CHAPTER 12  キス



弄内洋太が、早川もえみと付き合い始めて数週間たった。

洋太に恋心を感じている天野あいは自ら身を引くことを考えていた。あいは自分は人間でなく再生時間に限りのあるビデオガールであり、決して洋太とずっと一緒にいられる存在ではない。そのことがあい自身の引け目になっていた。

それから、あいは洋太と同じくらいもえみの事も好きだった。そしてもえみになら洋太の事を任せられるとも感じていた。

(いいんだ。オレは、ヨータの妹で・・・。)

あいは、そんな風に感じていた。

もともと、もえみに失恋した洋太をなぐさめるために再生されたビデオガールがあいだった。洋太ともえみがくっつくことは、あいの再生目的でもあった。













もえみはその日洋太の家を訪ねていた。

洋太と付き合い始めたとほぼ同時期から、あの山田からの連絡も来なくなっていた。実は新舞貴志と清水浩司の働きにより、山田は写真を処分され、もえみに近づかないことも誓わされていた。花崎も同様であった。しかしそんな事情はもえみの知るところではなかった。

ただ不審に思いつつも、山田が自分の事をあきらめてくれたかと少し安心していた。それに伴い、彼女の心の傷も、洋太と付き合う事もあり、少しずつ回復してきていた

「もえみちゃん、いきなり来るから、驚いちゃった、ハハハ・・・。」

寝ぼけているところを見られた洋太は照れ隠しでそう言う。

「いきなり来ちゃ、ダメ?」

もえみは一寸むくれながら言う。

「あっ、違う違う!こんなに早い時間に来ると思っていなかったからサ。」

洋太が慌てて取り繕う。

「え・・・だって・・・早いって、もう三時よ。」

「えっ、そうなの!?・・・・そうか、明け方近くまでイラスト描いていたからな・・・。」

洋太が言う。

「え?イラスト?」

もえみは洋太が絵を描いたりすることを知らなかった。洋太の知らない一面が見えて、もえみは嬉しかった。

「それ見たい!見せてくれる?」

もえみは洋太にねだる。

洋太は一寸恥ずかしそうな顔をしながらそのもえみの要求を諾と答える。

そんな仲睦ましい二人の様子を見て、あいは二人きりにしてやろうと洋太の家から出かけていく。

そして、洋太は自分の部屋にもえみを連れて行く。

「へェー絵本なんだ・・・。」

もえみは洋太の絵を見せてもらう。

「絵本って、夢があると思うんだ。オレ・・・読んだ人の心に残る様な、幸せな気持ちになる様なヤツを描きたいんだ。オレの描いた絵本でさ、オレの知らない誰かがしあわせな気持になるのって・なんかすっげェうれしいって言うか・・・いいなって・・・。」

洋太はもえみに自分の夢を語り出す。

「・・・なんてエラそうな事言ってても、集中力なくてさ。完成したことないんだけど・・・いつかはオレ絶対そーいうの描きたい。」

もえみにはそんな夢を語る洋太がとても輝いて見えた。

横に立つ洋太の腕に自分の腕をからませる。

(好き・・・・)

もえみはそう思う。その瞬間、時間が止まったかのように感じる。洋太のぬくもりを、ずっとこんな風に感じていたいと感じる。

「あっ・・・。」

もえみは机の上にある洋太の絵本のストーリーが書いてあるノートを見つける。すっと手をそれに伸ばす。

「これに、お話が書いてあるのね・・・。」

もえみはそのノートを取る。

「一寸見せてね!!」

「あっ、ま・・まって!!」

洋太が慌てて手を伸ばす。

「絵本って人が見るモンじゃない?恥ずかしがっちゃダメ!」

と、言いつつもえみが洋太の方に振り返ると、洋太の伸ばした手がもえみの胸に当たってしまう。

「あっゴメン!!」

洋太が慌てて手を引く。もえみも恥ずかしさから、顔を真っ赤にして洋太から距離を取る。

手をすぐに引っ込めた洋太ではあったが、洋太はその柔らかなふくらみの感触が刺激的に自分の手の中に残っていることに気付く。

(さ・・・さわっちゃった!)

