その13
「お帰りなさいませ、カイル様」
恭しく頭を下げるローザ。
それを見つめるカイルの視線には、不信感が溢れている。
ローザの娼館の一番上等な部屋に通されたカイルを待ち受けていたのは、妖艶な笑みを浮かべるローザだった。
「ご無事で何よりですわ。ミレルもきっと喜びます」
「……知っていたな!」
ローザの言葉を無視し、いきなり断言するカイル。
「ええ」
微笑みながら答えるローザ。
「ラフランドに策を吹き込んだのは、お前かっ!」
「あら、鋭いこと? さすがはカイル様ですわね」
カイルの手が、剣の柄にかかる。
「どういうつもりだ?」
「おわかりにならないのですか?」
カイルの問いに、問いで返すローザ。
「まさか、ミレルを自分の物にしようだなどと……」
「ご安心なさいな。成功していれば、今頃こうして出迎えているのは肉奴隷人形と化したミレルでしたわ」
「…………」
しばし、ローザを見つめるカイル。
「まったく、このわたしが策を巡らして成功しなかったのは、これが初めてです」
大きく深呼吸を三回するカイル。
「……何が目的だ?」
「カイル様と末永い関係を築くこと、わたしに有利な立場で。ミレルはその為の格好の道具でしたのに、残念ですわ」
その言葉に、しばし沈黙するカイル。
「……成功しなかった、と言ったな」
「ええ、そうですわ」
見つめあうカイルとローザ。
「ですから今回の事は、わたしのおちゃめなイタズラということで、許して下さいなカイル様」
「二つの国の戦争も、お前にとっては単なるイタズラに過ぎないようだな、ローザ。お前は……」
一瞬、カイルは目を閉じる。
「いったい、何者だっ?!」
カッと目を見開き、ローザに対して言い放つカイル。
「うふふ、さあ?」
とぼけた表情を浮かべ、笑いを口元に浮かべるローザ。
「……ラフランドに策を授けたのは、『光の賢者ミレディア』だったそうだ」
「あら?」
「ある特殊な秘薬と交換で、ミレディアはラフランドにその策を授けた」
目を細めるカイル。
「どうやらその秘薬は、この娼館のどこかに転がっていそうだな」
「……まさか」
面白そうに笑うローザ。
「『高潔』『公平』『純真』『潔癖』、さらに真なる知識をその身に纏い、『正義の杖』を高らかに掲げる聖なる賢者。その居所はようとして知れず、いずこともなく現れて困った人々に知恵を授ける賢者様。……娼館の主人の副業としては、ずいぶん派手な職業だな」
「あらら、なんでそこまで確信できるのかなぁ。証拠はひとつも残してないはずだけど?」
「…………勘だ」
「大した勘ね、うふふ……」
その言葉に、怒りで顔を赤らめるカイル。
「それと、あとひとつはお前の購入した薬品を部下に調べさせた。媚薬、栄養剤、キチェあたりならまだわかるが、……テルミナ草や、ガランの秘薬、ロプロスの骨などいったいなんに使うんだ、娼館の主人が? これらは実験用の秘薬のはずだが?」
「あらあら」
それでも面白そうな表情を崩さないローザ。
「そこから攻めてくるなんて、結構鋭いですわね。見直しましたわ、カイル様。もっとも……」
にやり、と笑うローザ。
「わたしがミレルを押さえていなければ、もっと直接的な行動を取ったでしょうけど。たとえば兵士と共にこの館に押しかける、とか?」
「くっ……」
図星を指され、絶句するカイル。
「うふふ、柄から手を放して下さいな、カイル様。別にわたしはあなたに敵対するつもりはありませんことよ」
「…………どうだか」
そう言いつつも、剣の柄から手を放すカイル。
「そうだわ。カイル様に謝罪をする意味でも、最近完成させた秘術の成果をお見せしましょう」
婉然と微笑むローザ。
「これを見れば、カイル様のお怒りが解けるのは必定、ですわ」
「……ふんっ、そんなことが……」
「さあお入り、ミレル」
扉の向こうに声をかけるローザ。
「なっ?!」
扉が開かれる。
その向こうに立っていたのは、ミレルだった。
「お帰りなさい、お兄さま!」
ミレルは純白のドレスを着て、紫色の花束を胸に抱いている。
必死になってカイルの元に駆け寄ってくるミレル。
部屋に香しい花の匂いが漂いだしていた。
「どういうことだ! ローザ!! なぜミレルを解放しているっ!!」
「あうっ、おにいさま、恐い……」
ぷるぷる首を振るミレル。
「もう、必要ありませんから」
しれっとした表情で答えるローザ。
「なにをっ!!」
「ミレル、わたしの秘術の成果を見せておあげ」
「はい、ローザさま」
手に持つ花束を、ミレルはテーブルの上に置いた。
