特にロンバルディア王国が経済力を武器にしている性質上、その提案は確かに有効な手段の一つであった。
また税率を下げる事によって、民衆の負担を軽減させた場合の、その感情レベルにおいては、樹立したばかりのロンバルディア王国にとって非常に有益な政策となるであろう。
「まぁ、詳細はお前に任せる・・・ほら、もっとしっかり働け! この下手くそが!!」
股肱の腹心と会話を続けたまま、股先で奉仕し続ける彼女の頭を叩き、毒づくカリウスではあったが、いよいよ射精感は臨界に達しようとしていた。
「ああ、それでいい。準備は任せた・・・そろそろ出すぞ、いいな、全てを飲み干すんだぞ・・・」
口内を犯されているパッフィーにも、口に含まされたそれが、次第に膨れ上がり、ようやく達せられる事を理解する。既に規格外を咥えさせられ続けた顎と、生々しい臭いに満たされ続けた口内にも、限界がきていた。
≪ドプッ≫≪ドプュッ≫
≪ゴクッ≫≪ゴクッ≫
「んんっ・・・んんんっ・・・・・・ゴクッ・・・ゴク・・・」
激しく生々しいモノが、パッフィーの口内で爆発した。彼女は要求されたように飲み干そうと試みるが・・・さすがに全ては無理である。彼女の小さな口から溢れ出したものは零れ出し、口内に残ったものも容易に喉を通らない。
(ア、アデューたちを・・・ま、護らなくては!!)
≪ゴクッ・・・ゴクッ・・・・・・ゴックン!≫
「カハッ・・・・・・ハァ・・・ハァ・・・」
パッフィーは懸命に喉を鳴らして、カリウスの子種を殆ど飲み干し、それが余程苦しかったようだった。荒い息が絶える間もなく洩れ続けた。
「ご、ごめんなさい・・・」
カリウスの要求全てを満たす事はできず、彼女が飲み込めなかった残滓が、男の着衣と座椅子、カーペットに染まった。カリウスもその程度の事で彼女を追求はしなかった。
が、ただ一言・・・・・・
「次にやる時までには、もっと上手くなっているんだな!」
求めた要求はともかく、彼女の覚悟は見て取れた。今はそれだけでも満足しておくべきであろう。
「カルロス、とりあえず勇者一行の件は見送る・・・お前が証人だな」
「はい」
(ただし、その動きだけは怠るな。奴らは必ず・・・)
そして、パッフィー・パフリシアの新しい奴隷生活が始まるのだが、新たにフェラチオを要求されるだけで、今までとそう大差ない生活である。
これまでの彼女はその特異な生い立ち故に、定住する生活は初めての経験であり、カリウスに奴隷としての誓約をしたものの、強制的な性交は、十五歳の少女には辛い心境は否めない。
だが、人は順応する。あらゆる苦境も、慣れれば適応してしまう慣習がある。また女性とは基本的に受動的な生き物であり、それはパッフィーも例外ではない。
定住する事がなかった今までにはない経験。彼女に部屋に(監禁されているのだが)帰ってくる者がいる。仲間と別れ、苦難な日常の彼女が、そこに新たな喜びを見出すのも、苦難な日常ならではあろう。
その生活に慣れ始めてきた頃、パッフィーは自身の身の変化を自覚しつつあった。
本来、あるべきものが・・・なかった。
ただ遅れているだけ、なのかも知れない・・・・・・
だが、一つの事実に思い当たる節は、余りに有り過ぎる。
ある昼過ぎ、パッフィーは褥を供にする・・・身体を一つに連結する男に告げる。
「で、できた・・・みたい・・・」
定期的にあるべきものが、今の彼女にはこなかった。当然だった。今もこれまでも・・・常に膣内に出され続けているのだ。まだ彼女は知らなかったが、それは父親の子供を宿した現象である。
「そうか・・・」
その父親となった男の返答は素っ気無いものだった。
パッフィーは知らない。妊娠したのが、娘であるのと同時に、また妹に該当してしまう現実を・・・未だにカリウスは打ち明けられないでいる。これまでの自分ならば、卑しい言動によって彼女を貶める事に愉悦を覚えていたように、彼女には絶望のどん底に突き落として置きたい自分であったはず、なのに・・・今はなぜか、パッフィーに真相を話すのを躊躇うカリウスであった。
そして今、妊娠を打ち明けた彼女の・・・二人の結晶が宿った膣内に、男はその全てを注ぎ込む。
「おめでとうございます。カリウス様、パッフィー様」
親子による男女の営みを静観しているカルロスが、今も身体を一つに繋げている二人を祝福する。彼にとっても、姪であり、妹である。
(フン、知っていたな!)
(・・・いずれ、姫の口から報告ある事でしょうから・・・)
微笑交じりの思考が、カリウスの心を擽る。だが、その微笑が途絶えると二人の兄弟にとって残念な報告が続く。
(・・・残念ながら、女の子です・・・)
(・・・そ、そうか・・・)
だが、その報告を聞いても、カリウスの思考から伝わる落胆は少なかった。一つにはパッフィー姫の未来を掌中に収めた事で、今後、このような機会が今回だけに限らない事が挙げられるだろう。だが、それ以上に・・・
現時点で、当人でさえ気付いていないその理由を正確に知悉してのは、カルロスだけであったろう。
「立派な男の子を・・・いや、女の子でもいい」
互いに抱き締めあいながら、パッフィーはカリウスの腕の中で頷く。
控えているカルロスの眼前で、再び、二人の親子による行為が再開された。
「次の吉日はいつだ?」
唐突な会話であったが、カリウスの言わんとしている事が、実の弟には即座に理解する事ができた。
「五日後になりますが・・・様々な準備もございますし、次の吉日に延ばした方がよろしいか、と・・・」
(ついでに樹立、十周年祭を行いますか・・・)
「その日取りでいい。準備と詳細はお前に任せる・・・」
カリウスは了解した。
抱かれているパッフィーには、未だに何の会話か気付いていなかったようだが、彼女の奴隷という立場は一ヶ月で終える事になる。いずれ国母となる女性が、まさか奴隷という訳にもいかないのだ。彼女がカリウスの言葉の真意を理解したのは、それから二日後・・・彼女の部屋に、純白の輝かしいドレスが贈られてきてからだ。
「こ、これは・・・!?」
「式を挙げるぞ!」
カリウスは唐突に告げた。元々彼女に拒否権はなかったが・・・彼女の指に填まっている指輪を直視し、残酷な発言を下す。
「お前は俺の奴隷であり、所有物だ。その指輪が何なのか、改めて問うつもりはないが、明日までには外せ」
パッフィーは夫となるカリウスに抱かれながら、このモンゴックに到着した日を思い出さずにはいられなかった。
無言のまま差し出された指輪。再度の約束(プロポーズ)を交わしてくれた彼・・・だが、その約束が果たされるよりも先に、パッフィーは彼の眼前で強姦された。彼に捧げるはずだった純潔をカリウスに破瓜され、連日のように犯され続けた。
(なんと、変わってしまったのだろう・・・)
そのカリウスを受け入れながら抱き締め合い、その男の種を宿した身体で尚も男の欲望を受け止める。
(アデュー・・・ごめんなさい。ごめんなさい。わたしは、この人の物になります・・・・・・ごめんなさ・・・・・・)
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