洋太の心臓が高鳴り始める。そして洋太の股間のモノがもえみのその柔らかな感触を意識してか膨れはじめる。

(お・・・おいコラ勝手に膨れるな!!)

洋太は自分の股間が膨れ上がったのをもえみに知られないように、側のソファーに座り込む。

その様子に今度はもえみの方が意識してしまう。

(えっ、何で急にソファーに・・・?!ひょっとして・・・弄内くん、あそこが・・・?)

もえみは男性の生理を少しは知っている。意識すると身体が熱くなってくる。

ジュン・・・。

もえみは自分の下半身も熱くなるのを感じる。そして、そこから何かが漏れ出すのも気付いていた。

(やだ・・・こんなところで・・・)

もえみは自分のそこが濡れだしていることに気付いていた。その様子をもえみは恥ずかしく感じ、洋太には知られたくはないと思った。トイレに行って始末をつけなくてはと思う。

もえみは部屋を出ようと洋太に背を向ける。

「どこ行くの?!」

洋太がもえみを呼び止める。

「え・・あ・・その・・・ちょっと・・・下に・・・。」

洋太に自分が濡れていることを気付かせないように、階下のトイレへと向かおうとする。

「まって!」

洋太が、もえみの肩を掴む。洋太ともえみは向き合うように立つ。

もえみの心臓が高鳴りだす。恋しい洋太の顔が目前に迫っている。

もえみは洋太の目を見る。

(弄内くん・・・・求めている・・・・?)

じっと見つめ合う。

(私・・・いいの・・・・・。)

洋太の顔がゆっくりと迫ってくる。

と同時に、あの山田の顔が頭の中で甦ってくる。

山田の気持ちの悪い唇の感触が、舌を絡められたあのキスの味が甦ってくる。

(イヤ!)

そう思った瞬間、もえみは反射的に自分と洋太の唇の間に手に持っていたノートで遮ってしまう

しまった、もえみはそう思う。

洋太は「え?」という驚きの表情を浮かべていた。

「これ、持って降りるところとこだったね・・・ハイ・・・。」

もえみは彼の創作ノートを手渡す。

そして、何とか、ごまかさないといけないと思う。もえみは洋太に背を向けながら言う。

「は・・・初めてなんだよ・・・・、好きな人とするの・・・。心の準備ぐらいさせてよ・・・。」

もえみはそういうと、洋太を部屋に残し、階下にあるトイレに向かう。

一人残された洋太は肩透かしを食らいつつも、後の展開を期待してしまう。

「て・・・事は・・・・あ・・・後でって事かァ?」

洋太の顔に、思わず笑みが湧いて来る。













もえみはトイレの中で自分の女性を触ってみる。

クチュ。

触れただけで、恥ずかしい水音がする。

一寸触られただけなのに、もえみの女性の中は、グショグショに濡れていた。

「・・・・こんなに・・・。」

もえみはそこに触れた手を見ながら、濡れた愛液がたっぷりついた指を見ながら、思わず呟いてしまう。

(はずかしい・・・。)

もえみはそう思う。顔が紅潮してくるのがわかる。

(新舞くんと付き合っている時は、こんな事なかったナ・・・。ドキドキなんてしなかったもんなァ。どちらかと言うとハラハラだったから・・・。・・・これって、・・・これだけ・・・弄内くんの事、好きなのかナ・・・・。)

もえみは考える。

と、その瞬間、山田の言葉が急に甦ってくる。

「なんて淫乱な女なんだ!」

「!」

もえみはもう一度自分の女性を触ってみる。

「・・・あ・・・!」

思わず声が出てしまう。もえみが自分の女性に触れた瞬間、快美な刺激が身体を駆け巡ったのであった。

(これって・・・・私が、“淫乱”だから・・・?!)