そして、スカートをたくしあげるミレル。
ミレルはパンティを履いていなかった。
股間を露わにするミレル。
そこには本来ついているはずの、男性のシンボルが消えていた。
かわりに、そこにあるのは……女性の器官。
ワレメが、出来ている。
まだ毛は生えておらず、そこはまだツルツルだった。
「こ、これはっ?!」
驚愕の叫びを上げるカイル。
そんなカイルに上目遣いの目で、語りかけるミレル。
「ミレル、お兄さまの為に頑張ったんですよ。死にそうなほどの痛みに耐えて、狂いそうになる気持ちを抑えて、お兄さまがきっと、喜んでくれると思ったから……」
「まっ、まさか?!」
愕然とした表情になるカイル。
「いかがですか? わたしが最近完成させた『性転換の秘術』は? 見ての通りミレルはいまではすっかり本物の女の子……うふふふふ」
「本物の、女っ? うっ……」
カイルの股間のものが、堅く、強く、そそり立ってくる。
軽く足を動かし、股間が見やすくなるように、足を広げるミレル。
そのエッチな姿に、さらにカイルのイチモツは堅くなっていった。
「そう、女なのですよ、ミレルは。ほとんどが死に至る秘術を耐えきり、ミレルはついに女になったのですわ。ミレルのこと、褒めてやって下さいませ」
「死に、……至る秘術だとっ!」
呆然としていたカイルの表情に、怒りがみなぎる。
「そんな危険な術を、ミレルに施したのかっ!!」
ローザにつかみかかろうとするカイル。
あわててミレルはカイルに近づき、その腕に必死にしがみついた。
「ローザさまを責めないでっ! これは、ミレルが望んだことなんだからっ!!」
「み、ミレル?!」
「……ミレル、ずっと女の子として育ってきて。お兄さまの妹として育ってきて。でも、お兄さまが愛おしくて、愛されたいって思ってたら、実は男の子で。にいさまは男のミレルを愛してくれて、でも、やっぱりミレルは女として愛されたかったの」
「ミレル……」
そっと、ミレルを抱きしめるカイル。
「あんっ、にいさまぁ!」
淫らな声で鳴き、カイルの体にその腕を添わせるミレル。
「ローザ……」
「お叱りはいかようでも。けれど、わたしなりに勝算はありましたわ。だって……」
カイルを見つめ、羨ましそうにつぶやくローザ。
「この子、本当にカイル様の牝奴隷になりたがってましたからね。うふふ、本当に羨ましいですわ。魂まで差し出してもいいなんておもう奴隷は、ものすごく貴重なんですのよ」
ローザはスッとミレルの背中を撫で上げる。
「ああんっ!」
「こんなに淫らな躰に作り変えてあげたのに、誰のおちん○んだって感じる躰にしてあげたのに、『にいさまのじゃなきゃ、やだ!』なんてわがままいうんですのよ」
「ミレル……」
ローザの言葉に、顔をまっ赤にするミレル。
「おまけに、口で奉仕する方法を教えている最中も、『にいさまが気持ちよくなれますように、にいさまが気持ちよくなれますように』なんて思いながら、舐めてましたから」
「あっ、……な、なんでっ?」
顔をまるで茹でダコのように赤くするミレル。
「あなたの顔を見てれば、誰だってわかるわよっ!」
「あうっ……」
ジト目で見つめるローザに対し、ミレルは思わずうつむいた。
「まったく、カイル様に見せてさし上げたかったわ。カイル様の名前を囁くだけで、眠っていても、気絶していても、腰を振るあさましい姿を!」
「も、もうっ! そんなミレルの恥ずかしいこと、言わないでくださいよぉ、ローザさまぁ……」
「はいはい、で? どうなさいます、カイル様?」
邪悪な瞳をカイルに向けるローザ。
「これで、いつでもミレルを孕ませることができますわ。結婚して普通に愛するすることも、『肉奴隷姫』……いえ、『肉奴隷妻』として、いつもあなたの足下にかしずかせることも思いのまま……」
ローザの瞳に触発されるかのように、カイルの瞳にも、妖しい炎が燃え上がった。
すっ、
ミレルの股間を人差し指でなぞるカイル。
「あっ……」
「濡れてるな」
かあっ、と、顔を赤くするミレル。
「前は、手をつけてないだろうな、ローザ?」
「ええ、もちろん!」
楽しげに答えるローザ。
「詳細は後から聞くことにしよう。とりあえず感謝するぞ、ローザ!」
「いえいえ、ではお楽しみを」
「うむ」
カイルは舌なめずりをしながら、ミレルの躰をきつく抱きしめ、そのままベッドに引きずり込んでいったのだった。
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