そんな事は考えたくなかった。

(・・・私は・・・私は、本当にそんな女なの・・・!!)

もえみは自問する。

(・・・違う!・・・・違う違う違う!!)

もえみは一生懸命その考えを否定しようとする。

(そんなんじゃない・・・そんなんじゃないのに・・・・・。)

再び山田の台詞が甦る。

「レイプされて感じるなんて、お前は本当に淫乱だな!」

(違うの・・・!!そんなんじゃない!!私は!!・・・・・・でも・・・。)

もえみは山田に犯された時の事を思い出してしまう。

(でも・・・あの時私は・・・・・濡れていた・・・・・嫌で・・嫌で嫌でしょうがないのに・・・・私の身体は・・・・!!)

涙が溢れてきた。

「違うのに・・・・本当に違うのに・・・・なんで・・・・・・。うう・・・・。」

もえみはトイレの中でうずくまり、1人涙を流した。

(弄内くんに・・・・弄内くんには、こんな私・・知られたくない・・・・・。)

もえみはハンカチで涙をおさえる。

でも嗚咽は止まらなかった。













日が傾いてきた。

もえみは洋太の家のキッチンに立ち食事の用意をしていた。

「また、もえみちゃんの手料理が食べられるなんて、夢みたいだよ。死んでもいいや。」

洋太は感動していた。ずっと憧れ続けていたもえみと、今こうしていることが、大変な奇跡のように感じていた。

「もう、大げさなんだから」

もえみは恥ずかしがりながらそう言う。

洋太はそんなもえみのすぐ後ろに立ち、彼女が料理する様子を見ていた。

そんな風に見られるのは、もえみにとって、とても恥ずかしかった。

「だから・・・後ろにいないでって言ってるでしょ、つくりづらいから。」

もえみは指についた水滴を洋太の目に向けて弾く。

「うっ。」

水滴が洋太の目の中に入り、洋太は軽く悲鳴を上げる。

「ベー!」

もえみは洋太に向け舌を出す。

そして前を向き、料理を再開し始める。

洋太はそんなもえみの様子を愛おしく思い、見つめ続ける。ちょっと昔までは、もえみに話しかけるだけで、死ぬような思いだったのである。そんなことを思い出しながら、もえみの後姿を見つめ続けていた。

「作りづらいって言ってるでしょ!もう!!」

もえみが、一向に動こうとしない洋太に対し、一寸ふくれた顔で睨む。

そんな様子が洋太にとってはとても愛おしい。

洋太はその気持ちのまま、もえみを抱きしめてしまう。

「あっ」

突然の洋太の行動にもえみは驚きつつも、嬉しさが込み上げてくる。

「手・・・ビショビショだよ・・・ぬれちゃう・・・。」

抱きしめられつつ、もえみは洋太に言う。

「いい・・・。」

洋太は更に強くもえみを抱きしめる。

もえみはそんな洋太の行為が嬉しい。身体を洋太に預けていく。

「もう・・準備は充分だろ?」

もえみの耳元で洋太が囁く。

「え?」

もえみは一瞬、何を言われたかわからない。

洋太の顔を見つめる。

その洋太の顔が迫ってくる。

次の瞬間、洋太の唇がもえみの唇に重なる。

(・・・あ・・・。)

唇が触れた瞬間、もえみの中で歓喜の念が沸き起こる。もえみは身体の全てを洋太に預け、目をつむる。

それは素晴らしい感覚だった。もえみの中で生まれた歓喜は、彼女の体中を駆け巡っていた。キスが、こんなに素敵なものと、もえみは初めて知った。

山田との気持ち悪いキスとは全く違うものだった。

(ああ・・・弄内くん・・・弄内くん・・・!!)

もえみは心の中で洋太の名前を何度も呼び、もっともっと彼のキスが欲しいと感じていた。

もえみの手も、自然に洋太の背中にまわり、そして二人は激しく抱き合っていた。













続く


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